[過去ログ] 【涼宮ハルヒの憂鬱】鶴屋さん萌え スレッド 17にょろ (982レス)
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157: 2010/10/21(木)00:17 ID:eW+oeFnU0(1/11) AAS
寸止めでループ
159
(1): 2010/10/21(木)21:26 ID:eW+oeFnU0(2/11) AAS
10年後――。

もう、長くとてつもなく暑かった夏も終わりを告げ、秋も深まるかと思われたころ。
俺はいつものように、得意先回りの出先から、携帯で会社に電話を入れる。
「もしもし…あ、今日はこのまま。はい、はい。問題ないです。じゃ、…」
携帯をパタリと閉じて、同時にその左手に畳んだ上着の重さを感じる。
まだ、暑いじゃねえか…。
暦上では秋の始まりはとうに過ぎたというのに、相変わらず日中の陽射しは凶悪であった。

――

「キョンっ、キョンくんっ? 早く起きないと遅刻するっさね!」
「う…ん、ああ、起きる起きる…」
省7
160: 2010/10/21(木)21:32 ID:eW+oeFnU0(3/11) AAS
そりゃあもう、もの凄い勢いで猛反対されたさ。俺はもちろんそのことは予想していたし、だいたいその間にも鶴屋さんにゃ政治家の息子から別の財閥の子息やら、縁談の話がひっきりなしだった。
彼女はそれを全て断ってきたんだ。で、その挙げ句に連れてきたのが俺ってわけで…。
ご両親の落胆たるや、察するにあまりある。うん、よく解る。
でもな、それでも、二人が愛し合っていれば、いずれ理解してもらえる…なんて思っていたんだよ、俺たちは。ああそうさ、ガキだったからな…。

でも結局、それからすぐに鶴屋さんは勘当されちまった――。
家を追い出されたんだ。あの何不自由のない、それどころかこの地方でも有数の財閥の跡取りという立場の娘がだよ。
三流大学出たてで、それも就活を何十社も断られた挙げ句、地元の中堅不動産屋に新卒ギリギリで拾ってもらった俺の嫁になってくれたんだ。そう、その後の貧乏、苦労を承知でさ…。

――ん? ハルヒかい。あいつは相変わらずだった。
俺に気のあるそぶりを見せているようでいて、何というか、じゃあ…とこちらがその気になりかけると、するりと逃げて行くような間柄がずっと続いていた。俺の方はそれを必死で追いかけるような性格じゃなくてな…。解るだろう?
ま、お互い若かったんだろうな。
161: 2010/10/21(木)21:34 ID:eW+oeFnU0(4/11) AAS
それであいつは結局、古泉と同じ大学…そうさな、俺にはちょっと、いやかなりハードルの高かった大学へ進んで、アッという間に二人は仲良く学生結婚しちまった。
うん、いい式だったよ。そん時ゃまだ俺たち二人のことは明かしてなかったけど、俺たちも祝福の宴席に行ったさ。…本当に…いい式だった。ハルヒも古泉も二人とも幸せそうで、俺たちも顔を見合わせて、ああなりたいね、って思ったよ。

朝比奈さんは卒業と同時に、エストニアだったかラトビアだったか、何だかよく解らないところの何を研究するかよく解らない機関に就職すると言って、去っていっちまった。
送別会は、珍しくハルヒが号泣して朝比奈さんを話さず、鶴屋さんと二人で、両側から挟んで泣いてたっけ。
その時の三人の写真は今でもリビングに飾ってあるよ。

長門は…。
長門は、この国でも最難関の国立大学へ進学した。何でももの凄い成績だったらしい。
で、これまたよく解らないアルファベットの細胞を何とかする研究に従事しているらしい。まだ30前だというのに、各国の研究機関から引く手あまたとも聞いた。忙しいらしくて、もう3年くらい会っていない。
もっとも、朝比奈さんとは5年ほど、ハルヒと古泉夫婦とだって1年くらい会ってはいないがな。
162: 2010/10/21(木)21:38 ID:eW+oeFnU0(5/11) AAS
――
俺は汗を拭きながら、近くのコンビニの軒下にある日陰に入った。再び携帯を開いて、短縮番号をワンプッシュ。
「…もしもしっ?」
いつものように、元気のいい嫁の声が聞こえる。受話器の向こうの向日葵のような笑顔と、チラリとのぞく八重歯が目に浮かぶ。
「ああ、えっと、外周りでさ、ちょっと遅くなるわ」
「そうかいっ。晩はまた、食べてくるっさね?」
「うん…そうなると思う」
「解ったよ。あんまり無理しないようにねっ、気をつけるにょろ!」
「うん。サンキュ」

――不況のなか、外周りの営業マン。いつもいつも遅くまで得意先回りでご苦労様…。
省4
163: 2010/10/21(木)21:41 ID:eW+oeFnU0(6/11) AAS
雑居ビルにしてはまあまあ小洒落たビルの3f、板チョコみたいな造形のドアを開けるとカランコロンと音が鳴る。いつも見慣れた店内。
「いらっしゃいませー」
右手のカウンタからママが声をあげ、左手のボックス席に座っていた知らないお姉ちゃんがこちらに背を向けたままに言う。
「ういーっす」
俺はいつものように、入口手前の4人掛けのボックスに腰を下ろし、カウンタごしにママに声をかける。
「今日はビールいいわ。ボトルで」
「はーい。キョンくん、ボトル出して〜」
おいおい、客をくん呼ばわりはないだろうに…と思いつつネクタイを少し緩めたところに、目の前に座っていた子がカウンタから受け取ったおしぼりを差し出した。

「あ、あの、いらっしゃいませぇ…///」
両手でおしぼりをうやうやしく差し出す動作も滑稽だが、その体勢で顔を床に向けているので、まるで俺はお殿様のようである。
省6
164: 2010/10/21(木)21:44 ID:eW+oeFnU0(7/11) AAS
「あ、朝比奈さん!?」
「ふわぁ、きょ、キョン君じゃないですかぁかあ〜!!!」
「おやおや、あんたたち知り合いだったの?」
ママがタバコをくわえたまま目を丸くしている。

自宅から4つほど離れた、ターミナル駅からはちょいと外れたこのスナック。
場末というには失礼だけど、じゃあもっとしゃれた呼称があるかというと、浮かばない。
たまたま営業先の電器屋の社長に連れられて入ったら、居心地が良かったので居着いちまった、って店だ。
ちなみにその社長ってのはもう、店を畳んでしまって行方不明だがな。
ママがお盆を持ってこちらへ来つつ、声をかける。
「何よう、こういうの、運命の出会い? 再会ってやつじゃないの?」
省8
165: 2010/10/21(木)21:48 ID:eW+oeFnU0(8/11) AAS
目の前にいるのは間違いなく、朝比奈みくるその人だ。
そう、俺が高校の時にたびたび会った「朝比奈みくる(大)」よりも、さらにちょっと大人になった朝比奈さんその人に間違いない。
「俺はこの近くなんですよ。それより朝比奈さんは何でまた? あの、バルト三国方面?からは…」
「ええとぉ、そのぉ、研究機関が縮小されてしまって、その…」
朝比奈さんは相変わらず美しい顔を困ったような笑顔で覆いつつ、両手の指を交互に合わせてうつむいている。
「…あの、未来へは…その。戻らなかっ…」
俺が小声で聞くと、朝比奈さんも傍らで携帯をいじくっているママを伺いつつ、小声で
「観察自体は続いてるんです、でもめっきり動きがなくて、予算がその分…」
その時、カランコロンとドアの上の鈴が鳴り、4、5人の中年サラリーマンが入って来た。俺も何度か顔は合わせたことのある顔ぶれである。
「おうー、ママ、今日も来たよ!」
省5
166: 2010/10/21(木)21:52 ID:eW+oeFnU0(9/11) AAS
「ねえー、新人さんこっちもよろしくー」
おしぼりで顔を拭きながら、一番奥のボックスに入った客たちが朝比奈さんに声をかける。
「は、はあい。ただいま、うかがいますよう」
朝比奈さんはぎこちない笑顔で半身を捻って答えている。

「あの、いいですよ。俺の方は気にしなくても」
「…何言ってるんですかぁ。何年ぶりかって話ですよう?」
そう言いながら、朝比奈さんはにっこり笑いながら、俺のグラスに自分のグラスをぶつけてくる。
朝比奈さん、こういう場合はもうちょっと柔らかく、下からね。
「えへっ、こういうお仕事初めてなんで…色々教えて下さいね、キョン君」
ああ、朝比奈さん…。
省6
167: 2010/10/21(木)21:56 ID:eW+oeFnU0(10/11) AAS
「わたし、あっちのテーブル行きますねっ。はい、これ連絡先」
朝比奈さんはコースターに手早くメールアドレスを書いて手渡してくれた。
「ぜったい、鶴屋さんにも会いに行きますねっ!」
そうして、ウインクしつつ奥のボックスに入った。

――

結局、その後1時間ほど一人で静かに飲み、ママと時々会話をし、朝比奈さんが無難に客をあしらうのを見て安心して店を出た。
「へっっくしょい!」
外に出ると、いきなりくしゃみが出た。通りすがるのは同伴か、年齢差が20はあろうかと思しきオッサンと若い娘のカップルが、そんな俺を見て思わず吹き出す。
うう、やっぱり夜になったら冷えてきやがった。日中あんなに暑かったってのに。
ああ、嫁の言う通り上着持って来て良かったな――。
省3
168: 2010/10/21(木)22:03 ID:eW+oeFnU0(11/11) AAS
『キョン君へ
いつもお仕事ご苦労さまっ! 今日は何の日か憶えてるかなっ?
二人がはじめてデートした日っさねー!!
あん時はめがっさ楽しかったにょろー!!
また、一緒に行けるといいね。
…一緒に居られて、嬉しいっさ。ありがとう、キョンくんっ!』

――

「……もしもしっ?」
「鶴屋さん。俺の、鶴屋さん」
「あはははっ、キョンくん、酔ってるのかいっ?」
省7
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