[過去ログ] 【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 2冊目 (889レス)
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854: 伊南屋 ◆WsILX6i4pM 2008/03/23(日)01:25 ID:I/8T/Tn/(1/5) AAS
「Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜」
X.
物心がついた時には父親はいなかった。
母親は父親について語ろうとはしなかったし、また彼女もその事を知ろうとは思わなかった。ただ、周りの子供達が父親に抱き付いては甘えるのが羨ましかった。
まだ彼女が十歳を過ぎたばかりの頃に母親は心を病んでしまった。
母親は自分の事について何も言わなかったし、また彼女もその事を知ろうとは思わなかった。ただ、周りの子供達が母親に笑いかけられているのが羨ましかった。
彼女が十二になるかならないかの頃に売春宿の主が彼女を買いに来た。
母親はもう働けるような状態ではなかったし、また彼女もその事を責めようとはしなかった。ただ、周りの子供達が友達同士で遊び回っているのが羨ましかった。
斯くして彼女は十二になるかならないかの頃に男を知った――と言うよりは男という者を思い知らされたと言うべきか。
幼児性愛好者の為に特別に用意された商品として彼女は“管理”された。
己の体の磨き方を教えられた。
立ち居振る舞いを教えられた。
媚びる為の仕草を教えられた。
男を悦ばせる術を教えられた。
それから数年経った今――かつての特別商品としての価値は消えてしまったが未だ看板商品だった――彼女は考えた。
街を歩く親子を眺め、笑みを浮かべる恋人達を眺め、自分を買いに来る男達を眺めて。
――幸せってなんだろう?
あまりに素朴な疑問はしかし、消えることなく彼女の中で膨らんでいった。
そうして考えて、考えて、考えて。
ようやく彼女は、自分が幸せを知らないのではと思った。
詰まるところ。
――私は生まれてこの方一度たりとも、これっぽっちも幸せというものを感じた事がなかった。
そう、彼女は思った。
幸いと言うべきか。周りには似たような境遇の女達が居たから、意見を集めるには困らなかった。
あらゆる意見を聞き、思索し、吟味し、彼女は一つの考えを抱いた。
その考えが彼女を変えた。
それは彼女にとって魔法のような、素敵な考えだった。
彼女は魔法を使えるようになったのだ。
そうして――
――彼女は魔女になった。
† † †
「ねえ、闇絵さん」
「……なんだね?」
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