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【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net (285レス)
【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/
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226: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/01/29(日) 14:32:33.30 ID:GMTgkTY0 氷粒の煌めきと共に銀髪に青目の妖怪としての姿になり、その手に氷の錫杖が現れる。 変身ヒロインものではメイクアップ!という掛け声があるが、コイツの場合普段の方が化けた状態なのであれとは逆である。 杖を出す事に一見特に意味はなさそうだが、気分で妖力が変動したりもするノエルにとって絵面は重要なのだ。 ちなみに以前魔法少女風のステッキを出して黒雄あたりからブーイングを食らったことがあるとかないとか。 「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」 杖を一振りし、まずは蹴りを攻撃手段とする祈の靴に向かって、氷の妖力の付与―― 靴の裏に霊的な氷の棘が現れ、妖力スパイクのようになるだろう。 他の人にも、こんな感じで任意の武器に付与できるはずだ。 祈はいったんコトリバコを攻撃しようとするも、何かを思いついたらしく近くの店に入っていった。 皆それに特に疑問を持つことはない。 ベースが人間であり妖怪としての性質や凝り固まったセオリーに縛られない祈は、武防具を現地調達したり 「ゲームならシステム上できないよね!?」という行動を取って事態を打開することが度々あるのだ。 祈がいない間、こちらはとりあえず普通に戦う事とする。 「――アイシクルエッジ!」 無数の巨大な氷柱を撃ちこむ連続攻撃。 ちなみに技名のようなものは大抵ゲームからのパクリでありノエル的感覚でなんとなく格好良ければ何でもよく、単に掛け声のようなものである。 せめて和風ファンタジーから取れよ!と思うが何故か派遣主からしてどう考えても北欧の人だし仕方がない。 このままいけば「ケ枯れ」に持ち込めるのは時間の問題だと思われたが、早くも橘音の息が上がり始めた。 >「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」 「いや、知ってるし囮やめろよ! 品岡君、体だけ女になって囮交代してあげて!」 祈が体どころか下半身の一部分だけ男にして男判定を受けているのだからその逆も真とは思うのだが…… 顔がヤクザのままで体だけ女になったとしてそれをコトリバコが女と認めるかは――甚だ疑問である。 更に事態は最悪の展開となる。 >「ま……、まさか……!」 「そのまさかみたいだね……!」 コトリバコが仲間を呼んだのか知らないが、コトリバコBCDFGHI、もとい1から7までが一挙に現れた! 「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!! 敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/226
227: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/01/29(日) 14:36:54.26 ID:GMTgkTY0 というのも、囲まれたら、前を黒雄や祈に任せて自分は後ろから攻撃に専念という盤石の布陣が取れなくなるから困るのだ。 しかも敵がなまじ知能がある奴だったりすると 「あいつ味方の強化とか強い妖術攻撃とかしてきてウザいし見た感じヒョロそうだから先にやっちまおうぜ!」 となるのが鉄板である。 >「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」 とにかく、このままでは数秒後に橘音が集中攻撃を食らう展開が目に見えている! ノエルは、橘音のイマイチ分かり辛いながら本気で助けを求める呟きに、高らかな詠唱で応えた。 詠唱してる暇があったらさっさと発動しろよと思われそうだが、通常の氷柱カッキーン等は一瞬で発動できるが、大技にはそれなりの溜めが必要なのだ。 「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。 身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」 途中で明らかに噛み、やばっ!という顔をしたが、強引に押し切る。 「エターナルフォースブリザード!!」 妖力を解き放つと、8体全てのコトリバコを氷雪の嵐が襲う。 詠唱をすることで日本全国津々浦々の厨二病患者のパワーを集めることができ 詠唱が長い程その効果は増大するとは本人の語るところであるが、真偽は定かではない。 パソコンやスマホの前の我こそはと思う良い子の厨二病患者のみんなはパワーを送ってあげよう! 今まさに橘音にとどめを刺そうとしていたハッカイのコトリバコの動きが止まる。 8体のコトリバコが全て周囲の空気ごと凍り付いていた。 「だから言ったじゃん! 囮なんてもうやめて!」 橘音の前に出て、氷の杖を消して代わりに両手に大小の刀を顕現する。 二刀流である。もう一度言おう、二刀流である。 ところで、ボスに即死攻撃無効は常識だ。 普段なら並み居る雑魚を一掃する厨御用達のチート攻撃も、コトリバコの前ではせいぜい一定時間氷結させる程度である。 5秒もしくは3秒、いや1秒は持ったか―― ガラスが割れるのにも似た音と共に氷が飛び散り、まず最高位のハッカイの氷結の状態異常が解除される。 しかしメンバー全員が揃うまでの時間を稼ぐには十分だったようだ。 >「悪いね。ちょっと席外しちゃって」 祈が大量の布を持って現れた。彼女がごめんと謝るのを聞いてしまったノエルは呟く。 「いいよ、躊躇わなくていい」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/227
228: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/01/29(日) 14:40:44.79 ID:GMTgkTY0 ノエルは少しも妖壊を攻撃するのを躊躇うことは無い。彼は何故か確信しているからだ。 《妖壊》が自分を滅した相手に最後に抱く感情、それは―― 山よりも高く海よりも深い、感謝という言葉では言い表せない感謝だと。 全くもっておめでたい思考回路である。 布を纏った祈は、ハッカイの両足を人知を超えた蹴りで吹き飛ばす。 両足が無くなっても浮遊しているので動けないわけではないのだが、それでも機動力はかなり落ちたはずだ。 中学か高校ぐらいの物理の計算をすると祈のキックがどれほど凄いのかが具体的によく分かるのだが ノエルに物質世界の学問の代表格である物理の理論なんて分かるはずもなく、単純に「祈ちゃんのキックは超凄い」と思っている。 その確固たる物理学の理論に裏付けされた超凄いキックに ノエルの完全スピリチュアルワールドなよく分からない謎パワーが付与されているのだから、それはもう最強というものだ。 例えるなら、年末のしょうもない番組でお馴染みの大槻教授と韮澤さんがタッグを組んだようなものだ。 >「御幸っ! お願い!」 祈に決め手を託されたノエルは、すっ――と少し目を細める。 世界の裏に焦点を合わせる、この世ならざる世界を見るような目つき と言えば恰好よさげだが、平たく言えば3D画像を見る時のような感じだ。 祈が普通に目に見える継ぎ目を狙ったことからヒントを得て、霊的な継ぎ目を見ているのだ。 そうしてみると、それは想像以上に継ぎ接ぎだらけの代物であった。 「見切ったあ!」 祈の持ってきた布を投げて相手に覆い被せ、氷の刃を閃かせて地面を蹴って跳ぶ。 物質世界の純粋に化学的な強酸はノエルには効かないが、《妖壊》の出すそれは厳密には”強酸のようなもの”。 当然ながら霊的な性質も持っている。 それに服が解けて予期せぬサービスシーンになったら困るのだ。本人大騒ぎするわ需要は無いわで誰も得しない。 一閃、二閃――無数の剣戟が閃く。一見適当に見えるが、継ぎ目を余すことなく斬っているのだ。 カーテン一枚ぐらいなら挟んでも継ぎ目を見るのに支障はないらしい。 空中で制止したり方向転換しているように見えたとしても多分気のせいではない。 「店長!その動きは!俺らには出来ません!」を地で行く物理法則を無視した動きだ。 しゅたっ――と、はらりはらりと舞い落ちるカーテンの破片と共に着地。 普通はこのパターンは後ろで敵が爆散するものだが―― http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/228
229: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/01/29(日) 14:44:46.28 ID:GMTgkTY0 「あれぇ〜? おっかしいなあ〜」 特に相手の見た目に大きな変化はない。しかし言葉とは裏腹に予想の範疇である。 霊的3D視が出来る者には分かるだろう、実は見た目以上に不可視の切り込みが刻まれ首の皮一枚で繋がっている状態。 あと一発衝撃を加えてやればバラバラに砕け散るかもしれない。 が、見た目にはよく分からない致命傷を与えられて怒ったのかもしれないハッカイにターゲットロックオンされてしまった。 「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」 体当たりを辛うじて避ける。相手の足があるままだったら余裕で死んでたな! 後衛が調子に乗って前に出てくると碌なことにならないのだ。 「たーすーけーてー!!」 と叫びながら、追いかけられながら何故か黒雄の方に猛ダッシュ。 クロちゃんなら!クロちゃんならなんとかしてくれる!と思っているらしい。 駄目だこりゃ! 少なくとも祈から見たらただの間抜けにしか見えない! http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/229
230: 創る名無しに見る名無し [sage] 2017/01/30(月) 00:54:03.71 ID:ljciiA5V 間抜けにしか見えないっつーか もっと分かりやすい文章書こうな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/230
231: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/01(水) 23:59:30.04 ID:YuWHVBN9 >「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」 「そいつぁすまねぇな。お詫びに、お前さんの葬式は俺の所で挙げてやるぜ。特別価格の2割引だ」 三人に護符を渡した尾弐は、ムジナの軽口と祈とノエルの礼に対して右手をヒラヒラと振って答えると、 そのまま歩を後ろに進めて壁に背を預ける。 ――――と。 そんな鬼の元に、何か含みの有る笑みを讃えた那須野が近づいてきた。 「……ん? 那須野、どうした?」 これまでのブリーチャーズの活動において、那須野その表情を度々見てきた尾弐は、 半ば獣じみた直感により微妙に距離を取ろうとする。 だが、那須野はそれよりも早く尾弐の傍に寄ると、爪先立ちで耳元に口を寄せ >「クロオさんのそういうところ。好きですよ」 「!?」 ――そう、小さく囁いた。 唐突に放たれたその発言を受け、硬直する尾弐であったが……暫くすると小さく息を吐き、 困った様に右手で頬を掻いてから口を開く。 「あんがとよ。オジサンも大将のそういう所、気に入ってるぜ」 どうやら、尾弐の隠し事は聡明な狐面の探偵にはお見遠しであったらしい。 那須野の言葉でようやくその事を理解した尾弐だが……それでも小さな意地があるのだろう。 隠し事の内容を己の口からは語らず、ただ、那須野が己の隠し事について無遠慮に触れ回らないでくれた事への礼を述べた。 ……尚。複数の意味で取れる言葉に対し、尾弐が額面通りの部分以外に触れなかったのは、 青い勘違いをする程に若く無いと自負しているという事もあるが、 それ以上に現在進行形で尾弐の方へと指を刺し、意地悪気な笑みを浮かべている一名。 こういったやり取りで妙な盛り上がりを見せそうな、種族が雪女である妖怪を懸念しての事であった。 >「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで〜」 「……やべぇ。早々に、前言撤回したくなってきた」 余談ではあるが、その後に那須野の主導によって行われた呪式歩法『禹歩(うほ)』の練習に際して、 尾弐が自分の足を自分で踏んで横転する程にダンスのセンスが壊滅している事が判明したのだが、それはまた別の話である。 閑話休題。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/231
232: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/02(木) 00:00:23.22 ID:/PrPsy7k 稲城市、某所。常であれば親子連れでにぎわうその商店街は、今や死地と化していた。 鳴り響く救急車両の甲高いサイレンと、血に塗れ倒れ伏した数多の女性の死体。 その死体に縋り付いて慟哭の声を上げる、伴侶と思わしき男性。 或いは、死という概念が理解出来ず死体と化した母親を必至に起こそうとする少年。 そして、その凄惨な光景を、掲げた携帯電話のカメラで修めようと躍起になっている野次馬達。 むせ返るような鉄と吐瀉物の臭いの中で繰り広げられるその情景は、正しく阿鼻叫喚。 此処は、地獄に在らずにして地獄で在った。 そして、そんな地獄の一丁目。 血の赤で染まった修羅の巷を奥へと進む、珍妙な集団がここに一つ。 時代がかった服を来た、正体不明の狐面。 人外の美貌を持つ色白の青年。 胡散臭さを隠しもしない、色眼鏡を掛けたチンピラ。 不謹慎にも喪服を着こむ、猛禽の様な目をした巨躯の男 そして、その集団の中において、常識的な恰好をしているが故に逆に視線を集める中学生。 彼等の名は、漂白する者達(ブリーチャーズ) 眼前の地獄を払拭する為に、敢えて地獄に踏み込んだ、勇敢な愚か者達である。 「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」 そのブリーチャーズの一員である尾弐黒雄は、那須野の術により潜入を果たした商店街を歩きつつ、 右手で口元を抑え眉を潜めて周囲を見渡す。 尾弐の視界に映るのは、荒れ果て床に散らばった商品と、無数の血溜まり。 ……そして、放置されている幾つかの女性の死体。 恐らくは、救助活動の初動で運び出されず、毒ガステロの可能性を考慮した警察によって 現場が封鎖された事で取り残されたのだろう。 助けを求める様に前に伸ばされた彼女達の腕は、けれどもう動く事は無い。 「嘔吐に下血、腹部破裂の上に腐乱臭……どいつもこいつも内側から腐らされてやがるな。 まさか、奴さんは胎内に『戻ろう』とでもしたのかね」 死体の幾つかを見聞していた尾弐は、死体の瞼を右手でそっと閉じると、 そう見解を述べて腰を上げた。と、その時 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/232
233: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/02(木) 00:01:12.30 ID:/PrPsy7k >「た……、た、助けて……。助けて……ください……」 尾弐達の進行方向の先に在る薬局の中から、フラフラと白衣を着込んだ女性が歩き出て来たのである。 やはり呪いに侵されており、その衣服は赤色で染まっているが……それでも女はまだ生きていた。 「ちっ……!」 けれど、尾弐がその女を助ける為に動く事は無かった。 むしろ小さく舌打ちをしてから右腕を横に伸ばし、一同に背中を見せて壁となり、 女の元へ寄る事を制止をしてみせたのである。 >「……この妖気!皆さん、来ますよ!」 >「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」 >「祈ちゃん、見るな!!」 そしてそれは、尾弐が眼前の女性がもはや助からないと判断したが故の事。 そう。女はまだ、生きていた――――けれど、もう手遅れな程に呪詛に侵されてしまっていたのである。 やがて、女の腹は腹にガスの溜まった死体の様に弾け飛び……新たな血溜まりとなったその足元に、コロリと小さな箱が転がった。 >「付喪神化していますね」 尾弐達の見守る前で、カタカタと人の手を借りずに解かれていく小さな箱。木製のパズルボックス。 だんだんと大きくなる嬰児の泣き声に比例して回転の速度を増していくソレは、絶叫の様な泣き声が最大になった所で、 ピタリとその動きを止める。 そして――――――― >オギャアアアアアアアア!!!!!オギャアアアアアアアアアアア――――――――――ッ!!!! 断末魔の様な泣き声と共に湧き出た其れは、尾弐の身長に倍する巨躯を持つ、赤ん坊の形をしたナニカであった。 全身から体毛の様に四肢を『生やした』その不気味な姿は、或いは、人の死体を粘土の様に捏ね繰り回せば同じような物が作れるかもしれない。 絶えず両目から血を流すこの異形を作り出したのが、素材と同じ人間であるという事は、悍ましいという他無いだろう。 そして、その異形の赤ん坊は首を振り周囲を見渡すと >「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」 ブリーチャーズのリーダーである那須野を標的と定め、襲い掛かってきたのである。 尾弐はとっさに動こうとするも、コトリバコの異形の動きはその巨体からは考えられぬ程に素早く、あわや激突すると思われたが >「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」 驚くべきことに、その突撃は那須野がその手に持ったマントによって、コトリバコの異形は勢いのまま壁へと衝突する事となったのである。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/233
234: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/02(木) 00:01:49.54 ID:/PrPsy7k 「ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将」 尾弐は、那須野が無事にコトリバコの怪異を往なした事を確認すると、 その無茶な行動に対して苦々しい表情を浮かべたが……けれど、それを止める事はせずに、那須野の指示に対して是と答える。 それは、長い付き合いであるが故の、尾弐からの那須野への信頼であると言えよう。 頭脳労働担当である那須野が『囮となる事が出来る』と言った以上、それは可能な事なのだろうと、尾弐はそう判断したのである。 >「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」 だが、それはそれとして那須野の行動が無茶な事には変わりない。 尾弐が知る限り、彼の探偵は荒事向きではない為、ノエルが心配するのもまた当然と言えよう。 「そう思うなら、さっさとアレをどうにかしようぜ色男。 目立つ間もなく凍らせて砕いてかき氷みたいにすりゃあ、那須野の出番も無くなるだろ」 故に、尾弐はノエルの言動を否定する事も肯定する事も無く、 ただ、コトリバコの異形へと近づくと右腕を振りかぶり―――― 「うおっ……!?」 しかし、拳を当てるその直前。ボコリと異形の赤ん坊の皮膚が盛り上がったのを見て、尾弐は後ろへ大きく跳躍し距離を取った。 そうして距離を取ってから見てみれば、先ほどまで尾弐が立っていた場所に濁った水溜りの様な物が出来ており ――――その水溜りが、煙を上げてアスファルトを溶かしていた。 「おいおい……触れたらアウトかよ。面倒くせぇ仕様だな」 尾弐と同じくコトリバコの溶解液の特性を見抜いたと思われる祈が攻撃を中断し、店舗の中へ入って行くのを横目に捕えながら、尾弐はそうぼやく。 幸い、今はノエルが氷による遠距離攻撃を放っている事でコトリバコの動きは封じられているが……それも長くは持たないだろう。 >「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」 端的に言うのであれば、囮役を果たしている那須野の体力が限界だからである。 >「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」 「なぁ……もっとこう、気合の入る掛け声にできねぇのかソレ。あと、ムジナの女装を推すのは止めろ。 想像しただけでさっき食った魚肉ソーセージ全部吐きそうだ」 恐らく、囮としての那須野はあと何分も持たない……故に、決着を早期に付けるべく、尾弐は道に設置されていた 一時停止の道路標識を右手で掴むと、地中深くに埋め込まれ固定された其れを、まるで雑草か何かの様に軽々と引き抜いた。 直後、その道路標識に掛かるのは、気の抜ける掛け声で放たれたノエルの術による強化。 呪氷を纏った道路標識はまるで巨大な金棒の様な形状と化し、それを右腕に持つ尾弐は、 コトリバコの怪物に向けて氷の棘を纏う道路標識を――――何の躊躇いも無く、横薙ぎに払った。 人外の膂力を持って放たれたその攻撃は、風切り音と共にコトリバコの怪物の頭部へと向かう。 それは、そのまま直撃すれば石畳に落ちた柘榴の様に怪物の頭を破砕できる一撃である。だが 「ちっ、その巨体でなんて速度してやがる」 尾弐の一撃を、コトリバコの化物は恐るべき速度で首を後ろに引く事で回避して見せた。 それでも完全には回避出来なかったのか、尾弐の一撃は怪物の下顎の一部を吹き飛ばし、 肉片を壁のオブジェと化す事に成功したのだが…… 「……オーケー、この程度はダメージの内に入らねぇってか」 尾弐の与えた傷は、傷口から小さな手足が無数に生え、蠢き結合する事で塞がってしまった。 コトリバコの特性を目の当たりにした尾弐は、再度道路標識を構え―――― http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/234
235: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/02(木) 00:02:39.15 ID:/PrPsy7k >オギャアアァアァアァアァアァァァァ…… >オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……!!! >「ま……、まさか……!」 「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」 けれども、状況はここで悪化する。 コトリバコの怪物がその口腔から垂れ流す泣き声。それが、いつの間にか『増えて』いたのだ。 其れも、一つ弐つではない。 増えた泣き声は――――合わせて七つ。 >「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」 >「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!! 敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」 「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」 増えた怪物達。八体のコトリバコの怪物は、現れて早々に即座に尾弐達を敵対対象と認識した様である。 そして、同じ呪具であるが故にその行動指針も似通っているのだろう。 コトリバコ達は……那須野へと群がる様に、うぞうぞと進み出した。 >「エターナルフォースブリザード!!」 幸い、その急襲はノエルが放った謎の名称の大規模術式による氷結で食い止められたが、 相手は巨大な呪詛の塊。そう時間は稼げないだろう。 現に、最初に遭遇したコトリバコを包む氷は、既に罅割れている。 その状況を見て現状では勝ち目が薄いと判断した尾弐は、コトリバコの群れを睨みながら、静かに口を開く。 「……分が悪ぃな、こりゃ。那須野、ノエル、ムジナ。ここは俺が食い止める。祈の嬢ちゃんを見つけ出して逃」 だが、尾弐がその言葉を言い切る直前。一人の少女の声がその場に響いた。 >「悪いね。ちょっと席外しちゃって」 「祈の嬢ちゃんか。調度良かった……って、何だよその恰好は」 現れたのは、先ほど商店街の店舗の一つに入って行った多甫 祈。 彼女は遮光カーテンを全身に纏い、更に脚に巻き付けた状態でその場に現れたのである。 あまりに意外なその様相に、真意の読めない尾弐の口からは思わず呆然とした声が漏れる。 だが、それも一瞬。祈が行動を開始するまでの事であった。 祈は先ほど犠牲になった女性の顔に布をかぶせると、助走を付け―――― >「……ごめんな」 一言。様々な感情が籠った謝罪の言葉と共に、ブリーチャーズにおいて最速を誇るその脚力で、 コトリバコの怪物の両脚を、破砕してみせたのである。 当然、直接打撃を放った祈に強酸性の液体が降り注ぐが、纏った布がそれらを全て遮断する。 道具を使い、工夫し、敵対者を凌駕する。 それは、祈という少女……否。人間という生物の持つ強さであり、何の努力も無く優れた能力を持つ 妖怪では通常至らぬ発想であった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/235
236: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/02(木) 00:03:01.81 ID:/PrPsy7k そんな祈を見て、尾弐は思う (ああ――――弱くて、脆いな) それは侮蔑でも罵倒でもない。尾弐という妖怪が抱いた、ただの感想である。 弱さを補う戦い方も、敵対している妖壊に抱く懺悔の心も、尾弐は持っていない。 弱さは強さで塗り潰す。 鬼という種族にはそれが出来る性能が有った。 妖壊に対する慈悲の心も無い。 例えどの様な理由があれ、殺人を犯した存在は許される事は無く、救われる必要も無く、 ただただ地獄の底まで落ち込むべきだと、尾弐はそう考えているからだ。 そうであるが故に、己の弱さを認め敵対者への憐憫の心を持つ祈は、尾弐にとっては脆弱な存在であり。 そうであるがこそ、尾弐にとっては目を背けてしまいたくなる程に、眩しい存在であった。 僅かな放心。 けれど、その間にも状況は前へ前へと進んでいく。 気が付けば、眼前には叫び声を上げるノエルと、迫り来る両足を失ったハッカイのコトリバコ。 それを認識した尾弐は、何かを振り払うように舌打ちをすると、右腕の道路標識を高く振り上げ、 ノエルの攻撃により脆弱化しているコトリバコへと振り下ろすが 「な、ぐがっ―――!?」 オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……アア……キャハハハ……!!! その直前、鬼の左側部へと『投げつけられた』軽自動車によって吹き飛ばされ、そのまま軽自動車と一緒に 店舗の壁に叩きつけられる事となってしまった。 「っ……て、めぇ……ら……そうかい……そうかよ」 妖怪ですら耐えがたいその一撃を受けて、額から血を流す程度のダメージで済んでいるのは、種族としての頑強さが故。 だが、尾弐への攻撃はこれで終わりではない。 尾弐へ車を投げつけてきたのは、ノエルの凍結より復活したコトリバコ。『ニホウ、サンポウ』 そして、今現在。 激突地点を予測し待ち伏せていた『シッポウ』が、今まさに尾弐へと強酸性の液体を纏った拳を振り上げているのだ。 それら3体のコトリバコは、血の涙を流しながら――――「笑って」いる。 尾弐を殺す為に戦略を立て、商店街に入る前から尾弐の『左腕が全く動いていない』という弱点を見抜き、 ただ暴れるハッカイのコトリバコを囮にして自身達から視線を外し。 自分たちの意志で。その知性を尽くし。尾弐を殺す算段が立ったと思い、嗤っている。 そのコトリバコ達の笑顔をみた尾弐は、苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。 「苦痛の果てに……本物の怪物に成り下がりやがったな……ガキ共……!」 そんな尾弐をあざ笑い、拳を振り下ろす『シッポウ』のコトリバコ。 尾弐は、その拳が自身に振り下ろされるまでの間に、大気を震わせわせる怒号の様な声を挙げる。 「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!! テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」 そうして。その声を断ち切る様に、シッポウの拳は尾弐へと振り下ろされた。 更に『ニホウ』及び『サンポウ』が野生の猿の様に、素早く尾弐の方へと群がって行く。 那須野を狙う為の障害になるであろう尾弐を、確実に始末する為に。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/236
237: 創る名無しに見る名無し [] 2017/02/05(日) 21:41:27.55 ID:6xaCxAXX ここが廃れたのは誰のせい? http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/237
238: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:54:36.55 ID:J3g7vBWU 品岡の施術、尾弐の護符、二段構えの呪詛対策はこれで完了した。 少なくとも今日のうちに祈がコトリバコの標的になることはあるまい。そう言い切るだけの信頼を彼ら同士が持っている。 ならば事態は巧遅よりも拙速、あとは出撃を待つばかり―― >「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」 >「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」 >「皆さん、踊ってください」 橘音の提案した最後の対策、その突拍子もない言葉にブリーチャーズは異口同音に困惑した。 しかし橘音は都合4つの沈黙も意に介さず、大真面目に謎ステップを踏んで追従するよう促してくる。 アキレス腱がよく伸ばせそうな足の動きは一見珍妙のようで、軽やかに踏み切れば確かに舞踊と言えなくもない。 >「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで〜」 「よう分からんけど任しといてください。このムジナ、こう見えて踊りは得意でっせ。 バブルの頃はクラブでブイブイ言わせたもんですわ!」 当時の流行曲を鼻歌しながら上機嫌に足を捌き、無意味に腰の振りまで加えるヤクザ。 言われた通りに足踏みして、陰陽師の使いっ走りはようやくその動きに見当がついた。 (めっちゃ我流にアレンジされとるけど……禹歩やこれ) 歩幅や歩調、足運びに呪術的な意味を持たせて簡易的な儀式とする陰陽師の歩法だ。 陰陽師や呪術師はその一挙手一投足全てを呪術とする。 方変えと言って外出時に踏み出す足や家を出る方角にまで意味付けを行い、ものによっては殆どこじつけにすら近い。 逆に言えば、そういった小さな小さなまじないの積み重ねこそが術師の力の源とも言える。 禹歩などはその最たる例で、元は神事の際の行進に意味付けして呪術化したのが始まりであった。 不合理の極みに思える足踏みは時代を経て洗練され、より実践的な価値を持つ術式体系を確立した。 熟達した禹歩の使い手は橘音の示したような結界のみならず、さながら兎の如く空間を跳躍することさえできると言う。 例えば「う〜っトイレトイレ」と公園の便所へ急ぐ際にも目的地まで一瞬で移動しベンチのいい男に遭遇しないことも可能! >「禹↓歩↑……? え、違う? 禹↑歩↓?」 そこまで考えて、自分がノエルと同じ思考レベルにあったことに品岡は愕然とした。 「ようこんな骨董品引っ張り出しましたなぁ」 禹歩は強力な歩法だが、本来焼け石の上を歩くような過酷な訓練と修練の末に身につける高等呪術だ。 その習得の難易度故に、本職の中でも完全に扱える者はごく僅かだ。 橘音が教えたこの禹歩にはムジナがかつて目にした本職陰陽師達のような複雑さはない。 効果は限定されているが、代わりに術の素養のない者でも発動できるようになっている。 古式の呪法を尊重しつつも、必要十分な要素を抜き出して新たなまじないに編纂する技術。 確かなる呪術的知見と、既存の観念に囚われない柔軟さを持った存在。 化かし系本家、妖狐の落とし子、三尾の名は伊達ではないということだ。 急場しのぎの付け焼き刃――しかし研ぎ澄まされたそれを全員が覚え切る暫しの間。 尾弐のどじょう掬いのような踊りにゲラゲラ笑っていたムジナが再び視線でぶん殴られる経緯を経て、 ようやく全ての準備は整った。 >「では――。東京ブリーチャーズ、アッセンブル!!」 「ノリノリですな坊っちゃん」 かくして、東京ブリーチャーズは出撃する。 ● ● ● http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/238
239: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:55:18.67 ID:J3g7vBWU 直近の被災現場、東京都稲城市はまさに震源地の如き地獄絵図を展開していた。 各所を封鎖する黄色いテープ、ひっきりなしに往復する救急車と警察車両、倒れた母を呼ぶ子供の鳴き声―― 安全帽にサージカルマスク姿でカメラを抱えるマスコミが、路肩の野次馬に矢継ぎ早に質問を投げかけている。 道中で確認したSNSでは、現場の惨状が加速度的に広められており、早いものはYoutubeにすら動画が上がっていた。 >「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」 血反吐と吐瀉物にまみれたアスファルトを踏み締め人の海の中を行く、五人の男女達。 妖狐、ターボババァ(孫)、雪女(男)、鬼、のっぺらぼう(元)のオカルトリカル・パレード。 橘音の幻術によって警察の案内を受けるブリーチャーズに、野次馬達のカメラは集中する。 「おうおう!なに撮っとんねや!見せモンちゃうぞゴラアアアア!!」 最後尾に引っ付いていたいかにもヤクザな人相の悪い男が唾を散らしながら野次馬たちに食って掛かる。 異常事態に遠巻きに沸いていた見物人達が、汚物を見るような目でカメラを逸らした。 >「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」 >「くっ……凄いプレッシャーだ……!」 「救助活動もあっちの方は難航しとるみたいや。原因不明の発信源に迂闊に近付けられんのやろな」 血溜まりだけを痕跡とする現場から、奥へ向かうに従い遺留品が目立ってきている。 おそらく被害者の搬送だけを優先して回収しきれなかったもの達だろう。 路肩に止まった軽自動車のダッシュボードに貼られた幸せそうな家族写真が、赤黒い液体に染まっていた。 そしてついに、運び出すことさえ叶わなかった死体さえ散見し始める。 >「嘔吐に下血、腹部破裂の上に腐乱臭……どいつもこいつも内側から腐らされてやがるな。 まさか、奴さんは胎内に『戻ろう』とでもしたのかね」 「ぞっとせん話ですな。連中が単に使役されとるんやなく自由意志があるとしたらもう手がつけられまへんで」 無感情に死体を眺めていた品岡はそう零した。 300年も生きていればいい加減人の死体は見慣れている。それを自分の手で作り出したこともある。 これよりももっと酷く壊された人体など、戦時中に傍で飯が食えるくらい見てきた。 不条理な死に憤りを感じるほど品岡は若くないし、憤れるほど真っ当な生き方をしてるわけでもない。 しかしそれでも、いつまでたっても、この目の奥を焦がすような疼痛には慣れなかった・ >「た……、た、助けて……。助けて……ください……」 前方の薬局から人影がまろび出た。 白衣を着た中年女性、しかしその白衣は既に赤黒く染まって元の色が分からない。 生存者、とは言えなかった。"まだ"死んでいないだけの者をそう呼ぶことはできない。 しかしブリーチャーズはそう割り切れる老人だけの集まりではなかった。 >「ちっ……!」 尾弐が短く舌打ちして一同の前に出たのは、女性に駆け寄らんとする祈の動きに気付いたからだろう。 品岡もはっとして祈の背中に声を掛ける。 「あかん、寄るな嬢ちゃん!」 >「……この妖気!皆さん、来ますよ!」 次いで橘音の警告、それはすぐに現実のものとなった。 女性の腹部が焼いた餅のように膨らみ、血潮を撒き散らしながら破裂した。 耳をつんざくような断末魔が木霊する。 >「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」 >「祈ちゃん、見るな!!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/239
240: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:55:43.65 ID:J3g7vBWU 橘音の声に足を止めた祈を、ノエルが素早く抱き寄せる。 彼らの足元数メートルの位置までの地面が赤黒い死の色に濡れた。 「"中"になんか居るで!」 破裂の勢いか、はたまた自ら跳躍したのか――原型を留めぬ亡骸のかたわらに、一つの小箱が落ちた。 複雑な木目で織られたそれは、寄木細工と呼ばれる工芸品だ。 一見してただの薄汚い小箱であるが、頬を叩くような圧力を伴う凄まじい妖気がそこから放たれていた。 >「付喪神化していますね」 「あれが鞍馬山からパクられたっちゅうコトリバコの本体でっか……!」 似たようなものを退魔した経験がある品岡だが、"あのクラス"の呪物と対面したのは初めてであった。 コトリバコの最上位、『ハッカイ』。人間の悪意の凝集物。村一つを皆殺しにした本物の霊的災害。 永年封印指定のそれが、自我を持った付喪神と化している。考えうる限りの最悪の事態だった。 コトリバコの中から地獄の底から響くような赤子の鳴き声が轟いた。 見えない糸に吊られたように箱が宙に浮き、ひとりでに細工を解いていく。 スライドし、回転し、さながら橘音が弄んでいたルービックキューブのように形を組み替えていく。 やがて匣は開かれ、封印されていた"中身"が顔を出した。 巨大な赤子――人間の身体を無理やりつなぎ合わせたような、幼きフランケンシュタイン。 身体の随所から節足動物の如く幼児の手が蠢き、継ぎ接ぎだらけの顔面からは滂沱の血涙が河のように流れている。 店舗の二階に頭と届かせんばかりの巨躯が、ブリーチャーズの眼前に出現した。 「なんやこれ……これがヒトの創り出せるもんなんか」 コトリバコの付喪神。実体を得た悪意。その本質は、誰かを呪わんが為に創作された妖壊だ。 ならばこれは、作り手が描いた怨嗟の形に他ならない。 この醜悪な姿は、コトリバコを生んだ者の憎悪の重さを表している。 「どう生きとったら、こんな絵図が描けるっちゅうんや……!」 >……オギャアアアアアアアアア――――――ッ!!!!オォォオォォオオオ!!!!! 赤子の鳴き声から雄叫びへと変遷した咆哮が、ビリビリと大気を震わせる。 品岡が冷や汗にまみれた背筋を伸ばすと同時、コトリバコは巨体に似合わぬ速度でこちらへ突進してきた。 品岡は一歩、祈の前に出るようにして踏み出す。 性転換は完璧に施術した。それでも未だコトリバコが男女を区別する基準は曖昧なままだ。 真っ先に狙われるとすればやはり見た目からして女の祈であろう。瞬時にそう判断して品岡は動く。 >「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」 だが毒牙の向かった矛先は――橘音。 彼はマントを翻し、大型ダンプの追突にも等しいコトリバコのチャージを弾き返した。 (嬢ちゃんじゃなくて橘音の坊っちゃんを狙ったんか、今――?) 祈を男体化した今、コトリバコが男女を認識するとすれば外見の可能性が高いと品岡は踏んでいた。 祈は妙齢の色香とは無縁であるものの、二次性徴を迎え既に女性らしい顔立ちになりつつある。 品岡にそういう趣味はないが、夜の商売でも引く手あまたであると思えるぐらいには可憐な容姿だ。 その祈を差し置いて、橘音に牙を向けた理由。 品岡と橘音の付き合いは妖怪の尺度で言えばまだ浅いが、それでも十年二十年では効かない長さではある。 初めて会った時――『御前』の取り持ちで顔をあわせた際も、品岡は橘音の性別が分からず不躾な質問をぶつけた。 答えはうまいことはぐらかされたが、妖怪にとっても仕事人にとっても性別などどうでも良いので特に追求はしなかった。 便宜上、服装から『坊っちゃん』と呼び男として扱うことで彼なりの落とし所を見つけたのだ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/240
241: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:56:11.25 ID:J3g7vBWU >「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」 橘音はそう皆に指示した。囮。つまり彼はコトリバコの攻撃が自分に向くと認識している。 攻撃される理由に、心当たりがあるのだ。 (ようそんなんで嬢ちゃんに駄目出ししたなぁ。自分が一番危険やって分かっとるんやないか) 橘音の――彼か、彼女か――その秘された覚悟をおぼろげに感じ取って、品岡は内心で苦笑した。 そしてそれだけだ。何も変わらない。そんなことは、妖怪にとっては、どうだっていいのだ。 「しゃあ!これだけ膳が揃ったんや。そろそろ品岡おじさんのカッコ良いとこ見せたらんとな。 荒事はヤクザの専売特許ってこと、教えたるわい」 品岡はポケットから指先ほどのサイズの何かを取り出し、指で弾いた。 それは空中で形状変化を解かれ、もとの大きさとなって彼の手に握られる。 工事現場で基礎打ちや解体に用いられるスレッジハンマー。 人間の頭蓋骨など容易く粉砕可能な、彼の持つ武器の一つである。 >「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」 何考えてんだはお前だよと世界中の全人類から総ツッコミ受けそうな珍妙生命体が声高に叫ぶ。 >「――キャストオフ!」 人類最悪の脅威を目の前にしてもブレない業界屈指のトップノエリストは、己の"化けの皮"を脱ぎ去った。 雪女。凍てつく吹雪の化身をその身に宿し、アスファルトに薄氷を生みながら舞い降りる。 >「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」 ノエルが杖を一振りすると、煌めく謎エフェクトと共に品岡のハンマーにも霜が下りる。 加速度的に成長する氷柱が、スレッジハンマーの打撃部位に凶悪な棘を作り出した。 「エグいもん付けよるなぁ。殺意マシマシやんけ」 軽く地面をハンマーで小突くとその箇所が一瞬で凍り付く。 言うなれば氷結の呪術自体がハンマーの先端に展開している形だ。 半端な妖怪ならばこの一撃で魂まで凍てつくことだろう。 同様にノエルの術で造られた氷の金棒を手に尾弐が前に出た。 「……って金棒ちゃうなアレ!道路標識(一時停止)や!」 どこから持ってきたんだそんなモン、と見回してみれば無残な空洞が地面にあった。 コンクリで固められた標識を雑草でも取るかのように軽く引っこ抜く、げに恐ろしきは鬼の怪力。 こともなげに手の中にある氷漬けの標識を、尾弐は片手でバッティングでもするように薙ぎ払った。 風を巻いて振るわれる巨大質量。暴力の嵐がコトリバコに激突し、その下顎を吹き飛ばす。 >「――アイシクルエッジ!」 そこへ畳み掛けるように放たれるノエルの妖術。 無数の氷柱が滝のようにコトリバコを打ち付け、その肉を削いでいく。 巨大な手足がアスファルトに縫い止められ、動きが止まった。 「ドタマかち割ったらあああああ!!」 そこへ回り込んでいた品岡が跳躍、後ろから脳天目掛けてスレッジハンマーをぶち当てた。 鋭利な氷の棘がコトリバコの頭蓋を貫通し、凍てつく冷気が内側から凍らせにかかる。 付喪神と化したコトリバコに脳みそがあるかはわからないが、この間髪入れない三段攻撃に平然とはしていられまい。 すわ決着か――そう確信した品岡が唇を舐めた瞬間、コトリバコが大きく暴れた。 「ぎええええ!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/241
242: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:56:46.50 ID:J3g7vBWU 巨大な頭部に棘を突き刺していた品岡はその動きにハンマーごと振り下ろされ、アスファルトに墜落する。 受け身をとって転がりながら衝撃を吸収すると、その上から緑色の液体が降ってきた。 「ひえっ……」 咄嗟に後ろへ跳躍し、なんとか引っ被ることは避けられた。 そしてそれがとてつもなく幸運だったことに、溶かされていくアスファルトを見て痛感した。 「迂闊に殴りゃしっぺ返しが来るってことかいな……」 化学耐性の高い舗装材であるアスファルトがああも容易く溶けるほどの強酸。 酸というよりも『溶かす』という呪詛に近い。それもとびきり強烈な。 おそらくは、臓器を溶解させるコトリバコ本来の呪いを戦闘用に改造して使っているのだ。 悠長に分析している暇はない。コトリバコはその粘液を、あろうことか自らの口から吐き出してきた。 「ちょっ、待て、待て待て待てや!」 波打ち際のフナムシのようにカサカサと逃げ惑う品岡。 追従する粘液が道路上に溶解の傷跡を点々と残していく。 「お乳飲んでゲップせぇへんかった赤子かいな!」 品岡が命からがら一定距離を離れると、今度は再び橘音が標的として狙われ始める。 あれだけしこたまぶん殴ったというのにコトリバコがケ枯れする様子は微塵もない。 >「……オーケー、この程度はダメージの内に入らねぇってか」 尾弐がげんなりと呟くが、品岡も同じ気持ちだった。 頭をかち割られようとも、手足をもがれようとも、すぐに周囲の屍肉が隆起して傷を塞いでしまう。 強烈なヘイトを稼ぎいなし続ける橘音の顔色にも、疲労の影が見え始めた。 >「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」 「貧弱すぎまへんか!?」 とは言え橘音が手繰るのは呪具だ。扱うにも相応の妖力を消費するのだろう。 少なくとも千日手ではない。無限に思える耐久力を持つコトリバコ相手に、防戦一方ではジリ貧だ。 >「いや、知ってるし囮やめろよ! 品岡君、体だけ女になって囮交代してあげて!」 「ワシに死ねと言うとるんか!?」 ノエルの無茶振りに品岡は悲鳴に近い声で怒鳴り返した。 付喪神化したことで力を強めた半面、本来の問答無用の広範囲呪詛は失われている。 やろうと思えば入れ替わり立ち替わり橘音と囮を分担することもできるかも知れないが…… >「ムジナの女装を推すのは止めろ。想像しただけでさっき食った魚肉ソーセージ全部吐きそうだ」 「せやせや!ソーセージはそんな簡単に出したり消したりするもんやないんや!自分も男なら分かるやろ!?」 性別観念が特に希薄な雪女に言っても糠に釘かもしれないが、祈の性転換にもあれだけ集中力を使ったのだ。 勝手知ったる自分の肉体とは言え、重要臓器を埋めたり空けたり生やしたりを戦闘中にできるほど余裕のある状況ではない。 「ちゅうか嬢ちゃんはどこ行ったんや!何の為にソーセージした(完了動詞)と思っとんねん!」 コトリバコと最初の交戦に入ったあたりから祈の霊圧が消えていた。 逃げた、というわけではないだろう。信頼ではなく論理的な根拠として、あの覚悟の宿った双眸が脳裏に浮かんだ。 依然として追い詰められつつあるブリーチャーズ。訪れた戦況の変化は好転ではなく――絶望の鐘が鳴った。 遠くから聞こえてくる、目の前のコトリバコとは別の鳴き声。それも一つではない。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/242
243: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:57:22.51 ID:J3g7vBWU >「ま……、まさか……!」 >「そのまさかみたいだね……!」 >「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」 「あかんやろ……反則ちゃうんかそんなん……」 戦場となった薬局周辺に集うようにして現れたのは、新手のコトリバコ――7体。 交戦中のハッカイと合わせて計8体のコトリバコ、イッポウからハッカイまでご丁寧に全種類が勢揃いだ。 >「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!! 敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」 「もっと良いグラボを買えええーーーっ!!」 あまりの絶望的展開に錯乱した品岡の見当違いのツッコミが飛ぶ。 >「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」 「わはははははアニキ面白い冗談言わはりますな!……今まで割に合う仕事があったかっちゅうねん」 >「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」 「坊っちゃん!?」 橘音がマジなトーンで零す。 あの飄々としていつも人を食ったような、ある意味超然とした態度を崩さなかったブリーチャーズのブレインが。 流石にお手上げとばかりにそう言った。この世のどんなものよりも絶望的な宣告だった。 ――強敵に訪れた増援、破滅のムードに飲まれつつある東京ブリーチャーズ。 だが、そんな深刻な事態にあってもまったく空気を読まないある意味最強の男がいた! >「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。 身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」 (噛んだな。おもくそ噛んだ) 絶望をものともせず、ノエルが謎の呪文詠唱を始める。 途中思いっきり噛んだ気がするが妖気の高まりは失敗を感じさせない。 なんというガバガバな設定であろうか!! >「エターナルフォースブリザード!!」 解き放たれた氷雪な波動が8体のコトリバコ達を襲い、相手は死ぬ。 いや死ななかった、元から死んでるからかもしれないが凄まじい猛吹雪を受けてなおコトリバコ達は健在だ。 しかしそれでも、手足を凍りつかされたことで今にも飛びかからんとしていた付喪神達はその動きを止める! >「だから言ったじゃん! 囮なんてもうやめて!」 「助かっ……ちゃおらんな。連中すぐ動き出すで」 >「……分が悪ぃな、こりゃ。那須野、ノエル、ムジナ。ここは俺が食い止める。祈の嬢ちゃんを見つけ出して逃」 >「悪いね。ちょっと席外しちゃって」 尾弐が撤退を提案するその刹那、突風と共にいなくなっていた祈が姿を現した。 品岡は彼女を指差して大声を上げた。 「どこ行っとってん!小便は帰るまで我慢や言うたやろ!!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/243
244: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:57:55.62 ID:J3g7vBWU しかし祈はお花摘みに中座したわけではないらしい。 それが証拠に彼女が身体や手足をぐるぐる巻きにしている白い物体はトイレットペーパーではなく分厚い布だ。 同じものの予備も持ってきたらしき祈は布の山を地面に置く。 「……戦えるんやな、嬢ちゃん」 品岡は糾弾をやめて静かにそう言った。 少女は答えない。応答は、言葉ではなく姿勢で示した。 祈の姿が再び消える。風が巻き、再び彼女が出現したのはハッカイの真後ろだった。 その俊足で敵の後ろに回り込んだのだ。 >「……ごめんな」 祈はハッカイの後ろで何事かをつぶやき、その足元に蹴りを入れた。 「あかん!嬢ちゃんがなんぼ足速くてもそいつのぶっとい足には蹴り負け――」 ――ハッカイの柱と見まごう異形の脚が、爆発したように吹っ飛んだ。 千切れ飛んだ巨大な左足が人知を超えた速度で飛び、路肩の乗用車に直撃して爆ぜた。 「えっ」 品岡が事態を認識し切れないうちにもう片方、コトリバコの右足も同様に切断され宙を舞う。 その巨体を支えきれなくなったハッカイはアスファルトの上に崩れ落ちた。 鈍重な轟音がこちらまで響いてきて、品岡はようやく祈の蹴りがコトリバコの脚を二本ふっ飛ばしたのだと理解した。 「嬢ちゃんってあんな強かったんか……!?」 理屈の上では分かる。ターボババァの脚力で、構造的に脆い関節部を攻撃し破壊したのだ。 祈の妖怪としての戦闘力を完全に過小評価していた品岡は開いた口が塞がらない。 (ワシ、アレに説教ぶっこいとったんか) もしも品岡が祈の性転換に悪意を混ぜ、彼女の人生を台無しにしていたら。 あの蹴りは、間違いなく品岡に向けて放たれていただろう。 いや、そうでなくとも祈はあの圧倒的な暴力を背景に品岡を脅すことだってできたはずだ。 それを良しとせず、彼女はあくまで自身の覚悟を見せることで品岡から最大限の譲歩を引き出した。 ――あの時、自分が感じた祈に対する畏怖。あれは本物だったのだ。 コトリバコの傷口から迸る粘液を布で防ぎ、破損すればとっかえひっかえで祈は戦闘を続ける。 一度退いたように見えたのは、コトリバコの特性を理解し適切な対策を施して戦線に復帰する為。 多甫祈。ターボババァの孫にして、ブリーチャーズ唯一の、妖怪混じりの人間。 誰に教えられるでもなく、たった十余年の経験だけで最適解を導き出す、戦闘センスの申し子だ。 >「御幸っ! お願い!」 ハッカイの機動力を削ぎ、地に顎を付けさせた祈がノエルを呼ぶ。 いつの間にか杖をしまい氷の双剣を手にしたノエルが応じるように跳んだ。 >「見切ったあ!」 ノエルは祈の持ってきた布――遮光カーテンをハッカイに被せ、粘液を封じる。 そのまま両の剣を縦横無尽に奔らせた。 切り裂かれたコトリバコの皮膚から溢れる粘液がカーテンを染め、溶かし尽くしていく。 切り落とされた布の奥から、全身に裂傷を刻んだハッカイの姿が出てきた。 浅い。凍結によるダメージは入っているが、ノエルの細腕では巨躯を完全には断てなかったようだ。 傷を癒やしきれないままにハッカイは動き始める。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/244
245: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/07(火) 21:58:31.35 ID:J3g7vBWU >「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」 「何言っとるんやあいつ……」 こんな時にも発動するあれはもはや「ノエル」という名の状態異常かもしれない。 脚を失ったハッカイが身をよじらせてタックルを仕掛ける。ノエルはそれを危なげなく退避した。 身体をささえられないハッカイは地面を滑り、その衝撃で右の豪腕が外れて転がった。 「通っとったんか、刃が!」 ノエルの斬撃線と同じ部位が切り離されている。 皮一枚を断ったと見えて、その実皮一枚を残して他を断っていたのだ。 げに恐るべきはその刃の冴え、雪女の妖力は伊達ではない。 >「たーすーけーてー!!」 戦果を確認することなくノエルは走る、その先には氷の金棒を抱えた尾弐がいる。 釣り野伏の如く釣られて這いずるハッカイは、手足がないながらも凄まじい速度で尾弐へと迫る。 「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」 隅っこで解説要員になっていた品岡は勝機に拳を握った。 尾弐が道路標識を振り被る。あれを直撃されればいかなハッカイと言えどもケ枯れは確実! カウンターを合わせるように、迫り来るコトリバコへ完璧なタイミングで標識が振り下ろされ―― >「な、ぐがっ―――!?」 ――横合いから飛んできた軽自動車に尾弐が跳ね飛ばされた。 「アニキ!!」 軽自動車ごと店舗の壁に叩きつけられ、尾弐は血を流しながら咳き込む。 いや壁と車に挟まれてその程度で済んでるのも大概頭おかしい耐久だが、問題は別にある。 『誰が車を飛ばしたか』―― 「もう動き出したんか!」 車を投げ飛ばしたのはハッカイではない他のコトリバコ。 その大きさから見当をつけるに、ノエルに凍りつかされていたニホウとサンポウの二体だ。 >「っ……て、めぇ……ら……そうかい……そうかよ」 「あかんアニキ、追撃来とります!!」 品岡が言うが早いか、既に尾弐の直上には更なるコトリバコの姿があった。 シッポウ。その豪腕に例の緑の液体を纏い、尾弐へのトドメとせんばかりに振り下ろす。 尾弐は品岡へ首を向けて、コトリバコの咆哮にも負けない怒号を放った。 >「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!! テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」 それを最後にシッポウが尾弐へと激突し、ニホウとサンポウも追ってそこへ飛び込んでいく。 声はかき消され、尾弐の顔はすぐに見えなくなった。 「"助けろ"でもなく"手伝え"でもなく……でっか」 尾弐は自身が窮地に陥ってなお、品岡に助力を求めるのではなく仲間への援護を指示した。 それは品岡では尾弐を助けられないという軽視か――違う。 品岡ならば、祈にノエル、橘音を助けられるという、信頼だ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/245
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