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202: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)09:13 ID:??? AAS
さて、しかし、人間の知性的な面に関することを、その道徳的な面、すなわち人間の性格に関
して、そのままあてはめるわけにはいかない。人相の上から、その人の道徳的な性格を察知す
ることは、知性の程度を知るのと比べて、はるかに困難である。というのは道徳的な性格は、
形而上学的なものとして、知性とは比較にならぬほど、より深いところに潜んでいるし、なるほ
ど、体質や生活機能と関係はあるけれども、知性のように、これと直接に結びついてはおらず、
また、その或る一定の部分や系統と関連しているものではないのだから。のみならず、たいてい
の人は、自分の悟性に、通常、はなはだしく満足しているらしく、これを公然と示しているし、
なお、あらゆる『機会に、認められようと努めるけれども、道徳的な性格を、そっくり、あけっぴ
ろげて、さらけ出すことは、はなはだ稀である、というよりむしろ、たいていの場合、故意に隠
匿する、そして長い間の練習は、この隠匿方法をきわめて巧妙なものにまで仕上げるからでも
省5
203: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)09:13 ID:??? AAS
性質の遺伝性
生殖のさいに結合される両親の種が、種族の特質のみならず個人の特質まで伝えるということは、身
体の(客観的、外面的な)特質について言えば、つね日ごろ経験の教えるところであり、また昔から承
認されてきたことでもある。
人はそれぞれ、自然が彼に与えた素質に従う。 (カルトゥス)
ところでこのことが精神上の(主観的、内面的な)特質についても同じように言えるかどうか、した
がってこの精神上の特質もまた両親から子供に遺伝されるかどうかということも、これまですでに再三
にわたって提起され、まず一般には肯定されてきた問題である。ところがこの場合に、父親に属するも
のと母親に属するものとが分けられるかどうか、父親と母親からそれぞれわれわれが受け継ぐ遺伝の部
分が何であるかという問題になると、これはかなり難しくなる。意志が人間における本質そのものであ
省10
204: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:06 ID:??? AAS
自分自身の経験には、完全に確実できわめて独特なものであるという長所があり、この長所は、この
ような経験の範囲が限られたものでありそこに示される実例が周知のものではないということから生ず
る不利な点を補って余りがある。そこでわたしは、すべての人にそれぞれまず自分の経験に訴えるよう
に薦めたい。まず第一に、自分自身を観察し、自分の好悪の念〔傾向性〕や激情、精確上の欠点や弱点、
また悪徳を、それにもし自分にそれがあれば長所や美徳をもみずから認め、つぎに自分の父親を顧みる
がよい。そうすればかならず、これらの性格上の特徴を父親にも認めるであろう。ところが母親を見る
と性格がまったく違っており、母親と道徳的に一致するものはきわめてまれである。つまりこの一致は、
両親の性格がたまたま等しいという特殊な事情によってのみ生ずるのである。たとえば、こういう検査
を、怒りっぽいとか、忍耐、貪欲、あるいは浪費とか、淫欲、暴飲暴食癖、賭博癖、酷薄、あるいは慈
悲とか正直、あるいは欺瞞とか高慢、あるいは愛想よさとか勇気、あるいは臆病とか温和、あるいはけ
省9
205: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:07 ID:??? AAS
というのは、以前の受胎のなごりというものがあり、そのため往々にして、再婚してできた子供でも先夫
と、また姦通 で生まれた子供が正式の夫と、わずかながらも似ていることがあるからである。動物の場合、
このなごりはもっとはっきり認められている。第二の制限は、息子には父親の道徳上の性格がたしかに現
われるが、しかしそれは、しばしば非常に違った別の知性(母親からの遺伝分)によって変化して現われ、
そのため観察を修正する必要があるということである。この変化は、知性の相違に応じて顕著なこともあ
れば、些々たるものであることもある。しかし、この変化はあまり大きくはないので、こういう変化の
もとでも依然として父親の性格の根本的な特徴はじゅうぶん見分けられる程度には現われる。それは
まったく違った衣装とかつらとひげで仮装した人間のようなものである。たとえば、母親から遺伝され
た部分のおかげでひとりの人間の優れた知性、すなわち、反省し熟慮する能力をそなえている場合に
は、父親から遺伝された激情は、この能力によって制御されるものもあれば隠蔽されるものもあり、そ
省4
206: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:07 ID:??? AAS
天分の豊かな息子なのにその母親が優れた精神の持ち主ではなかった例がときとして見られるとすれ
ば、それは次の事情から説明されるであろう。すなわち、この母親自身その父親が粘液質であり、その
ため彼女の頭脳はもともと異常に発達していたにもかかわらず、この頭脳がこれにふさわしい血液循環
の力でしかるべく刺激せられなかったということである。―この要件は、わたしがまえに第三十一章で
述べておいたものである。ところが、それにもかかわらず彼女の非常に完全な神経組織と脳髄組織が息
子に遺伝されたのであるが、これは、息子の父親が活発で情熱に富み、心臓の鼓動も強力であったとい
う事情が加わり、そのためここにようやく偉大な精神力を生みだすもうひとつの身体的な条件が生じた
からである。おそらくバイロンの例がこれであったと思われる。というのは、どこにも彼の母親の精神
上の長所について言及されていないからである。――天才的な息子自身の母親は衆にすぐれた天分の持
主であるのに、彼女の母親はべつだん才女でもなかったという例の場合も同じように説明されるであろ
省9
207: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:07 ID:??? AAS
ただいま述べた理論の生理学的な面に関しては、次の点だけをあげておこう。ブースダッハは、同一
の精神的特質が父親から来ることもあれば母親から来ることもあると誤って想定しているが、それでも
(『経験科学としての生理学』第一巻・第三〇六節で)、「全体として見れば、男性的要素は発動的な生活
の規定に影響し、女性的要素は感受性に影響する」と付言しているということである。――さらにリン
ネが『自然の体系』第一巻八頁で述べていることもここであげるべきであろう。いわく、「子を孕んだ
母親は、出産以前に、この新しく生まれる動物の生きた、髄質の原型を生みだすが、この原型は母親に
酷似しており、マルピーギの龍骨と称されるもので、植物の幼茎に似ている。出産後にこれに心臓が加
わり、この原型を分岐させて身体を形成する。というのは、鳥が孵化する卵のなかの跳点のなかに、ま
ず骨髄とともに、鼓動する心臓と脳髄が現われるからである。この小さな心臓が、寒気のために静止し
ているが、暖気に刺激されて動きはじめ、しだいにひろがる気泡によって体液をその輸送管に沿って圧
省9
208: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:09 ID:??? AAS
動物磁気と魔術
一八一八年、わたしの主著が刊行されたころ、動物磁気ははじめておのれの存在を確保したば
かりであった。しかしこの現象の説明にかんして、たしかに消極面では、つまり患者がどのよう
なありさまになるかについてはいくらかはっきりしてきた。それというのも、ライルが強調した
大脳組織と神経組織の対立が、説明のための原則とされたからである。これに反し、積極面、つ
まり磁力所有者という治療師にこうした現象を起こさせる動因は、いぜんとしてわからないまま
である。そこでありとあらゆる物質による説明原則がさがしだされた。そのなかには、メスマー
のいう万物に浸透する世界エーテル、シュティーグリツが原因としてかかげる磁力所有者の皮膚
からの発汗などが含まれた。それに、神経霊なども説明原則にされたが、これなどは、たんにわ
からない事柄につけられた名称にすぎない。たといこの道に熟練した人の実際のやり方を知った
省7
209: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:09 ID:??? AAS
もっとも、この動物磁気に対抗して、第一期および第二期に行なわれたことはすべて、完全に許
容されるべきものであろう。(ただし、イギリスでつい最近まで猛威をふるった、調査ぬきの粗暴
かつ馬鹿げた断罪は別である。)ともかく今日では、洞察をもって治療にあたる者のなかで、現
象の動因が磁気所有者の意志であることについて疑いをさしはさむ者はいないとわたしは信じて
いる。したがって、このことを確証する磁気所有者の無数の発言を例挙するのは余計なことであ
ろう。「欲せよ、そして信ぜよ!」というピュイセギュールおよびフランスの古い磁気所有者の
解答は、たんに時を経ても正しさを保っているばかりでなく、現象自体についての正しい洞察に
まで発展した。キーザーの『大地主義』は動物磁気についての最も基本的かつ詳細な教科書だ
が、この本は、磁気の動きが意志なくしては生起しえないこと、これに反し意志は外的行為なく
してもあらゆる磁気的作用を起こすことができることを、じゅうぶんに指摘している。触診は意
省6
210: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:09 ID:??? AAS
「磁気所有者の活動は、もちろんただ意志によって拘束され
ている。しかし人間は外的な知覚できる形態をもっている以上、人間の使用に供せられるものす
べて、人間に作用するものすべてが、やはり外的な知覚できる形態を必ずもっていなくてはなら
ない。しかも意志が作用するためには、意志は一種の行為を利用しなくてはならない。」わたし
の学説にしたがえば、生体は意志の単なる現象、可視性、客体化、すなわちもともと頭脳のなか
に表象として直観された意志そのものである。したがって、触診という外的行為は内的な意志行
為と一致する。したしたとい触診が行なわれないとしても、同じことを迂路をつうじて人工的に
生起させることができる。空想が外的行為を、ときには人の存在を代用することもあるのだ。し
たがって触診なしで事を行なうのはずっと困難であり、めったいに成功しない。こうした事情から
してキーザーは、夢遊症患者に向かって、大声で「眠りなさい!」あるいは「そうしなくちゃい
省12
211: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:10 ID:??? AAS
これらすべてについての真の基礎は、ここで
は意志がその本源性において物自体として活動しており、意志からは異なった領域にある第二次
的なるものとしての表象ができるだけ除外されることが要求されている。磁気をかけるにあたっ
てもともと作用するのは意志であり、あらゆる外的な行為は、意志の運搬具にすぎないという真理
を事実のうえから裏づけするものは、磁気に関する最新・良質のすべての著作のなかに見いだ
される。このことをここで繰り返すのは、不必要な脱線であろう。それでもわたしは、そのうち
のひとつを掲げておくことにする。それというのも、この文献がとくに異常だからではなく、意
外な人によって書かれており、そうした人の証言として独特の関心がもたれているからである。その
人とはジャン・パウルである。彼はある書簡(『ジャン・パウルの生活の真相』第八巻一二〇頁
に転載されている)のなかで次のように述べている。「わたしはある大きな会合でK夫人を、だ
省11
212: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:10 ID:??? AAS
いま問題にしていることの正しさを別な角度から保証するものに、『ドレースデンにおける女
夢遊症患者アウグステ・Kにかんする報告』(一八四三年)がある。アウグステは、五三頁で次
のように述べている。「わたしは半分眠っていた。弟が彼の得意な曲を演奏しようとした。しか
しその曲はわたしの気に入らなかったので、わたしは彼に演奏しないように頼んだ。それでも彼
は演奏しようとした。そこでわたしがこれに反抗する賢固な意志をかためたところ、弟はいくら
努力しても、問題の曲を想起することができなくなった。」――しかしこの意志の直接の力は、
生命のない物体にまで及ぶときに最高潮に達する。このことはたしかに信じられないように思わ
れるけれども、ぜんぜん別の方面から伝えられたこれにかんする二つの報告がある。すなわち、
いま紹介した『アウグステ・Kにかんする報告』の一一五、一一六、および三一八の各頁はでは、
証人の引証つきで次のようなことが述べられている。アウグステというこの女夢遊症患者は、磁
省7
213: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:10 ID:??? AAS
わたしが物自体、すべての存在における唯一の現実、自然の中核としてかかげた意志が、人間
個人から出発して動物磁気のなかで、さらにはこれを越えて、因果の結合すなわち自然の法則に
よっては説明できないようなこともなしとげるばかりか、自然の法則をいわばご破算にして、現
実に遠隔への作用を行ない、それとともに超自然的な、つまり自然に対する形而上学的支配を行
なうことを、われわれは考察してきた。したがってわたしはこれ以上に、わたしの学説を事実の
うえではっきり裏づけするものを望むことができない。そればかりか、磁力所有者のソパリ伯爵
は、疑うまでもなくわたしの哲学についていっさい知らず、おのれの経験を積み重ねてゆくうち
に、『動物磁気、魂の身体、および生の精髄』(一八四〇年)という自著の題名を説明するため
に、次のような熟考すべき言葉をつけ加えた。「本書の副題はいうなれば、動物磁気の流れはす
べての精神的・肉体的な生の要素であり意志であり、原理であることを物理学的に証明するものと
省8
214: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)10:11 ID:??? AAS
このような事実があるために、まったく正反対の主張や偏見があるのにもかかわらず、動物磁
気とその現象はかつての魔術の一部と同じであるという意見が出てきたばかりか、これは確実な
ことだとされるようになった。もともと魔術は悪名高い秘儀で、これをきびしく迫害したキリス
ト教成立後の各世紀ばかりではなく、未開人をも含めた地球上の全民族によって、あらゆる時代
をつうじて信奉されて伝えられてきた。しかも魔術の悪用を、ローマ人の十二表、モーセの五
書、それにプラトンの『法律』第一一章さえ、死罪に値するとしている。アントニウス治下の最
も啓蒙された時代のローマでも魔術がいかに大まじめに受けとられていたかは、アプレイウスが
自分に向けられた、彼の生命をもおびやかす魔術師という訴えに対して法廷で行なった、美しい
自己弁護の言葉が証明している(『魔術についての弁明』ビポンティウム版一〇四頁)。この弁明
のなかで、彼は、おのれに向けられた非難を取り除こうとけんめいに努力したけれども、魔術の
省9
215: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)12:38 ID:??? AAS
そして彼らは、天上・地上には彼らの哲学が夢想する以上のものがあることを偉大な同国人にはっ
きり語らせようとはしなかった。――往時の魔術の一部は、民衆のあいだではいまでも大っぴらに、
毎日実施されている。こうした魔術は福祉に役立っている。つまり感応療法に使用されているが、
この種の治療の有効性については疑う余地がない。最も普通に実施されているのは疣の感応療法で、
これが効果があることを、慎重で経験的なヴェルラムのベーコンも、すでにおのれの経験にもと
づいて確証している(『森また森』第九九七節)。さらにこれは顔面に生ずる丹毒の治療にもしば
しば効果的であるために、これなら大丈夫という確信をもつことができる。また同様に発熱のさ
いの治療にも成功した例がある。――このさい本源的な動因となるものは無意味な言葉や儀式で
はなく、磁気療法のときと同じく治療にあたる者の意志であることは、すでに磁気について述べ
てきた以上、詳細な説明を必要としないだろう。感応療法の実例は、この種の治療となじみのな
省7
216: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)12:38 ID:??? AAS
現代になって行なわれたこの種の見解の修正が薬学からはじまったことは、幸運であった。な
ぜならこのことは同時に、意見の振り子が、まったく逆の方向にむかう強い衝動を再びもつこと
はなく、われわれが粗野な時代の迷信にまたもや投げ入れられることがないことを保証している
からだ。しかも、よくいわれているように、動物磁気ならびに感応療法によってその有効さが救
いだされたのは、魔術のなかのごく一部分である。同じ魔術といっても数多くある。その大部分
はさしあたり、昔と同様に有罪の判決を受けたままであるが、それとも死滅したものとみなされ
る。しかし他の一部は、動物磁気と類似していることからも、少なくともありうることだと考え
なくてはなるまい。ということは、動物磁気と感応療法は、治療を目的とする福祉的な作用を及
ぼすのだ。これらの作用は、魔術の歴史のなかで、スペインでいわゆる「サルダドレス」の仕事
として出現したもののやはり教会の有罪宣告をうけた作用と類似している(デルリオ『魔術論』
省10
217: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)12:39 ID:??? AAS
デモクリトスは「たぶらかし」をすでに知っており、これを事実として説明しようと試みたことが、
プルタルコスの『疑問の饗宴』のなかにうかがわれる(第五問、七の六)。もしここに書かれた物語
が真実であるとされるならば、魔法使いによる犯罪の謎を解く鍵となろう。この物語によれば、熱心
な魔女迫害はけっして根拠のないことではない。たしかに、魔女迫害は、ほとんど大多数の場合は誤
謬にもとづくものである。そうはいってもわれわれは、祖先の人びとが、じつはなにごとでもな
い犯罪をあのような残忍なきびしさで何世紀にもわたって迫害するほど眩惑されていたとは、考
えるべきではあるまい。こうした観点からすれば、今日にいたるまで、すべての国において、な
ぜ民衆がある種の病気をがんこに「妖術」のせいであるとし、かたくなにこの考えを変えよう
としないのかがわかってくる。――したがって、たといわれわれが時代の進歩の波に乗って、例
の悪名高き技術の一部を過去数世紀におけるように無益・無価値なものと考えないとしても、
省12
218: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)15:26 ID:??? AAS
動物の保護は、したがってそれを目的とする協会や警察の仕事になるわけだが、両者とも賤民ども
のあの一般的な無道な仕打ちに対しては、ほとんどお手あげのかっこうだ。なにぶんにも訴えることの
できない動物相手のことであり、百の残虐行為で見つかるのは一つあるかないかであり、とりわけその
刑罰が軽きにすぎるからである。最近イギリスでは苔刑が提案されたが、わたしには至当のことと思わ
れる。しかし、人間と動物が本質的には同一であるという熟知の事実さえ承認せず、誠実で理性的な仲
間の者が、人間を動物の当該部門に編入したり、あるいは人間がチンパンジーやオーラン・ウータンに
酷似していることを証明したりすると、それこそ躍起になって反駁したりするほど、はなはだ頑迷・愚
昧な学者どもや動物学者までいるありさまでは、何を賤民どもから期待できよう。
しかしほんとうに腹が立つことは、きわめてキリスト教的な考えをもった敬虔なユング=シュティリングが、
その著『幽界の光景』第二巻・第一景一五頁で、次のような比喩をあげていることだ。「突如として骸骨は
省9
219: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)15:27 ID:??? AAS
わたしがゲッティンゲン大学で勉強していたとき、ブルーメンバッハは生理学の講義で、生体解剖の
おそろしい面について切々とわれわれに語った。それがいかにも残忍でおそろしいことであること、し
たがってめったに用うべきではないこと、ごく重要で、直接役立つ研究にだけこの措置に踏みきるべきで
あること、それを行なう場合には、科学の祭壇にささげられた残忍な犠牲が最大の利益をもたらすよ
う、大講堂で最大限に公開し、あらゆる医学者を招待したうえで行わなければならない、と説明して
くれたのである。
――ところが今日では、どんな藪医者でもいろいろな問題を決定するために、その拷問室で残忍きわまる
動物虐待をやる権能があると思っている。じつはその問題の解決はとっくに書物に載っているのであって、
ただ彼らがあまり怠惰・無知であるために、その書物をのぞかないだけのことなのだ。昔の医者は古典的
教養によって、ある種の人間性と気品をそなえていたが、いまの医者はもはや古典の素養をもっていない
省2
220: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)15:27 ID:??? AAS
生体解剖ではフランスの生物学者が先例を示したように思われる。そしてドイツ人はフランス人と張
り合って、しばしば大量に、罪のない動物に残虐きわまる拷問を加えるのであるが。その目的とすると
ころは純理論的な、往々愚にもつかない問題を決定するためにすぎない。わたしはここにとくに憤慨に
たえない二つの実例をあげたいと思うのであるが、それはけっして散発的なものでなく、似たような例
は百をもって数えることができる。マールブルクのルートヴィヒ・フィック教授はその著『骨の形の原
因について』のなかで、幼い動物の眼球を摘出したことを報告している。それは何のためかといえば、
そのあとの間隙に骨が成長していくという彼の仮設を確証するためなのだ!(一八五七年十月二十四日
付「中央新聞」を見よ。)
ニュルンベルクのエルンスト・フォン・ビブラ男爵が行なった非道の仕打ちは、特記するに値する。
彼がその著『人間ならびに脊椎動物の頭脳にかんする比較研究』(マンハイム、一八五四年、一三一頁
省5
221: 幸ちゃん ◆5V9dS9MYZOAP [kotchian] 2020/06/14(日)15:28 ID:??? AAS
――母親の乳を飲んで育っている無邪気な動物を南京錠やかんぬきをかけて閉じこめ、拷問にも似てじわり
と餓死させながら、どうして高枕で眠れるのか? 眠っていてもびくりととび起きはしないのか? こうい
うことがバイエルンでは起こるとは? バイエルンでは王子アダルベルトの保護のもとに、尊敬すべき功績
顕著な宮中顧問官ペルナー氏が、粗暴・残忍から動物を守るために全ドイツに範をたれているではないか。
ニュルンブルクには、大いに成果をあげているミュンヘン動物愛護協会のごときものがないのか? ビブラ
の残虐行為は、たとえ阻止されえなかったとしても、罰せられずにすんだのであろうか?――このフォン・
ビブラ氏のように、まだまだ多くのことを本から学びとらねばならぬような人は、自分の知識を豊富にしよ
うとして、つまりはおそらくはとうの昔に知れわたっているような自然の秘密をしぼりだすために、残忍な
方法で究極の答えをしぼりだそうと考えたり、生き物を拷問にかけようと考えたりしてはいけないのだ。と
いうのは、この種の知識のためならば、哀れなよるべない動物を拷問で殺す必要はさらさらなく、まだ他に
省7
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