[過去ログ]
【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 (982レス)
【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/
上
下
前
次
1-
新
通常表示
512バイト分割
レス栞
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
次スレ検索
歴削→次スレ
栞削→次スレ
過去ログメニュー
917: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 2014/09/13(土) 23:58:54.21 ID:9Ad2BjMM0 無責任だな その位調べてからレスすればいいのに http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/917
918: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 2014/09/15(月) 13:02:44.65 ID:KapdKcF70 すっかりご無沙汰しております。昔こちらで書いていた者です。 データが飛んですっからかーんになったのが、なんと別の場所に一部残っておりました。 以前書いた悲恋物の完全版(加筆修正+追加)ですが、短編ではないので長くなります。 上げるとしたら、こちらの方がよろしいのでしょうか。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/918
919: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 2014/09/15(月) 17:20:00.70 ID:G5v6Arzt0 >>918 いいんじゃない こっちも昔書いていた人間 スレが落ち着いたから上げようかと思ってる http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/919
920: 一 秘められた恋 1/3 [sage] 2014/09/15(月) 20:50:16.67 ID:KapdKcF70 とある世界の北西に位置する国、サントハイム王国。 ここで今もなお静かに語り継がれる、悲しくも美しい物語。 唯一の王位継承者たる王女と、幼なじみで腹心の臣下でもあった神官の青年。 やがて成長した二人は、とある長旅をきっかけに想いを寄せ合うようになった。 だが、彼の出自が明らかでないことを理由に周囲から反対の声が根強く、 淡い初恋は実を結ぶことなく散っていった。 青年は報われぬ自分の想いを断ち切るべく、自ら国王に申し出て 長年慣れ親しんだこの城を離れ、一人新天地へと赴いていった。 『それならば、私は国家の花嫁になりましょう――――』 それが執拗に縁談を勧める父王に対する、王女唯一の抵抗でもあった。 そして父王の死後、彼女は女王として即位した。 後に「処女王」と呼ばれ、生涯独身を貫き通すこととなる。 当初は女王の政治的手腕など、それほど期待はされていなかった。 が、後に世界を救うこととなる旅で、多くの経験と実力を培った彼女の判断は 実に的確であり、一般国民はもちろん、貴族や教会からの信頼も次第に勝ち取っていった。 さて、処女王である女王には世継ぎがいないため、父方の親類から 九歳の男児を養子として迎え、王族としての教育を施すことになった。 父王の弟の孫にあたる利発そうな男児。彼女はその子を慈しみ、大切に育て上げた。 やがて立派な若者となった彼は、持ち前の聡明さと行動力で、 養母である彼女の補佐役として、多少の勤めも果たせるようになってきた。 これでこの国も安泰だ。国中の誰もがそう信じて疑わなかった。 しかし、悲劇というものは突然訪れるものである。 長年の無理がたたり、女王が重い病に倒れてしまったのだ。 神官長の見立てによると、余命は長くても半年だという。 一人息子である青年は、養母の病を治す方法を求めて東西を奔走したが、 その努力も虚しく、彼女の病状は悪化の一途をたどった。 ここ二、三日の養母は、ずっと眠ったままのことが多かった。 だが、大事な公務で遠方に赴かねばならず、一切を代行する立場の青年は、 後ろ髪を引かれる思いで出立せざるを得なかった。 当初の予定を繰り上げて城に戻っても、病状は回復どころか好転の兆しすらなく、 彼が敬愛してやまない養母は、今日も夢と現の間をさまよっている。 「養母上、ただいま戻ってまいりました。…養母上?養母上! ああ、どうかお気を確かに!私です。私がわかりますか?」 床に伏した女王は力なく目を見開き、か細い声でこう呟いた。 「まだ…大丈夫よ。ありがとう、クリフト…」 「…クリフト!?」 青年はこの名前に何度か聞き覚えがあった。 あれはまだ、彼が城に迎えられて半年ほど経ったある日のこと。 初めての試験で満点を取り、結果を報告しようと喜び勇んで女王の部屋へと入った。 その時、彼は誰もいない室内で、机の上に置かれた一冊の本を見つける。 何気なくページを開くと、古ぼけた写真が一枚挟まっていた。 そこには少女の頃であろう若かりし養母と、傍らで寄り添う男性の姿が。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/920
921: 秘められた恋 2/3 [sage] 2014/09/15(月) 20:53:47.38 ID:KapdKcF70 幸せそうに微笑む二人。写真の裏にはこう記されていた。 『クリフト。たとえ添い遂げられずとも、あなたは私が愛した最初で最後の人です』 風のうわさ程度だが、話には聞いたことがあった。 かつて世界を闇の恐怖から解放した、天空の血を引く勇者と七人の英雄たち。 その一員である若き王女の活躍と、誠実な臣下であった聖職者の献身。 そして、許されることなく終焉を迎えた彼との悲恋。 「クリフト?ねえ、そこに…いるんでしょう?私よ…アリーナよ」 両の瞳こそ開いてはいるが、もう女王の視界には誰も入り込む余地はない。 青年はしばらく黙考していたが、何かを決意した表情で立ち上がると、 人払いをして自分以外の者を部屋から下がらせた。 二人だけになった部屋で青年はひざまずき、養母の手をそっと握り締めた。 『アリーナ姫様、お久しぶりでございます。長い間お待たせして申し訳ありません』 無論、クリフトはここにはいない。 目の前の青年が、彼のふりをして話しかけているのだ。 「…本当だわ、長すぎよ。でも、きっと帰ってきてくれると…思ってた」 青年は胸にこみ上げる思いを必死に押さえ、淡々と演技を続けた。 乗りかかった船とはいえ、ここで中途半端にやめてしまえば 直ちに我が身は自責の念に押しつぶされてしまうだろう。 今の自分は息子ではない。養母が今でも想いを寄せる彼の人なのだ。 青年は心の中でそう言い聞かせ、自らを奮い立たせた。 「もう…どこにも行かないで。もし行くなら…今度は…私も連れて行って」 『私は姫様のおそばにずっとおります。もうどこにも参りません。だからご安心下さい』 養母は最後の力を振り絞り、涙を浮かべて笑った。 無垢であどけない少女の頃を彷彿させる、ありったけの笑顔で。 その直後、わずかに残る砂時計の砂が完全に落ちきったかのように、 波乱に満ちた女王の人生は、静かに幕を下ろした。 「養母上…」 青年は堪え切れず、目頭を押さえて嗚咽した。 彼の悲痛な声を聞きつけた神官長を始め、大勢の重鎮たちが駆けつけたが、 女王の魂は、すでに永遠の眠りへと誘われたあとだった。 数日後、前女王の葬儀と自らの戴冠式を無事に終え、 新たな国王となった青年は、昔養母とよく遊んだ中庭に足を運んでいた。 のどかな春先らしく、花壇はまばゆいばかりの黄色で埋め尽くされている。 ふと足元を見ると、鮮やかな緋色と淡い群青の花が支え合うように咲いていた。 緋色は緩やかな巻き毛、青色は清潔感のある短髪を思い起こさせる。 写真の二人を偲び、青年が複雑な面持ちで花をじっと見つめていると、 花壇の手入れを終えた老齢の庭師がこちらに近づいてきた。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/921
922: 秘められた恋 3/3 [sage] 2014/09/15(月) 20:56:12.30 ID:KapdKcF70 「これは陛下。この度はご即位おめでとうございます」 「広大な庭園の手入れ、いつもご苦労さまです。庭師殿」 「もったいないお言葉で……おや?こんな所に赤と青の花がいつの間に。 うーん、花壇の黄色にはそぐわないようですな。取ってしまいましょう」 花を摘み取ろうとする庭師の腕を、青年の手が反射的に遮る。 「悪いが庭師殿、この花はそのままにしておいてくれないか」 「はい…承知いたしました、陛下。ではこのままにしておきますので、これにて」 青年の意図がわからず首を傾げながらも、庭師は新たな主人の命に従った。 軽く一礼をしたあと、道具を抱えて別の花壇へと向かってゆく。 庭師の姿が完全に消えた後、青年は懐から一通の親書を取り出した。 信書はクリフトが勤めていたゴットサイド修道院からのものだった。 彼は彼の地に赴くとすぐに修道院へと入り、数々の輝かしい功績を残した。 だが、生来病弱だったこともあってか、やがて大病を患い、 皮肉にも養母と同じ日にその生涯を閉じた、との知らせであった。 彼は最後まで自分のかつての恋人である養母の身を案じ、眠るように旅立ったという。 また、親書にはクリフトから預かったという、亡き女王宛の封書が同封されていた。 死期を悟った彼が、この世を去る数日前に用意したものだと聞いている。 しかし、受け取るべき主もすでに儚くなった存在。 かといって、このまま彼の遺志を葬り去るのはあまりにも無慈悲すぎる。 養母の代理としてなら――――青年は緊張した面持ちで封を開いた。 その中身は、意外にも手紙ではなく、養母が持っていたものと同じ古い写真のみ。 こちらの写真の裏面にも、達筆の文字で何かが書かれてある。 『東の空が白む穏やかな夜明け。私はこの日を終生忘れることはないでしょう。 たとえあなたの大切なものを、奪ってゆく結果になったとしても』 記された文字を復唱しても、青年には皆目見当がつかなかった。 これにはきっと、自分の知らない特別な事情があるに違いない。 そう直感した青年は、急いで養母の遺品を捜すために部屋へ向かい、 遠い記憶を頼りに、例の写真を挟んでいた書物をようやく探し当てた。 謎を解き明かす唯一の手がかり。書物の正体は、養母が生前愛用していた日記だった。 そこには、愛する男性との別離の前夜に起こったことと、処女王としての名声が 日に日に大きくなると同時に、国民に対し自身を偽ることへの苦悩が綴られていた。 「養母上…もう…苦しまなくてもよいのです。他の者がいかに誹謗しようとも、 私は、私だけは養母上を…あなたの子として過ごせたことを誇りに思います」 「神よ。あなたの御許に旅立った養母上とその想い人に、どうか安らかな眠りをお与え下さい…」 青年は溢れ出る涙を拭おうともせず、遺品となった日記を胸に抱き、 ただひたすら二人のために祈りを捧げていた。 花壇の片隅では、緋色と群青の花が仲睦まじくそよ風に揺られている。 そう、まるであの写真の中で笑みを漏らす二人のように。 (二 綻びゆく絲 に続く) http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/922
923: 二 綻びゆく絲 1/3 [sage] 2014/09/15(月) 21:08:45.79 ID:KapdKcF70 あれからはや三月が過ぎた。 うだるような暑さが続く真夏の昼下がり。 連日の公務に忙殺される青年は、気晴らしに城の最上階へと足を運んだ。 彼が向かったのは、歴代の王に代々受け継がれてきた寝室。 豪華な額に飾られた先代女王の肖像画が、涼しげな笑顔で我が子を迎える。 即位十年の節目を記念に、絵心のある青年が半年をかけて描いた大作だ。 最初は「恥ずかしいから」とモデルになるのを固辞していた女王だったが、 完成した絵を見るや否や一目で気に入り、寝室に飾るよう指示したという。 出窓から吹き付ける涼風を受け、青年は亡き養母への思いを馳せる。 だが、彼がここを休息場所に選んだのは、単に感傷に浸るだけではなかった。 青年は懐から取り出した小さな鍵で、半月ぶりに引き出しの錠を開けた。 取り出したのは、生前の女王が密かにしたためていた日記。 処女王として世を去った彼女が、唯一愛した男性との出会いから、 身を引き裂かれる思いで決意した別離、その後の変わらぬ想いが記されている。 手つかずの日記を前に、青年はほっと安堵の胸をなでおろす。 間に合ってよかった。他の誰かに見られたら大変どころの騒ぎではない。 偉大な主を失ったこの一室は、新王である青年が使うことになり、 明日から外観および内部の改装に取り掛かることになっている。 万が一日記の内容が世に漏れれば、世界を揺るがす醜聞になるのは必至。 この国の名誉…いや、彼が一番守りたかったのは、気高き女王のそれなのかもしれない。 青年は日記に挟まれた写真を取り出し、目を細めて写真を眺める。 若き日の女王と、その隣で笑みを浮かべる端正な顔の男性。 互いに想い合うも、添い遂げることなく散った二人の愛が、この中では輝き続けている。 青年は写真を見るたび、胸を締め付けられずにはいられなかった。 二人の笑顔が滲み始めたのに気づき、そっと目頭を押さえた青年。 指のすき間から零れ落ちた哀情の欠片が、開いたままの日記へと音を立てて落下した。 (いけない!養母上の大事な日記が―――) 水濡れの痕が残らないよう、青年は慌てて拭った。 幸いにも跡は残らずにすんだが、手に残るかすかな感触が気にかかる。 もう一度撫でてみると、些細な疑問は強い確証へと変換された。 表紙と接着部分の見返しに、何かの細工が施されているようだ。 大切な日記を破損させないよう、青年は慎重にそれを裂いてゆく。 取り出されたのは灰白色の封筒。はやる気持ちを抑え、青年は中身を取り出す。 そこにはまたも、一枚の色褪せた写真が。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/923
924: 綻びゆく絲 2/3 [sage] 2014/09/15(月) 21:23:20.27 ID:KapdKcF70 青年の目に留まったのは、鮮やかな樺色の巻き毛を無造作に束ね、 生まれて間もない赤子を胸に抱く女王の姿だった。 威厳に満ちた名君の姿とは対照的に、まるで地母神のごとく慈愛あふれる表情。 幾度となく手に取って眺めたのだろうか。写真の状態はあまり良くなかった。 裏面に目をやると、右下に日付と場所が小さく記されていた。 (二十年前、先月の末日。南の屋敷にて、か――――) どこか見覚えのある場所もさることながら、気になるのは記された日時。 そう、彼がこの世に産声を上げた日から、わずか五日後だったのだ。 青年はふと、ある昔のうわさ話を思い出した。 彼には弟が一人いる。養子として迎えるならば、本来なら末子、 あるいは次子以降から選ばれるべきはずが、なぜ長子である自分が抜擢されたのか。 当初は城の内外で物議を醸したが、彼がよき後継者として成長するにつれ、 その資質を見出した女王の名声の一つへと、いつしかすり替わっていった。 抱かれた乳飲み児。背景に映る古ぼけた家具や装飾品。 あらゆる疑念や憶測は、激浪となって青年の心をこれでもかと揺さぶった。 たゆたう心を払拭できないまま、謁見の間へと戻った青年。 玉座には腰を掛けるものの、放たれた衝動の篝火は勢いを増すばかりだ。 「大臣!すまないが所用で出かける。悪いがあとを頼む」 「へ、陛下!急にどちらへ!?」 周囲の者が止める間もなく、青年は緊急用のキメラの翼を携えてその場を立ち去った。 またも城を飛び出されるとは、ますます先代の陛下のようになられて。 偉大な大叔父であった亡き宮廷魔術師のように、自分も主君に振り回される運命なのか。 空白の玉座の傍らで嘆く初老の紳士は、ため息とともに力なく肩を落とすのだった。 サントハイム大陸の東北部に位置するのどかな町、フレノール。 この町の南には、廃業した道具屋を改装して建てられた屋敷がある。 九歳まで青年が過ごした、赤い屋根が良く目立つ懐かしい我が家。 ここを訪れるのは実に三年ぶり。王位を継承してしてからは初めてとなる。 頑丈な門扉の前で、青年はしばらく黙ったまま立ち尽くしていた。 今の私は一体どちらなのだろう。故郷に戻りし息子か、それともこの国の新王か。 自分の立場が定まらないまま、無駄な時間だけが過ぎていく。 「兄上っ!」 二階の窓から声をかけてきたのは、青年の六つ違いの弟だった。 丸みを帯びた幼顔は、いつしか父譲りの精悍な顔立ちになっていた。 重々しい扉を勢いよく開けた弟は、無邪気に青年の腕へとしがみつく。 以前は肩にすら届かなかった彼の背丈は、今や長身の兄と頭一つほどの差だ。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/924
925: 綻びゆく絲 3/3 [sage] 2014/09/15(月) 21:28:56.71 ID:KapdKcF70 「元気そうだな。お前、また背が伸びたんじゃないか?」 「はい。このままだともうすぐ兄上を追い越しますね」 「こいつ、生意気だぞ!」 大人ぶる弟の髪をくしゃくしゃとかき回し、青年は久方ぶりに大声で笑った。 国中の期待を一身に背負う為政者としての葛藤など、もはや存在しなかった。 国王という重厚な鎧をいとも簡単に脱ぎ捨てられる、大切な場所―――― あれほど自分に重くのしかかっていた重圧感が、実に他愛もなく思えた。 「一体どうしたというのです、騒々しい。……まあ!いつこちらに?」 外の騒ぎを聞きつけた壮年の女性が、何事かと駆け寄ってきた。 柔和な笑顔で迎えるその女性は青年の生母。先々代国王の弟の一人娘であり、 現在は侯爵家として、ここフレノールを統治する権限を与えられている。 彼女の夫、すなわち青年と弟の父は、戴冠式の一昨日に突然の病で急逝し、 喪に服した侯爵家は、戴冠式への出席を辞退せざるを得なかった。 それゆえ、青年は三年ぶりに家族との対面を果たしたことになる。 「ご無沙汰しております。母上」 「陛下。この度はご即位おめでとうございます。戴冠式への不参、この場を借りてお詫び申し上げます」 「私こそ、慣例とはいえ父上の葬儀に参列がかなわず、ご無礼いたしました。 ……さあ、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう!ここでの私は母上の息子ですから」 青年は母の小さな背中に手を当て、予期せぬ再会に涙ぐむ彼女の身体を引き寄せた。 父への墓参を済ませ、三人は家族水入らずの談笑に花を咲かせる。 亡き父との思い出や幼い頃の兄弟げんか等、話題が尽きることはなかった。 しかし、青年が一枚の写真を見せた瞬間、安らぎのひと時は終焉の時を迎える。 「あなた、どこで…それを……」 白い肌に染まる薔薇色の頬が、一瞬にして血の気を失ってゆく。 いつも笑顔を絶やさない母が初めて見せた、計り知れない絶望と虚脱感。 真実を求めてこじ開けた箱のはずが、最初の宝物は底の見えない後悔。 言葉を失った青年は、ただ黙って見ていることしかできなかった。 嵐の前の静けさにも似た沈黙が、母と自分の間で滔々と流れゆく。 青年は思案した。弟は先ほど使いに出したので、しばらくは戻らないはずだ。 自分を強く慕う彼には辛い現実になるであろう、これからの話は聞かせたくない。 純朴な弟の心情をおもんばかる兄の、精一杯の計らいだった。 「これは生まれて間もないあなたと、当時王女だった…アリーナ様です」 次の一手を打ったのは、青年ではなく母の方からであった。 差し出された写真を青年から受け取り、写真の主に「ごめんなさい」と小さく呟く。 そして、震える身体を深呼吸で整え、閉ざしていた口を少しずつ開き始めた。 (三 紡がれる愛 に続く) http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/925
926: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 2014/09/16(火) 05:09:49.62 ID:S3QpxSvO0 久しぶりに小説キテター http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/926
927: 紡がれる愛 1/4 [sage] 2014/09/16(火) 22:43:35.93 ID:tIpaBg9U0 今からおよそ二十一年前。 国一番のおてんばと呼ばれ、天真爛漫さが魅力的だった王女アリーナ。 しかし、神官クリフトとの不本意な別離が尾を引き、心身ともに焦燥してしまう。 彼女がこの屋敷へ静養に訪れたのは、写真の日付からおよそ半年前。 体調の異変に気づいた当時の母と祖母が王女を問いただすと、 さすがに隠しきれないと観念したのか、これまでの経緯をすべて打ち明けた。 問診の結果、自分に起こった事実を知った彼女は、産むと言ってきかなかったという。 「生命を宿した喜びと失った悲しみの両方を知る私たちは、 あの方の願いを拒むことなど到底できませんでした。同じ女でしたから」 祖母は二度の流産を経験し、難産の末に産まれたのが一人娘である今の母。 結婚して間もなく病を患った母は、授かった最初の子を諦めざるを得なかったそうだ。 二人は悩みに悩んだ末、この屋敷で密かに出産させることにした。 ただし、母親となる王女には非情ともいえる、三つの約束を守ることを条件に。 最初の一つは、出生の事実を誰にも告げないこと。 次の一つは、生まれる子と実の父となるクリフトとは絶対に会わせないこと。 そして最後の一つは、自分が生みの母だとは決して名乗らないこと。 彼女たちの準備は抜かりなかった。 心労で病に伏したという名目で、王女をこの屋敷に逗留させることにしたのだ。 この家の当主である父にも悟られないよう、秘密裏に事を進めてゆく。 それから半年後、玉のように元気な男児が産声を上げた。 髪の色は父親譲りの紺青だが、顔立ちは祖父である前国王によく似ていたという。 幸か不幸か、このことが出生の秘密を闇に埋もれさせる結果となった。 「あの方は、最後まで約束を守られました。実の子でありながら養子として引き取り、 ここまで立派に育て上げられたのですから」 「では、私は…私の両親というのは――――」 「そうです。あなたはアリーナ様とクリフト様との間に生まれた子なのです」 その瞬間、青年の頬に一筋の涙が伝う。 喜怒哀楽のどれにも定まらない何かを乗せ、輝く水晶のように零れてゆく。 写真を見た時から、ある程度の覚悟はできたつもりだった。 なのに、いざ真実として告げられると、心の準備など実にあっけなく脆いものだ。 「どうして。どうしてもっと早く…」 本当のことを言ってくれなかったのか。 青年は目を見開いて唇をきつく噛み、立ちすくむ母の肩を強く揺さぶった。 なぜだ。どうして今なんだ。 あと数か月早ければ、実の息子として最期を看取ることができたのに。 もう数年早ければ、父の顔を一目でも見ることだってできたのに。 もし、もっと早ければ…両親を引き裂いた王家の決定をも覆してみせたのに―――― 戻せない過去。消えない絶望。青年は自分の無力さを呪わずにはいられなかった。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/927
928: 紡がれる愛 2/4 [sage] 2014/09/16(火) 22:44:35.26 ID:tIpaBg9U0 「ごめんなさい。あなただけはどうしても守りたかった。アリーナ様も、私たちも」 堪え切れずに泣き崩れる母を目の当たりにし、青年は我へと返った。 泣かせてしまった罪責感が、激情の泥海に溺れる彼を引きずり出したのか。 つかんでいた肩から両手を離し、うつろな目で天井を仰ぐ。 祖母が亡くなり、実母である女王も逝去した今、出生の秘密を知るのは母だけとなった。 墓場まで持っていく覚悟で、孤高の番人となる道を選んだに違いない。 だが、生みの母さえ守り通した約束を、させた側から破棄させることになろうとは。 青年はこれ以上、己の心情を吐露する気にはなれなかった。 大人になったのだからと強がるつもりはない。 亡き両親への強い慕情や王家に対する憤りは、今もなお胸の中でくすぶっている。 でも、ここにいるたった一人の生き証人を責め立てるなんて、曲解もいいところだ。 一瞬とはいえ感情で我を忘れた自分を、青年は心の底から恥じていた。 「申し訳ありませんでした。母上のお気持ちも知らず、私は何ということを…」 乱暴に握り締めた両手をいたわりのそれへと替え、立ちすくんだ母を支える。 己のしでかした結果の重さに、今更ながら心が痛む。 母は涙痕が光る青年の頬を優しく撫で、嗚咽で嗄らした声を振り絞った。 「あなたは紛れもなく、お二人の真剣な愛情によってこの世に生を享けたのです。 それを下劣な中傷や醜い政争などで…愛しいあなたを穢したくなかった」 確かに、それは理にはかなった正論だろう。 自分が女王の隠し子だとわかれば、この国に混乱をもたらすのは必至。 臣下との情事の末にもうけた忌むべき落胤として、存在すら危ぶまれた可能性もある。 子供の視点で考えれば、都合よい大人の言い訳に聞こえたに違いない。 しかし、国の統治者としての立場からすれば、十分納得に値する理由だった。 「九年間しか一緒にいなかったけれど、今でもあなたは私の大切な息子。 許してほしいとは言わない。でも、どうかそれだけは…忘れないで……」 「お…かあ…さん――――」 青年は無意識のうちに、幼い頃の呼び名で母を呼んでいた。 最後にこの名で呼んだのは、住み慣れたこの屋敷を離れた日のこと。 別れが辛いと泣きわめく自分を落ち着かせるため、母が瞳を潤ませながら 根気強く抱き締めてくれたことを、今も鮮明に覚えている。 そして今、泣き崩れる老いた母を、瞳を赤く腫らした青年が優しく懐抱する。 身にまとう紅緋の衣装が、どちらのものともつかない涙で葡萄色へと染まってゆく。 許すも許さないもない。そもそも悪いことなど何一つないではないか。 もしすべてを嘘偽りと切り捨てれば、これまでの人生そのものを否定せねばならない。 自分は望まれて誕生し、大切に守られ育てられてきた。今はそれだけでいい。 「…今までお辛かったでしょう。母上の苦しみを、これからは私も一緒に背負っていきます」 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/928
929: 紡がれる愛 3/4 [sage] 2014/09/16(火) 22:51:16.96 ID:tIpaBg9U0 自身には見えざるもの、母にとっては生涯囚われるはずだった秘密の呪縛。 これからは二人の両親と自らを繋ぐ絆として、大切にしていこう。 無理やり開けた禁断の宝箱。最後に残ったのは、自分に注がれた愛情という名の貴石。 真実の解明ばかりに気を取られ、危うく見失うところであった。 手にするまでの犠牲は大きかったが、青年は輝けるそれを自らの胸に収めることができた。 もうこれ以上、秘密が彼の心に揺るぎを与えることはないだろう。 その証拠に、使いから戻った途端、母と自分のただならぬ様子を案じる弟に対し、 臆することなく即興のおどけ芝居を打ったからだ。 「久しぶりに母上を独り占めしたくてね。お前が邪魔だったから、わざと使いに出したのさ」 思惑どおり、真に受けた弟が「心配して損した」と頬を膨らませたのは言うまでもない。 昨晩遅く城へと戻った青年は、翌朝から机に山積みの書類と悪戦苦闘していた。 ただでさえ多忙な公務に加え、昨日の無断外出がさらに拍車をかけた。 だが、今の彼に弱音を吐いている暇などない。 昨日の一件によって、最優先で進めるべき課題ができたからだ。 数日後、南東の孤島ゴットサイド修道院で、最高位の神官と握手を交わす新王の姿があった。 我が国の復興に貢献したクリフトを、彼の故国であるここサントハイムでも 丁重に弔いたい旨の親書を作成し、国王自らが赴いて届けたという。 当初は難色を示していたゴットサイド側だったが、度重なる交渉の結果、 通商協定の締結と遺品等の一部引き渡しを行うことで、双方が合意に至った。 私情だけではなく、国益をも考えた迅速かつ知略にとんだ行動。 新王として初めて臨んだ外交は、不調が濃厚とされた下馬評を見事に覆したのである。 それからさらに数日後、遺品と遺髪の一部が使者を通じて青年に手渡された。 修道院の規定により、一度埋葬した遺骨の移動は認められなかったが、 これまた前例のない遺髪の返還には応じたことから、ある程度の譲歩は見せたのであろう。 亡き実父の生きた証は、誰にも邪魔をされずに拝見したい。 青年は生みの母である女王の部屋で、遺品と対面することにした。 小さな箱に入った遺髪は白い部分が多く、青年の髪の色と同じ紺青は時折交る程度。 存命ならまだ四十代後半だったはずなので、異国の地での苦労がうかがい知れる。 やりきれない思いが、またも青年の心の繊細な部分を疼かせた。 その他には、何冊かの書物と護身用にと携えていた奇跡の剣、 そしてクリフトがこの国を離れる際に着用していた衣装が納められていた。 二人で寄り添う写真の中で彼が身にまとった、あの深緑の法衣と帽子である。 至る所のほころびや破れの跡が、度重なる歴戦の結果を物語っている。 手先が相当器用だったらしく、簡単な縫い物なら難なくこなしたという。 かつての持ち主の人柄が偲ばれる一品を前に、青年は袖を通したい衝動に駆られた。 写真を参考にしながら、見様見真似で手際よく法衣を身につけてゆく。 不思議なことに、身の丈その他に一寸の狂いもなかった。 まるで誂えたての衣装を着たかのように、身体にしっくりとくるのが心地よい。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/929
930: 紡がれる愛 4/4 [sage] 2014/09/16(火) 22:53:35.57 ID:tIpaBg9U0 意外に苦戦したのが、縦長の帽子と背中へ袈裟懸けにした奇跡の剣。 慣れない重みに、青年は思わず身体の均衡を崩しそうになる。 気が付くと、肖像画の女王と鏡越しに目を合わせる形になっていた。 まるで自分のぶざまな姿を笑っているように見えたのは、単なる錯覚なのか。 気恥ずかしい面持ちで体勢を建て直し、鏡に映る肖像画の隣で直立する青年。 あの写真と同じ光景が再現されたような気がして、自然と彼の頬が緩んだ。 「“実母上”。近いうちに、私はお二人の子として“実父上”の遺髪を墓碑へ納めに参ります。 代わりにこの装束は形見としていただきますが…よろしいですよね?」 笑みを浮かべる肖像画の主は、我が子の懇願に沈黙をもって応えた。 サントハイムの輝ける太陽として、凛々しく君臨し続けた女王アリーナ。 対してクリフトは、まばゆい陽光を包み込む蒼海のように穏やかな人物だったという。 二人が互いへの愛を犠牲にしてでも守りたかった、美しいこの国の大地を踏みしめる自分。 そんな自らにできること、すべきことの答えはもう決まっていた。 ここをもっと良い国にしよう。青年は胸に手を当て、肖像画の前で決意を固めた。 今はまだ非力ながらも、それぞれの地で静かに眠る二人への最大の親孝行になると信じて。 これ以後、長きにわたり善政が敷かれ、サントハイムは建国以来最大の繁栄を誇ることとなる。 ( 完 ) http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/930
931: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 2014/09/16(火) 22:58:28.78 ID:tIpaBg9U0 以上です。細かい所で間違いをいくつか見つけましたが、お許しください。 かなり昔に「完全版を書くのでwikiに載せないでほしい」とお願いしてたかと思います。 ずっと気にはなっていたので、完成できてよかったと思います。 ありがとうございました。 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/931
932: 名前が無い@ただの名無しのようだ [] 2014/09/16(火) 23:02:55.22 ID:rYfQeKG40 679 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/06/30(月) 19:50:42.11 ID:kwAoLY3N0 >>678 知らねぇよボケ。じゃてめぇは同時に、このスレでは 同人界に慣れた人間は少数派だって証明できんのかよ!? ちなみに俺は、同人界には立ち入ったこともないガチガチの2chねらー (単なるクリアリ好き、実はドラクエはおろかRPG自体たいして好きじゃない) だが、荒れてんのがお好みならそうするぞ? http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/932
933: 名前が無い@ただの名無しのようだ [] 2014/09/16(火) 23:06:52.06 ID:rYfQeKG40 2chだからといって、2chのやり方・雰囲気をゴリ押しする必要も あ る ま い 。 仮 に 、 同人界に慣れた住民が多数を占めるスレであるなら、そのやり方を採用してもいい ん じ ゃ な い の か ? ********** 「同人に慣れた住民が多いから同人ルールOK」なんて 誰 が 断 定 し た 日本語大丈夫かこの豚野郎 http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/933
934: 名前が無い@ただの名無しのようだ [] 2014/09/16(火) 23:09:09.50 ID:rYfQeKG40 695 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/06/30(月) 21:09:16.44 ID:BnqWbMqb0 ID:8d3tL3/O0は自ら小説版アンチの幼稚さを身をもって示してしまったな http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/934
935: 名前が無い@ただの名無しのようだ [] 2014/09/16(火) 23:10:48.45 ID:rYfQeKG40 703 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/06/30(月) 21:32:20.39 ID:kwAoLY3N0 >>695 アンチというより、「ここは2chだ」という意識が強すぎたんじゃないかと。 私は大規模off板にもよく行くんですが、 off板ってことはリアル社会に出ていく企画を扱う場所なわけですが、 そういう場所であっても、ひたすらに“2chの流儀”を貫こうとする奴が居たりしますからね。 あるいは、“2chの流儀でしかないもの”を“ネット世界全体の流儀”のように思ってるのも居たり。 まぁ、2chに対する思い入れの強すぎる者は、たまに居ますよ。 >>699 私自身は荒れてるのが好みだとは言ってないぞ? http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/935
936: 名前が無い@ただの名無しのようだ [] 2014/09/16(火) 23:13:50.41 ID:rYfQeKG40 >>678 知らねぇよボケ。じゃてめぇは同時に、このスレでは 同人界に慣れた人間は少数派だって証明できんのかよ!? ちなみに俺は、同人界には立ち入ったこともないガチガチの2chねらー (単なるクリアリ好き、実はドラクエはおろかRPG自体たいして好きじゃない) だが、荒れてんのがお好みならそうするぞ? http://wktk.5ch.net/test/read.cgi/ff/1366979958/936
上
下
前
次
1-
新
書
関
写
板
覧
索
設
栞
歴
あと 46 レスあります
スレ情報
赤レス抽出
画像レス抽出
歴の未読スレ
AAサムネイル
Google検索
Wikipedia
ぬこの手
ぬこTOP
0.022s