JamsCollection 2 荒らしポチひとし出禁 (196レス)
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18: 2023/12/12(火)10:48:27.54 AAS
一、バイオリン、セロ、ピヤノ合奏とある。高柳君はセロの何物たるを知らぬ。二、ソナタ……ベートーベン作とある。名前だけは心得ている。三、アダジョ……パァージャル作とある。これも知らぬ。四、と読みかけた時拍手はくしゅの音が急に梁はりを動かして起った。演奏者はすでに台上に現われている。
やがて三部合奏曲は始まった。満場は化石したかのごとく静かである。右手の窓の外に、高い樅もみの木が半分見えて後ろは遐はるかの空の国に入る。左手の碧みどりの窓掛けを洩もれて、澄み切った秋の日が斜ななめに白い壁を明らかに照らす。
曲は静かなる自然と、静かなる人間のうちに、快よく進行する。中野は絢爛けんらんたる空気の振動を鼓膜こまくに聞いた。声にも色があると嬉うれしく感じている。高柳は樅の枝を離るる鳶とびの舞う様さまを眺めている。鳶が音楽に調子を合せて飛んでいる妙だなと思った。
20: 2023/12/12(火)10:51:02.54 AAS
拍手がまた盛さかんに起る。高柳君ははっと気がついた。自分はやはり異種類の動物のなかに一人坊ひとりぼっちでおったのである。隣りを見ると中野君は一生懸命に敲たたいている。高い高い鳶の空から、己おのれをこの窮屈きゅうくつな谷底に呼び返したものの一人は、われを無理矢理にここへ連れ込んだ友達である。
演奏は第二に移る。千余人の呼吸は一度にやむ。高柳君の心はまた豊かになった。窓の外を見ると鳶はもう舞っておらぬ。眼を移して天井てんじょうを見る。周囲一尺もあろうと思われる梁の六角形に削けずられたのが三本ほど、楽堂を竪たてに貫つらぬいている、後ろはどこまで通っているか、頭かしらを回めぐらさないから分らぬ。所々に模様に崩くずした草花が、長い蔓つると共に六角を絡からんでいる。仰向あおむいて見ていると広い御寺のなかへでも這入はいった心持になる。そうして黄色い声や青い声が、梁を纏まとう唐草からくさのように、縺もつれ合って、天井から降ふってくる。高柳君は無人むにんの境きょうに一人坊っちで佇たたずんでいる。
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