[過去ログ] 【みなみけ】桜場コハル Part 13【今日の5の2】 (715レス)
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285: クリスマス! 2011/12/26(月)02:49 ID:Czc0KYHa(6/14) AAS
藤岡は、もう私に会いたくないのかもしれない。
やさしいやつだから私に気を使って、一緒にいてくれてるだけなのかもしれない。
でも、それにも限界がきて、もう我慢できない、付き合いきれないなんて言われたら、私はどうするんだ?
すさまじい頭痛がして、後悔の思いで胸がつぶれそうになった。
心臓をわしづかみにされたというのは、こういう気分をいうのだ。
自分でも気づかないうちに、夏奈は泣いていた。机の上に水滴が落ちていた。
こらえきれなくなって、ベッドから跳ね起きて廊下に飛び出そうとした。
が、また頭を殴られたようなひどい痛みが起こって、足をすべらせ床に顔から落ちた。
体が動かない。指一本だって動かせない。めまいがする。目の前にあるはずのドアがひどく遠い。
いまさらいい子ぶって電話しようってのか。もう遅いかもしれないぞ。
そんなんじゃない。いい子でなんかなくたっていい。
藤岡に嫌われたくない。
嫌われてしまうくらいだったら、消えてなくなってしまったほうがいい。
最初からなかったことになってしまったほうがいい。
お互いがお互いのことを忘れてしまって、二度と出会わないようになってしまったほうがいい。
「ひ、ぐ……えぐ」
意識が沈んでいく。
そして、その夏奈の泣く声を聞く者は誰もいない。

『どうしてこんなにがんばってるのか』だって?
藤岡のことが好きだったからじゃないのかよ。



おでこにひやりとした感触がある。
手を伸ばすと、指先が濡れる。濡れタオル。
「カナ」
春香の心配そうな顔が自分をのぞきこむ。遅れて、千秋の眠そうな顔がひょこっとあらわれた。
「バカだとは思ってたけど。熱出して気を失うとは、本当のバカだな」
「こら、チアキ。……カナ、大丈夫……じゃないわよね。すごい熱だもの。
 少し前からヘンだったし、心配してたのよ」
熱。
言われてみれば、さっきから頭痛とだるさがひどかった。
気がついたら、ベッドの上に戻っていたみたいだった。しあわせな気持ちになるフカフカした感じ。
「……札、かけてあっただろ。二人とも明日から罰ゲームだからな」
悪態をつくくらいには、元気が出ていた。
「それじゃあ、新しい決まり追加ね。カナを心配したときは、部屋に入ってもいいってことで」
むう、とむくれても、春香は笑って夏奈の頭を撫でるばかりである。
悔しいが、この包容力というか、問答無用で場を丸く収める説得力には、まだ自分は勝てないと思う。
「……悪かったよ。ありがと」
「お礼ならチアキに言いなさい。眠いのに、ベッドに上げるの手伝ってくれたのよ」
「別に、心配だったわけじゃないけどな」
少しだけ顔を赤くして、千秋は微妙に目をそらすのだった。かわいいやつだ。
さっきより、少しは落ち着いて考えられるようになっている。電灯のまわりを小さな虫が飛んでいる。
怖い夢を見たときは、夏奈でも泣きたくなる。本当に泣くこともある。
さっきのことを思い出すと頭がずきずきして顔が赤くなり、ほんの少しだけの塩水がぽろっと流れた。
春香が湯気の立つマグカップをくれた。できたての甘いココアだった。
目もとを袖でごしごし乱暴に拭いて、しゃくりあげそうになる声をおさえる。
春香の優しい手が頭に乗せられた。
「言ってみなさい。家族でしょ」
誰かに聞いてもらいたかったのだと思う。
藤岡は、本当は私のことなんかとっくに好きじゃなくなってて、いつ別れようって言おうか考えてるのかもしれない。
もし私が男で、私みたいな女の子と付き合うことになったら、とっくに愛想つかしてるに決まってる。
藤岡に好きになってもらえるところなんか、私にはなにもないんだ。
そういう話をした。
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