吉行淳之介 (66レス)
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37: 08/22(木)21:15 ID:GFhyE2cv(1/2) AAS
「戦中少数派の発言」
38(1): 08/22(木)23:10 ID:GFhyE2cv(2/2) AAS
昭和十六年十二月八日、私は中学五年生であった。その日の休憩時間に事務所のラウド・スピーカーが、真珠湾の大戦果を報告した。生徒たちは一斉に歓声をあげて、教室から飛び出していった。三階の教室の窓から見下ろしていると、スピーカーの前はみるみる黒山の人だかりとなった。
私はその光景を暗然としてながめていた。あたりを見まわすと教室の中はガランとして、残っているのは私一人しかいない。そのときの孤独の気持ちと、同時に孤塁を守るといった自負の気持ちを、私はどうしても忘れることはできない。
旧制高校に進学してあたりを見まわすと、私に似た生理に属する少年は、中学校のときに比べれば多くなっていた。あの時代ほど友人になれるかどうかの判別が明瞭だったことはない。二言、三言話し合えば、すぐに分類がついたのである。そして、青少年を軍国主義に統一しようとした当時の権力のやり口が、どうしようもない程の愚劣さを含んでいたことが、私たちの生理を原型のままに維持させて行った。
昭和二十年の八月十五日を境に、それまで死ぬことばかりを考えていた私は、生きることを考えなければならなくなった。そのとき私を襲ったものは解放感と、同時に思い詰めた気持ちの行き場所を失ったような虚脱感であった。
結局、戦争が終わって私たちに残された二つの大きなものは、この虚脱感と人間に対する不信の気持ちであったといえる。そしてこの二つは、今でもたえず隙間風のように私の心の中に吹き込んでくる。(略)
・・・なんていうか、この名文にはひたすら圧倒される。昭和も令和も関係ない。ひとりの厭戦家の孤高な意見が時代をこえて息づいている。
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