【天候擬人化】にっしょくたん 2スレ目 (783レス)
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748: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:14 ID:i8J1cQYL(1/7) AAS
忍者がいた。
頭がどうかしたんじゃないかと思われるかもしれないが、自分でもそれを疑っているところだ。長時間霧の山中を彷徨し続けて、何か存在しない物が見えているんじゃないのか?
そう思って目をこすってみたが、やはりそこには忍者がいた。
いや、まあ、ふつう忍者は船の錨を逆さにしたような髪型はしていないと思われるが、それでも総合的に判断して、これは忍者だというのが妥当な線だと思う。
暢気にそんなことを考えているのは、私のそんなに長くもない人生経験には忍者に対する適切なコミュニケーションの取り方の知識など望むべくもないし、そんなことよりかの忍者はものすごい目つきでこちらを睨んでいるのである。怖い。
怖いことにはたいへんに怖いが、幸いにもと言うべきか、悪意とか殺意とか、そういうのまでは感じられない。しかし睨まれていることには変わりないわけで、
つまりもうちょっと怒らせてしまうとどうなってしまうかもわからないわけで、落ち着いて対処方法を考える必要がある気がするわけだ。
さてではまず彼が何故怒っているのか特定するところから初めたいところだが、忍者の逆鱗がどこにあるのかなど知る由もない。
考えられることとしては、――彼がホンモノの忍者であった場合――本来見られてはいけない姿を見られてしまったこと。
そして、そうではない場合としては、人に隠れてコスプレに興じていたら、不意に見つかってしまったか。
省6
749: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:15 ID:i8J1cQYL(2/7) AAS
「え?」
怖いだのなんだのと思う前に、反射的に右腕を差し出すと
「逆だ」
などと言われる。
わけのわからぬまま左腕を掲げると、
「あれ、ありゃりゃ」
服の袖、二の腕のあたりがすぱっと切れている。
どこかの枝にでも引っ掛けたのか、いやそんなもので布がこうもばっさりいくものかいな、というかこの服結構気に入ってるのに、とまで思ったところで、服の下、二の腕のあたりもすぱっと切れていることに気がついた。
「え、何、何で」
切れているのに気付かなかったのもそうだし、それでだらだら血が滴っているのに痛みもないということで、状況が掴めない。
省19
750: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:16 ID:i8J1cQYL(3/7) AAS
獣道、と言うよりか、この忍者が日常的に通っているだけと思えるような、ただの筋のようなところを通っている。
「たまにしか通らん」
……だから、何も言っていない。
「言わでもわかる」
もうやだ。
血はもう止まっている。
どのくらい歩けばいいのだろう。
いや、別にそう長い距離を辿っているわけではないのだが、何というか、気まずい。
忍者相手にどう振る舞ったらいいのか、誰か知っているなら教えてほしい。
沈黙が重苦しいが、忍者相手にどう話しかけたらいいのか、誰か知っているなら教えてほしい。
省20
751: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:17 ID:i8J1cQYL(4/7) AAS
そうこうしている内に、石でできた注連縄が巻かれた苔むした傾いだ鳥居にたどり着いた。その先は小さな石洞になっていて、これはもう東京の雑誌ですら心霊スポットととして紹介されてること請け合いな感じの雰囲気である。これを一言で言うと、怖っ。
石洞の最奥には微かに明かりが見え、あーこれは駄目です潜り抜けたら別の世界に出るやつです。神様がお客のお湯屋とかありそうだよ。
「この奥だ」
「いやいやいやいや、そりゃないでしょ。来る時絶対トンネルなんか通らなかったし。なんか異世界とか行っちゃいそう」
「……いいか、この先は確かにお前の世界だ。心配はいらん。ここではないが、お前は知らずの内に隧道を潜り抜けてしまったのだ」
「……」
「……別に、お前は死んではおらん。まだな」
「……何を」
「そもそも、山に入ろうという恰好ではないな」
「それは、まあ、急にぶらっと」
省10
752: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:17 ID:i8J1cQYL(5/7) AAS
洞穴を覗き込む。矢張り相当深いようで、奥の光は、辛うじて外だということがわかるばかりで、勿論途中にも電灯はおろか明かりになるものは何もない。
「えっと、ここ抜けるんですか……?」
「帰りたくないのか?」
「いや、その……暗くて怖いんで」
「そうか」
何で急にこっちの気持ちを読んでくれなくなるかな。忍者は仁王立ちを決め込んでおり、同道どころか自分はここを抜ける意思もないらしい。
仕方ない、口に出して言おう。
「まったく不躾なお願いだとは思いますが……手を引くなりなんなり、向こうまで連れて行ってもらえはしないでしょうか」
ここで忍者氏、はじめて困惑顔を見せる。
「む……」
省5
753: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:18 ID:i8J1cQYL(6/7) AAS
ふと気づくと、蒲団の中だった。するとあれは夢だったのだろうか。
「お目覚めですか」
和服美人に声を掛けられた。えーと、夢の続き?
「……忍者さんの奥さん?」
薄ぼんやりした頭のまま、そんな言葉が口から溢れると、
「あらまあ」とくすくす笑われる。
「本人が聞いたらさぞかし困るでしょうね」
別の声がして、そちらを見ると、中学生くらいの女の子が針仕事をしている。あれ、どこかでみた服だなあ、と思っていると、それも道理、あれは私の服である。視線を下に向けると、えーとなんて言うんだろう、薄手の和服みたいなのを着ている。
「お洋服に付いていた血は綺麗に落とせました。穴は今、ダイヤさんが繕ってくださっています」
ダイヤ?
省14
754: ◆GAIA///6T. 2017/06/23(金)02:18 ID:i8J1cQYL(7/7) AAS
気絶から醒めたばかりでぼやけた頭の片隅に、お礼を言って辞去した記憶は確かにある。
しかし、あの後きちんとお礼をしようと再度訪ねようにも、どうしても『てんきゅうさん』の家にたどり着けないのだ。
『確かこの辺』の、間違いなく見覚えのある家並の中に、しかし彼女の家は見つからず、生まれて初めて交番で道を尋ねた結果も空振りに終わった。
夢ではないはずなんだけど。
夢ではないはずなんだけど、あの日着ていたあの服は、血の跡なんかどこにもないし、それどころかすっぱり切れた穴を塞いだあとも見当たらない。ダイヤちゃんがよっぽど物凄い腕をしていたのだろうか。
しかしそれでも、夢ではないのだ。何しろ私の二の腕には、まだあの穴が開いている。
だけど、この傷も徐々に塞がってきていて――
もしこの傷が全部癒えたら、そのあとは、一体何があの出来事を証明してくれるのだろうか。
――夢ではないはずなんだけどなあ。
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