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【腐女子カプ厨】巨雑6438【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net (651レス)
【腐女子カプ厨】巨雑6438【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/
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574: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:58:15.05 d 店主とウェイター、それぞれからいらっしゃいませと声をかけられたので会釈して、カウンター席へと座る。 奥の客がどんな料理を頼んでいるのか気になって、メニューを開く前に横目で盗み見た。 「あっ!」 しかしエレンの視界に飛び込んできたのはテーブルの上の料理ではなく客の顔だ。忘れもしない。 あの顔、あの髪型。そこにはリヴァイが女性と対面して座っていた。 声を出した時、リヴァイと目が合った気がする。 通りすがりのようなものだったし、もしかしたらリヴァイはエレンのことを忘れているかもしれない。 でも覚えていたら気まずいことこの上ない。 急いでメニューを開いて、その中の文字列を追った。 カタカナばかりの料理名でちっとも頭に入ってこない。流し見るようにしてページを次々とめくっているとあっという間に最後のページまできてしまった。もう一度最初のページに戻る。 奥の席が気になって仕方がない。何かぼそぼそと話している。 「……ほら、行ってきなよ。アンタなら大丈夫だって。わたしもう帰るからさ」 何かエレンにとって不穏な内容な気がする。 (行ってきなって、もしかしなくてもオレのところにか? いや、お姉さん帰らなくていいですよ。助けてください。あっ、ちょ、立った。こっち来る。やばいやばいやばい……) 顔面蒼白。なんだか急に体調が悪くなってきた。呼吸が苦しいし、鼓動も尋常じゃないくらい早い。変な汗も出てきたし、顔も熱い。熱でもあるんじゃないのか。帰ったほうがいいんじゃないか。 カルパッチョってなんだっけ。サルシッチャってなんだっけ。あれ? アヒージョって踊り食いのこと? コンフィって猫の種類じゃなかったか? まさにエレンの頭はパニックだった。 数歩の距離なのにリヴァイがこちらに来るまでがひどく長く感じた。 そうだ、きっとトイレがこっちにあるんだ。そうに違いない。 以前トイレを借りた時に奥に行った記憶を打ち消してそんな現実逃避まで始めるも、リヴァイはエレンの背後でその足を止めた。 「…………」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/574
575: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:58:40.02 d 「よう、覚えているか?」 「…………」 「チッ、」 緊張でなにも言えない。後ろを振り返ることすらできない。 背中を丸めるとメニューにどんどん顔が近づいていき、もうすぐメニューとキスしてしまうそうだ。 そんなエレンの気を知ってか知らずか、リヴァイはエレンの隣の椅子を引いてそこに腰かけた。 体は完全にエレンの方を向いている。頬杖をついて、メニューとキスする五秒前のエレンをじっとりと眺めていた。 怖い。最初に腕を掴まれた時の恐怖が蘇る。いや、今日はエレンに後ろめたいことがある分、初対面の時よりももっと怖い。 こんなに怖い人があんな綺麗な写真を撮ってるだなんて詐欺だ。 「このひと月、ずっと連絡を待っていたんだがそろそろ待ちくたびれたな」 わざとらしいため息。視線が痛い。リヴァイは目から針でも出てきて自分をチクチクと刺しているのではないか。 「……あの、それ……オレに言ってます……、よね……」 「あ? 忘れたのか?」 この期に及んで、もしかしたら人違いかもしれないという可能性にかけて確認してみると、針がナイフに変わった。ようするにさらに鋭い目つきで睨まれた。 「すみません! よくある勧誘だと思って無視していました! でも本当に写真家さんで、しかも昔よく見た写真集の人で、まさか道ばたでいきなり腕をすげえ力で掴んできて自分を撮りたいと言った人がその写真家さんだなんて思わなくて、……ごめんなさい!」 勢いよく頭を下げると、ゴツン! といい音がした。メニューとのキスは避けられたが、テーブルとは額でキスをしてしまう。 どうにでもなれとばかりに正直に話して謝罪する。まだ心臓はドキドキとうるさい。 「……まあいい、」 「…………」 ふっとリヴァイを纏う空気が変わった。針もナイフも感じない。おそるおそる顔を上げてリヴァイを見ると無表情に近いが笑っているような顔をしていた。 (怒ってない……?) 「飯食いにきたんだろ。何にするんだ? ここは何でも美味いが、メニューになくても食べたいものがあれば言え。店主が知り合いだから作らせる」 その言葉にこの店がリヴァイのテリトリーだったことを知る。また腹の虫が空腹を訴えて鳴き出して、エレンは羞恥で赤くなった顔をメニューで隠した。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/575
576: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:58:44.14 d 小声で伝えると、リヴァイは知り合いだと言う店主にハンバーグのチーズ焼きとサラダ、ライス大と辛口のジンジャーエールを注文した。 次いで、会計はリヴァイ持ちでいいと言い、自分用にグラスシャンパンを頼んでいる。 奢ってもらう理由がないと慌てたエレンは会計は別にしてほしいと頼んだが、あえなく却下されてしまった。 曰く、何の欲目もなしに奢るわけがない。下心があるに決まっているとのことだった。 「まだモデルは決まっていない。撮らせてくれ。その目が欲しい」 睨むでもなく、ただ真剣に目と目を合わせてそんなことを言われると、口説かれているような気分になる。 男同士なのに妙な気分になってしまいそうだ。 改めて見るとリヴァイは整った顔立ちをしていた。 背こそ低いが、欠点はそれくらいに思える。 リヴァイと一緒にいた女性はエレンがメニューに沈んでいる間に本人の宣言通りに帰ってしまっていたようだ。 エレンがようやくまともな思考で話せるようになったと判断したのか、リヴァイはテーブル席に置いていた荷物を取りに一旦席を立ち、またすぐに戻ってきて先ほどと同じようにエレンの隣に座った。 「さっき、テレビでアッカーマンさんの写真を見ました。特集コーナーで、」 「リヴァイでいい」 「……リヴァイ、さん…………昔、父親の部屋にリヴァイさんの写真集があったんです。でもどこかにいってしまって、誰の写真集かも分からなかったそれっきりだったんですけど、やっと分かったので今度買おうと思います」 リヴァイが切り取った世界はどれも美しい。ずっと好きだった。 新しい写真集も発行されているのなら調べてそれも買いたい。 彼が話したいこととは違うことは分かりつつ、好きだと訴えることをやめることはできなかった。 本当なら今ここで携帯電話を使ってネットショッピングでもしてポチっと購入してしまいたいくらいだ。 「そんなことを言うといい返事だと期待するが?」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/576
577: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:59:10.65 d 頼んだグラスシャンパンが出される。合わせて、ジンジャーエールもエレンの前に置かれた。軽く乾杯をしてからひと口飲む。シュワシュワした炭酸で頭が冴えてきた。 テレビを見た時はモデルを引き受ければ良かったと後悔したが、本当にエレンで良いのだろうか、と疑問がわく。 当たり前だがエレンは一般人だ。どこにだっている大学生で、リヴァイはやたらと目を褒めてくれるけれどそれだって人より少し大きな釣り目というだけだ。 目力が強いとはよく言われる。でも目が大きければそんなことは必然で、ほかにも似たような人はいるだろう。 それどころか、もっと良い人だってたくさんいるはずなのだ。 リヴァイがエレンを選ぶ理由がないように思えた。エレンでなければならない理由が、エレンには分からない。 素人を使うより、プロを使ったほうが撮影も楽に進む。 何より、自分がリヴァイの世界に紛れ込むことで、彼の世界が汚れてしまうんじゃないかと恐怖すら感じてしまった。 すっかり怖じ気づいたエレンはそれを素直にそのまま伝える。 「……お待たせさせてしまったのに申し訳ないです」 リヴァイの期待する返答ができない自分が悔しかった。もっとエレンに自信があれば、喜んでと言えたかもしれない。 「……言いたいことはそれだけか?」 そう尋ねたリヴァイどこか、覚悟を決めたような表情に見えた。 シャンパンを口に含んで、喉を鳴らして飲み込む。 「いいか、よく聞け…………俺は、お前に一目惚れした。だからお前が一番綺麗だと思っているし、一番綺麗に撮れる自信がある。好きだと思った奴を撮りたい。自分の世界に入れたい。そう思うことは自然だろう? 他の奴じゃ駄目だ」 「え、」 「惚れたと言っても付き合えとは言わない。好きだ。撮らせてほしい」 緊張しているのか、リヴァイの肩がわずかに震えていた。 突然の告白にパチパチと目を瞬かせる。 リヴァイに見えないようにカウンターテーブルの下で自分の手の甲を抓ってみると痛かった。夢じゃない。 口説かれているみたいだ、と思ったのは勘違いじゃなくて、真実だった? 「え、は……? はああああ? なん、どういう……っ!」 「一度しか言わねえよ。こっぱずかしい」 リヴァイもどこかぎこちない反応を大混乱中のエレンに返して暫く無言が続いた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/577
578: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:59:14.62 d ピピピ! と調理場からタイマーが鳴っているのが聞こえる。 頼んだ料理がそろそろ出来上がるのかもしれない。こんな状態で食べて味がわかるか不安だ。 「引き受けてくれないか」 立ち上がって頭を下げるリヴァイにエレンはどうすれば良いのか真剣に考えた。 教えていないので、リヴァイはエレンの名前も知らない。 知り合ったばかりのおそらくかなり年下の男に告白をすることにどれだけ勇気と覚悟が必要だろうか。 不思議と嫌悪感はなかった。 エレンでなければならない理由もあった。 断ろうと思った理由は自信がなかっただけ。 嫌なことはハッキリと嫌だと言える人間だ。 実際今までそうして自分の意志を相手に伝えて生きてきた。 そのせいで衝突することも少なくなかったが、それがエレンだ。 ならばもう答えは出ている。 「次の写真集だけでいい。頼む」 リヴァイの頭は下げられたまま、今どんな表情をしているのかは分からない。 でもきっと真剣だろう。 真剣に自分を撮りたいと思ってくれている。 好きな写真家の作品になれる。 だからこそ緊張もするし、不安だって大きい。 (だけど、) こんなに光栄なことは他にあるだろうか。 「……分かりました」 「!」 言ってしまったからには取り返しはつかない。リヴァイの覚悟に、エレンも覚悟を決めた。 リヴァイがやっと頭を上げる。目を丸くして、驚きと喜びが混ざったような、そんな顔だった。 「いいのか?」 「本当に、オレでいいのなら」 こくりと頷いて見せる。とても小さな声でありがとう、と聞こえた気がした。 目尻を下げて微笑んだリヴァイにエレンの胸が高鳴る。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/578
579: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:59:40.28 d これはなんだ。 告白されたせいか、なんだか変に意識してしまっているのかもしれない。 いまだに立ったままのリヴァイに座るように促してから、自己紹介をした。 すると名前を褒められ、またドキドキしてしまう。 タイミング良く出てきた料理を食べることでなんとか平常心を保ちながらエレンはリヴァイと会話を続けた。 食べた料理はこの店のメニューをコンプリートしたくなるくらい美味しかったのでランチもディナーも外で食べる時は暫くこの店に来ることを決意した。 それをリヴァイには言う余裕はなかったけれど。 リヴァイは終始柔らかな雰囲気を出しており、エレンの返答にとても満足したことは確かだ。 連絡先を交換した時もエレンの電話番号を登録した後に大事そうに自分の携帯電話を見た後で、エレンには「絶対に削除するんじゃねえぞ」と凄んできた。 「本当に引き受けてくれて嬉しく思っている。短期アルバイトとして契約書を書いてもらいたいから後日、俺の事務所まで来てほしい」 聞けば、正式に書面で契約を交わすこと、撮影した日の分はしっかりと給料を出すと言われ、それならばと都合のつく日と時間帯をいくつか提示するとあっさりと来所する日取りが決まった。 写真集の為の撮影なんてもちろん初めてのエレンはどれくらいの時間が取られるかは想像もつかない。 今のアルバイトの合間にできるか心配になって尋ねるとできる限りエレンに合わせるが、リヴァイもスタッフも他の仕事もあるので多少は融通をきかせてほしいことを頼まれ、それには引き受けた手前、了承した。 そうしているとエレンが家を出てからもう四時間も経っていた。そろそろ帰る時間だと、トイレに立つ。 用を済ませて席へ戻ると支払いは終わってしまっていた。 「こういう時は収入の多い大人に任せるもんだ」 けろりと言い放つリヴァイが少しだけ憎くなった。確かに大学生と社会人では収入は大きく違うが、支出だって違うはずだ。 なんとなく腑に落ちない気持ちになって無言でリヴァイを睨むと頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。完全に子ども扱いじゃないか。 「家まで送る。どっちだ」 「ち、近いのでそれはさすがに大丈夫です!」 今度はリヴァイが不服そうな顔をする。言いくるめるのにかかった時間は十五分。なかなか粘られたほうだろう。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/579
580: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 13:59:44.08 d 数メートル進んでから振り返るとリヴァイはまだ店の前でエレンを見ていた。見えなくなるまで見送るつもりらしい。 お辞儀をすると手を振られ、エレンは携帯電話を取り出した。 メールを起動させて登録したばかりのリヴァイのアドレスを選択する。 『風邪引かないうちに帰ってくださいね。今日はごちそうさまでした。おやすみなさい』 本文を入力して送信ボタンを押す。メールに気づいたリヴァイがそれを読んでいる間に走って逃げるように帰った。 家を出た時と違って、とても気分が良い。今夜はぐっすり眠れそうだった。 2、 「おはようございまーす」 「今日はよろしくお願いします」 テレビでしか見たことのない機材を持つ人々が行き交っていた。 あれからエレンは約束通りにリヴァイの事務所でアルバイトの契約を交わし、元々働いていたアルバイト先に少しシフトを減らす交渉をした。 タイミング良く大学は春休みに入り、自由な時間が増えたこともあって、そこまでシフトを減らさずに撮影にも当たれそうだ。 リヴァイが春休みとゴールデンウィークに集中的に撮影を行う計画を立てて、今日はその初日の撮影の日だった。 指示された時間に事務所へ行くと、控え室に連れて行かれて簡単に化粧をされた。ファンデーションで肌を整える程度だったが、生まれて初めての化粧だ。 顔にペタペタと塗られる感覚に息苦しさを感じた。 今日のところは髪はそのままでいいらしい。自然な感じがいいのだそうだ。 これから三ヶ月ほど撮影は続く。 まずは近場からと廃ビルでの野外撮影と、白ホリスタジオを利用しての室内撮影をする予定だ。 廃ビルでの撮影ではエレンがメインになるものもあれば、なんとなく誰かがいる程度にしか写っていないような写真も多く撮られた。 休憩中に撮った写真を見せてもらうとリヴァイの作品作りに参加ができていることを急激に実感してわくわくしてくる。 夢みたいな現実だ。 ビルの使用許可が取れているギリギリまで撮影をした後、次はスタジオへと車で移動する。 スタジオという場所へ行くのも初めてだ。 一体どんなところだろうか。ドラマや漫画で見るような場所だろうか。 気持ちが高揚して普段よりもテンションが高くなる。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/580
581: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:00:15.20 d しかしそれもスタジオでの撮影が始まるまでだった。 失念していたが、白ホリということはここで撮る写真はエレンがメインのものばかりなのだ。廃ビルとは違って、エレン以外には何もない真っ白な空間にわくわくが全て緊張へと差し替わる。 緊張は如実に撮影に影響し、ガチガチに固まってしまったエレンは自分でもこれではリヴァイが思うような写真が撮れないことが分かってしまう。 「エレン、」 見かねたリヴァイがエレンに声をかけて近づいてくる。 「上手くできなくてすみません……」 「そうじゃない。これを見ろ」 そうしてリヴァイの持っていたカメラの液晶画面を前に出された。表示されていたのは廃ビルで撮った写真で、さっき見せてもらったのとはまた別のもの。伏し目がちにどこか遠くを見るエレンがアップで写っていた。 「綺麗だろう。気張らなくても大丈夫だ。ポーズや視線はこっちで指示する。絶対に良く撮ってやるから自信を持て」 ぽんぽんと頭を撫でられるとそこからすっと緊張が解れていく。リヴァイに頭を撫でられるのは二回目だった。 エレンの目にやる気が満ちる。 「よし、いい目だ。それを撮らせてくれ」 リヴァイにずっと褒められていた目。両手で顔を隠して目だけ出したり、下から見上げる形でカメラを睨みつけるような、エレンの目力が強調される構図やポーズでの撮影が続いた。 同じ構図でも色々と角度やライティングを変えてリヴァイの満足するまでシャッターは切られる。 最後に目のアップを撮られて、撮影は終了した。 撮った写真を確認するリヴァイにしきりに「綺麗だ」と褒められ、周りのスタッフもまた写真を見ると同様にエレンに賛辞を送ってくれた。 スタジオでの撮影中、リヴァイはよく喋った。 「いい」「そのまま」「もう少し腕を上げてくれ」「綺麗だ」「もっと睨めるか?」「今のは良かった」 リヴァイがいない時に教えてもらったが、こんなに喋るのは珍しいらしい。 もしかしたら緊張でガチガチになってしまったエレンを気遣ってくれていたのかもしれない。 「顔は怖いけど優しい人なんですよ」 教えてくれたスタッフはそう言って笑っていた。 この日の撮影の後は公園、車の中、プールなど色々なところに行った。 スタジオもまた使用しては色々な小道具に埋もれたり、家具を使用したりと多種多様だ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/581
582: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:00:44.40 d 撮影の終わりにいつもその日の写真を少しだけ見せてもらうのが楽しみだった。 やっぱりリヴァイの撮る写真はすごい。 自分が自分じゃないみたいで、色んな意味で感動する。 ぼーっと間抜け顔で立っていただけでもリヴァイの手にかかれば、物憂げに悩む美しい青年に変わる。 人物を入れた写真を撮るのが初めてなんて嘘みたいだ。 そんな、美しく世界を切り取るリヴァイという人間を知る度に、惹かれ、心を奪われてしまったのは必然だろう。 リヴァイは優しかった。 それはエレンだけにではなく、スタッフにもスタジオの管理人にも、誰にでもだ。 仕事もキッチリこなすし、周りの迷惑になるようなことは絶対にしない。 なんて怖い人だと恐怖し、不審がっていたのが遠い過去に思えた。 こうなると気になるのはリヴァイの気持ちだった。 モデルになってほしいと頼まれた日以降、彼の口からエレンに好意を示す言葉は出ていない。 今もエレンを好きでいてくれるのか。気持ちが変わらないのなら両思いのはずだ。 エレンのことが好きだから、一番綺麗に撮れると言っていた。 リヴァイが撮るエレンは本当に綺麗で、それが変わらずに好きでいてくれている証と思ってもいいのだろうか。 自惚れてしまいたい。 リヴァイのことを考えるとぽかぽかと体が温かくなった。 撮影は野外よりもスタジオで行うことが多く、この日はシャワールームで撮影をする為にハウススタジオの一階を借りている。 シャツをはだけさせ、肩を出した状態で浴槽に腰掛けたり、逆に服をすべて着込んだまま浴槽に入ったり。今日もシャッターは次々と切られていく。 浴槽には半透明のシャワーカーテンがついていて、そのカーテンを締めた状態でそこにうっすらと見えるシルエットの撮影をしていた時だった。 「うわ! え、な、ええ?」 設置された水道管からいきなり水が溢れ出してきた。 蛇口には触れてもいない。瞬く間にエレンは水浸しになり、その冷たさに声を上げた。 カーテンを開けて逃げようとも考えたが近くには撮影機材が置いてある。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/582
583: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:00:48.08 d 自分が濡れるのはいいが、機材が濡れることがあってはならない。 ここは自分がなんとかすべきだと判断し、水が出ている箇所を手で抑える。 水漏れ(というレベルの出方ではなかったけれど)が起きていることはきっとみんなすぐにわかるはずだ。機材を避難させるまでは濡れても構うものか。 だが、エレンの思いもむなしく、カーテンはすぐに開けられた。シャー! と勢いよくカーテンレールが滑る音と共にリヴァイが姿を現したのだ。 「機材が……!」 「もう近くにはない。いいからお前も早く離れろ」 開いたカーテンの向こう側を見ると、確かに水がかかってしまう範囲から機材は既に撤収されていてエレンはほっと胸をなで下ろす。 「でも、リヴァイさんまで濡れることなかったのに」 声を出して呼んでくれれば出ていけた。 「それがお前を心配するなという意味なら却下だな」 勝手に体が動いたのだと、苦笑される。 水道管を抑えていた手を取られて、浴槽から出るように促されれば、遮るものがなくなった水はエレンとリヴァイを容赦なく濡らした。 水も滴るいい男、という言葉がエレンの脳裏をよぎる。しかも白いシャツを着ていたせいで濡れた部分がうっすらと透けており、大人の男の色気を感じる。 エレンはその肉体に目を輝かせた。 着痩せするタイプであったことを初めて知った。透けて見える筋肉の付き方がすごい。ひょろっとしたエレン自身の体とは比較にもならない。 「なに見てんだ。タオルもらって早く体を拭け。こんなもん素人じゃどうにもならん。管理人に連絡して業者を呼ぶ」 突然のアクシデントにもほぼ慌てることなく対処するリヴァイを尊敬の目で見る。当然のことなのかもしれない。 でも自分がいざこの状態になったら落ち着いて対処できる自信はない。 リヴァイはスタッフに渡されたタオルで濡れた髪の滴を拭いながら携帯電話を片手にスタジオの管理人へ連絡していた。 管理人常駐のスタジオではなかったが、リヴァイからの連絡をもらうと管理人はすぐに水道整備の業者を呼び、自らも来てくれるとのことだった。 管理人はすぐ近くの別オフィスにいるらしく、到着までに五分ほど要する。特になにかをしてほしいという指示もなく、ただ安全なところで待っていてほしいと言われたとリヴァイがその場にいた全員に伝えてきた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/583
584: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:01:13.20 d 撤収の準備をしている間に管理人は到着し、それから間もなく管理人が呼んだ業者もやってきた。 エレンは濡れた衣服を着替えて、髪を乾かし終えると帰宅の許可が降りた為、ほかのスタッフよりもひと足早くスタジオを出ることになった。 「今日はすまなかった」 「そんな! 大丈夫ですよ。お疲れさまでした。またよろしくお願いします」 申し訳なさそうに頭を垂れるリヴァイにぶんぶん首を横に振る。 「また連絡します」 「ああ、次も頼む」 リヴァイもこの頃にはもう着替えてしまっていて、エレンは少しだけ残念に思う。 実はエレンは筋肉フェチなのだ。リヴァイの筋肉を見て目を輝かせたのはそのせいで、ひどく憧れた。いい腹筋してるんだろうな。触ってみたい。 このことで、余計にリヴァイへの想いに火がついてしまったのは言うまでもない。 業務連絡以外でリヴァイからメールや電話がくることはほとんどないのに携帯が鳴るのが待ち遠しくなった。 暇さえあれば携帯の画面を見て、リヴァイから連絡がないかと今か今かと待ち続ける。 メール着信があったかと思えばメルマガだったり、友人からの遊びの誘いだったりで、落胆することが増えた。 自分の気持ちを自覚すると、やはり相手を独り占めしたくなるのが人間というものだろう。 一度告白されているせいでその想いは余計に膨れ上がった。 次会えるのはいつだったかな、とスケジュール帳を確認すると三日後だ。 先日は水のアクシデントがあったけれど、そんなアクシデントはそうそうあるものでもない。 撮影自体は順調で、もう半分程度が終わっていて、次の撮影は泊まりで郊外へ行く予定だ。その打ち合わせが三日後。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/584
585: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:01:17.12 d スケジュール帳を確認していると、つきっぱなしだったテレビに幸せそうなカップルがカメラの前でお互いの仲の良さを見せつけている様子が映し出された。 エレンは音がない空間が苦手で、家にいる時ならばテレビは常についていた。なにか見ているわけではない。 ただなんとなくつけて流しているだけ。今、リヴァイと一緒にいられるのも、あのニュースが流れた時にこうしてテレビをつけっぱなしにしていたお陰だからこの習慣も捨てたものではない。 テレビに映っているカップルの映像に、エレンは簡単に触発された。 二人はとても幸せそうで、きらきらした瞳で笑いあっている。 自分もリヴァイとこんな関係になりたい、と思うことに時間はかからなかった。 打ち合わせが終わった後、エレンは早速、告白をする為にリヴァイを呼び出した。 まだリヴァイには事務仕事が残っていたので、場所は事務所の近くの喫茶店だ。 いまだかつて彼女がいたこともなければ告白をしたこともない。 メールや電話で言ってしまえば簡単だったかもしれないけれど、 それでは自分の好きという気持ちがちゃんと伝わるかわからないし、すぐに返事がほしかったからちゃんと本人を目の前にして自分の気持ちを告げることを選んだ。 付け加えて、あんなに自分を綺麗に撮ってくれるのだから、きっとまだリヴァイもエレンを好いていてくれているだろうと踏んでいたことも直接告白をしようと思った理由のひとつだ。 夕方から夜に変わる時間帯で、店内はまばらに客がいるだけ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/585
586: 名無し草 (ワッチョイ 53a2-G+K4) [sage] 2016/04/06(水) 14:01:48.70 0 >>530 BBAおたおめ そういやキャラと誕生日同じBBAっておるんやろか http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/586
587: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:02:13.23 d 店員に通された席も前後左右に他の客が座っていることもなく、店の角席でちょうどよかった。 リヴァイは紅茶を、エレンはレモンスカッシュを注文して、それぞれ何口か飲んでいる。 いざ、告白するとなると少しばかり緊張する。リヴァイもこんな気持ちだったのだろうか。 それとも先にエレンの気持ちもわからないまま告白したリヴァイはもっと緊張しただろうか。 今から言うことがリヴァイを喜ばせる内容だといい。 そもそもそうじゃなかったら、きっとエレンは気まずさに撮影を続けることはできない。 だから、どうか。 「リヴァイさん、」 テーブルの下、膝の上に置いた手のひらを握った。 本当は目を見て伝えたいけれど、エレンにそこまでの勇気はない。 「どうした? なにか撮影に不満でもあったか?」 わざわざ呼び出して伝えたいことがあると言ってきたエレンにリヴァイは心配そうな顔をしていた。 持っていた紅茶のカップをソーサーの上に置いて、エレンの言葉を待っている。 「そうじゃなくて、あの、」 いきなり好きです、と言えばいいのか。それとも少しは前振りがあったほうがそれらしいのか。 悩んで悩んでエレンは前者を取った。まどろっこしいのは性に合わない。 「好きです。撮影、とか……してたら、リヴァイさんのこと好きになりました」 「………………っ、」 この時、エレンが顔を上げて告白していれば気づいたかもしれない。 しかしエレンは俯いたまま、もっと言えば目を閉じてリヴァイの表情を見ないままだった。 だからエレンは気づかない。告白を受けたリヴァイの顔が一瞬青冷めたことに。 驚きで表情が抜け落ちたことに。 「……あの、なので、まだリヴァイさんがオレを好きだと言ってくれるなら、付き合いません、か…………?」 エレンの言葉はまだ続いた。 緊張しつつも心の片隅ではイエスをもらえると思っての告白だ。 緊張はしても不安は少ししかなかった。 「…………」 「リヴァイさん?」 なかなか反応をしないリヴァイに焦れて、閉じていた瞼をそっと開いて、様子を窺う。 視界に入ったのは驚きに目を丸くしているリヴァイだ。その表情からはなんとも感情が掴めない。 「……そう、だな。突然だったから驚いた」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/587
588: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:02:18.28 d エレンが顔を上げたのをきっかけに、リヴァイもやっとそのひと言を返した。 「嬉しい、と思う」 「本当ですか……!」 テーブルに身を乗り出して、リヴァイに詰め寄る。気持ちが受け入れられた、リヴァイも同じ気持ちだった、とエレンの表情は明るくなった。 一方でリヴァイはまだ信じられないものを見る目でエレンを見ていたが、両思いになったことが信じられないのだろうとごく自然にそう思った。 それが、間違いだとは気づけなかった。 さっきまでの緊張が嘘のようにエレンは途端に生き生きとし出す。 「オレも嬉しいです。リヴァイさんのこと好きになれて同じ気持ちになれて」 「ああ、……じゃあ、付き合うか。あー……それで、今日はこれが言いたかったのか?」 「はい、好きだって思ったらいてもたってもいられなくて、仕事が残っていたのにすみませんでした」 にこにこと笑うエレンにリヴァイもぎこちない笑みを返してくる。 表情筋が仕事をしないのはいつものことだ。特に気にとめることもしなかった。 告白の答えを聞けて安心すると急に喉が乾く。レモンスカッシュをストローで一気に飲み干した。リヴァイは腕時計を見ている。 「時間大丈夫ですか?」 「そろそろ戻らないとだな……送ってやりたいが今日もできそうにない。悪い」 「いいえ、むしろありがとうございます。帰ったらメールしますね!」 話も終わったし、飲み物もなくなった。リヴァイも仕事が残っていることだし、帰ったほうがいいだろう。 見るとリヴァイの紅茶は殆ど減っていなかったが、彼が席を立って荷物を持ったのでエレンもそれにならう。 会計を済ませて、喫茶店を出た。 「気を付けて帰れよ」 「はい、リヴァイさんもあまり遅くまで頑張りすぎないようにしてください」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/588
589: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:02:45.70 d 目線より少し下にあるリヴァイの目を見る。抱きついてみてもいいだろうか。男同士だし、外だからまずいか? でもせっかく付き合いだしたんだから触れたい。 別れの言葉を交わしてもエレンはうーんうーんと悩み、立ち去ることができなかった。 ふう、とリヴァイが息を吐く。 エレンの心情を察したリヴァイの腕がエレンの背に回って軽く引き寄せられた。ぽんぽんと背を叩かれる。 熱い抱擁とまではいかなかったが、それはエレンの望んだものだった。 わずかに触れるリヴァイの体は震えている。 「緊張する、な……」 「はは、らしくないですね」 「じゃあ、またな」 最後に頭を撫でられて、体が離れる。小さな触れ合いだったが、満足したエレンは今度こそ笑顔で帰って行った。 周りは太陽が沈み、暗くなっている。ビルの明かりはあるとは言え、普段から表情の変化に乏しいリヴァイの暗く悩むような面もちに、最後までエレンは気づくことはなかった。 3、 予報は雨のち曇りのはずだった。晴れることを願って車に乗り込んだのは何時間前だろう。 目的地に近づくにつれて、空から雲は消えていき、とうとう着いた頃にはエレンたちの頭上には晴天が広がっていた。太陽が眩しい。予報は嬉しくも大ハズレだった。 一泊二日での泊まりの撮影。これで撮り終わらないとなるとまたやってくることになる。 よくあることではあるものの、それはできれば避けたいとリヴァイが言っていたので、エレンは前日に年甲斐にもなくてるてる坊主を作り窓辺にぶら下げていた。 リヴァイと付き合うことになってから、約一週間。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/589
590: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:02:49.84 d 今日まで会える予定はなく、代わりにエレンはメールや電話で会いたい気持ちを発散させた。 おはよう、から始まり、おやすみなさいで終わる。 なんでもないようなことでもリヴァイと共有したかったし、リヴァイはこれを聞いたらなんと言うだろうと反応が気になった。恋の力は大きい。 電話はリヴァイからメールの返信がきた時にすかさずかけた。 出られない時はメールしかできない旨のメールがエレンの着信の後に必ずある。律儀な人だ。 メールの返信はだいたいが相槌ばかりで、なにかリヴァイから話題を提供することはない。電話でも同じだった。 それでも話を聞いてくれるだけで嬉しい。 改めて年齢を聞けばリヴァイはエレンの十歳も上だった。年が離れているので、当然同年代と接する時とは違うだろう。 出会ってからの時間は短くともリヴァイはエレンと同じく嫌なことは嫌だとハッキリ言うタイプであることも知っている。 言葉遣いから、そのハッキリした物言いは時にきつく感じることもあるが、相手を傷つけようとしていることではなく、ただ不器用なだけだ。 そんな不器用なところも好きだと思うひとつの理由になっている。 続かないメールや会話に少しの不満や寂しさはあったけれど、元々口数は少なく、さきほども言ったように言葉遣いも乱雑であるリヴァイに今以上を求めることはしてはいけないだろう。 そんな中で待ちに待った撮影だ。リヴァイに会える。しかも撮影の間はリヴァイはエレンだけを見続ける。 その上、泊まりでてるてる坊主まで作った。成功させたい。 成功して、もっとリヴァイとの仲を親密なものにしたかった。 小さな湖のある森に隣接したペンションが今夜の宿で、着いた早々に撮影には入らず、各々与えられた部屋に荷物を置いて昼食をとったのちに、準備が整ってから撮影を始める運びだ。 そこまできてエレンは一人、不満の声を上げていた。 「え、オレ一人部屋なんですか?」 ペンションは小さい。スタッフの数も多いとは言えないけれど、その殆どが二人〜三人部屋だった。 エレンはひっそりと期待していたのだ。 付き合うようになったのだから、もしかしたらリヴァイと同じ部屋かもしれない、と。 現実はリヴァイもエレンも一人部屋。エレンの願望は叶うことはなかった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/590
591: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:03:15.67 d 「俺は部屋でもやることが多いからな。自分でできることは自分でやりたい。隣で仕事をされると同室になった奴が休めないだろう」 「オレはそんなこと気にしません」 「俺が気にする。お前はバイトとは言え、俺が撮らせてくれと頼みこんだモデルだ。VIP待遇を喜べ」 付き合ってるのに、と続けようとした言葉は声になることはなかった。 リヴァイが真剣にこの撮影に挑んでいることを知っていたし、不器用なリヴァイなりの気遣いを無碍にすることはできない。 もしかしたら隣で眠れるかもしれない。いつもよりも長く一緒にいられるかもしれない。そう期待した心が少しだけ折れた。 (リヴァイさんは仕事だし、仕方ねえよな) 一人で与えられた部屋に入る。一泊分の荷物なんてそう多くない。 エレンはモデルなので、機材を準備することもなく、部屋へ入って持ってきたボストンバックをクローゼットに押し込んでしまえばやることがなくなってしまった。昼食の時間と指定された時間までまだ三十分もある。 どうしようかと考えたが、特にやることも見つからず、結局携帯にダウンロードしていたアプリゲームでその三十分を潰した。 その後、ペンションの管理人が用意してくれた弁当を食堂で食べ終わると、撮影をするために全員で森へと入る。 四月も終わる頃で緑が綺麗だった。 晴れてくれたこともあって今日の撮影も順調だ。 エレンの衣装は上も下も真っ黒なシンプルなTシャツとパンツ。 時々裸足になって緑の中に立った。 暗くなるまで続いた撮影が終わったのは夜の八時も過ぎた頃。 それから昼同様に食堂で夕食をとってあっと言う間に解散となった。 大浴場のような共同風呂もあったが、エレンはなんとなく部屋に備え付けてある風呂に入り、一日の汚れを落とす。足の裏は特に念入りに洗った。 その都度タオルで拭いていたし、ペンションに戻ってからも簡単には洗ったが、森の中を裸足で歩いたので洗うにこしたことはない。 地面に寝ころんだりもしたので、頭もよく洗う。 風呂から上がれば石鹸のいいにおいがエレンを包んでいた。 このペンションのアメニティの石鹸は安物ではなかったらしく、風呂上がりの髪はいつもよりもふわふわで触り心地も良くなっている気がする。 ドライヤーで乾かした髪を自分で触れて、エレンは満足気に笑った。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/591
592: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:03:19.60 d パジャマ用に持ってきたシャツとスウェットのズボンをはいて、スリッパを引っかける。部屋の鍵を持って、ドアを開いた。 カードキー型のオートロックキーだから鍵を閉める作業はしなくてもいい。 向かうはリヴァイの部屋。部屋番号は昼の間に本人に聞いている。 行ってもいいかとは聞かなかったけれど、駄目だとも言われていない。 少しくらい、行ってもいいだろう。 コンコンコン リヴァイの部屋はエレンの部屋と同じ階の一番端だ。 ズボンのポケットに持っていたカードキーを入れて手ぶらになったエレンはその部屋のドアをノックした。 「エレンです。今、大丈夫ですか?」 声をかけるとこちらに近づく足音が聞こえて、ガチャリと鍵が外されドアが開く。 「……なんだ」 開いたドアを足で止めて、リヴァイがエレンを見る。 彼は宣言通り、パソコンでなにか作業をしていたようだ。ドアが開いた先にノートパソコンがあり、リヴァイは眼鏡をかけていた。 「明日は早朝からだから早く寝ておけ」 そう言って眼鏡を外して、眉間を二、三度揉む。 早く寝なければいけないのはリヴァイのほうではないだろうか。 エレンから見ても彼が疲れを感じているのは明白だった。 「はい、でも、えーと、」 ここにきたのにはあることをするためだ。でも自分からは言いにくい。 リヴァイの作業も中断させてしまったし、できるだけ早く済ませたい。 眼球がきょろきょろと左右に動く。しかしエレンがためらったのはその一瞬だけだった。 ええい、言うより悩むより行動だ。それが自分のいいところのはず。 「失礼します!」 リヴァイの身長はエレンよりも低い。 肩は掴みやすかった。 なぜ肩を掴んだかって。 それはリヴァイの体を固定するためだ。 なぜ固定するのかって。それは……。 「っ、」 その時、息を飲んだのはエレンかリヴァイか。 肩を掴んだエレンはそのまま自分の顔をリヴァイの顔に近づけた。 時間にして一秒ほど、二人の唇が重なって。離れる。 「……へ?」 先に声を出したのはエレンだった。 キスをした、はずだった。 自分はリヴァイに、おやすみのキスをねだりにきたのだ。 結果はねだれずに、半ば強引に唇を奪ったのだけれど。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/592
593: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:03:44.69 d 付き合ってから、エレンにとっては生まれて初めてのキスだった。 ファーストキスはレモンの味、なんていうのは今はもう古いのか。レモンかどうかはわからなかった。わかる前に、離れてしまった。 離したのはリヴァイで。 唇が重なった瞬間、リヴァイは力づくでエレンの体を引きはがした。突き飛ばすにも近いそれにエレンはバランスを崩して一歩後ろへ下がる。 なんだ。この反応は。これではまるで。 ……その先は考えたくなかった。 「いきなりだったから、だ。もう少し自分を大切にしろ」 ごく自然にリヴァイは袖口で唇を拭った。その腕は下ろされることなく、リヴァイの唇をエレンから隠してしまう。リヴァイも動揺していた。 でもエレンはもっと意味がわからない。 あからさまな拒絶に見えた。ぱちぱちと瞬きをして、表情がごっそりと抜け落ちる。 「いえ、すみません。おやすみの、キスとか、……ちょっと憧れてて、はは」 ははは、と声を出しながら、顔は全く笑えていなかった。 一歩引いてしまった足を元の位置に戻す。その一歩分、リヴァイとの距離が近くなる。そこで、エレンはまた見てしまう。理解してしまう。目の前の男が、近づいた分だけエレンから距離を取った。 (なんで、) 問いたい言葉を飲み込む。 「おやすみなさい」 代わりに就寝の挨拶をした。今度はちゃんと笑顔で。キスはしない。これ以上近づかない。笑顔で手を振るだけだ。 「あ、ああ。また明日」 「明日、もしオレが寝坊したら叩き起こしてくださいね」 迷惑はかけたくないんで、と付け足して言う。 そこにいたのはもう普段と変わらないエレンだった。本当はなんでと問いただしたいのを我慢して、いつも通りの自分を心がけた。 「リヴァイさんも早く寝てください」 リヴァイにはどんな自分に見えただろう。そんなことも考えたが、これ以上はこの場にいるのが苦しい。 もう一度、「おやすみなさい」とできる限り明るい声で挨拶して自分の部屋へ走り帰った。短い距離の廊下を走りながら片手でポケットに入れたカードキーを探る。 部屋の前に立つと、ガクガクと体が震えてきてカードキーを落としてしまった。ゆっくり膝を折ってそれを拾う。重力に負けて目からなにか出てきそうだ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/593
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