[過去ログ] 興行収入を見守るスレ5656 (1002レス)
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828: 坂本勇人(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:19 ID:FD7/bjso0(1/164) AAS
その時、一階の廊下の奥から小走りに走ってくる可愛らしい音が聞こえた。
やがて、オラの前で小走りの音が止やんで、床が軋む。
廊下の奥から小走りしてきたのは、肩までのミディアムヘアで花の簪かんざしをつけた、和服を着た小さな女の子だった。
小さな女の子は後ろ手に小首を傾げ、不思議そうに眼をぱちくりさせてオラを見下ろしている。
「兄ちゃん、大丈夫?」
小さな女の子が心配そうに、オラに訊いてくる。
「だ、誰じゃ!? お前は!?」
オラは見知らぬ女の子を前にして、思わず後退る。
この子、誰じゃ?
人間みたいじゃが。
省11
829: 菊池涼介(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:20 ID:FD7/bjso0(2/164) AAS
こんな小さな女の子に責めてどうするんじゃ。
ここがどこか知らんが、とにかく事情を知ってる人を探さんと。
「栞の知らない人。兄ちゃん、誰?」
小さな女の子は、腕を組んで小首を傾げている。
「オラはカイトじゃ。栞、じゃったの。誰か呼んできてくれんか? できれば大人がええんじゃが……」
オラは屈み込んで、小さな女の子の両肩に手を置いて、小さな女の子の顔を覗き込む。
その時、廊下の奥から足音が聞こえた。
足音は栞の後ろで止まった。
オラは思わず栞から顔を上げる。
栞の後ろに立つ男。
省10
830: 浅村栄斗(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:21 ID:FD7/bjso0(3/164) AAS
「うーん……確かに、見た感じは光秀じゃないな。顔は似てるけど……あれ? そのブレスレット、ひょっとしてアルガスタの物だろう? ユニフォンじゃ見かけないしな、ブレスレットなんて。……そうか、キミが私の先祖、カイトくんだね? カイトくんのことは、お婆によく聞かされたよ。英雄伝としてね。そうか、この日が来たか。ようこそ、ユニフォンへ。僕は未来のアルガスタからこっち(ユニフォン)に移住してきた、佐藤葛城だ。ああ、アルガスタでの名前はアランだ。アルガスタでは刀鍛冶を営んでいてね、僕の技術をこっちに売りにきたんだ」
男は、オラの左手首に付けている白色のブレスレットに目が止まり、男はオラに訊いた。
その後、男は面白くもなくまくしたてた。
男が信じがたいことを言うので、オラは苛立って眉間に皺を寄せた。
オラは口を尖らせて腕を組み、人差指が上下に動いていた。
「オラの先祖じゃと!? アルガスタの未来人じゃと!? オラが英雄じゃと!? 訳がわからんわい。おい、あんた。誰か知らんが、とにかく説明せい! ここがどこで、オラは誰で、どうしてこうなったんじゃ!? さっきから嘘言いおって、なんなんじゃ!」
オラは葛城の上着の裾を掴み、拳を振り上げた。
オラは頭のモヤモヤを掻き消すように、頭をくしゃくしゃにした。
「まあまあ、落ち着いて。信じられないのもわかるよ。栞も怖がってるし、お茶でも飲みながら話そうじゃないか。あっ、そうそう。家系図を持ってくるよ。それで、カイトくんが僕の先祖だってことが証明されると思うから」
葛城は栞と手を繋いだままオラの肩に手を置いて、葛城はオラに優しく微笑む。
833: 小笠原道大(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:24 ID:FD7/bjso0(4/164) AAS
「カイトくん。妹の栞と仲良くしててくれ。なあに、新しい妹ができたと思えばいいさ。こっちの暮らしも悪くないよ? そうそう、自己紹介が遅れたけど、僕はカイトくんの父親なんだ。まあ、カイトくんは私の先祖だから、ややこしいけど。すぐ慣れるよ。なんなら、父さんって呼んでもいいからねっ」
葛城はちゃっかり皮肉を言いのけて立ち上がり、去り際にウインクして手を振って廊下の奥に消えた。
オラは腕を組んだ。
オラは葛城の先祖じゃろ?
葛城は、オラの父親でもなんでもないじゃろが。
なんじゃい、偉そうに。
栞と眼が合う。
オラは栞と二人きりになった。
栞は黙って、オラを見上げている。
オラは重たい空気に耐えられなくなり、頭の後ろを掻く。
省6
834: 阿部慎之助(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:25 ID:FD7/bjso0(5/164) AAS
「!? し、栞……」
オラは思わず、栞に振り向く。
オラの眼は動揺で、さざ波の様に揺らいでいた。
そうか。
オラに似た奴は、栞の兄ちゃんじゃったんか。
どうなったかはわからんが、栞の兄ちゃんとオラの身体が入れ替わり、栞の兄ちゃんが死んだちゅうことか?
オラは俯いて首を横に振る。
妹、か。
オラの妹のシオンは可愛いが、生意気で、オラとロクに口も聞かん年頃の女じゃ。
オラがシオンに近づけば、なにかと暴力を振るう。手に負えん。
省3
835: 高橋由伸(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:26 ID:FD7/bjso0(6/164) AAS
「栞、すまん。オラにもわからんのじゃ……許してくれ、栞。オラは、栞の兄ちゃんじゃないんじゃ。オラにも、妹がいるけえ。オラの妹、シオンちゅうんじゃ。シオンは生意気での、オラとロクに口も聞かん仲じゃ。オラが近づけば、シオンはオラに暴力を振るうんじゃ、信じられんじゃろ? オラの妹の話をしても面白くなかったの。栞、すまん……栞の兄ちゃんとオラの身体が入れ替わった時、栞の兄ちゃんに会ったんじゃ。栞の兄ちゃんは言っておった、妹の栞を頼むと。栞の兄ちゃんは……天国に逝ったんじゃ。オラが栞の兄ちゃんを殺したんじゃ。栞、オラを好きなだけ恨んでもええ。栞が望むなら、オラは今すぐ出て行くけえ。二度とこの家には戻ってこんけえ」
オラは栞の背中で馬鹿みたいに嗚咽して、訳がわからずに自分の妹の話をして、栞の頭を一生懸命に撫でる。
「兄ちゃん、苦しい」
栞は声を小さく漏らした。
いつの間にか、オラは栞を抱き締めていたらしい。
オラは思わず、栞から離れる。
「すまん、栞。どこも痛くないか? 気分は悪くないか?」
オラは栞の両肩に手を置いて、栞の顔を覗き込む。
「……栞の兄ちゃん言ってた。兄ちゃんが死んだら、新しい兄ちゃんと仲良くするんだぞって」
栞は俯いて、悲しそうに言葉を紡ぐ。
省4
836: アレックス・ラミレス(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:27 ID:FD7/bjso0(7/164) AAS
「うん……栞、新しい兄ちゃんと仲良くする。でも……」
栞の元気がない声が聞こえる。
「栞? どうしたんじゃ?」
オラは栞から離れて、俯いた栞の顔を覗き込んだ。
「お腹空いた」
栞が俯いたまま、お腹の虫が鳴った。
それに答えるように、オラのお腹の虫も鳴った。
「オラも腹が減ったわい。茶菓子はまだなんか? 栞、待ってられんわい。台所に行ってつまみ食いでもするか?」
オラは栞の頭を撫でると、立ち上がって栞と手を繋いだ。
省9
837: 二岡智宏(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:27 ID:FD7/bjso0(8/164) AAS
オラは丸テーブルの前に胡坐をかいた。
栞はオラの隣に、ちょこんと正座した。
「今、用意するから。もう少し待っててね、おじいちゃんと栞」
葛城は茶菓子が盛られた小皿をオラと栞の前に置いて、お盆から湯呑を取り出し、オラと栞の前に湯呑を置く。
葛城はお盆から急須を持って、オラと栞の湯呑に茶を注いでいく。
「葛城。誰がおじいちゃんじゃ! オラは葛城の先祖とは認めんけえの! のう栞」
オラは隣に座った栞の頭にぽんと手を置いて、栞の顔を覗き込む。
葛城は急須をオラと栞の間の丸テーブルに置いて、オラの向かいに胡坐をかいて腕を組んだ。
葛城は丸テーブルの上に巻物を置いた。
栞は手を合わせて、お行儀よく饅頭をほうばる。
省5
838: 内川聖一(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:28 ID:FD7/bjso0(9/164) AAS
「さて。何から話そうか……うーん。僕が思うに、カイトくんに何らかの力が働いて、ユニフォンに来たんだと思う……カイトくんがユニフォンに転生した紅月の日、魔王教団はアルガスタの王族を攫い、その一週間後に民衆の前で晒し首にした。王族の血は魔王復活に捧げられたけど、どうやら魔王復活の血が足りなかったんだ。つまり、逃げ延びた王族がいるってことになるんだ。それは、こっち(ユニフォン)に来たかもしれないし、アルガスタで生き延びているかもしれない。こっちに逃げ延びた王族なら情報が入っているよ。僕は、こう見えて王族を守る秘密結社の一員でもあるからね。あっ、王族の情報はね、遊郭十六夜で仕入れてるんだ。十六夜を拠点にしている隠密集の梓ちゃんは優秀だよ。神楽さんなんか魔法が使えるんだよ? すごいだろ? って、僕の話聞いてる?」
そうか。
オラは天生牙の力で、ユニフォンに来たんじゃ。
天生牙が消えたのも納得がいくで。
ルエラ姫に貰った天生牙じゃったのにのう。
オラは茶を啜りながら、黙って頷いて手をひらひらさせ、葛城の話を聞いているアピールをした。
「なんじゃ。オラは、ユニフォンちゅう世界に来たちゅうことか。じゃったら、ルビナ姫は生きているかもしれんちゅうことじゃな? さすが、アルガスタの未来人じゃ、歴史に詳しいのう。葛城、王族を守る秘密結社なんじゃろ? なんかないんか? 王族を見つける道具とかあるじゃろ? 十六夜に行けば、何かわかるかもしれんの」
オラは巻物から顔を上げずに家系図を指でなぞり、自分の名前と葛城の名前を見つけて、巻物を丸テーブルの上に放り投げた。
オラは畳の上で大の字になり、頭の後ろで腕を組んで天井を見上げた。
839: 福留孝介(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:29 ID:FD7/bjso0(10/164) AAS
「ちょ、ちょっと。家系図、大事な物なんだからっ。王族を見つける道具? あることはあるけど、僕には使えないんだ。歴史が変わりつつあって、時空も歪みつつある。だから、秘密結社としての僕の力が弱まってるのかもしれない。カイトくんなら使えるかも。あっ、そうそう。僕の家には立派な道場があるんだよ。お爺さんの代で道場は潰れちゃったけど。こっちは住みやすくていいよ? もう長いこと、こっちで暮らしてるよ。けっこう多いよ、未来のアルガスタからこっちに越してきた人」
葛城は腕を組んで、まくしたてた。
「な、なんじゃと!? 王族を見つける道具、あるならはよう出さんか! どこでアルガスタの歴史が変わったんじゃ!? 未来のアルガスタは平和なんじゃろな!? 魔王はどうなったんじゃ!?」
オラは起き上がって丸テーブルを叩いて、身を乗り出した。
起き上がる勢いで膝を丸テーブルにぶつけて、膝がじんと痛んだ。
隣の栞が驚いて、眼をぱちくりさせている。
栞の饅頭を食べる手が止まっている。
840: ウラディミール・バレンティン(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:31 ID:FD7/bjso0(11/164) AAS
「お、落ち着いて。未来のアルガスタは平和だよ。少なくとも、歴史が変わらない限りね……百年前の紅月、魔王は討伐隊によって処刑されるはずだったんだ。だけど、討伐隊の中に裏切者がいたんだよ。そいつが魔王を手引きして、魔王をアルガスタの地下深くに封印した。噂じゃこっちに魔王が転生して、影で暗躍しているみたいだね。魔王次第で、歴史が変わるといっても過言じゃない。つまり、僕たちの存在が消える可能性だってある。
恐らく、魔王の目的はこっちの世界で紅月を作ること。そして、紅月の力でアルガスタへのゲートを完成させ、アルガスタとユニフォンを一つの世界にして、世界を支配すること。僕がこっちに来る前に、お婆のお告げがあった。選ばれし者がアルガスタから転生してくる時、運命は廻り始めると。それが、カイトくんだよ。お婆は最後のお告げをして亡くなった。百年に一度の紅月、その度に魔族と戦争が起きる。これを百年戦争と呼んでいるんだ。古い歴史だと、悪しき者が呪いで神と死神に転生させ、アルガスタを支配していた時代もあるんだ。うちの蔵に、神の魂を封じた勾玉があるよ。どうやら、その悪しき者が紅月を造ったっていう噂もあるけど、僕にはわからない。なにせ、古い歴史でね」
葛城はまくしたてると、お手上げだという感じで頭の後ろを掻いた。
「そんなことはどうでもええんじゃ。葛城、はようルエラ姫を見つける道具を出さんか! そげにいっぺんに言われてもわかるわけないじゃろうが。オラが葛城の先祖ちゅうのは、よおわかったで。今は、それだけわかれば充分じゃ」
オラは丸テーブルで打った膝を両手で擦りながら、葛城に怒鳴った。
841: 鈴木誠也(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:32 ID:FD7/bjso0(12/164) AAS
「はいはい。こっちに逃げ延びた王族は、魔王も狙ってるからね。今は、王族の問題解決が先だよね。長話ばっかでごめんごめん」
葛城は頭の後ろを掻いて、懐からメガネケースを取り出し、黒ぶちメガネのフレームを広げて、黒ぶちメガネを丸テーブルの上に置いた。
「なんじゃ? ただのメガネにしか見えんで?」
オラは黒ぶちメガネをひったくって、黒ぶちメガネをまじまじと見る。
栞は身を乗り出して、興味津々に黒ぶちメガネを覗き込む。
黒ぶちメガネのレンズに、饅頭を手に持った栞が映り込む。
葛城は勝ち誇ったように腕を組み鼻で笑った。
「ただのメガネじゃないよ? そのメガネを掛ければ、王族がこっちに来る前の姿が見えるんだ。つまり、アルガスタでの姿が見えるってこと。もちろん、アルガスタからこっに来た他の人も、アルガスタでの姿が見える。秘密結社で作られた特殊なメガネなんだけど、僕が掛けても普通のメガネなんだよね……カイト君。試しに掛けてみてよ、僕のアルガスタでの姿が見えるはずだから。ダメなら、他に方法を考えよう」
葛城は人差指を小さく振って、面白そうに自分を指さした。
省5
842: 筒香嘉智(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:33 ID:FD7/bjso0(13/164) AAS
「か、葛城。お前、なんじゃその頭は!?」
オラは思わず声を上げて、葛城の頭を指を差した。
栞はオラの隣で小首を傾げている。
これが、このメガネの力なんか?
オラはメガネを外して葛城を見る。葛城は、ちょっと頑固などこにでもいる刀鍛冶職人じゃのう。
また黒ぶちメガネを掛け直し、葛城を改めて見る。頭が変な刀鍛冶職人にしか見えんで。
オラは拳を振り上げて、ガッツポーズをした。
これで、ルビナ姫を探せるで。ルビナ姫がこっちに来てることを祈るしかないがの。
栞は、ガッツポーズをするオラを不思議そうに見て小首を傾げ、饅頭をほうばった。
葛城は恥ずかしそうに、頭の後ろを掻いた。
省3
843: 大谷翔平(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:33 ID:FD7/bjso0(14/164) AAS
オラは丸テーブルを叩いて立ち上がった。
待っとれよ、ルビナ姫。オラは拳を振り上げる。
「こうしちゃおれんで。オラ、ルビナ姫を探してくるけえ。葛城、このメガネ借りるで」
オラは、腕を組んで考え込んでいる葛城に言うと、廊下を駆けた。
葛城の声がしたが、オラは立ち止らなかった。
844: 山﨑康晃(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:35 ID:FD7/bjso0(15/164) AAS
異世界アルガスタ~異世界ユニフォンへ
少女との出会い
昼下がりの町。
オラは母の祖母が営んでいる甘味処かんみどころに立ち寄り、妹の栞と一緒に甘味を食っておった。
甘味処の店外の洋風ベンチに座って、オラは串団子をほうばり、オラの隣の栞は両手で饅頭まんじゅうをほうばる。
甘味というたら、串団子じゃろ。三色団子もええし、みたらし団子もええな。
考えただけで、涎が出るわい。
栞は、甘味というたら、饅頭らしい。蓬饅頭も好きで、おはぎも好きじゃ。
饅頭も美味いが、やっぱ団子じゃろ。
甘味処に寄ったら、大体、オラは串団子を頼んで、栞は饅頭じゃ。
省6
845: 秋山翔吾(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:35 ID:FD7/bjso0(16/164) AAS
オラと栞が、興味津々に小皿に盛られたカステラをまじまじと見る。
カステラは、上にこんがり焼き色がついており、焼き色の下に、柔らかそうな黄色をしていた。
オラは小皿を持って、不思議そうに首を傾げ、カステラの焼き色を触ってみた。
生地がべたついて、指の腹にカステラの生地が付いた。
指の腹に付いた、カステラの生地を舐めてみる。
甘くて、生地のふわふわ感が口に広がった。
カステラの黄色ところを人差指で突いてみると、柔らかくて、ふにふにしている。
カステラを手に取って、一口ほうばる。
「ね? 美味しいでしょ?」
母ちゃんが両手を合わせて、目を輝かせて訊いてくる。
省12
846: 牧秀悟(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:36 ID:FD7/bjso0(17/164) AAS
その時、少女の怒鳴り声が聞こえた。
オラは少女を見る。少女はピンクの花柄の着物を着ていた。
「お嬢ちゃん、可愛いな。どうだい? この町の遊郭で働いてみないか?」
「お嬢ちゃんなら、人気の遊女になるよ。お金も稼げるよ」
オラの目の前で、ガラの悪いならず者二人組に絡まれている少女。
どうやら、ならず者の二人組は、町で遊女の卵を探していたらしい。
遊女の卵を探すために、遊郭に雇われたならず者ちゅうことか。
そげな乱暴なやり方で、遊女の卵なんか、見つかるわけないじゃろ。
刀なんぞ腰に下げおって、遊郭も、雇う人間を間違えたんじゃろな。
ならず者の腰に、大小が下げられている。
省10
847: 丸佳浩(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:37 ID:FD7/bjso0(18/164) AAS
「このアマぁ! やりやがったな!」
男が、鞘から刀を抜く。
刃先を喉元に向けられた少女。
さすがに少女は腰が抜けたのか、尻餅をついた。
もう見てられん。
オラはベンチから立ち上がって、小皿にカステラを置き、少女の元へ駆けた。
指の腹についた、カステラの生地を舐めながら。
「大丈夫か?」
オラは少女に手を差し伸べる。
「あんたの手、べたついてない? きゃっ」
省11
848: 菊池雄星(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:38 ID:FD7/bjso0(19/164) AAS
「へっ。丸腰のお前に、何ができるってんだぁ?」
ならず者の男は鼻で笑う。
丸腰のオラに勝ち目はないじゃろ。
じゃったら、少しでも時間を稼いで、こいつらから逃げんと。
オラは屈んで片膝を地面につき、手を後ろに回して、ならず者の男に見えないように地面の砂を握った。
「跪いて、斬ってくださいってかっ!」
ならず者の男が刀を振り下ろす。
「食らえや!」
オラは握った砂を、ならず者の男の顔にかける。
「うわっ! やりやがったな! 眼に砂が入りやがった!」
省11
849: 澤村拓一(福岡県) (ワッチョイ e917-yILz [116.94.119.125]) 2022/09/10(土)03:39 ID:FD7/bjso0(20/164) AAS
「意外と重いな。お前、肉の食い過ぎとちゃうんか」
オラは立ち上がり、少女をおぶって走り出す。
「う、うっさいわね。早く走りなさいよ! もぉ!」
少女はオラの頭を両手で叩いた。
背後から、ならず者の怒号が聞こえる。
「逃がさんぞ!」
しつこいのう。
声からして、追手は一人か。
相方は、相変わらず急所をやられて、しばらくはあのままじゃろ。
この辺は、あまりこんけえ。
省13
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