【天候擬人化】にっしょくたん 2スレ目 (783レス)
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693: G 2015/12/30(水)00:49 ID:lzPKcFgw(1/16) AAS
 1.
 本日、天気晴朗なれども浪高し。ところによりダイヤモンドダスト。
 日本の国の何処かの町。何かの会社のビルの屋上に立ち、腕を組んで不敵に”下界”を見下ろす少女の姿があった。
 彼女の名はダイヤモンドダスト。諸君らの知るそのダイヤモンドダスト、それが人の形を為したものである。
 普段は同種の存在とともに、この世の傍にあって、しかし此岸の者には容易に立ち入れぬ世界で享楽的に過しているのだが、この時はどういうわけか”下界”に”降臨”していた。
 尤も、人があちらへ訪うには偶然に、不慮に頼らねばならないが、彼女らにとっては散歩も同然の容易さである。日課のように行き来しているものも、人の世に居を構えている者すらいる。
 だから彼女らのこれも日常茶飯の営みかといえば、さにあらず、これは立派なイベントである。
 ダイヤモンドダストが”浸っている”のはそのためだ。
「だいや、まだきはすまないのですか。なにをするきかはしりませんが、てみじかにすませたいです」
 ダイヤモンドダストの後ろに控え、ふわふわと浮かび、悪い目つきで彼女を睨む幼女はにっしょくである。ダイヤにも言えることだが、見た目に反し、その年齢ははかり知れない。
省3
694: G 2015/12/30(水)00:50 ID:lzPKcFgw(2/16) AAS
 所変わって人気のない公園。この辺りは、比較的田舎にあたり、従ってなかなか敷地も広い。
 鞦韆に揺られながら、にっしょくが、
「それで、きょうはなにをするのです」と尋ねた。
 その真っ正面、柵の上に立つダイヤは、ふふんと得意気に笑って、少し勿体ぶって、
「探険をします!」
 と、高らかに宣言した。
 にっしょくは、ダイヤの出で立ちを見ながら、
「……ああ」と呟く。
 もともと彼女らは概念的存在なので、衣装について頓着する必要はない。なのでにっしょくは普段通りの恰好なのだが、ダイヤにすれば、これが人間なら着倒れ必至という程に、ことあるごとに――時に何もなくても――服装を変える。
 今日の彼女は、トレッキングブーツを履いて、チェックのハンチングと吊りズボンでボーイッシュに決めている。少年探偵を気取っているのだろう。
省13
695: G 2015/12/30(水)00:51 ID:lzPKcFgw(3/16) AAS
「だいや」
「なんですか」
「つかれました」
「まああきれた。まだ始めたばかりじゃありませんか」
「わたしはあなたよりほはばがせまいのです。それに、ここさっきもとおりませんでしたか」
 ダイヤは弾かれたように周りを見回す。
「……むしめがねでばかりみているからです」
「うっ……」
 ダイヤは肩を竦めて、
「まあ、こういう場合はさておくとしても、目的があるのに当てども無く彷徨うのはよろしくないかもしれませんね。土地勘があるわけでもないですし……」
省27
696: G 2015/12/30(水)00:52 ID:lzPKcFgw(4/16) AAS
 2.
 蛇の道は蛇。彼の道は藪蛇。
 別に彼が外に居たのに深い意味は無い。
 天気が良く、風が心地よかったので、たまには――実のところ生まれて初めてだが――外で本を読むのもいいか、と気取ってみただけにすぎない。単なる気まぐれだ。
 そんな他愛のない気まぐれのお陰で、彼は茨の道に踏み込む羽目になる訳である。

 この日は休日なので、勿論学校の制服は着ていない。早めに昼食を済ませて、昼には近所の図書館に来た。
前に借りた分を返し、予め目星をつけてあったものと、その他数冊を借りて、早々に帰途についた。自分の家の、自分の部屋で読むのが、最も落ち着くため、今日もそのようにするつもりだったのだが、ふと、そんなことをしてみる気になった。

 聞こえるのは風に枝葉の騒ぐ音ばかり。彼の感覚神経が、視覚に集中しているためだ。後はせいぜい、時折自分の頁を繰る音が交じるだけ。俯き加減の視線には、銀縁レンズに拡大された、活字の彙が入るのみ。
 だから、近づく影には気付いていない。本の世界に没入している。

「ミス・マープル」
省24
697: G 2015/12/30(水)00:53 ID:lzPKcFgw(5/16) AAS
 彼としては明確に返事をしたつもりではなかったため少々弱ったが、ダイヤが完全に決め込んではしゃいでいるのを見て、矢張り気持ちが動いた。元より、どうしても嫌だとする理由は特にない。
「でも、そう言われても、具体的に何をすれば? えっと……」彼はダイヤをなんと呼べばいいのかわからないことに気付き、次いで自分の名前も明かしていないことに気付いた。
「俺、上座一冬」
「かみざいっとう……どんな字をお書きになるんですか?」
 一冬はあたりを見回して手頃な棒を探し、なかったので靴で地面に書いた。
 ダイヤは何処か熱っぽい視線で数秒文字を凝視し、
「探偵さんらしいお名前ですね」等とのたまう。
「たんていらしいなまえってどんなですか」一冬より先に、にっしょくが言う。
「それはほら、金田一耕助とか、神津恭介とか」
「それはたんていらしいなまえではなく、たんていのなまえです」
省29
698: G 2015/12/30(水)00:54 ID:lzPKcFgw(6/16) AAS
 3.
 女三人よれば姦しい。女二人に男一人だと嫐られる。
 BGMはテノールの歌声。曲の名前も分からなければ、歌詞の英語も聞き取れない。一冬、意識してジャズを聞くのも、喫茶店に入るのも生まれて初めてである。ましてやチェーン店ですらない。
 内心、かなり狼狽しているものの、生来の鉄面皮はそれを押し隠してしまっている。
 意識しないとあまり浮かばない表情は、それで得することも少なくないが、損することもしばしばである。今回はどっちだろうな、とぼんやり考えている。
 喫茶店へやって来たのは、無論というべきか、ダイヤの発案である。そんな所へ入ったことのない一冬は尻込みしたが、ダイヤに「勿論支払いは気にしなくて結構です。協力いただくんですから」等と無理やり連れ込まれた。
問題はそこではなく、彼の見栄として、そんな位なら自分が奢りたい、とも思ったのだが、悲しいかな彼の財布には八百円しか入っていない。自分の分だけなら恐らく十分だろうが、そうするのもさもしい気がして、大人しく奢ってもらうことにした。
 それにしても驚いたのは、彼女らの淀みなさである。ダイヤはどう足掻いても同年代にしか見えず、せいぜい数歳の年上、を超えることはないだろうに、喫茶店に入ることにしても、支払いの申し出にしても、気負ったところは見当たらない。
 更に注文に際しても、オレンジジュースを頼んだエクリプスは兎も角として、当たり前のようにブルーマウンテンをオーダーするに及んでは、もうごく慣れているとしか思えない滑らかさである。
一冬も彼女らの如くあらねばならない気がして、迂闊にもエスプレッソなどを注文してしまい、激しく後悔した。差し当たり鉄面皮はこの時はためになっただろう。
省5
699: G 2015/12/30(水)00:55 ID:lzPKcFgw(7/16) AAS
 ダイヤの掲示した条件は、不可欠のものとして、雨風を凌げること、容易には他人に発見されないこと。努力目標として、ある程度の日数以上保つこと、入る時に多少の"手続き"を――ドアを押し開けるよりいささか厄介な――必要とすること。
 要するに、自力ででっち上げるには少々荷が重い訳だ。誰も、特に大人があまり寄り付かない場所に、何かしらの”箱”がなくてはならない。
 真面目に考えている自分に多少呆れつつも、一冬は地図の一地点を指し示した。
 その説明を聞いて、ダイヤは目を輝かせる。目を輝かせるのが得意技なのだろうかと、一冬は思う。

 一冬がエスプレッソを飲み終えるのを待って、三人はその場所へ向かった。
 辺りをきょろきょろ見回しながら先陣を切るダイヤと、犬に跨がり泰然として続くにっしょく。殿は仏頂面の、本人は情けない顔をしているつもりの一冬がつとめる。
彼の思考は大きく二つの事柄に占められていた。ひとつは、このふたりは一体何者なのかということ。謎めかざれば謎めき謎めく謎の存在である。あまりにも掴みどころがない。
 今ひとつは、傍から見て自分たちがどう映るかということである。道往く人もさることながら、知り合いにでも見られた日にはどう思われるか分かったものではない。訊かれても説明できる自信がない。
「いっとう」
「……なに、えっと、エクリプス。……て言うか、君、ほんとはなんて云うの」
省5
700: G 2015/12/30(水)00:57 ID:lzPKcFgw(8/16) AAS
 さてもたどり着いたるは、幼き一冬がかつて秘密基地をつくった、その場所である。
 数年にもなるか、寄りつかなかったその場所の、変わりようと変わらなさに目を細める一冬と、はしゃぎ回るダイヤとにっしょく(それと犬)は、連れのようには見えない。
 それというのは陸橋の裏側である。フェンスの隙間に強引に体を捩じ込むと辿り着ける訳で、中学生ともなると若干罪悪感を感じる程度には不法侵入である。
 だいたい小学生というのは、特に公共の場に関して、そう云うことに無頓着である。当時の一冬たちがそうだったし、当世の小学生にも同様であるらしかった。
 地面に転がった石を足掛かりにして、腕の力で以ってよじ登ると、若干の窪みがあり、天井と三方向の壁を備えた、それなりの広さが確保されている。
「……」
 一冬が完全に状況を理解する前に、ダイヤに催促されて、一冬は手を貸した。一瞬、いくら相手の要望とはいえ、色々と女性を案内するには不適切なところだったか、
などと考えたが、ひんやりとした、しっとりとした手の感触にどぎまぎして、すぐそれどころではなくなった。
「ここですの?」一冬の後ろからダイヤが覗きこむ。
「そう、なんだけど……」こんなに狭かったっけ。
省18
701: G 2015/12/30(水)00:58 ID:lzPKcFgw(9/16) AAS
 4.
 ギムレットを飲むには早すぎる。エスプレッソも、彼にはまた。
 ダイヤとにっしょくが戻ってきた。にっしょくはひとつの紙コップを両手で持って、吹き冷ましている。”うー”はにっしょくを、紙コップを揺らさないよう慎重に歩いているようだ。
 ダイヤはふたつ持っているうち、左手の方を一冬に渡す。彼は例を言って受け取ると、視線を正面に戻した。そのベンチは丁度、沈みゆく夕焼けを向いている。
 ダイヤが一冬の右脇に座る。一冬は中央に腰掛けているので、服が、肌が触れ合い、一冬を少しどぎまぎさせる。ダイヤは、猫舌なんです、といいながら、にっしょくと同じように、ココアを冷ましている。
 一冬はその横顔を、その白い横顔を、その朱に照らされた白い横顔を眺める。
 実は見惚れていたのだが、本人はそれと気付かず、ただ眺めているつもりである。
 やがて、ダイヤがそれに気付き、どうしました、と微笑む。一冬は、いや、別に、などと慌てて、また正面を向く。染めた顔は夕焼けに、照れ笑いは鉄面皮に阻まれて、ダイヤには届かない。

 沈黙。
702: G 2015/12/30(水)00:58 ID:lzPKcFgw(10/16) AAS
「ごめん」
 唐突に、一冬が言った。
 ダイヤはココアを啜るのを止め、首を傾げる。
「何がですか?」
「いや……結局、秘密基地、見つからなかったし」
 それを聞いて、ダイヤは声を立てて微笑む。
「あらやだ。そんなこと、気にしてらしたんですの?」
「え……だって」
「そもそも、こちらが無理にお願いしたことなのに、ずっとお付き合いいただいたんです。謝るなら私達のほうが、いいえ、」
 ぺこり。
省10
703: G 2015/12/30(水)00:59 ID:lzPKcFgw(11/16) AAS
「紙コップ、捨ててきますね」
 空のコップを持って、ダイヤが立ち上がり、一冬の手からもそれを奪う。一冬が声をかけあぐねている間に、ダイヤは歩き去っている。
「に……エクリプス、それちょうだい」
 にっしょくは三秒間静止すると、残った中身を喉に流し込み、容器をダイヤに渡す。
残された三者は、無言。

「いっとう」
 皆既の声に、一冬はたじろぐ。この昏き声が目の前の幼女から発せられたものだとは、一瞬、わからない。
「やめておきなさい」
「……何を」
「これはちゅうこくです。わたしは、あなたのことがきらいではありませんから、みすみすみをおとしこむのをみすごしてはおけないのです」
省14
704: G 2015/12/30(水)01:00 ID:lzPKcFgw(12/16) AAS
「お待たせしました」
「おかえりなさい。だいや、そろそろかえりましょう」
「あら。……そうですね。じき日も暮れるし……」
 ダイヤは一冬の方へ向き直る。
「一冬さん。今日はどうも有難うございました。とても楽しかったです」
「いや……うん。こちらこそ」
 違うだろう一冬。お前が言いたいのはそういうことではない筈だ。そう自分に言い聞かせても――では、何を言えばいいのか?
 本当はわかっているのだが、彼にはその言葉を言うだけの勇気――いや、自信がなく、だから、本人が気付かないうちに、それに代替できる言葉を探しているのだ。
 ダイヤは一冬の右手を取って、両手で握りしめる。
「もう、私たちは行きますが、一冬さんは、私達のこと、忘れないでくださいね」
省3
705: G 2015/12/30(水)01:00 ID:lzPKcFgw(13/16) AAS
 ダイヤが一冬の手を離した。一冬の方から、それを握り直すことはできない。
「そろそろ、行かなくてはなりません。一冬さん、どうかお元気で」
「その前に、いいかな」もう、一冬は殆ど何も考えていなかった。ただ、今を逃せばもう後がないのは分かりきっており、考える前に口が出ていた。
「君たちは……一体、何処から来たの」
 答えるに答えられない質問に、困ったダイヤはにっしょくを見るが、にっしょくはさっきからずっと、真っ直ぐ一冬を見つめている。
 ダイヤも一冬の目を見ると、一冬は強いて返事を請わず、
「……じゃあ。名前だけでも、本当の名前だけでも教えてくれないかな」
 ダイヤは一瞬きょとんとして……いたずらっぽく微笑んだ。
「それは」
 ダイヤはもう一度、一冬の手を握る。
省12
706: G 2015/12/30(水)01:01 ID:lzPKcFgw(14/16) AAS
 一冬は無意識にポケットをまさぐる。あれが夢でなかったという、あるはずもない証拠を探すために。
 そのある筈もない証拠を探り当てたのと、”うー”が吠えたのは同時だった。
「ばう」
 “うー”は、自分の存在を一冬に主張すると、それだけが目的だったかのように、駆け出していった。
 一冬は、ただぼんやりそれを眺めていた。彼女のもとへ辿り着くヒントになるかもしれなかったのにそうしなかったのは、咄嗟にそんなことは考えられなかったせいもあるだろうし、どうせ犬の足に追いつけるはずはないと分かっていたせいもあるだろうし、
今は夢でないと分かれば十分だったこともあるだろうし、あの犬を追っても、彼女のもとへ辿り着くことはないと、なんとなく分かっていたためでもあるだろう。
 一冬は、ゆっくりと、ポケットから手を出した。
 そこには、いつの間にか、六花を象ったペンダントが入っていた。
 何故といって説明はできないが、それはダイヤが呉れたものだと、確信した。
 一冬は、夕日を振り返り、”うー”の駆けて行った道を眺め――微笑みを浮かべると、家路についた。
707: G 2015/12/30(水)01:02 ID:lzPKcFgw(15/16) AAS
「うーん、今日も充実した一日でしたね」
「……」
「どうかしまして?」
「……べつに」
「あ、さては秘密基地が出来なかったから拗ねてるんでしょ」
「しつれいな」
「うふふ、いいのよ隠さなくても」
「……わたしをあなたといっしょにしないでください」
「あら、私は別に秘密基地はいいのよ。探すのは楽しかったのだし。ステキな殿方に巡り会えなかったのはちょっと残念だけど」
「……いっとうは」
省14
708: G 2015/12/30(水)01:03 ID:lzPKcFgw(16/16) AAS
この時機にクリスマスも年末年始も特に関係ないものを投下していくスタイル
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