【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 (775レス)
【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/
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あぼーん
681: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:10:56.27 ID:V3Gh3kBt 〜紫の嫁入り 前編〜 4日後 学校 「真九郎さん。お昼食べましょう」 「そうだね。屋上行こうか」 何のことはない日常の1ページ。 それが音を立ててビリビリと破かれる瞬間に立ち会ったとき、 人は呆然と立ち尽くすしかない。 「嘘...なんで、紅君が崩月先輩と付き合ってるの?」 「え、崩月先輩あんなのが趣味なのかよ...」 「嘘、だろ...」 学校一の大和撫子と付き合っている相手は影の薄いパシリ生徒。 そんな奴いたっけレベルの存在感の相手に対して、愛おしそうに 手を絡め、体をすり寄せる夕乃のデレっぷりときたら... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/681
682: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:11:19.08 ID:V3Gh3kBt 「夕乃さん。恥ずかしいよ...皆の目もあるから控えめに...」 「イヤです。自重するのはもう辞めました。聞きません」 「これからは爛れた二人だけの青春と愛の性活を過ごすんです!」 「『お姉ちゃん』お願いだから、自重しよ?ね?」 「!!」 「も、もう...仕方ないですねぇ...真九郎がそう言うなら」 風呂敷に包んだ三重の弁当箱が持ち主の感情を素直に反映する。 嬉しげに揺れる弁当箱と幸せそうに微笑む真九郎。 羨望と嫉妬と、あと危険な視線を一身に集めながら真九郎と夕乃は 廊下を歩き、誰もいない屋上へと上がっていった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/682
683: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:11:37.24 ID:V3Gh3kBt 屋上 フェンスの近くにあるベンチに腰掛けた真九郎の膝の上に夕乃が乗っかる。 決して小さくはないが、その温もりをより味わう為、真九郎は 自分の正面へと夕乃の座る向きを変える。 「我慢、出来なくなっちゃったんですか?」 「ううん。我慢する必要なんかもうないんだ」 「夕乃さん、だっこ」 真九郎にまたがる夕乃はその頼みに即座に応じる。 自分の左胸に真九郎の耳を押しつけ、その上から真九郎が安心して 眠れるように頭から腰までを滑らかな手つきで撫ではじめる。 柔らかく、そして温もりたっぷりの夕乃の胸に顔を埋める真九郎。 その顔はとても幸せそうで安らいでいた。 「はふぅ...幸せぇ...」 二人のうち、誰が呟いたか分からない言葉の続きは真九郎のポケットから 鳴り響いた携帯電話の着信音で掻き消されそうになった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/683
684: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:11:57.96 ID:V3Gh3kBt 「...」 その瞬間、夕乃の目からハイライトが消えた。 真九郎のポケットから携帯電話を取りだし、電話をかけてきた相手を 確認する。 案の定、その相手は村上銀子だった。 通話ボタンを押し、黙って自分の耳に真九郎の携帯を押し当てる 「...もしもし」 「...」 「真九郎...ふざけてるの?」 「...」 「はぁ...仕事の資料渡すから新聞部の部室に今すぐ来なさい」 「...」 ナンダ、コノオンナハ... そうだ、そう言えばこのオンナは真九郎がもう誰の恋人になったのか まだ知らないんだった。 なら、思い知らせてやらなければ... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/684
685: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:12:23.85 ID:V3Gh3kBt 「夕乃さん。銀子には手を出さないでね」 「真九郎さん...でも...」 通話ボタンを切った真九郎は、恐ろしい威圧感を撒き散らす夕乃に 怯えることなく普通に釘を刺した。 「ちゃんとお別れは自分の口で伝えなきゃ意味が無い。そうでしょ」 「これが俺の一応最後の仕事だからさ。ちゃんとしたいんだ」 「分かりました。真九郎さんがそう言うなら、従います」 渋々ではなく、笑顔で真九郎を信じる夕乃に真九郎は危うさを感じた。 『浮気したら、その女を半殺しにしますからね』 『私、相手の女が真九郎さんの子供を孕んだら殺しますからね』 あの日に夕乃が自分に打ち明けた事が、現実問題として絶対に、 必ず起るという懸念がまさに的中するところだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/685
686: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:12:45.53 ID:V3Gh3kBt 「全く、真九郎さんは罪作りな人ですね」 「夕乃さんには負けるよ。可愛くて純粋で男タラシの罪作りな夕乃さんには」 「なっ。私はそんなふしだらでもなければ男タラシでもないですっ!」 「そうかなぁ?サッカー部の主将が夕乃さん好きだって噂、有名だよ」 「私はあんな人好きでもなければ、眼中にもないですっ」 「そっかぁ。そうだよね。夕乃さんは俺だけの女なんだから...」 夕乃の背中に爪を突き立て、今まで夕乃にも見せたことのない 独占欲を見せ始める真九郎。 夕乃は真九郎を縛り、真九郎は夕乃を縛り付けて離さない。 ついにここまで真九郎の心を独占するのに成功した夕乃は心の中で 狂喜した。 紫や散鶴は例外として、現在真九郎と一番相性が良いのは間違いなく 自分であるという確信が夕乃にはあった。 「じゃあ、村上さんの所に行く前にお昼を食べちゃいましょうか」 「今日のお弁当は結構美味しいわよ」 「ありがとう。夕乃お姉ちゃん」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/686
687: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:13:15.69 ID:V3Gh3kBt 「はい。あーん」 「あーん」 昼間から豪勢な夕乃の手作りの料理を頬張る様を本当に嬉しそうに 眺める夕乃は、更に甲斐甲斐しく自分の箸で鮭の切り身を真九郎の口に運ぶ。 真九郎も夕乃と付き合う前は、こうした『女の夢』というものに対して 抵抗感を抱いていたものの、いざ心を通わせ恋人として付き合い始めると なかなかどうしてこれがとても心地良い。 自分の食べる様を見て恋人が嬉しそうに笑ってくれる。 それだけで胸と心の空白が瞬く間に埋められ、癒やされていく。 本当にこの人は自分を愛してくれているんだと確信できる。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/687
688: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:13:44.50 ID:V3Gh3kBt 「ふふっ...美味しいですか」 「うん。夕乃さんの料理はいつも美味しいよ」 「ふふーん。そうでしょうそうでしょう」 「なんて言ったって真九郎さんへの愛が一番籠もっていますから」 「じゃあ、今度は俺が夕乃さんのお弁当つくってあげる」 「まぁ。じゃあその時はちーちゃんと一緒にピクニックに行きましょうか」 食べ盛りの真九郎が夕乃の手作り弁当を平らげるまで僅か15分。 その間に夕乃も自分に作った弁当を素早く食べ終える。 「ごちそうさまでした」 「はい。おそまつさまでした」 雲が散らばっているものの、よく晴れた気持ちの良い晴れの日の午後。 重箱を片付ける夕乃を見遣りながら、真九郎は空を見上げた。 「どうしたんですか?空なんか見上げて」 「え。ああ。今日の夜は星が綺麗かな〜って」 「そうですね。今日の夜は月も星もよく見えるはずですよ」 適当な話題を夕乃に振りながら、真九郎はこれから訪れる幼馴染との別れを 想像し、心を痛めた。 しかし、これから自分がやろうとすることに銀子と銀子の家族までも 巻き込む訳にはいかない。 (銀子...) http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/688
689: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:14:02.64 ID:V3Gh3kBt 放課後 新聞部部室 最後のHRの終了後、真九郎はいつものように新聞部の部室へ向かう。 誰も部員がいない部室のたった一人の主は、いつもの場所にいた。 「遅い。何してたのよ」 「悪い。夕乃さんと一緒にお弁当食べてたんだ」 「はぁ...また崩月先輩?」 「また、ってなんだよ」 「不潔」 「......」 その主は、果たして真九郎の変化に気が付いていただろうか? 夕乃のことを不潔と言い放ってパソコンの画面に向き直った彼女は 好きな男が自分が最も嫌う女に奪われたと言う事に.... 「銀子、今回の仕事の前にさ...これ、今まで払ってなかった情報料」 「...なに、って...。え?ちょっと、これどうしたのよ...」 「?」 まるで信じられないものを見るかのように真九郎を見つめる銀子。 何事もなかったように平然としている真九郎。 この状況でそれが手遅れだと気が付いたときには、既に打てる手が ないという現実が待ち受けていることを受け入れられない自分がいた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/689
690: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:14:19.52 ID:V3Gh3kBt 「ん?46万円ものツケをどう一括払いする算段をつけたかって?」 「えーっと杉原さんの一件で使ったヤクザの組があるんだけどさ...」 「そこの内部でちょっとしたゴタゴタがあったんだ」 「で、そのゴタゴタをなんとかしてくれって俺に直接連絡が来たんだよ」 「アンタ...なに勝手なことを...」 「ああ、銀子が心配してるようなことはしてないよ」 「で、その揉め事を解決して50万貰ったんだ」 今まで真九郎のやろうとすることの真意が分からなかった事はなかった。 誰にも害されることのない強さを得る為に、紅香に弟子入りした。 九鳳院という巨大なシステムに虐げられている紫という少女を守る為、 彼は九鳳院に弓を引き、自分はその助けになるべく手助けした。 だが、今回の一件は全く真九郎の真意が見えない。 確かに真九郎にもそれなりに伝手はあるのだろう。 しかし、それはあくまでも小さなものであって、そんな数十万もの大金を 気前よくポン、と渡すようなパイプや組織とはつながりが.... http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/690
691: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:14:40.93 ID:V3Gh3kBt (あった...) (一つだけ、あった) 脳裏に浮かぶ、世界の裏を牛耳るどす黒いまでに大きなあの組織。 不幸なことに自分はそこに務める悪党どもを知ってしまっている。 「まさか、真九郎...アンタ、悪宇商会と手を...」 「組んでないって。はぁ...誤解を招いて悪かったよ」 「奥さんが浮気している現場に依頼人を連れて行く」 「それが今回引き受けた俺の仕事だよ」 「後は、奥さんや間男が逃げないように見張るのも仕事に入ってたっけ」 「尾行と証拠写真と実働と時給を全部合わせたら結構な額になったんだよ」 「そ、そう...」 釈然としない心を無理矢理納得させた銀子は真九郎が抱えていた 借金を一応、清算したのだった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/691
692: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:15:00.70 ID:V3Gh3kBt 「これ、今回の資料」 「うん。ありがとう」 必死になり震えを隠そうとする銀子だったが、それは無理な話だった。 いつもと変わらぬ風を装っている真九郎だが、その背後から漂ってくる 血腥い鮮血の匂いが、自分の知っている幼馴染がもう引き返せない所にまで 足を踏み入れていることを教えている。 もう、自分では引き上げることが出来ない所まで真九郎は墜ちている... 「別れた元旦那のストーカー行為を止めさせて欲しい...」 「行動パターン...動機は親権と復縁による遺産の...」 「依頼内容、対象者を二度と家族に危害を加え...って何すんだよ銀子」 慌てて依頼者からの依頼書と資料を取り上げた銀子は、いつもなら 絶対しないような作り笑いを浮かべ、真九郎の興味の矛先をずらしはじめた。 「や、やっぱりこの依頼はなし!アンタじゃ経験不足よ」 「ええっ?ストーカーとか嫌がらせとかはそれなりに経験して...」 「割の良い仕事だと思ったんだけど、やっぱり危険すぎるわ」 「相手は柔道の有段者で元外人部隊の100kg超の黒人よ」 「アンタみたいなもやし、すぐに粉々にされるのがオチよ」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/692
693: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:15:27.81 ID:V3Gh3kBt この時ばかりは、依頼者の所持する圧倒的暴力が頼もしく思えた。 だが、銀子はあまりにも簡単な事を失念していた。 真九郎が『崩月』だということを.. そして、崩月はあと一人この学校にいるという事を.... 心の整理がつかない中、必死に真九郎に何が起ったのかを頭を フル回転させた銀子が辿りついた、考え得る限りで最悪の結末。 待って、なんて一言も言わせない無慈悲な真九郎の言葉が銀子へと 一斉に襲いかかった。 「銀子、あのさ」 「今回の仕事が終わったら、暫く揉め事処理屋は休業するよ」 「なんで...?」 「俺、崩月を継ぐことにしたんだ」 「うそでしょ...」 幼馴染に抱いていた淡い恋心が粉々に粉砕された。 好きな人がいた... その人は、頼りなくてとても脆い心の持ち主で、でもとても優しい人。 素直になれないけど、いつかきっと素直な気持ちで彼に自分の想いを 伝える筈だった。 なのに...どうしてどうして彼は私をおいてどこかに行ってしまうの?! http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/693
694: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:15:45.60 ID:V3Gh3kBt 「なんでよ!!アンタあれだけ暴力が嫌いだったじゃない!!」 「揉め事処理屋を辞めるなら一緒にラーメン屋やっていこうって...」 「それなのに!どうして!!」 「どうして...私のこと、待ってくれなかったのよ...」 「銀子は、何も悪くないんだ。悪いのは全部俺だよ」 「意味わかんないわよ!」 「大体何度も言ったようにアンタに揉め事処理屋なんて向いてないのよ!」 「アンタもう一杯辛い思いしたじゃない!」 「何度も危険な目に遭って、その度に死にかけて私がッ...」 「私とッ...一緒に日の当たる世界で、一緒にラーメン屋をやってこうって」 「銀子...」 喚き、錯乱する幼馴染と距離を取り、指一本触れようとしない真九郎。 銀子は気が付いていないが、恐るべきは真九郎の冷静さである。 一時期は家族、兄妹同然に育った仲の幼馴染の嘆きに対して悲痛な 表情を浮かべるどころか、眉一つ動かさないまでの冷淡さは、普段の 優柔不断な真九郎を知る人物の目から見れば大事に値する。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/694
695: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:16:10.64 ID:V3Gh3kBt なぜなら、それは... 真九郎が日の当たる世界を拒んだことに他ならないからだ。 人の命が蝋燭の灯火のように軽く吹き消され、血と怨嗟と暴力の 屍山血河の世界こそが自分の身の置き場。 「分かった...崩月先輩に誑かされたんでしょ、ねぇ!」 「ならお気の毒様ね、アンタじゃ無理よ。器じゃないわ」 銀子はそれでも、それはもう見ている方が目を覆いたくなるような 醜態を曝しながら、真九郎にすがりつくことをやめなかった。 なんとかして好きな男の目を幼馴染として覚まさせてやりたい。 いや、違う。 今の銀子を突き動かしているのは、真九郎への恋心ただ一つ。 だって、自分はまだなにも真九郎に想いを伝えていない。 これからゆっくり真九郎と仲を深めて...それなのに...。 銀子の慟哭を受け止めながら、真九郎は断固たる決意を以て 自分がどこへ向かうのかを彼女に伝える。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/695
696: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:16:29.31 ID:V3Gh3kBt 「銀子の言いたいことは痛いほど分かる」 「でも、さ...」 「サラリーマンとか畑を耕す自分を俺は想像できないんだよ」 「まぁ、例外としてラーメン屋は選択肢にはいってたけどね」 「じゃあ、いまからでも...」 「それは無理だ」 自分を覗き込む真九郎の瞳には、今までの真九郎を構成していた 要素以外の...昔からの真九郎を知っている銀子が忌避してやまない 決定的なものが映っていた。 そう、暴力への渇望と上に昇り詰めてやるという飽くなきまでの野心だ。 「銀子」 「自分の器なんて、後から大きくするもんだろ?」 「あ、あああ...」 「それに、夕乃さんのことを悪く言うのはやめろ」 「正直に言うと、銀子のそういうところは好きじゃなかった」 「そ、そんな...」 メラメラと燃える真九郎の野心の熱気に当てられた銀子は力なく ぺたん、と床にへたりこんでしまった。 いつの間にか夕日は沈み、月と星が顔を覗かせる。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/696
697: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:17:06.56 ID:V3Gh3kBt 「...絶交よ。アンタなんか、もう...顔も見たくない」 もう、真九郎の心の中に自分はいないという絶望的な事実に気が付いた 銀子は真九郎を睨み付け、絶交宣言をした。 今の銀子の目には、真九郎がかつて自分達を攫った人身売買組織と 全く変わらない存在にしか見えなかった。 「...銀子、俺は必ず大きくなる。誰にも負けない位強くなる」 沈鬱な表情を浮かべた真九郎の本心は、果たしてどこにあるのか。 しかし、真九郎を失った悲しみと怒りが彼女から正常な判断力を、 そう、銀子の武器である判断力を奪ってしまっていた。 ここで、真九郎を新聞部の部室から外に出してしまえば、もう自分は 夕乃から真九郎を取り返すことが出来ないということに気がつけないほどに。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/697
698: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:17:23.80 ID:V3Gh3kBt 「帰ってよ!この人でなし!!」 「私利私欲の為にこれから多くの人を傷つけ、殺しまくるんでしょ!」 「出てって!出てけってばぁ!!」 銀子に背を向け、感情任せにその拳に叩かれている真九郎。 分かっている。 自分のエゴで...紫以上に銀子を優先できるかと問われ、即座に紫を 選んでしまった時から、こうなることは予想が出来ていた。 既に死んでしまった家族以外で、自分をよく知る幼馴染をこんな形で 傷つけ、切り捨てるようなそんな形でしか別れを告げられなかったのか? もっとましな別れ方はなかったのかと自問せざるを得ない。 だが、事ここに至っては、もう何も言うまい。 「行かないでよ...ねぇ」 銀子が言いかけた言葉を最後まで聞くことなく、真九郎は勢いよく 新聞部の扉を引き、そのまま部室を後にした。 「待って!待ってぇええええ!真九郎ぉおおおおお!!!」 長い廊下を歩く真九郎の背中に、短い悲鳴だけが追いかけてきた。 真九郎は、足を止めることなくそのまま星領高校を出て行った。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/698
699: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:17:42.25 ID:V3Gh3kBt 高校から五月雨荘に戻るまで、携帯電話が鳴り止むことはなかった。 着信履歴100件とメールが156通。 我ながらよくもまあここまで酷いことを幼馴染みに出来た物だと 乾いた笑みを浮かべるしかなかった。 メールの内容を見ると、まだ間に合うから裏社会の闇に染まる前に とっとと縁を切りなさいからに始まり、最後はお願いだからちゃんと私の 話を聞いて、こんな形でアンタと別れるのはイヤという内容で終わっていた。 乗り継ぎの電車が来るまでの間、夕乃は銀子から来るメールと電話の 着信音に悲痛な表情を浮かべていた。 真九郎もこれ以上無いほどの後味の悪い別れ方を銀子とした為、 今も絶えず後悔の念に苛まれ続けている。 でも、後悔はしてもやりなおそうとは思っていない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/699
700: 名無しさん@ピンキー [sage saga] 2016/11/24(木) 23:18:05.33 ID:V3Gh3kBt 「正直な話、心が痛いですよ」 「銀子の俺への想いが分からないわけじゃなかった」 「だけど、いつかはこうなることはわかりきっていたのに...」 「もう、良いじゃないですか。真九郎さん」 「真九郎さんには私とちーちゃんと紫ちゃんがいます」 「もっと欲を言えば貴方には私だけを見ていて欲しいんです」 「でも、村上さんにはその覚悟がなかった。腕力も無ければ覚悟もない」 「それで好きな人が別の人とくっつくのは納得いかない」 「なんて、今更喚かれても、私は真九郎さんを手放す気なんかありません」 「だって私は貴方に恋した瞬間から、貴方を生涯の伴侶と決めたんですから」 夕乃の発言のその根底には一歩間違えれば、自分がこうなっていたかも しれないという一種の諦観と、なんとしても真九郎を奪った相手から なにをしてでも必ず奪い返すという怨念めいた憎悪が見え隠れしていた。 真九郎を初めて好きになった八年前から夕乃はその覚悟を胸に、 真九郎の側にいた。彼を想い続け、行動に表して自分の気持ちを伝え続けた。 だから真九郎は夕乃を好きになった。 今回の銀子の失恋は、ただ今のままの心地よい関係に甘んじて夕乃ほど 真剣に真九郎に向き合わなかっただけの結果でしかない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308289584/700
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