[過去ログ] 【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net (285レス)
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60: 多甫 祈 ◆MJjxToab/g 2016/12/17(土)00:13 ID:qDvHNRhH(2/5) AAS
――自分の息子をかわいがる隣家の女を見ると涙が滲んだ。
 私にはあの子がいないのに、どうしてお前だけ。私にもあんなかわいらしい笑顔を向ける子がいたはずだったのに。
すがる思いで神に手を合わせたが、息子は帰ってこなかった。
 雨が降らないからと、生贄に捧げた息子を役立たずだと罵った男を殺してやった。
 私に我が子を差し出させておきながら、己の娘だけは守ってのうのうと暮らす村長を鎌で刺したが、殺すことはできなかった。
 村の男衆に捕まり、気狂いだとして閉じ込められ、殺された。首を絞められた。
 あらぬ限りの力で叫んだ。返せ。
 どうして。お前たちの所為じゃないか。
 返せ。
 お前たちの所為だ、お前たちの所為だ。我が子を返せ。もう会えない。
祟ってやる呪ってやる、殺してやる。我が子を返せ、もう一度会わせて。会いたい。
 どこにいるの。殺してやる。私の子は。どこに。
「おっかぁ?」
「――あ……あぁ……あぁあああああ……!!」
 おっかぁ。
 己をそう呼ぶ姿は、見間違うことがない。山に森に、川に、谷底に。
どこにいるのかと、どこかにいるのではないかと、ずっと探し求めていた姿。
供物として捧げられた、救ってやれなかった我が子。生贄にされてしまった可哀想な我が子。
もう会えないと思っていた愛しいものが、駆け寄ってくるのを感じる。
 ああ、こんな背の高さではあの子を抱きしめてあげられない。
どうして己はこんな姿になっているのだろう?
 前の姿に戻って、我が子を安心させてあげなくては。

 悲鳴を上げた八尺様の姿が、見る見るうちに縮んでいく。
その背丈は一五〇センチもないかもしれなかった。
また、着ているものはワンピースなどではなく、少年と似たような粗末な着物であるように見え、
先程のような若い女の雰囲気は微塵も感じられなくなっていた。
その輪郭はまるで陽炎のようにぼやけて、幾重もの、何人もの影が重なっているように見えた。
 陽炎のような姿になった八尺様は、膝をついて諸手を広げ、走ってくる影のような少年を抱きとめた。
そして強く胸に抱きよせる。
「あいたかった。もうずっとあえないかとおもったよ、おっかぁ……」
 その陽炎の腕の中で、安らいだような声を上げる、影の子供。
「太一かい?」
「次郎?」
「ぎん」
「一、一だ。あぁ……」
「六助……?」
 陽炎の女が口々に、子どもの名を口にする。陽炎が一層揺らいで、複数の女の姿がブレて見えた。
 八尺様。その元になった『橋役様』とは、
愛しい我が子を生贄に取られた母親達の怨念や魂が祟り神と化したものだ。
故にその存在にある想いや魂は一人のものではない。何人もの母が、その存在に囚われていたのだ。
 母親が呼びかけると、少年の影から一人、また一人と、
顔の判別できる少年が剥がれるように出て来て、返事をした。
母の記憶が、少年たちにかつての姿を取り戻させていく。
 橘音が呼び出した黒い少年もまた、『橋役様』として選ばれた少年たちの魂だった。
その無念や寂しさ、痛み。母を求めるその声が、やがて名も形も知られぬ妖怪として一塊になった姿だったのだ。
彷徨い歩いていた両者。母を見つけた子と、子を見つけた母は、
強く抱き合ってはやがて、天に昇るように消えていく。
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