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【みなみけ】桜場コハル Part 13【今日の5の2】 (715レス)
【みなみけ】桜場コハル Part 13【今日の5の2】 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/
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280: 名無しさん@ピンキー [sage] 2011/12/26(月) 02:34:43.06 ID:Czc0KYHa クリスマスが過ぎてしまいましたがクリスマスネタができたので投下します。 藤岡×カナで非エロの恥ずかしい話です。 長くなりすぎましたのでお時間のあるときにでもお読みいただければと思います。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/280
281: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:37:39.94 ID:Czc0KYHa ■ 夏奈の戦争がはじまって、一週間あまりが過ぎた。 ここ最近の夏奈は学校から帰るなり部屋に閉じこもり、夕飯と風呂と寝るときくらいしか 出てこなかった。ようやく出てきたと思ったら髪の毛はボサボサで、指はバンソーコばかりで、 目の下には大きなクマがあった。 クマがあっても食欲は旺盛で、明らかにダルそうなのにお茶碗のごはんは山盛りだ。 大好物のからあげをごはんと一緒に猛烈な勢いでかきこんでいるが、無表情でしかも 無言だったから、尋常じゃなく不気味である。 「き、今日はちょっといいお肉使ってみたんだけど……どう?おいしい?」 と、春香。 「うん」 夏奈が即答。 「パーティーにはトウマとマコちゃんと……ほかのみんなも呼ぼうと思ってるけど、いいか?」 これは千秋。 「うん」 即答。 春香と千秋が一瞬、目を合わせる。 「……カナ。鎌倉幕府ができたのはいつだ?」 「うん」 二人して、小さくため息をついた。 ここしばらく、夏奈が部屋で一人で何かやっているのは、春香も千秋も知っている。 そして、バカが一人で何かやるときは大体がバカな動機によって始まるので、 そのオチがロクなものにならないということも、もちろん知っている。 が、ほかの家と同じで、南家にも独自の決まりがある。 ごはんを食べているときは、ケンカをしてはいけない。 ないしょにしていることがあるときは、むやみに詮索してはいけない。 そして、夏奈の部屋のドアに『アケルナ』の札がかかっているときは、絶対に開けてはならない。 恐れ知らずのバカものがこれを破ったりすれば、三日間お風呂掃除に買い物係の上、チャンネル権を 剥奪されるという過酷な罰ゲームを受けなければならない。 けれど、 「ちょっとカナ。最近どうしたの?何か悩みでもあるの?私でよければ聞くから……」 「ハルカ姉さまに心配かけるようなことするな。何かあるならさっさと言え」 疲れた顔をして、一人で抱えきれないものを抱え込んでいるように見える姉妹を心配してはいけない、 という決まりはないのだった。 前にこうなったのは一ヶ月甘いもの禁止令が出たとき以来で、そのときでさえ最低限の人間的 受け答えはしていたはずだ。そういえば、そのときも、鎌倉幕府はわからなかった気はするけれど。 「ごちそうさま」 無視したのか、そもそも二人の声など聞こえていなかったのか。 席を立とうとして、そのままばたーんと横倒しに倒れた。 「だ、大丈夫!?カナ、カナったら!」 しばらくぴくぴくしていたが、そのうちぬるりと生気の感じられない動きで体を起こし、 「うん」 どう見ても大丈夫ではないが、全身から出る異様なオーラに気圧されて、春香も千秋も何も言わなかった。 ふらふらした足取りで居間を出て行った。柱に頭をぶつけた。 夏奈がきれいに平らげたお皿を見て、春香と千秋はどんな顔をしたらいいのか、困っているようだった。 夏奈の部屋は、一時休戦までの様相をそのままにして残っていた。 あちこちマーカーが引かれた本、食べかけのスナック菓子、とっ散らかった裁縫セット、 それから、机の真ん中で所在なさげにしている、ピンク色の布切れ。 エネルギーはたっぷりとった。 さあ。この戦いにも、そろそろケリをつけよう。 机に置かれた布切れを手にとって、深呼吸する。腕まくりをする。 私ならやれる。 絶対にできる。 明後日。クリスマス当日までに、このマフラーを完成させるのだ。なんとしても。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/281
282: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:40:36.37 ID:Czc0KYHa ■ できもしないことを言えば後悔すると、わかってはいた。 わかってはいたのだが、女の子には見栄を張らなければならないときというのがある。 たとえば、好きな男に女の子らしいところを見せたいときとかは。 来週はクリスマスだ。ケーキを食べて、チキンを食べて、サンタクロースが 大忙しな、一年で一番盛り上がるお祭りさわぎ。 もちろん夜更かしもオーケーだ。 藤岡と付き合い始めてからはじめてのクリスマスで、夏奈は一ヶ月も前から上機嫌だった。 「うひ」 夏奈は、うれしいときにヘンな笑い方をするクセがある。 放課後の帰り道の、ちょっとわき道にそれた公園。 使い込まれて茶色が濃くなっているベンチに座っているのは、もちろん夏奈と藤岡だ。 手のひらの中で湯気をあげている肉まんがおいしいのはもちろんだが、それ以上に藤岡の腕に 頭を預けていることがうれしくてたまらず、夏奈はバカっぽいニヘラ笑いを隠そうともしない。 「ふっじおか〜。あーんしてくれ、あーん」 「はいはい」 藤岡はすごい、と夏奈は思っている。 あの夏奈を……『あの』南夏奈をここまで惚れさせるやつなんて、世界中探したって、 ほかにいないに違いない。よーく考えると、この地球上で、たまたま自分が藤岡に 出会ったのは、神様のめぐりあわせとしか思えない、すごいレベルの偶然だ。 だから、自分に出会ってくれた藤岡はすごいのだ。 夏奈特有の謎のリクツだが、本人がそう思うならすごいのである。 そして、そのすごい藤岡は、いつものようににこにこして、夏奈にされるがままになっている。 「なあなあ、藤岡」 「ん?なに?」 「私のこと好きか?」 以前の夏奈を知っている身からすれば、非常に気持ちが悪い。 急にはじまる夏奈の遠まわしなわがままに、藤岡はぼっと顔を赤くして、 「……言わなきゃだめ?」 「言わなきゃ許さん」 頬をぽりぽり掻いていたが、そのうち観念したように小さく言った。 「好きだよ」 こういう会話をするのをバカップルというらしいが、こんな幸せがあふれそうな気分になれるなら、 バカでもぜんぜんかまわないと、夏奈は思う。 「うひひ」 すごく上機嫌になって肉まんにかぶりついた。思ったより熱くてむせた。 藤岡があわてて缶コーヒーを飲ませてくれたが、間接キスなのに気づいてますます嬉しくなった。 手についた残りかすをぺちゃぺちゃ舐めていると、 「カナ。オレが言ったんだし、カナにも言ってほしいな」 「う」 もちろん言わなければならないところだろう。 夏奈は目を泳がせて、指をからめてもじもじして、なんだかもにょもにょ言っていたが、 「お、女の子にそんなこと言わせようなんて、サイテーだな!」 「え、ええー!?」 夏奈は声に出して『好きだ』というのがすごく苦手である。 『だって、何か損した気分になるじゃないか』と言うのだが、いったい何で損をするのかは わからない。単純に恥ずかしいだけなのかもしれない。 なので、藤岡は夏奈に『好きだ』と言っても、言ってもらえる回数は非常に少ないのだった。かわいそうである。 しかしそんな哀れな藤岡の気持ちなど知らず、夏奈はこの場を乗り切るべく、足りない頭を全力でぶん回す。 「そ、そんなことよりだな!アレだよアレ!あの、……ま、ま、……マフラー!」 沈黙。しばらくして、ようやく藤岡が口を開き、 「……あの、マフラーがどうかしたの?」 正直、よく考えてしゃべったかといわれれば、明らかにノーである。 恥ずかしいのをごまかせればなんでもよかったが、しかしなぜマフラーなのか。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/282
283: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:43:34.09 ID:Czc0KYHa 「ああ、えっとだな、……そうだ、クリスマス!クリスマスには、このカナ様お手製のマフラー、 プレゼントしてやる!」 藤岡が目を丸くしている。当たり前の話。 まったく自慢にならないが、夏奈は家庭科もとてもとても苦手である。それは『かつてない一皿』を 食わされたことのある藤岡ならよく知っているし、春香が夕飯の手伝いに千秋を優先することからもわかる。 が、カナはバカなので、思いつきで言っただけなのにだんだんその気になってきた。 「そうだな、ピンク色のやつがいいよな。恋人が贈るやつっていったらピンクが相場だろ。 で、真ん中にハートを入れよう。イニシャルはF&Kでいいよな?フジオカ、アンド、カナだぞ。 うひひひ、楽しみにしとけよ、藤岡ぁ。絶対惚れ直すぞ!」 一人でエキサイトしてきたところを、藤岡がぽかんとした目で見ている。 「あー。お前、私にマフラーなんか作れっこないって思ってるだろ?」 ほっぺたをつねってやると困った顔をした。 「いてて……お、思ってないよ」 「いーや思ってる!いいか、私はやるっていったらやるんだ!」 ベンチを立つ。藤岡の前で両手をいっぱいに広げる。 くるくるとバレリーナのようなきれいなターンを描いて、 「こーんなに長いやつだぞ!二人で一枚のマフラーであったまるんだぞ!それで二人でテレビ見て、 ケーキを食べて、一晩中楽しい話をするんだ!」 「で、でもカナってやっぱり……あんまりムリはしないほうがいいんじゃないかな」 そういって止めてくれる藤岡はやはりいい男なのだろう。が、 「私にできないことなんて、な――――い!!」 夏奈は自信過剰でもあるのだ。藤岡の声など、完全に無視した。 うはははははははという笑い声と一緒に、独楽のように回り続けた。 ■ そしてその夏奈は、いまや完膚なきまでに打ちのめされている。 だから言わんこっちゃない。できもしないことをできるなんて言えば、必ず後悔する。 改めてイヤというほど思い知らされた。裁縫を甘く見ていた。 「うえぇ……」 机につっぷして、言葉にならないうめき声をあげた。 体が思うように動かず、頭の中はいつもの何倍もボケっとして、何もする気力が起こらない。 時計に目をやる。ちょうど午前0時。クリスマスはもう明日。 が、肝心のマフラーは、まだぜんぜんできていない。がんばれば一人分になるくらいの長さはあるかも しれないけど、それじゃ意味がない。二人で、一枚のマフラー。そういう約束をしたのは、私じゃないか。 春香に教えてもらえばよかったと後悔する。ムキになって一人で全部やろうとするからこうなる。 こんなことなら、せめて『ケーキ作ってやる』くらいにしておけばよかった。 そのケーキも、やっぱり一人では作れっこなかったけど。 そもそも、どうして私はこんなにがんばってるんだっけ? 休憩しよう。 ほんのちょっとだけ。 そう思ったら、もう悪魔の思うツボだ。 直立姿勢のままベッドに倒れこみ、その場でいもむしみたいにモジモジと動いてみる。 ふかふかのベッドの感触が気持ちいい。自分の体温が移って暖かい。 ああ……もう、あきらめようかな。 気持ちが萎えると、諦めが混じったやけっぱちな気分になる。 言うまでもなく夏奈はバカだが、ずると言い訳は大の得意だ。途中で投げ出す理由なんてすぐ出てくる。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/283
284: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:46:35.01 ID:Czc0KYHa 私はがんばった。生まれてからこれまで、こんなにがんばったことはない。と思う。たぶん。 結果より、過程が大事なことだってきっとあるよね。 藤岡には頭を下げて謝って、私のケーキを少しやろう。プレゼントには、どこかの店の マフラーを買って渡してやればいいと思う。 大丈夫。藤岡はやさしいから、また笑って許してくれる。 女の子相手に怒ったりとか、そういうことはできないやつだから。まあトウマは別だけど。 それがいい。そうしよう。 「うひひひ」 すべてを投げ出してしまうと、何もかもが楽になった気がした。 おおざっぱな寝返りを打って天井を見ると、電灯の明かりがまぶしかった。 藤岡と話がしたいと思った。この一週間、あまりしゃべっていなかった。 電話くらいはしてやればよかったかな……悪いことしちゃったかな。 そういえば最近、藤岡からの電話が、 「……あれ?」 いまさら気づいた。 藤岡からの電話がない。この一週間、一度も。 こんなことは、これまでなかった。何日か空いたら、藤岡から電話があった。 遅くまでだらだら話し込んで、春香ににらまれて、声を小さくして笑ったりしていたのに。 それだけじゃない。そういえば最近、藤岡の動きがちょっとヘンだった気がする。 チアキを足の間に座らせるとき、抱きかかえる手が前より優しくなってた。 ハルカの夕飯作るの手伝ってるとき、すごく楽しそうに話をしてた。 ほかの女の子にやさしくするのはいつものことだったし、藤岡のいいところだと思うけど、 今はそれが夏奈の心にひっかかる。 それに、一緒に帰ろうと誘っても、このごろは『ちょっと用があるんだ』と断られてもいた。 今まで気にもしていなかったが、考えてみればおかしい。 藤岡が夏奈の誘いを理由も言わずに断ったことなんて、これまで一度もなかったのに。 どうして。 疲れきっていると、いつもは考えないことを考える。 心の奥深くの、どこかに隠れているものが、幽霊のようにあらわれる。 もしかして、ひょっとしたら、そんなことないとは思うんだけど、 頭の片隅で考えて、そんなわけあるかと忘れていたことがはっきりと浮かんだ。 おい、カナ。お前、藤岡に嫌われたんじゃないか? 頭をバットで殴られたような感じがした。 よぉく考えろよ。このバカ。 ふだんは強がって、えらそうにしてばっかりいるくせに、結局お前はいつも藤岡に甘えてるだけじゃないか。 藤岡のやさしさにつけこんで、自分だけ楽しくなって舞い上がって、さんざんあっちこっち振り回したあげく、 恥ずかしげもなく『私が好きか』だって?よくそんなことが言えたもんだな。 自分は恥ずかしいからって言わないくせに、不公平にもほどがあるだろ。 おまけに、あれだけ大口たたいて約束したことをできそうもないからって、また甘えて許してもらおうなんて思ってる。 ああ、そうだな。藤岡はやさしいから、笑って許してくれるかもな。 自分のわがままばっかり押し付けて、相手の好意はあたりまえだって思うわけだ。 は。そうかそうか。お前はそんな女だったのか。 都合のいいように男を扱うイヤなヤツだよ。サイテーだな。 周りを見てみろ。お前より藤岡にお似合いの女の子がいっぱいいるじゃないか。 自慢できるものなんて何もないくせに、彼女ヅラだけ一人前か? 『用事がある』ってのも、お前を避ける口実じゃないのか? お前みたいな女にいつまでも付き合ってくれるほどいい男が、都合よくいると思ってるのか? 怖くなった。 夏奈はこのとき、はじめて自分がバカであることを本気で呪った。 幽霊の声は、いつだって正しい。 そうだ。藤岡が私を好きでいてくれる理由なんて、なにもない。本当に、なにも。 藤岡は自分にいろんなものをくれる。特別な人と一緒にいるだけでこんなにも楽しくなれるものなんだと、 夏奈は藤岡に教わった。 それなのに、自分が藤岡にあげたものなんて、せいぜい安物のチョコくらいしかない。 藤岡に嫌われたら、どうしよう。お前なんてもう知らん、とか言われたらどうしよう。 私は大バカ野郎だ。藤岡の気持ちなんて、ぜんぜん考えてなかった。 一度走り出した悪い考えは、加速して夏奈の息の根を止めようとする。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/284
285: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:49:41.72 ID:Czc0KYHa 藤岡は、もう私に会いたくないのかもしれない。 やさしいやつだから私に気を使って、一緒にいてくれてるだけなのかもしれない。 でも、それにも限界がきて、もう我慢できない、付き合いきれないなんて言われたら、私はどうするんだ? すさまじい頭痛がして、後悔の思いで胸がつぶれそうになった。 心臓をわしづかみにされたというのは、こういう気分をいうのだ。 自分でも気づかないうちに、夏奈は泣いていた。机の上に水滴が落ちていた。 こらえきれなくなって、ベッドから跳ね起きて廊下に飛び出そうとした。 が、また頭を殴られたようなひどい痛みが起こって、足をすべらせ床に顔から落ちた。 体が動かない。指一本だって動かせない。めまいがする。目の前にあるはずのドアがひどく遠い。 いまさらいい子ぶって電話しようってのか。もう遅いかもしれないぞ。 そんなんじゃない。いい子でなんかなくたっていい。 藤岡に嫌われたくない。 嫌われてしまうくらいだったら、消えてなくなってしまったほうがいい。 最初からなかったことになってしまったほうがいい。 お互いがお互いのことを忘れてしまって、二度と出会わないようになってしまったほうがいい。 「ひ、ぐ……えぐ」 意識が沈んでいく。 そして、その夏奈の泣く声を聞く者は誰もいない。 『どうしてこんなにがんばってるのか』だって? 藤岡のことが好きだったからじゃないのかよ。 ■ おでこにひやりとした感触がある。 手を伸ばすと、指先が濡れる。濡れタオル。 「カナ」 春香の心配そうな顔が自分をのぞきこむ。遅れて、千秋の眠そうな顔がひょこっとあらわれた。 「バカだとは思ってたけど。熱出して気を失うとは、本当のバカだな」 「こら、チアキ。……カナ、大丈夫……じゃないわよね。すごい熱だもの。 少し前からヘンだったし、心配してたのよ」 熱。 言われてみれば、さっきから頭痛とだるさがひどかった。 気がついたら、ベッドの上に戻っていたみたいだった。しあわせな気持ちになるフカフカした感じ。 「……札、かけてあっただろ。二人とも明日から罰ゲームだからな」 悪態をつくくらいには、元気が出ていた。 「それじゃあ、新しい決まり追加ね。カナを心配したときは、部屋に入ってもいいってことで」 むう、とむくれても、春香は笑って夏奈の頭を撫でるばかりである。 悔しいが、この包容力というか、問答無用で場を丸く収める説得力には、まだ自分は勝てないと思う。 「……悪かったよ。ありがと」 「お礼ならチアキに言いなさい。眠いのに、ベッドに上げるの手伝ってくれたのよ」 「別に、心配だったわけじゃないけどな」 少しだけ顔を赤くして、千秋は微妙に目をそらすのだった。かわいいやつだ。 さっきより、少しは落ち着いて考えられるようになっている。電灯のまわりを小さな虫が飛んでいる。 怖い夢を見たときは、夏奈でも泣きたくなる。本当に泣くこともある。 さっきのことを思い出すと頭がずきずきして顔が赤くなり、ほんの少しだけの塩水がぽろっと流れた。 春香が湯気の立つマグカップをくれた。できたての甘いココアだった。 目もとを袖でごしごし乱暴に拭いて、しゃくりあげそうになる声をおさえる。 春香の優しい手が頭に乗せられた。 「言ってみなさい。家族でしょ」 誰かに聞いてもらいたかったのだと思う。 藤岡は、本当は私のことなんかとっくに好きじゃなくなってて、いつ別れようって言おうか考えてるのかもしれない。 もし私が男で、私みたいな女の子と付き合うことになったら、とっくに愛想つかしてるに決まってる。 藤岡に好きになってもらえるところなんか、私にはなにもないんだ。 そういう話をした。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/285
286: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:52:47.57 ID:Czc0KYHa ひととおり話し終わって、夏奈が二杯目のココアに口をつけはじめたころ、 「本当にお前は、救いがたいバカだな」 「な」 千秋の容赦ない罵声で沈黙は終わった。 「そうね……チアキの言うとおりかもね」 「ハルカまで!?」 神妙に頷く春香に夏奈はほとんど絶望的な気分になった。 千秋が心底呆れた顔のまま、ふわあああという大きなあくびをして座布団を立つ。 「ノロケに付き合った私もバカだったよ。もう遅いし、寝る」 ちらりと振り返る。いつも以上に眠そうなぽややんとした目をしている。 「藤岡はそんな男じゃないと思うぞ。……おやすみなさい、ハルカ姉さま」 「うん、おやすみ」 「ちょ、ちょっと待てよ!二人だけわかったようなカンジになってるんじゃないよ! どういうことか説明してくれよ!人がマジメに悩んでるのにー!」 「はいはい、いいからカナは寝てなさい」 半ば無理やりベッドに寝かされる。千秋のぺたぺたという足音が聞こえなくなり、 夏奈の部屋はココアの薄いにおいだけが残っている。 「……ハルカ、」 ちゃんと説明してくれ、と言おうとするのを遮って、夏奈の頭に手を添えたまま春香が言う。 「カナは、藤岡くんの嫌いなところってある?」 「は?」 いきなり何を言うんだろう。というか、そんなことは考えたことがなかった。 毛布の下で指折り数えて、 「……嫌いっていうんじゃないけどさ。部活に行くって言って私をほったらかしにするところとか、 私がいるのにチアキを足の間に座らせたりとか、……あ、そういえばあいつ、この間ふたりで 部屋にいるとき、いきなり寝ちゃったんだよ。部活で疲れてたのに押しかけた私も悪かったけどさ。 彼女といるときくらい、」 「それで藤岡くんのこと、本当に嫌いになっちゃいそうだって思ったことは、ある?」 「ない」 即答だった。答えに迷ったりなんかしなかった。 何を当たり前のことを言ってるんだ?と思って春香を見ると、少し呆れたような、でもどこか 楽しそうな笑いを浮かべていた。 「藤岡くんも、たぶん同じだと思うわよ」 それしか言わなかった。 そしてもちろん、夏奈はバカなので、その意味を理解して顔を赤くするといったこともなかった。 「…………どういうこと?」 「だーめ。もうヒントはあげません」 意地悪そうに笑う春香を見ていると、頭に『?』がいくつも浮かぶ。 ぽん、と夏奈のおでこに手を置く。やさしい撫で方は、昔から変わらない。 「でも、そうね。藤岡くんのこと、もう少し信じてあげなさい。大丈夫よ。 カナが思っているようなことにはならない。私が保証する。……私より先に彼氏つくるなんて、 ちょっと悔しいけど」 ほっぺたをつねられた。 「いひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」 「この、この」 じゃれあいにしては力が入っている気がする。痛い。けっこう痛い。 ひとしきり痛がるとようやく離してくれたが、ほっぺたがひりひりした。 「……まったく、ひっどいやつだな、ハルカは」 「あら、愛情表現よ」 臆面もなくにこにこしている。やっぱり、まだまだこの姉には勝てそうもない。 でも、春香に撫でてもらっていると、不思議といやな気持ちが消え去っていくのだった。 小さいときから、泣いているときはいつも春香に撫でてもらっていた気がする。 春香が大丈夫だと言って、大丈夫じゃなかったことはない。だから今度も、きっと大丈夫。 根拠なんてなにもないけど、そう思えるのだ。 「ありがとな……しんどいけど、藤岡に謝るよ。マフラーのことも、今までのことも」 「うん」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/286
287: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:55:45.75 ID:Czc0KYHa そうだな。そうだよな。 約束が守れなかったら、きちんと謝らなければならない。うちの決まりに、ちゃんとある。 藤岡、ごめんな。 私はまだぜんぜんいい彼女じゃないけど、もっとがんばって、お前が自慢できるような女の子になるよ。 春香の手がおでこのあたりを撫でている。ぽかぽかして安心する。 体じゅうから力が抜けてしまうと、またねむたくなってきた。 「……ハルカ。私、藤岡のこと好きなんだ」 とろとろしてきた意識の中でぽつりと言う。 「うん。知ってる」 「藤岡も私のこと、まだ好きでいてくれてるかな」 春香はそれにはこたえず、子供をあやすように夏奈のおでこを撫で続けていた。 藤岡が好きだ。 やさしいところが好き。笑った顔が好き。手をつないだとき自分が歩くのにあわせてくれるのが好き。 肩に頭を預けたときやさしく撫でてくれるのが好き。彼女がいるのにほかの女の子と仲良くするのも、 みんなにやさしいってことだから好き。 どうしようもないくらい、どうしようもなく好きだ。 クリスマスには、いっぱい好きだって伝えよう。今まで言えなかった分、まとめて言ってやろう。 でも、それだけじゃ足りない気もする。 藤岡にはいろいろなものをいっぱいもらったから、お返しがしたい。 嫌われたくないとか、そういうのじゃなくて……単純に、お礼がしたかった。 何か藤岡にあげられるものはないだろうか。 クリスマスらしくて、藤岡がよろこんでくれる、すてきなプレゼント。 ふわふわした頭で、考えて考えて――気がついたころには、夏奈はまたすやすやと眠ってしまっていた。 夢の中で、藤岡が笑っていた気がした。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/287
288: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 02:58:41.10 ID:Czc0KYHa ■ 「ごめん!!」 ぱん!と両手を合わせて頭を下げた。 クリスマス当日、午後三時。南家のいつもの居間は、クリスマスツリーにモールにたくさんの お菓子が勢ぞろいして、大騒ぎの準備がもうできている。 が、風邪がなおりきっていない夏奈の格好は猫柄のどてらである。口にマスクをして、冷えピタを貼っている。 顔をあげた目の前に、藤岡が座っていた。 夏奈の顔と、手にあるあの布切れを交互に見て、ぽかんとした顔をしている。 さんざんどう言おうか考えて、結局真正面から謝ることにしたのだ。 あんな悪い考えはもうなくなっていたけれど、それでも藤岡に申し訳なくて、それをはっきり伝えるには、 こういう方法しか思いつかなかった。 「カナ」 覚悟していた。形だけの、苦笑した『ありがとう』を言われたら、たぶんすごく辛い。 でもそれはしょうがないことだと思う。ぜんぶ、私が悪いんだから。 もう一度『ごめん』を言おうと思い、深呼吸して、口を開いて、 「ありがとう!!」 体にすごい力がぶつかるのを感じた。 夏奈は抱きしめられていた。あんまりいきなりだったから、すごくびっくりした。 一瞬で目の前と頭がぐるぐるして、何がなんだかわからない。ぎゅうぎゅうという抱きしめる力は、 いつもしてくれてるより、ずっと強かった。 「ふ、ふじおか、いたいんだけど……」 あ、と言って体を離した。少しだけ名残惜しい気もした。 「ご、ごめん」 藤岡はこぼれる微笑みを隠そうともせず、胸に布切れを押し付けていた。 思っていたのとまるで違う反応を返されて、わけがわからなくなった。 「でも、本当にありがとう。すっごくうれしい。……あはは、ごめ、笑うの止められない」 「な……なんじゃそりゃ――――!!」 思わず立ち上がっていた。 「違うだろ!それ何か違うだろ!こんなものもらったら、普通はもっと微妙そうな顔するだろ!! なんでそんなに簡単にうれしくなっちゃうんだよ!!」 藤岡が驚いた顔をしている。ムリもない。どうしてこんな大声を出しているのか、自分でもわからない。 「わ、私、すごく怖かった。お前に、きらわれちゃったら、どうしようって……わっ、たしっ、バカだし、 わがままっ、ばっかりだし、ふじおかに、きらわれ、……」 緊張の糸が切れた。 安心したのと、わけのわからない怒りが湧き起こり、膝をついて、とうとう泣き出してしまった。 しゃくりあげる夏奈を呆然と見ていた藤岡は、 「嫌うわけないだろ」 頭に手を載せてくれた。優しい声だった。 ハンカチくらいのその布切れを胸元に押し込んで、得意げに胸を張った。 「ね。ちゃんとしたマフラーだよ。カナがそう言うんだから、間違いないよ」 ピンク色で、端っこにでっかいハートマークで、その中にF&Kのイニシャルが縫ってある、 そんなマフラー、には見えない布切れ。 「カナが作ってくれたのに、うれしくないわけないじゃない。その……好きな子がくれたんだから」 「そんなの……藤岡は私にいっぱいくれるのに、私だけそんなのじゃ」 「え?」 ぽかんと、本当にわからないという顔をした。 「オレ、カナに何かあげたっけ?」 今度は夏奈がわからない。藤岡は、すてきな気持ちをたくさんくれるのに。 何を言ってるんだろうと思い、目元をごしごししながら、 「私……藤岡と一緒にいると楽しいし、うれしいぞ」 「……そういうことか。そんなの、オレだって一緒だよ」 顔をあげると、藤岡は照れているようだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/288
289: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 03:01:45.49 ID:Czc0KYHa 「カナと話すのは楽しい。笑ってくれるとうれしい。たまに元気すぎて心配したりとか、 ほかの男子と仲良くしててつらかったりはあるけど……あはは、男がやきもちってかっこ悪いよね。 でも、一緒にいるだけで、オレはすごく幸せだよ。あ、あとこれ、クリスマスのプレゼントなんだけど」 ごまかすように頭を掻きながら紙袋から手袋……のようなものを取り出した。 「カナにいいとこ見せたくてがんばったんだけど、ダメだった」 藤岡らしいさわやかなブルーの、指の長さがばらばらで、あちこちほつれている手袋だった。 「遅くまでやってもこれくらいしか作れなかった。びっくりさせようと思って、早く帰ってたんだけど…… ちゃんとしたの作れなくて、ごめん」 遅すぎるくらいだった。 夏奈は、やっと理解した。 春香の言ったことの意味と、藤岡がこんな自分を好きだといってくれる理由。 夏奈は意地悪で、約束を守らなくて、ずるばっかりする。千秋のほうがよっぽどいい子だ。 でもこいつは、そんないい子じゃなくても、いいところも悪いところも、ぜんぶひっくるめて、 まるごと抱きとめてくれる。 自分勝手でわがままばっかりなところもある、そんな南夏奈のぜんぶ。 藤岡の嫌いなところを見つけても、本当に嫌いにならないのと同じように。 夏奈はバカだったから、そのときになって、本当にようやくわかったのだ。 藤岡は、夏奈と同じことを考えていたんだと。 夏奈も藤岡も、ずっと同じ気持ちだったんだと。 「……それ、つけてみていいか」 「もちろん。こんなのでよければ」 おそるおそる手袋を手にとって、そっと手を入れてみる。 親指と小指が短すぎて、ぴったりはまらなかった。 あったかかった。 「うひ」 涙をこぼしながら笑うので、顔がくしゃくしゃだった。 私も、藤岡を抱きとめてやれる女の子になりたい。 一緒にいるときはずっと笑っていられる、そういう女の子になりたい。 「ありがとな。私もうれしい」 今度は夏奈から、そっと藤岡の体を抱きしめた。 驚いて、びくっとしていた。いつもしてくれるのに、されるのには慣れてないみたいだった。 「好きだ」 ぽかぽかしている藤岡の体が、また小さく震えた。 「大好き。世界でいちばん好きだ」 「ちょ、カナ……いきなり言われると照れるんだけど……」 「うひひひ。今まで言ってやらなかったぶん、ぜんぶ言ってやるぞ。好き好きー」 腕の中に顔をうずめる。サッカー部らしいたくましい胸板に頬をこすりつける。 そのまま、二人とも動かなかった。話さなかった時間を埋めるように、ずっとくっついて、じっとしていた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/289
290: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 03:04:47.21 ID:Czc0KYHa しばらく時間が経った。 さて。 勢いでここまでやってしまったので、夏奈はいまさら恥ずかしくなってきた。 胸に頬を押し付けたままちらりと藤岡の顔を見ると、落ち着いたのか赤い顔で夏奈の頭を撫でてくれている。 むっとした。私がこんな恥ずかしい思いをしてるのに、お前だけそんなに余裕なんてずるくないか? 頭の中で閃いた。藤岡がびっくりする、クリスマスらしいプレゼント。 やるのか?やっちゃうのか?一瞬迷う。 今やらずにいつやるんだ。お前は、やるといったらやるんだろ。 そうだ。それが私らしさってやつだろう。腹が決まった。やってやるとも。 深呼吸する。吸いすぎてむせそうになる。おなかの中にパワーをためて、 「藤岡!」 ぱん、と音がする勢いで右手を藤岡の両目に押し付けた。マスクをずり下げて深呼吸した。 「え!?な、何!?」 「いいか、ぜったい、ぜったい目ぇ開けるなよ!ぜったいだぞ!」 「これじゃ開けられないけど……」 もっともなことを言われるが、ええい関係ない、左手でその頭をがっちりホールドし、 ぐきりと音がしそうな勢いでこっちを向かせた。 「ちょ、ちょっとカナ、なにして」 唇を押し付けた。 藤岡の動きが止まった。 藤岡の唇は少し硬くて、ミントのにおいがした。 どれくらい時間がたったのかよくわからない。ゆっくり顔を離して、左手を下げ、最後に 右手をどけた。藤岡の顔は、トマトみたいに真っ赤になっていた。 「あの」 「あ――――!!言うな言うな!!私だって恥ずかしいんだから!!」 キスのあと一番困るのは、終わってすぐのこの時間だと夏奈は思う。 こっちはリンゴみたいに赤くなった顔を藤岡に向け指を突きつけ、 「ぷ、ぷ、プレゼント!!マフラーできなかったから特別!!それからいっぱい迷惑かけた からそのお返し!!」 特別なときしかしないという約束だった。 キスなんて告白したとき以来だったから、ものすごく恥ずかしい。 ダメージは藤岡より深刻で、まともに顔を見られそうもない。このまま布団に包まって、 出てきたくないような気分。 沈黙。 どうしよう、なんて言おうと思って、適当なことを口にしようと、 「カナ、あの……キス、もう一回いいかな」 意外な追撃だった。 ふぇ、と間抜けな声が出た。次いで、ぼんっという勢いで顔が真っ赤になった。 あんなに恥ずかしかったのに、もう一回?え? 「あ、あの!!今の、カナの顔ちゃんと見られなかったから。こういうのって ちゃんと心の準備してから、きっちりやりたいし……だ、だめかな」 藤岡からこんなことを言ってきたのは初めてだった。 「よ」 いつも自分だけわがまま言ってるからか。それもある。 でも、自分はさっき決めたばっかりだ。藤岡のぜんぶを、まるごと受け止めてやるのだ。 頭の中でめちゃめちゃに走りまわる恥ずかしさを無理やりぜんぶ放り投げて、 「よぉーしいい度胸だぁーっ!!」 気合一発。藤岡の頭を両手でがっちりつかんで、今度は真正面から藤岡の顔を見た。 きれいな瞳に自分が映っている。自分だけが映っている。 藤岡のてのひらが、夏奈の頬を撫でた。 「いちおう言っておくけど……風邪がうつるぞ」 「カナの風邪ならいいよ」 よく言うよ。お前もバカだなあ。 「好きだ」 小さくつぶやき、二人の影が再びひとつに、 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/290
291: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 03:07:47.15 ID:Czc0KYHa 「こんにちはー!!クリスマスだー!!イェイイェイ!!めでたいめでた」 ばーんというすさまじい勢いでドアを開けて、内田が硬直した。 「内田、あんまりうるさいとハルカが……お、おう」 冬馬が後ずさる。千秋が買い物袋を下げたまま感心した声をあげ、マコちゃん(というかマコト)が やたらおおげさなポーズでのけぞる。吉野は相変わらず、何を考えているのかわからないにこにこ顔だ。 視線の集まる先で、夏奈と藤岡は顔を赤くしたまま完全に固まり、ともすれば唇が触れそうな 距離のまま身動きひとつしない。 「オウオウ、アツイアツイ。冬なのにアッツイねえ、若者たちよ。ささ、続きをどうぞ」 「マキ……よくないよ、そういうの」 アツコが突っ込みを入れてもマキはへらへら笑ってばかりいる。先輩の余裕というヤツだ。 「ああああああの!!昼間っからそういうのどうかと思うな!!ふふふふ二人で、ち、ちゅーとか!! 夜にしたほうがいいと思うな!!」 顔を手で隠しているが、指の間からチラチラ見ているのがわかる。 それでバレないと思っているのが、内田がスペシャルバカといわれる所以なのだが。 「マコちゃんもああいうステキな彼女ができるといいねー」 「え、あ……あ!お、オレは女だぞ!」 「あー、そうだったー」 吉野はやっぱりぜんぶわかっているのではないだろうか。 「な」 そしてようやく、夏奈はスローな動きで腕を上げて、 「なんなんだよ、なんなんだよお前ら!!人の家に来るときはピンポンくらいしろよ!! タイミング最悪だよ!!空気読めよ!!」 「パーティーにはみんな呼ぶって言っただろ、バカ野郎」 いつもどおりの呆れ口調で千秋が言う。 「カ〜ナ〜」 そしてその後ろから、昨日の聖母のような声とは打って変わって、地獄の使者に違いないと思える 春香の声がした。にこにことしたその顔の裏に、夏奈は修羅を見た。 その後なにがあったかは、筆舌に尽くしがたい。 尽くしがたいので、書くことができない。 だが、そこにいた者は後に語る。風邪で手加減してもらえてよかったね、と。 この日、南家に新しい決まりができた。春香の言葉は絶対なので、誰も異議をとなえなかった。 家の中で彼氏とイチャついてはいけない。 そして、恐れ知らずのバカものがこれを破ったりすれば、 「さっそく、明日から罰ゲームだからね」 こうなるのだ。 ぐったり横たわって、まるで動かない夏奈の横で、藤岡が申し訳なさそうにしていた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/291
292: クリスマス! [sage] 2011/12/26(月) 03:10:55.36 ID:Czc0KYHa 「あー、つっかれたあ」 パーティーが始まって少し経ち、まだまだ終わらない夜にみんなのテンションが上がるころ、 夏奈はグラスを持ってこたつに戻った。藤岡の隣だ。 マコちゃんがシャンパンのコルクを思い切りふっとばし、マキの頭にきれいにぶつかり、 怒り狂って追いかけっこをはじめると内田はクラッカーをぱんぱん鳴らしながら大笑いして、 驚いた冬馬が千秋の頭にジュースをぶっかけ、アツコが騒ぎを止めようとあわあわして、 春香が怒って追いかけっこに加わって……バカ丸出しの、そんな大騒ぎを見ながら、 夏奈はオレンジジュースを一口、飲んだ。 「まったく、あいつら。人のこと好き勝手にからかうんだもんなあ」 「あはは。みんなカナのこと、好きなんだよ」 「テキトーなこと言うんじゃないよ。っていうかお前、彼女がピンチなら助けに入れよな。 遠くから笑って見てるだけかよ」 「大丈夫だよ。カナは強いから」 藤岡はたまに明らかにウソだろうと思うことを言う。でも、藤岡のまっすぐな視線を 見ていると、きっと本当にそう思っているんだろうと、夏奈は思う。 そういえば、こいつが私にウソをついたことって、なかったな。 「なあ、藤岡」 「ん?」 みかんの皮をむき、藤岡の口に押し込んだ。 「お正月は、二人で初詣行こう。春香たちとも一緒に行くけど……別の日にでも、二人だけで」 「うん。カナの振袖、楽しみだな」 「スケベなヤツ」 くっくと笑って、 「そしたら、そのときはな」 ふたつめのみかんを押し込んだ藤岡の顔に、いたずらっぽく笑いかけた。 「今度こそ、ちゃんとキスしてくれよな。楽しみにしてるぞ」 ぼっと顔を赤くした。油が切れた機械みたいな動きで首をぶんぶん振った。 「う、うん。がんばるよ」 「したかったら、おかしなこともしていいからな」 「うえぇ!?」 自分にそっくりなバカっぽい顔で、藤岡は今日いちばんびっくりした声を出した。 「冗談だよ。信じるなよ、ばかばかばーか」 「あ、そうか……そうだよね。ああー……びっくりした」 こたつにあごを乗せて、 「冗談じゃないかもな」 今度こそ完全に硬直した藤岡を見て、意地悪でうそつきな夏奈は、 「うひひひ」 満足げにへらへらと笑うのだった。 大騒ぎは、まだまだ終わりそうにない。 並んで入るこたつの中で、夏奈は、藤岡の手をしっかりと握っている。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/292
293: 名無しさん@ピンキー [sage] 2011/12/26(月) 03:13:51.19 ID:Czc0KYHa ありがとうございました。 年末寒いですね。皆様お体に気をつけてください。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291732234/293
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