[過去ログ] 葉鍵キャラを性別反転させてみよう!その16 (893レス)
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(1): 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:04 ID:WFO2/mYk0(1/13) AAS
 雪が降っていた。
 この世界すべてを白く染め上げようと言わんばかりに降り積もる雪。
 その中、街の中心にある駅前のベンチに、僕は佇んでいた。

「寒いなぁ……」
 独り言と共に出した吐息はたちまち真っ白に染まり、凍てついた空気に溶ける。
 生まれてからずっと暮らしていた街。冬の寒さには慣れていると思ってたけど、早朝から夜もふけた
この時間まで、十数時間をこの気温の中で過ごしていた。身体はすっかり冷えきっている。
 ただ、そうなることも見越して、あらかじめ厚着をして来たことが救いだけど。
 ふと、街頭の時計に目を移す。11時45分。もちろん午後の。それを示す時計の文字盤が、街路灯の
省6
691: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:05 ID:WFO2/mYk0(2/13) AAS
 4日前、僕の父親である水瀬秋人が、交通事故で意識不明の重体に陥った。
 警察から聞いたところでは、父さんは車に轢かれかけた僕の従姉弟、相沢ゆうの身代わりになって、
撥ねられてしまったと言う。
 ゆうからは、父さんとは商店街で偶然逢って、一緒に家へ帰る途中に事故に巻き込まれたと聞いた。
 でも、それでゆうが受けたショックはとても大きかった。この事故を完全に自分の責任と思い込んで、
自分の部屋に閉じこもってしまったんだから。
 僕が作った食事をろくに食べもせず、ドア越しに何を言っても反応なし。さすがに心配になって、ゆうの
部屋に踏み込んで彼女を慰めようとした。それが2日前のことだった。
 でも……僕じゃどうにもならなかった。
「ゆう、元気出してよ……」
省12
692: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:06 ID:WFO2/mYk0(3/13) AAS
 空を見上げると、漆黒の中から純白の粒がふわりふわりと落ちて来る。もう何時間も降り続けてるけど、
止む気配を全く見せない雪。
 夜空の闇に吸い込まれてしまうんじゃないか、なんて錯覚を覚えながら、僕は考える。
(本当なら、こんな所にいないで、病院で父さんの傍にいるのが筋なのかもしれない。でも……)
 父さんのことはもちろん心配だ。男手ひとつで自分をここまで育ててくれた、尊敬すべき父なのだから。
 自分も大人になったらああいう男になりたいと思う。人生の目標でもある父さん。
 だから、不安なんだけど僕はどうにかそれに押し潰されないでいられる。あの父さんは、そんな簡単に
死んだりしない。そう思い込むことによって。
 それに、父さんにはお医者さんや看護師さんが何人もつき、それぞれ最善を尽くしてくれているはず。
省4
693: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:07 ID:WFO2/mYk0(4/13) AAS
「僕って、待ってばかりの人生だよね」
 そう声に出すと、改めてつくづくそう思う。
 幼い頃は、保育園で父さんが迎えに来るのを待つ毎日だった。
 小学校に上がると、待つ場所は保育園から家に代わった。
 ゆうと出逢ってからは、冬休みになるのが楽しみになった。毎冬、彼女が僕の家に泊まりに来るのが。
 そして、空白の7年間。大きなショックを受けて心を閉ざし、僕の前から去ったゆう。彼女に幾度か
手紙を出したけど、音沙汰はなし。
 初めて逢った瞬間から、ゆうには心惹かれていた。それが恋だと自覚するようになったのは、しばらく
先のことだったけど。
省13
694: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:08 ID:WFO2/mYk0(5/13) AAS
 そのゆうと、ひとつ屋根の下で暮らすようになって、僕の日常はとても楽しくなった。
 彼女と一緒に学校へ行き、一緒に授業を受け、一緒に帰る。それだけでも幸せになれた。まだこの街や
新しい学校に不慣れなゆうに、色々と世話を焼いてあげるのも楽しかった。
 そんなある日、僕はゆうから「私、雪弥のことが好きかもしれない」と言われた。いきなりやることに
なった実力テストに向けて勉強してた途中、気分転換のためにベランダに出た時のことだった。
 なぜ、今頃になってゆうが僕のことを好きになってくれたのかはわからない。だから、僕はゆうの告白に
その場で応えられなかった。本当はその一言を待っていたにもかかわらず……。
 その後でいろいろ考えたけど、出た結論はやっぱりひとつしかなかった。僕もゆうのことが、従姉弟と
してじゃなく、ひとりの女の子として好きだってこと。
省15
695: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:09 ID:WFO2/mYk0(6/13) AAS
(寒い。心が寒い……)
 あ、あれ? なんで……なんで泣いてるんだろう? 意識のない父さんと面会した時でも、こんなこと
なかったのに……。
 父さんが死んでしまう可能性に恐怖したのか。従姉弟が心を閉ざしてしまったことが悲しいのか。
それとも、そのふたりに対して何もできない自分の無力を情けなく思ったのか。なぜ泣いたのか、その
理由は自分でもわからなかった。
(ダメだ。僕がこんなんじゃ、ゆうが来ても何もできないよ)
 心の奥で沸き上がった激情を強引に押し止める。涙を拭うと、じっと正面を見据えた。
 時計は11時59分――あ、今変わった。午前0時ちょうどになった。ゆうに伝えた(彼女が聞いて
くれてたかどうかはわからないけど)タイムリミット。
省14
696: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:10 ID:WFO2/mYk0(7/13) AAS
 石畳を蹴る音。息急いて走る女の子。
 僕は飛び上がって喜びたい衝動に駆られたけど、それを懸命に堪える。このベンチにいなきゃ、僕は
彼女との約束を破ってしまうことになる。
「はっ、はあっ……雪弥っ……!」
「学校、サボってる人発見」
「そ、それは……あなたもでしょっ……はあっ、はっ……」
「うん。おあいこだね、ゆう」
 息を整えるゆうの頬は赤く火照っていた。ここまで全力で走って来てくれたのがよくわかる。
「寒くなかった?」
省13
697: 降り積もる想い 2005/05/03(火)22:11 ID:WFO2/mYk0(8/13) AAS
「私、そんなに強くなんてなれない。だから、雪弥のこと、支えにしてもいいよね……?」
「うん。ゆうは女の子なんだから……こんな頼りない僕で良ければ」
「そんなことない……それと、あの言葉も本当よね?」
「うん。約束するよ。もし破ったら、イチゴサンデー奢ってあげるから」
「それは雪弥の食べたいものでしょ……ふふっ」
 ゆうが笑った。父さんの事故以来、彼女が初めて笑った。瞳に大粒の涙を溜めていたけど、それでも
僕に笑顔を見せてくれている。
「遅れたお詫び、しなくちゃね」
 ゆうが座ったままの僕の前に屈み込む。目線が同じ高さになる。
 そして彼女はゆっくりと目を閉じ、顔を近づけて……。
省3
698: エピローグ:咲き誇る想い 2005/05/03(火)22:13 ID:WFO2/mYk0(9/13) AAS
 3年生最初の日。僕とゆうは、薄桃色の桜並木の下を、肩を並べて学校へと歩いていた。
「どうにか間に合いそうだね」
「そうね。雪弥がしっかりしてれば、もっとゆっくりできたんだけど」
 僕は、そんな手厳しい言葉に「あはは……」と、乾いた笑いで答えるしかなかった。

 僕とゆうが、雪の降る駅前で本当の「恋人同士」になってから、ひとつの奇跡が起きた。
 入院中の父さんが意識を取り戻して、回復に向かったのだ。事故から一月後には個室から一般の病室に
移り、そのさらに一月後には退院を迎え、家に帰って来た。
 心配していた後遺症もなく、今では普通に生活している。
 僕らに、ついに日常が戻ってきたんだ。
699: エピローグ:咲き誇る想い 2005/05/03(火)22:14 ID:WFO2/mYk0(10/13) AAS
「もう。新学期になっても、雪弥の寝坊癖は変わらないのね」
「ごめん。努力はしてるんだけどさ、何でだろうね?」
 その努力――小遣いをはたいて目覚まし時計を買うくらいのことだけど、効果はあまり出ていない。
今日だって、ゆうに起こしてもらわなきゃ、始業式からいきなり遅刻していた訳だし。
「ま、私だってあんまり朝に強い方じゃないんだけどね。でも、最近はちゃんと目が覚めるけれど」
「どうして?」
「それはね……あの目覚まし時計を使ってるからかな?」
「……あ、あれを?」
「そうよ」
省11
700: エピローグ:咲き誇る想い 2005/05/03(火)22:14 ID:WFO2/mYk0(11/13) AAS
 強張っていたゆうの身体から、ふっと力が抜ける。そのまま自然に、僕に身を預けてくれた。
「私も、雪弥のことが好き。もう雪弥のこと、待たせたりしないから」
「うん。ありがとう」
 言葉からはゆうの想いが、身体の触れ合った場所からはゆうの温もりが、僕に直接伝わってくる。
 僕もゆうも、心臓がドキドキしてたけど、それでも心地良い時間が流れる。ずっとこのまま――。
「……そういえば、時間は?」
「あっ」
「いけないっ、もう遅刻じゃない!」
 そうだった……。
 もともと、時間ギリギリで家を出たんだっけ。それで道路でこんなことしてたもんだから……。
省9
701: エピローグ:咲き誇る想い 2005/05/03(火)22:15 ID:WFO2/mYk0(12/13) AAS
 ゆう。良く聞いて欲しい。
 僕には、奇跡なんて起こせない。これからどうなるかもわからない。
 でも、僕はゆうの傍にいることはできるよ。
 桜の咲くあったかい春も。
 暑いけれど楽しい夏も。
 紅葉のきれいな涼しい秋も。
 そして、雪の降る寒い冬がまた来ても……。
 約束するよ。ずっと、ずっと一緒にいるから。
 だって、僕は……ゆうのことが、本当に大好きだから。
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