[過去ログ] 【PSPでも】高木順一朗part3【ティンときた!】 (1001レス)
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520: SS再掲/千早・2 2009/06/07(日)21:35 ID:LTbFyX3m0(2/15) AAS
 市民会館の外で人を待つ。
 程なくして目当ての人物が姿を現した。
 大会優勝者とは思えない浮かない顔をしたその少女は、意外なことに保護者同伴ではなかった。
 何か理由があるなとは思ったが、余計な想像を一旦脇に退け、私は少女に声をかけることにした。
「如月千早くんだね……」
「はい、そうですが……。あなたは?」
 あからさまに警戒した表情を見せる彼女に、私は名刺を差し出した。
「申し遅れたが、私はこういうものだ。芸能プロダクションを営んでいる」
「ななひゃくろくじゅうごプロダクション……の、高木社長?」
「いや、そこの数字のところは『なむこ』と読んでくれたまえ」
「765プロダクション、ですか」
「そうだ」
「それで、私に何かご用でも?」
「うむ。先程の大会で、君の歌を聴かせてもらった。実に素晴らしい歌唱力だと思う」
「はぁ、ありがとうございます」
「どうかね。プロとしてデビューしてみる気はないかね?」
 私の言葉に、彼女の表情が少し揺らいだのがわかった。
「デビュー、ですか……?」
「そうだ。我が社は、アイドルの育成、マネージメント、プロデュースを専門としていてね。もし君が
アイドルに興味があれば――」
「アイドルには、興味ありません」
 素気ない返答。だが、その程度で動揺する私ではない。
「そうかね。だが、君が歌手として身を立てていきたいと思っているのなら、アイドルを入り口とする
ことも、ひとつの選択肢たりえると思うがね」
 私がそう言うと、彼女は少し顎を引いた。
「…………」
 考え込んでいるのが明らかにわかる。おそらく自分で思っているほどには、彼女は己の感情を隠し
切れていない。まだ子供ということでもあるし、根が素直ということでもあるのだろう。
 私は、如月千早という少女に好感を覚えた。
「まぁ、結論を急ぐことはない。君は、まだ若いのだからね。考える時間はたっぷりある。高校受験が
終わってからでもいい。私の話を思い出してくれたら、連絡してきてくれたまえ。我が765プロは
いつでも君を歓迎するよ」
「ありがとうございます」
 感謝の言葉が返ってきたことに私は驚いたが、それが彼女本来の持ち味なのだろうと思いなおす。
「それでは、失礼するよ。また会おう」
 私は彼女に背を向けて、駅へ向かって歩き出した。
 理由はわからないが、彼女とは必ず再会できる予感がした。

 彼女――如月くんが765プロの扉を叩いたのは、それから半年後のことだった。
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