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100年前の関東大震災で叫ばれた「精神の復興」…その後の日本をどう変えたのか
2023/08/30 15:00
震災は「 天譴てんけん 」か…渋沢栄一と芥川龍之介の論争
天譴論の中身は人によって違いがあるが、総じて
「関東大震災は国民が一丸となって世界の1等国になることを目指してきた維新以来の精神を忘れ、
自分さえよければいい、と金や情欲におぼれてしまったことに対する天罰だ」と主張する。
そのうえで、立ち直るには維新以来の精神を再び取り戻すことが重要だ、と訴える。
「精神の復興」は、天譴論と表裏一体の形で登場したわけだ。
内務相などを歴任した法学者の水野錬太郎のように、震災によって国民は人道主義や助け合いの気質を取り戻すことができたのだから、
これは天の恵みだ、とする「天恵論」を唱えた人もいた。
天譴論とは真逆にも思えるが、復興のための世直しを説き、そのためには震災でよみがえった美風を保ち続けなければならない、
と精神的な修養を求める点は天譴論と同じだ。
一方で芥川龍之介や柳田国男、菊池寛らは、震災に天の意思などない、と真っ向から天譴論を批判した。
震災が金や情欲におぼれる人間への天罰なら、金持ちが多く住む山の手の被害が小さく、
隅田川東岸の下町に住む庶民が何万人も焼き殺されるのはおかしいではないか、というのだ。
芥川らの主張は、天譴論が東京の富の偏りに対する視点を欠いていることへの批判ともとれる。
渋沢はかねてから、社会正義のための道徳と、利潤を追求する経済活動は両立できるという「道徳経済合一説」を説いていた。
震災後には「大震災善後会」を作って国の内外から義援金を集め、臨時の病院を設けるなど救護と復興に奮闘している。
一方、芥川は朝鮮人が暴動を起こすというデマを信じて菊池に叱責され、
その菊池も震災で文芸はもはや無用のものになったと 狼狽ろうばい し、作家仲間から批判されている。
天譴論者が被災者に寄り添わなかったわけではないし、反天譴論者が合理的な理性を保ち、
震災のあぶりだした矛盾を冷静に受け止めていたわけでもないことは付言しておく必要があるだろう。
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