[過去ログ] 【第13号機】新世紀エヴァンゲリオン【第13使徒】 (821レス)
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562: 【安らぎの契約(第21回)(17)】LASキッチー ◆8U.wBEFm.PLF 2016/03/27(日)08:59 ID:7fioB4K7(8/9) AAS
太陽の熱さも、風の圧力も感じない。
何も聞こえない、色を失った世界。
落ちたことに気づくことなく自分は奈落にいる。
(僕はアスカに……)
もう少し、思考を巡らせればそう確信できそうだった。
そんな予感にシンジは背筋を凍らせる。
だが、そんな静止したような世界にいたのは一瞬だった。
「フフフンー」
「え……」
廃墟になった無人地帯におよそ似つかわしくない、能天気な鼻歌。
しばらく聞くことの無かった、同世代の少年らしき、透き通った声だ。
シンジはその声の主を探して振り向く。
「歌はいいね」
その顔を認めた刹那に、唐突な言葉がかけられる。
ほんの数メートル先、その存在に気づかなかったことに驚くほど近くにその少年はいた。
思ったとおりの、同じ中学生らしき少年が湖に半ば埋まった大きな石像の上に腰掛けている。
右から射す夕日の赤い光が彼の髪を輝かせている。
まるで絵画の様な情景と、見知らぬ少年にいきなりかけられた言葉にどう返したら、いいかシンジはとまどう。
「歌は心を潤してくれる」
少年はまるで、『歌』というものを初めて発見した学者でもあるかのように、しみじみと言葉を続ける。
その声は柔らかく、軽やかだった。
「リリンの生み出した文化の極みだよ」
少年がニッコリとほほ笑む。
『リリン』という、恐らく人間を意味するだろう聞きなれない言葉とひどく大人びた感想を口にした後にはおよそ不釣合いな、無邪気な幼児のような微笑み。
こんな、人の笑顔を見たのは久しぶりだった。
シンジはその微笑に吸い込まれていく。
それらのアンバランスなその組み合わせなどどうでも良いと思わせるほどに。
その微笑はすべてを赦すようにシンジを包んでいく。
つられて、自分の頬も緩んでいくのが分かる。
ついさっきまで自分を苦しめていた、心の中にあるわだかまりが消えていくのが分かる。
突き刺すような視線で自分を見た蒼い瞳の少女のことも。
胸の奥に刺さった棘のような小さな痛みも。
「そう感じないかい?」」
少年は大きな瞳で、まるですべてを見通すかのように見つめてくる。
だが、この瞳になら何を見られてもきっとかまわないだろう、とシンジは思う。
きっと誰かが彼を自分の元に遣わせてくれたのだろう。
無人の野で彷徨う自分の為に。
それは彼のさらなる微笑と共に発せられた次の言葉で確信に変わる。
「碇――シンジ君」

(つづく)
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