[過去ログ] 【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net (285レス)
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244: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ 2017/02/07(火)21:57 ID:J3g7vBWU(7/11) AAS
しかし祈はお花摘みに中座したわけではないらしい。
それが証拠に彼女が身体や手足をぐるぐる巻きにしている白い物体はトイレットペーパーではなく分厚い布だ。
同じものの予備も持ってきたらしき祈は布の山を地面に置く。
「……戦えるんやな、嬢ちゃん」
品岡は糾弾をやめて静かにそう言った。
少女は答えない。応答は、言葉ではなく姿勢で示した。
祈の姿が再び消える。風が巻き、再び彼女が出現したのはハッカイの真後ろだった。
その俊足で敵の後ろに回り込んだのだ。
>「……ごめんな」
祈はハッカイの後ろで何事かをつぶやき、その足元に蹴りを入れた。
「あかん!嬢ちゃんがなんぼ足速くてもそいつのぶっとい足には蹴り負け――」
――ハッカイの柱と見まごう異形の脚が、爆発したように吹っ飛んだ。
千切れ飛んだ巨大な左足が人知を超えた速度で飛び、路肩の乗用車に直撃して爆ぜた。
「えっ」
品岡が事態を認識し切れないうちにもう片方、コトリバコの右足も同様に切断され宙を舞う。
その巨体を支えきれなくなったハッカイはアスファルトの上に崩れ落ちた。
鈍重な轟音がこちらまで響いてきて、品岡はようやく祈の蹴りがコトリバコの脚を二本ふっ飛ばしたのだと理解した。
「嬢ちゃんってあんな強かったんか……!?」
理屈の上では分かる。ターボババァの脚力で、構造的に脆い関節部を攻撃し破壊したのだ。
祈の妖怪としての戦闘力を完全に過小評価していた品岡は開いた口が塞がらない。
(ワシ、アレに説教ぶっこいとったんか)
もしも品岡が祈の性転換に悪意を混ぜ、彼女の人生を台無しにしていたら。
あの蹴りは、間違いなく品岡に向けて放たれていただろう。
いや、そうでなくとも祈はあの圧倒的な暴力を背景に品岡を脅すことだってできたはずだ。
それを良しとせず、彼女はあくまで自身の覚悟を見せることで品岡から最大限の譲歩を引き出した。
――あの時、自分が感じた祈に対する畏怖。あれは本物だったのだ。
コトリバコの傷口から迸る粘液を布で防ぎ、破損すればとっかえひっかえで祈は戦闘を続ける。
一度退いたように見えたのは、コトリバコの特性を理解し適切な対策を施して戦線に復帰する為。
多甫祈。ターボババァの孫にして、ブリーチャーズ唯一の、妖怪混じりの人間。
誰に教えられるでもなく、たった十余年の経験だけで最適解を導き出す、戦闘センスの申し子だ。
>「御幸っ! お願い!」
ハッカイの機動力を削ぎ、地に顎を付けさせた祈がノエルを呼ぶ。
いつの間にか杖をしまい氷の双剣を手にしたノエルが応じるように跳んだ。
>「見切ったあ!」
ノエルは祈の持ってきた布――遮光カーテンをハッカイに被せ、粘液を封じる。
そのまま両の剣を縦横無尽に奔らせた。
切り裂かれたコトリバコの皮膚から溢れる粘液がカーテンを染め、溶かし尽くしていく。
切り落とされた布の奥から、全身に裂傷を刻んだハッカイの姿が出てきた。
浅い。凍結によるダメージは入っているが、ノエルの細腕では巨躯を完全には断てなかったようだ。
傷を癒やしきれないままにハッカイは動き始める。
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