[過去ログ] 【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net (285レス)
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59: 多甫 祈 ◆MJjxToab/g 2016/12/17(土)00:06 ID:qDvHNRhH(1/5) AAS
「……おっかぁ?」
 橘音が呼び出した真っ黒なシルエットが、不安げな子供の声で言う。
そのまま暗闇に溶け込んでしまいそうな影のようなそのシルエットは、
よくよく目を凝らせば人間の少年のものであることが分かる。痩せた体に、この時代にそぐわない粗末な着物。
足は裸足だろうか。
 だが顔は分からない。輪郭もぼやけて曖昧だ。
それはこの黒い少年が、己の顔すらも忘れてしまっていることを意味していた。
 意志の弱い幽霊や力の弱い妖怪には時折あることだが、
長い時を経るなどすると彼らのことを誰もが忘れてしまう。というよりも覚えている者がこの世から消えてしまうのだが、
そうなると現世との結び付きが薄弱になり、己の姿を保てなくなっていくのである。
 有名な妖怪ならばいい。噂や伝説などで語り継がれることができる。
それによって力を保ち、あるいは増し、今生にも存在を残すことができる。
 だが全てに忘れ去られた力の弱い妖怪はそうではない。
今はかろうじて人の形を保っているが、やがては不定形の影となり、
己がなぜ現世に執着しているのか、なぜ妖怪なのか、なぜこの世を彷徨っているのかすらも忘れて
ただただ、世を揺蕩うだけの存在になるのだ。
 そんな存在になる一歩手前のそれ。黒い少年の声を受けて、今度こそ八尺様の動きが止まる。
再び攻撃しようと振り上げた長い腕を脱力したようにだらりと落とし、
今しがたまで戦闘していたノエルをも忘れてしまったように黒い少年に向き直り、ただ一心に見つめている。
 黒い少年もまた八尺様を見つめて、八尺様へ向かって歩いていく。
 恐る恐る、というような歩調。何かを確かめるような、危なげな足取り。
そしてひと時だけ少年が動きを止める。何かに気付いたような気配があった。
「せぇ、でっかくなってるけど、やっぱりおっかぁだ! おっかぁ!」
 八尺様へと近づく少年の足が早足になる。
顔はないが、その弾むような声音や動きで、少年が喜びに満ちているのが分かった。
 その声を聴き、姿を見た八尺様の姿に変化が生じた。
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