【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 (775レス)
【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/
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704: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:19:29.68 ID:V3Gh3kBt 七歳の紫に、今の真九郎が抱えている途方もない大きさの悩みを 正しく判断できるわけがなかった。 崩月を継いだ上で、交わることのない表と裏の禁を破り、九鳳院の 一人娘を奪い取ろうとする、そんな大それたことに自分が愛する女を 巻き込もうとするのだ。 折角、蓮丈が紫を奥の院から出す決断を下したのに、その決を 翻して、また紫が昔に逆戻りする可能性だって捨てきれない。 しかし、それ以上に恐ろしいのは紫が自分が近い将来そうなってしまう という可能性を踏まえた上で、真九郎に己の未来を委ねることだった。 紫の未来を奪いたくない、でも紫を奪われたくない。 それが真九郎を苦しめ続ける。 実現しない可能性の方が大きい無謀な企みのせいで、既にかけがえのない 友を失ってしまったのだ。 誰でも良い、自分を止めてくれ! そう思いながら真九郎は紫の胸で泣き続けた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/704
705: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:19:56.51 ID:V3Gh3kBt 午後7時 五月雨荘 一時間近く泣き続けた真九郎は、泣き疲れてそのまま紫の胸に 抱きつきながら眠りに落ちてしまった。 「うんしょ、うんしょ。ううむ重いな、真九郎の体は」 布団を敷き、その上に真九郎の体を引きずりながら乗せ、学生服を 剥ぎとりパジャマに着替えさせる。 (しかし、どうして真九郎はあんなに泣いていたというのだ?) 九鳳院紫にとって紅真九郎は相思相愛の相手といえる。 紫には真九郎が必要で、真九郎には紫が必要である。 紫が困っているときに真九郎は手を差し伸べてくれたし、また真九郎が 困っているときには紫が手を差し伸べて今まで上手くやってきた。 どんな窮地に陥っても決して諦めずに、弱さを見せることなく悪漢や 変えられない宿命と戦ってきたあの真九郎が感情を露わにして、TVに 出てくる女のように泣きわめいたことに紫は内心驚いていた。 (そう言えば環が言っていたな。真九郎は女に弱い男だと) (そして、真九郎より強い女は...うう、一杯いるではないか...) 小さな頭をひねりながら、紫は真九郎が泣きわめいていた理由を 探っていた。 もし、環の発言が正しいとすれば紫には真九郎を泣かせた相手の見当が いくつもつく。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/705
706: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:20:22.04 ID:V3Gh3kBt 一番怪しいのは言うまでもなく夕乃で、二番目に怪しいのはやたらと 威圧感はあるが自分を奥の院から出してくれた恩人の紅香である。 3,4に環や闇絵が続くものの、あの二人はなんだかんだ言って 真九郎には優しい気がするから外しても良いだろう。 となると、真九郎を泣かせた犯人は... 「夕乃だな。やはり夕乃はとんでもない女だ」 崩月夕乃。 紫の恋敵にして、とうとう真九郎の恋人になった女。 幸い、まだ真九郎は眠り続けている。 「...よし、夕乃に電話するか」 ちゃぶ台の上に置かれた真九郎の携帯電話を片手に取り、紫は 夕乃の家の電話番号を引っ張り出し、躊躇うことなく発信ボタンを押した。 「はい。崩月です。どちら様ですか....」 五秒後、おどおどとした声が紫の耳に飛び込んできた。 「む。私だ。九鳳院紫だ」 「あぅ...」 「その声は散鶴だな。夕乃はどうした?」 「ううう...」 「今すぐ夕乃を呼んでこい!真九郎のことで話がある」 「あの、どんなご用...ですか?」 「良いから早く夕乃を呼べ!お前では話にならん!」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/706
707: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:20:42.93 ID:V3Gh3kBt 夕乃とは対照的にどこまでもうじうじした散鶴の泣きべそに苛立つ 紫だが、散鶴もそれは同じで真九郎とは対照的に威圧的で偉そうな 紫に反感を覚えていた。 はじめはいつも自分に対して威張っている紫に対するちょっとした 仕返しのつもりだった。 真九郎はもう紫だけの真九郎ではないと、つい口を滑らせてしまった。 「紫ちゃんはおにーちゃんからなにも聞かされてないんだね」 「おねーちゃんと私はもうおにーちゃんのおよめさんなんだよ」 「なんだと?!今の発言はどういうことだ散鶴!」 「おにーちゃんは私の家に学校を卒業したら戻ってくるもん!!」 紫も七歳だが、散鶴は更にそれより二歳年下の五歳である。 小さい頃に年上のお兄さんとの結婚の約束をガチで信じ込んでしまう 純粋無垢なお年頃なのである。 そして、本当に性質の悪いことに真九郎はその場の雰囲気に流され、 八割ほどは本気だったが、散鶴のことも受け入れるつもりだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/707
708: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:21:07.36 ID:V3Gh3kBt 「おにーちゃん、おねーちゃんにコクハクしてたよ」 「世界で一番おねーちゃんがダイスキですって!」 「う、嘘だ!真九郎がそんなこと夕乃に言うはずがない!」 「嘘じゃないもん!」 「嘘だ!」 「嘘じゃないもん!」 「嘘だ!」 「嘘じゃないもん!」 受話器越しに怒鳴り合う小学生と幼稚園児。 傍から見ればほほえましいことこの上ないが、彼女達はまがりなりにも 九鳳院と崩月の直系の娘達である。 たとえそれがまだ善悪や対人関係の複雑さに責任を持てない歳であっても そのやりとりが周囲にばらまく影響は計り知れない。 あまりにも見苦しい紫の反発に、ついに頭の中にあるリミッターが 吹き飛んだ散鶴は、姉とよく似た黒い微笑みを浮かべながら電話の向こうの 紫に怒濤の口撃を仕掛けていった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/708
709: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:21:36.40 ID:V3Gh3kBt 「なっ、何を言うか!真九郎と私は相思相愛で...」 「でも今すぐケッコンは無理だよね」 「そっ、それは...」 「うっ、ぐすっ...だ、黙れ散鶴!し、真九郎が一番好きなのは、この...」 「おにーちゃん、おねーちゃんを下さいっておじいちゃんに言ってたよ」 散鶴の最後の一言で心をくじかれた紫はへなへなと崩れ墜ちた。 そして、とどめの一撃が紫に突き刺さる。 「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」 「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」 「あああああああああ!!!!」 あまりのことに耐えきれなくなった紫は壁に自分の携帯を投げつけ、 粉々になるまで机の上に置いてあった文鎮で叩きまくった。 「む、紫?おい、何やってるんだ!」 紫の絶叫に何事かと跳ね起きた真九郎は、畳の上で粉々になった 小さな携帯電話に絶句した。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/709
710: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:21:58.54 ID:V3Gh3kBt 「うわああああああん!夕乃と散鶴の大馬鹿ものーっ」 「何してるんだ紫!どうしたんだよ!」 この時、真九郎は紫が自分と夕乃の間にあったことを知った事に 気が付いてしまった。 そして、紫の大号泣にいかに自分が浅はかで最低なことを崩月家の 皆に対してしでかしたのかを自覚した。 ボロボロと大粒の涙を流す紫は顔をグシャグシャにしながら、懸命に 残酷な真実を告げた携帯電話を原形を留めなくなるまで破壊し続ける。 (ああ...そうだよな。俺、やっぱり最低じゃないか...) 「離せ〜!離すのだ真九郎!」 「夕乃と真九郎が結婚するなんてありえない!あり得ないんだ〜!」 何も知らない紫の悲痛な叫びに、真九郎は心を引き裂かれながら、 それでも懸命に紫が自分から離れないように、抱きしめ続けていた... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/710
711: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:22:19.81 ID:V3Gh3kBt 〜夕乃の視点〜 明日の真九郎さんのお弁当の仕込みをしているときに、電話が鳴った。 おそらく電話の主はおじいちゃんの友達か、町内会の人だろう。 「ちーちゃ〜ん。お電話出て〜」 「はーい」 散鶴はどうせ人見知りだから、電話を取ったらすぐに涙目になって私に バトンタッチするだろう。そう思っていた。 でも、珍しいことに散鶴は五分たっても私の元に戻ってこなかった。 おかしい。 人見知りなあの子が私に電話の応対を任せずに、見知らぬ他人の話を 五分近く聞いていられるわけがない。 真九郎やおじいちゃんならともかく... 「まさか...!」 見知らぬ他人ではないが、散鶴が知っている他人なら心当たりがある! 私は慌てて廊下に飛び出し、電話へと走っていった。 角を曲がってそのすぐ目と鼻の先に、妹は確かにいた。 だけど、状況は既に手遅れだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/711
712: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:22:41.31 ID:V3Gh3kBt 「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」 「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」 「散鶴ッ!」 妹を押しのけ、電話の受話器を取る。 「紫ちゃん?!紫ちゃん!!」 今一番知られたくない相手に、よりにもよって真九郎とのことを バラしたのが自分の妹だなんて、正直な話、信じたくなかった。 受話器の向こうから聞こえて来たのは、無機質な雑音だけ。 おそらく紫は今頃ショックを受けているはずだ。 昔の真九郎ならいざ知らず、銀子を捨てて精神的に不安定になっている 今の真九郎であれば、紫を説得できない可能性も在る。 「くっ!」 時計を見ると、時間は七時過ぎ。 今から駅まで行けば30分程度で五月雨荘に着けるはずだ。 (行かなきゃ!真九郎さんと紫ちゃんのところに...) そう思った私は、急いで玄関の方へと向かおうとした。 でも... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/712
713: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:23:20.84 ID:V3Gh3kBt 「おねーちゃん!行っちゃダメ!行っちゃやだよぉ!」 妹が、あの泣き虫だった妹が賢明に通せんぼうをして、私の目の前に 立ちふさがった。 「ちーちゃん...良い子だから、ね?そこをどいて」 「やだぁ!」 「おねーちゃんは...私とおにーちゃんだけのおねーちゃんなんだもん!」 その言葉に、私は何も言い返せなかった。 「ぐすっ、ぐすっ...」 「紫ちゃんは、紫ちゃんのお家で仲良く家族で住めば...いいのに...」 「どうして私から、大好きな人をとっていっちゃうの?」 「不公平だよぉ...ずるいよぉ...」 紫の家のこと、彼女の出自のこと、彼女がそう遠くないうちに 迎えるであろう恐ろしい未来のこと。 この時ばかりは、私は何一つ伝えなければならないことを何一つ 目の前の妹に伝えられない自分を呪いたい気分だった。 何より恐ろしいのは、この国の誰よりも高貴な家柄にいて、誰よりも 高貴な血筋を受け継いでいるのにも拘わらず、九鳳院紫という少女は 人ではなく、人の形をしている『道具』でしかないという事実だ。 そして、散鶴はそのことをまだ理解できない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/713
714: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:23:45.16 ID:V3Gh3kBt 理解できないが故に、散鶴の抱いている感情は最も正しい。 人権すらない『道具』を人として扱い、この先の人生を共に過ごす事が どれだけのリスクと危険を犯さなければならないのか。 それを自覚できないまま真九郎は紫を、これから彼女が独り立ちが 出来る歳まで守っていく役目を担おうと言うのだ。 紫と散鶴を天秤にかけたとしても、絶対に散鶴を選ぶのが夕乃の本心。 しかし散鶴の視点から見れば、崩月がわざわざ抱え込まなくてもいい リスクを抱え込み、毎日が命を狙われるような危険な日々を過ごす羽目に なるのは絶対に看過できない。 なぜなら、真九郎は紫が要るにもかかわらず、既に夕乃と散鶴を 選んだからだ。もう、そのことに対して真九郎は言い逃れは出来ない。 九鳳院(恋人)を取るのか、それとも崩月(家族)を取るのか。 今、崩月夕乃は大きな岐路に立たされていた。 〜紫の嫁入り 中編(仮)に続く〜 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/714
715: 名無しさん@ピンキー [sage] 2016/11/27(日) 07:20:02.15 ID:DCGibjW7 乙です まさに修羅場ですね 続き楽しみにしてます http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/715
716: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:05:51.58 ID:qO1WsCuS 〜紫の嫁入り 中編〜 散鶴の涙に大きく自分の心を揺さぶられながらも、夕乃はそれでも 懸命になって、なんとか妹を説得しようと試みた。 だが、どう考えても今すぐに散鶴を説得できる力を持った言葉や 想いが中々浮かばない。 どうにかして、一刻も早く真九郎が紫を失って立ち直れなくなる前に 五月雨荘へと行きたいのに、夕乃の足は全く動かない。 (何をしてるんですか!妹なんて後から説得すればいいじゃないですか) (ダメ!散鶴を放っておけば、きっと真九郎さんみたいになっちゃう) (自分は大好きな人に選んでもらえなかった悪い子だって苦しんじゃう!!) いまの夕乃が思っていたことは、まさに散鶴にとってその通りだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/716
717: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:06:09.89 ID:qO1WsCuS 内気で人見知りの妹。 まだ物事の分別がつかないけど、あの子は自分によく似ていてどこか 危ういくらいにまで思い込む癖がある。 これは散鶴自身の純粋さの裏返しともとれるし、同時に一番の弱点でもある だから自分と異なる他人と打ち解けられない。打ち解けられないけど、 やっぱり一人は寂しい。でも他人は怖い。 そんな悪循環の中に現れたのが紅真九郎。 どこか散鶴に似ていた真九郎は、同時に孤独だった散鶴にとって、 一番近い心の距離に踏み込んできた初めての他人だった。 家族同然の他人だが、母や姉と同等の愛情を注いでくれる初めての異性に 孤独を打ち明けられない『子供』が恋するまでに時間はかからなかった。 だから、夕乃は今まで自分と一緒の時を過ごしてきた時間と思い出を 踏まえた上で、素直に正直に自分の気持ちを散鶴に打ち明けた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/717
718: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:06:36.75 ID:qO1WsCuS 「ちーちゃんは私よりも真九郎さんを幸せにしたい?」 「...うん」 「そっか。真九郎さん、優しいもんね。独り占めしたいよね?」 「...うん...」 「でもね、ちーちゃん。それはお姉ちゃんも紫ちゃんも同じなんだよ」 「同じじゃ、ないもん...」 「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、紫ちゃんは他人だもん」 「お姉ちゃん、言ったもん。私とちーちゃんだけのおにーちゃんって」 くすん、と鼻を啜りながらも散鶴はあくまでも夕乃と自分だけが 真九郎の側にいる資格があるのだと、その意思を姉に伝えた。 夕乃もその気持ちを痛いほどに分かっている。 だが、それではダメなのだ。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/718
719: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:07:00.28 ID:qO1WsCuS 「ちーちゃん。ちーちゃんは何が怖いの?」 「紫ちゃん」 「どうして?」 「だって...乱暴だし、いつも偉そうで...上から目線でイヤなんだもん...」 「でも、でも...おにーちゃんはそんな紫ちゃんが私より好きで...」 「おねーちゃんまで...紫ちゃん好きになったら、一人に、えぐっ」 「わたし...一人になっちゃうよぉ....!」 「やだやだやだぁ!紫ちゃんにお兄ちゃん取られるのはイヤなのぉ!!」 ようやく散鶴の口からその本心が飛び出してきた。 まだ家族と離れることが出来ないうちに、自分をおいて大好きな 大好きな兄と姉がいなくなる恐怖に散鶴の心は耐えられなかったのだ。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/719
720: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:07:21.39 ID:qO1WsCuS その上、自分と同じ歳くらいで大人のように振る舞い、自分の全ての 何段階も上を行く紫が、真九郎が夕乃を愛するのと同じ次元で互いの将来を 誓うという事実をどうしても散鶴は認められない。認めたくなかった。 だって、それを認めてしまえば...自分は一生紫や夕乃のおこぼれに あずかりながら、指をくわえて真九郎の側にいることしか出来なくなると もう分かってしまったからだ。 だけど、それはあくまでも散鶴の心の問題でしかない。 夕乃の心は最初から最後までぶれることなく一徹している。 その証拠に妹を見つめていた眼差しから一切の温もりが消え去った。 「ちーちゃんの気持ち、よーく分かった」 「うん」 「でもね、私はちーちゃんほど弱虫じゃないですよ」 「ひぅ...お、おねーちゃん?」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/720
721: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:07:52.30 ID:qO1WsCuS そう、崩月夕乃は最初から自分が真九郎に最も相応しいと思っている。 好きな男を自分の手元に縛り付ける為にはなんだってする。 流石に大切な家族を犠牲には絶対させないが、それ以外のことなら 真九郎を自分の側から離さない為なら何だってする覚悟がある。 真九郎が望むなら、七面倒くさい表と裏の利権が絡み合う紫と自分との 事実上の重婚にだって目を瞑るくらいの寛容さはある。 しかし、それを邪魔するのなら誰であれ殺す。 真九郎の心を開いたあの日、彼が自分の胸に飛び込んできた喜びは 一生心に残る自分だけの宝物だ。 なぜならそれは九鳳院紫でもなく、村上銀子でもなく、この自分こそが 初めて紅真九郎の心を開き、全てを手に入れた証なのだから。 その自負と八年間の燃え滾る激烈な恋慕の前には、散鶴の心痛など、 単なる負け犬の負け惜しみでしかない。いや、それ以下だ。 だから、夕乃は目に狂気を滲ませながらも、いずれ自分を超えて見せろと 心の底から大切に思う妹へと発破をかける。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/721
722: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:08:13.21 ID:qO1WsCuS 「散鶴。真九郎さんの側にいたければ崩月の修行をちゃんとしなさい」 「いつまでも弱虫の貴女には何も魅力なんか生まれっこありません」 「修行したら、おにーちゃんは私のこと好きになってくれる?」 「もうとっくに真九郎さんはちーちゃんのこと、大好きになってますよ」 「そっか...えへへ」 「だから、私と貴女とで紫ちゃんに見せつけてあげましょう」 「崩月の娘は九鳳院に負けないくらいいい女なんだ、って」 「だから、これからは紫ちゃんに怯えないで前を向きなさい」 「約束よ?」 散鶴は無言のまま頷き、姉が握った拳の先から出た小指に自分の 小指を絡ませ、大好きな姉を見送る。 「行ってらっしゃい。お姉ちゃん」 「行ってきます」 玄関を飛び出し、風のように走り出す姉の背中を見ながら散鶴は いつか自分も姉のように強くなりたいと思い始めていた。 「そう、だよね...いつまでも、弱虫じゃダメだよね...」 だから、もし紫が崩月の家に来たらちゃんとさっきのことを謝ろう。 その上で、改めて紫に宣戦布告をしよう。 紫ちゃんには負けないもん、と... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/722
723: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/12/01(木) 01:08:37.27 ID:qO1WsCuS 午後八時 一方、九鳳院紫は騒ぎを聞きつけた闇絵と環の取りなしによって 一旦二人が落ち着くまで、それぞれ預かるという形で引き離されていた。 紫は闇絵、真九郎は環。 「ううう...真九郎のバカ、大馬鹿ものぉ...」 ポロポロと涙を流しながら、闇絵に抱きしめられた紫はぼんやりと 今までのことを思い出していた。 柔沢紅香によって奥ノ院から連れ出され、初めて外の世界を知ったこと。 自分の人生を大きく変えてくれた紅真九郎と出会ったこと。 真九郎といる内に、自分の中にある何かが大きく変わったこと。 沢山の人間と触れあう内に、もっと世界を知りたくなったこと。 危険な目に遭いもしたが、その度に真九郎が自分を助けてくれたこと。 人は一人で生きていけないが、同時に愛がなければ孤独のままだ。 これが、九鳳院紫が外の世界で学んだ一番の教訓だった。 辛いこともあれば、楽しいこともあった数ヶ月だと思う。 だが、それが揺らいできている。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/723
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