マルチジャンルバトルロワイアルpart20 (683レス)
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431: 第四回放送 ◆hqLsjDR84w 2013/01/04(金)21:17 ID:qGeYnOkp(4/17) AAS
 
 
 
【1】

 モニターのスイッチを乱暴に消して、ギラーミンは葉巻に火を点ける。
 ニコチンとタールが肺に染み込む感覚を堪能してから、天を仰いで息を吐く。
 白い煙は室内を僅かに漂っただけで、すぐに天井に吸い込まれていった。
 煙草よりも強い葉巻独特の甘い匂いさえ、根こそぎに飲み込まれてしまう。
 とうの昔に勘付いていた事実が、いまのギラーミンには腹立たしい。
 彼がいる部屋は、窮屈で、無機質で、必要最低限の物品以外は存在しない。
 嗜好品のなかで唯一葉巻だけは許されているが、このように空気清浄機能はやけに優れている。
 また部屋を出ることも許されず、この扱いは奴隷や囚人のそれと大差ない。
 かつては宇宙一の殺し屋とまで称されたというのに、現状はこのザマである。

 なにも――脱獄前と変わらない。

 当然、この仕事が終われば、莫大なマージンが入ってくる。
 そういう契約は交わされているし、『上のヤツら』にしてみればその程度大した痛手でもないだろう。
 契約をいちいち守ってくれる理由もないが、同時に約束を反故にしてくる理由もない。
 そういう輩のほうが支払いがいいことくらい、これまで培ってきた経験でギラーミンは承知している。
 ゆえに、仕事を請けた。
 もとより、職を失った身であったのだ。
 自由を得られるのであれば、飛びつかぬ理由がない。

(『誰でもよかった』……ねえ)

 かつて告げられた言葉が、ギラーミンの脳裏を掠める。
 自分を選んだ理由を尋ねた際、『上のヤツら』はそう言ってのけたのだ。
 辺境宇宙の連中でもなければ、名前を聞いただけで震え上がる――宇宙一の殺し屋に向かって、だ。
 あえて反発を買おうとしてきたような、挑発じみた言い方ではない。
 単に当たり前のことを当たり前に告げるだけの、そんな口ぶりであった。

「けッ」

 不快感を露に吐き捨てて、被っていたテンガロンハットを深く押さえつける。
 全身を包むボディスーツやマントと同色の黒い帽子で、強引に視界を覆ってしまう。
 『上のヤツら』がギラーミンをどう見ているのかなど、とうに分かっていたはずだ。
 それを理解した上で、失ってしまった自由を得るために仕事を請けたのではないか。
 むしろ、膨大な選択肢のなかから自分に白羽の矢が立ったのは、運がよかったと言えよう。
 にもかかわらず、どうしていまになって苛立っているのか。

 ――考えるまでもなかった。

 このこじんまりとした部屋には、殺し合いの会場を映し出すモニターが設置されている。
 六時間ごとの放送時刻をただ待つだけというのも味気ないため、ギラーミンは時折そのモニターを眺めて時間を潰していた。
 さしておもしろいものでもなかったものの、この場には酒も女もないのだから仕方がない。
 当初は野比のび太とドラえもんの二人を追っていたが、どちらも早々に脱落してしまった。
 他に気になる参加者もいないため、適当にザッピングして大きな動きのある映像を眺めるのが恒例となっている。

 先ほどもそうしていたところ、一人の少女が脱落した。
 ギラーミンは彼女の名前を覚えていなかったが、数時間後に読み上げることになるのだろう。
 ともあれ、その少女がギラーミンの癇に障った。
 彼女は死んだ。殺された。
 この場での脱落とは、すなわちそういうことだ。
 別段、驚くことではない。

 が――その態度が問題である。
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