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【腐女子カプ厨】巨雑6438【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net (651レス)
【腐女子カプ厨】巨雑6438【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/
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597: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:04:43.83 d リヴァイのカメラがカシャカシャと連続して鳴った。 その音が鳴り終わるとリヴァイはカメラから手を離す。 「一旦休憩にしよう」 エレンにもその言葉は届いていたが、足がその場から動かなかった。なぜかは自分でもわからない。 ただ、なんとなく。その場にしゃがみこんで、朝日できらきらと光る水面を見つめた。 ひんやりと冷たい空気に包まれて、感じる太陽が暖かくて気持ち良い。 「寒かっただろう。風邪をひく」 背後から誰かくる気配がして、上から声が降ってきた。 振り返るとリヴァイがブランケットを持って立っている。 それ以上言葉を発さずに前方に回り込んできたリヴァイは、地面に膝をついてエレンと視線の高さを合わせ、持っていたブランケットをエレンの肩にかけた。 「……はい、」 「はいじゃねえだろ」 外に出ていて誰にも使われていなかったブランケットは撮影前に羽織っていた時よりも冷たく感じる。 「じゃああっためてくださいよ」 「なに言ってんだ」 頬を膨らませてエレンがぼやく。それを聞いたリヴァイが笑った。いい写真が撮れて機嫌が良い。 ああ、やっぱり好きだなぁ。 目の前の男に対する自分の気持ちを再確認させられた。 でもこれ以上はリヴァイには近寄らない。彼が嫌がることはしない。 こんなに近くにいるのに、なんて遠いんだろう。 エレンからは決して縮められない距離を、今度はリヴァイが詰めてきた。 (また、この顔、) 今までに何度か見たリヴァイの表情。なにかを決心して覚悟したような、そんな顔だ。 深く息を吸ってからぎゅっと唇を一文字に結んでいる。 今回近づいたのはエレンからではないのにこんな顔をさせてしまうなんて。 (もうこの顔は見たくない) 瞼を閉じて、そっと視界をシャットダウンした。 唇に柔らかく湿っぽいものが触れて、離れる。 「ん……?」 さっき閉じたばかりの瞼を持ち上げると、リヴァイの顔のアップが眼前に広がっていた。 じゃあ今唇に当たったのは、もしかしなくてもリヴァイの唇か。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/597
598: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:04:47.62 d キスされたことを疑問に思うよりも先に、リヴァイはあんな顔をしないと自分とキスもできないことに気づいてしまう。 好きでもない男とキスするなんてエレンだって御免だ。 絶対にしたくない。それをさせてしまったのは仕事のためか、昨晩の償いのつもりか。 どちらにせよ、このキスでエレンは確信した。 (本当にもう、好きじゃないんですね) 昨日思った通りだった。 痛い痛いと心臓が悲鳴を上げている。 なんで気づいてしまったんだろう。 なんで好きになってしまったんだろう。 リヴァイみたいな人に好きだと言われれば意識しないなんて無理だ。仕方ない。 飽きられてしまったのは自分に魅力がないからだ。 それでも笑いかけてくれる。関係を良好に保とうと努力してくれる。 これにエレンは応えなければならない。 「ほんっと、寒いですね」 ぶるりと震えてから身を縮こまらせてしまえばリヴァイが半歩分離れた。 不自然にならないようにそっと距離を取る。 エレンの傍にいては不愉快だろう。不愉快の原因にはなりたくない。気遣わせたくない。 「休憩っていつまでですか?腹減りました」 わざとらしいほど明るい声を出した。準備のいいリヴァイのスタッフたちのことだからそう大きな声で言えば聞いた誰かが菓子を出してくれるかもしれない。 その予感は的中して、「クッキー持ってるからおいでー!」と手招きしてくれるスタッフへとエレンは駆け寄る。 リヴァイはその後をゆっくりとした歩調で追いかけた。 それから、エレンは恋人らしいことをリヴァイに望むことをパッタリとやめた。 別れてほしいとは言われなかったし、エレンからも言えなかった。 代わりにプライベートでリヴァイに関与しないように言動を改めた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/598
599: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:05:13.42 d 好き合ってもないのに、付き合う意味があるのかと考えて何度か別れましょうとメールを作成したけれど、送信することはできず、未送信のままエレンの携帯電話に溜まっていく。 (だって。付き合っていればまたオレを好きになってくれるかもしれない) そんなことあるわけない。この関係を望んだのはエレンだけだ。 リヴァイは早く自由にしてあげなければならない。分かっているのに、できなかった。 だからせめてリヴァイの気苦労が減るように。 前よりも真剣に(前も真剣だったけれど)撮影に打ち込む。リヴァイとの距離は常に一歩あけた。 そのことを意識した状態でいると、不意にリヴァイから近づいてきた時にビクリと体が跳ねてしまって、そういう時は大体、咳をして誤魔化す。 エレンをモデルにして良かったと思われたくて。仕事の汚点にはしたくなかった。 カメラマンとモデルの関係が拗れるといい写真を残すことは難しくなる。もうしてはいけないことをたくさんしてしまったから、これ以上は失敗できない。 名前だけの『恋人』を見るたびに痛む胸に気づかないふりをして、自分の気持ちに蓋をした。 そんな努力の甲斐あって後半の撮影では撮影終わりによく食事に誘ってくれた。 勘違いでなければ、撮影中に頭を撫でてこようとしてきたこともある。 伸びてきた腕は上手に避けてしまったが、警戒が解けてきていたことは確かだと思う。 エレンは間違っていなかった。 そうだ、間違っていなかった。その事実がエレンに牙をむく。牙は深くエレンの心臓を抉り、傷つけていく。 もうきっとこれは抜けない。日々ゆっくりと深く突き刺さり、いつか心臓を食い破ってしまうだろう。 今はそれが撮影がすべて終わった後だといいな、と願うばかりだった。 そうすれば、リヴァイの迷惑にならないから。 そうすれば、最後に一番みっともないところを見られなくても済む。 そうすれば、リヴァイの記憶の中でエレンはちょっと困った奴程度で収まるかもしれない。 そうすれば、嫌いって言われないかもしれない。 最後に「よくやったな、助かった」と声をかけてもらうだけでいい。 その後まで彼がほしいだなんて言わない。これ以上わがままは言わない。 彼を見ているともっと好きになってしまうそうな自分がいることが怖くて。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/599
600: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:05:17.33 d いっそ嫌いになれれば楽になれるのにそれすらできず。 ただ、心臓がズキズキ痛み、その痛みで意識を保っていた。 最後の撮影は海浜公園で行われた。 リヴァイからの指示はなく、公園の中を自由に回っていればいいとのことだったので、好き勝手に動くことにする。 最初はこれでいいのかという戸惑いが強かったけれど、一時間もそれを続けていれば戸惑いも吹っ切れて一人の散歩を楽しむようになる。 数時間、一応カメラを気にしてゆっくりとした動きで公園内をぐるぐる回り、最終的にたどり着いたのは浜辺だった。 今日もまた晴天で風もなく、穏やかに波を打つ海が広がっている。 海水浴の季節にはまだ早いので人もあまりいない。 「すっげーきれい!」 元々海が好きだった。 一人で考え事をするのも、友人たちとわいわい騒ぐのも、全部楽しい。 広い海を目の前にしていると自分の悩みなんかちっぽけに感じて気が楽になる。 すぐ傍に流木があり、その陰で蟹がちょこちょこ横歩きをしているのを見てからからと笑う。 せっかくだから友人とくる時にはできないことをやろう。 エレンが始めたのは砂遊びだ。海水でほどよく湿った砂を山にして固める。 中央にトンネルを掘って反対側に貫通させてから、なんとなく城っぽい形状にしていく。 なにが完成したのかと聞かれると自分でもわからないものだったが、久々の砂遊びで立派な作品ができて満足した。 「いいな、」 リヴァイはそう独り言を言い一心不乱に浜辺で遊ぶエレンにレンズを向けてシャッターを押している。 考えてみれば撮影中はリヴァイといる時間の中で一番楽かもしれない。 レンズを通せば笑えるし、見つめることだってできる。 撮影という線引きがすでにされていることが大きな助けになっていた。 カメラに夢中なリヴァイの姿に、これが最後なんだから、と悪戯心がわく。 今日は一度もカメラに視線を送っていない。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/600
601: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:05:51.44 d このタイミングで思いっきり笑顔でカメラを見たらきっと驚くに違いない。両手をパンパンと合わせて簡単に砂を落とした。 そのままぐるん! となんの予告もなく、上半身を回して、横から写真と撮っていたリヴァイに向けて全開の笑顔を見せた。 カシャカシャカシャカシャカシャ…… 何度もシャッター音が聞こえてきて、仕掛けたのは自分だったけれどそんなに撮られると恥ずかしくなる。 「そんなに撮らないでくださいよー!」 カメラに両手の平を突き出して顔との間に遮りを持たせると、ようやくシャッター音が止まる。 リヴァイの手からカメラが離れ、ネックホルダーにぶら下がって胸のあたりでぷらぷら揺れていた。 「どうしたんですか?」 自然体の写真を撮りたかったのに、カメラ目線なんかしたから気に障ったのだろうか。でもそれならそれで注意されるはずだし、そもそもシャッターはあんなに切られることはない。 「お前……っ、その顔は反則だろ……」 ついにはしゃがみこんでしまったリヴァイに少しだけ近寄る。この距離ならまだ大丈夫のはず。 「え、……なんか、すみません?」 「違う、最高だった。俺はずっとあれが撮りたかったのかもしれない」 「よく分からないですけど、リヴァイさんが満足したなら良かったです……?」 「した。これで撮影は全部終わりだ」 エレンの理解が及ばないまま、リヴァイは一人で納得して立ち上がる。 『全部終わり』 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/601
602: 名無し草 (ワッチョイ 53a2-G+K4) [sage] 2016/04/06(水) 14:06:20.33 0 あれ嘘バレなんかなやっぱり 話が進んでないからちょっと本バレっぽさもあるけど長瀬が気絶から覚めて家を投げるってのも唐突すぎる気がするし http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/602
603: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:06:20.44 d その言葉にエレンがはっと息を飲んでいる間に、少し離れた場所にいるスタッフに告げれば、スタッフからは歓声がわき上がる。 口々に「お疲れさまです!」と言い、拍手が起きた。 なんとも呆気ない終わり方だった。 そうは思ってもリヴァイが終わりだと言えば撮影は終わりで、同時にエレンの役目も終わってしまう。 その後、リヴァイは簡単なデータの確認、他のスタッフは機材の後片づけをしてから、都合のつく者全員で簡単に打ち上げに行くことになっている。 先にそのことを聞かされていたエレンも参加する予定だった。 ちなみに本打ち上げはまた後日あり、今日は一旦のお疲れ会といったところらしい。 普段ならばやることがないエレンは先に帰宅となるも今日は暇を潰さなければならない。 砂で汚れた手足を洗い、汗ふきシートで体を拭くとスッキリした。 車には着替えも準備してあるので、スタッフに鍵を借りて空いた時間の内に着替えてしまう。大きなワゴン車で窓にはカーテンがかかっていた。 (ちょっと疲れたな、) まだ時間はあるだろう。一日中歩いた疲れで瞼が重い。 ワゴン車の一番後ろの席にゴロンと横になった。 足を伸ばすことはできないし狭いけれど、それよりも横になれることが嬉しい。 うとうとと夢に意識がもっていかれる寸前、隣の駐車スペースに別の車が止まった音が聞こえた。 エンジン音が止まり、続けてドアが開く。閉める時はバン!とそんなに力強く閉めなくても閉まるのになあと思うくらい大きな音が響いた。 「リヴァイいたー! 撮影どうなの、順調……ってえええええええ! もう終わっちゃったの? 最後くらい見学したくて車飛ばしてきたのにひどいじゃないか」 出てきた人物はよく通る大きな声のようだ。エレンが乗る車の中にまでよく聞こえてくる。 リヴァイの知り合いらしく、そしてリヴァイもまたこの近くにいるらしいことがわかった。大きな声は女性のものだ。 「うるせえよ、クソメガネ」 「ねー、そのカメラのデータ見せてよ……って、え? いいの? もっとごねないと見せてもらえないかと思ったのにどういう風の吹き回し?」 「ほんとにうるせえな。声のトーン抑えろ。ほらよ、」 女性の声はどこかで聞いたことがある。どこだったか。聞いてるうちに思い出すだろうか。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/603
604: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:06:24.35 d 「おおー、めちゃくちゃいいね。モデル、エレンで大正解!」 「そうだな。あいつが引き受けてくれてよかった」 外から聞こえてくる会話にエレンは嬉しくなった。 リヴァイがエレンをモデルにして良かったと他者と話している。彼らはエレンがここにいることを知らない。つまり、これは本音だ。 頑張って良かった。 この言葉を聞けただけで満足できる。自然と口元に笑みが浮かんだ。傷つきすぎた心臓に鎮痛剤が打たれた。 「わたしのアドバイス通りにして良かったよね」 「…………」 「なにその間は。エレンが引き受けてくれたのってわたしのお陰じゃん!」 「……まあ、そうなんだが」 「全然理解できないけど、リヴァイってやっぱりモテるんだなって思ったよ。好きだって言ったんでしょ?」 「……ああ、」 「君が好きだって言えば大概の子は落ちて言うことを聞いてくれる、なんて我ながらひどいこと言ったし、実行するリヴァイもリヴァイだけど、その点はこの写真見たら納得。ほんといい写真」 「そりゃ、どうも」 「どうしたの? さっきから浮かない顔して」 「なんでもねえよ」 途中から両手で耳を覆ったのに、彼女のよく通る声は鼓膜に届いてエレンの脳に無理矢理入ってきた。 これ以上聞いちゃ駄目だ。聞きたくない。そう思うのに、理解してしまう。分かってしまう。 最初からリヴァイはエレンを好きじゃなかった、なんて。そんな知りたくもないことを。 好きだって、一目惚れをしたと言われた。 ほんの少しでもリヴァイに好かれている期間があったのとなかったのでは全然違う。 それがなかっただなんて聞きたくなかった。 それが全部モデルを引き受けさせるための嘘だったなんて、。 鎮痛剤だと思ったものが毒に変わる。即効性の毒だ。 じわじわと体を蝕むなんてレベルじゃない。 急激な吐き気を目眩に襲われて、以前に二度合わせた唇が冷えていく。 相手を見てドキドキしたことも。 連絡がこなくてそわそわしたことも。 次に会えるのは何日後だとカレンダーを見てカウントしたことも。 触れたいと願ったことも。 好きになってもらいたいと望んだことも。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/604
605: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:06:52.18 d 好かれようと努力したことも。 付き合うことになった時の喜びも。 なにも、なにも。リヴァイは感じていなかった。思っていなかった。 全てエレンの一方通行で、全てエレンだけが感じ、望んだことだった。 それが分かってしまえば全てが簡単に繋がるのだから笑えない。 最初から、この想いが叶うはずなかった。 それならば尚更、距離を取ったことはいい判断だったんだ。 あれ以上近づいていたら、嫌いにランクダウンしてしまっていたかもしれない。 (……馬鹿みたいだ、) リヴァイの言葉を信じた自分も。エレンに告白されて後に引けずに我慢して付き合っていたリヴァイも。 なのに嫌いになれない。 ひどいことをされたのはエレンなのに、自分でも嫌いになったっておかしくないと思うのに。 だってあの人はいつも優しかった。いつもエレンを気にかけてくれた。 食事に誘ってくれていたのだって嬉しかったんだ。 味は分からなかったけど、一緒の時間を過ごせるだけで幸せだった。 写真だって本当に綺麗に撮ってくれていて、自分が彼の作品の一部になれることが本当に嬉しかった。 人生で一番の自慢だ。 撮影のことがあったからといっても、エレンの言葉を拒否することは簡単だったのに、彼は恋人ごっこにも付き合ってくれた。 恋人らしかったかと聞かれれば、疑問は残る。 だけど、リヴァイはリヴァイの時間をエレンにくれた。 不器用なりに一生懸命だったんだと思う。 今だって別れようとは言われていない。 エレンの気が済むまで付き合ってくれるつもりかもしれない。 (ああ、でも、) 「……それは駄目だろ」 自分の思考に自分で否定した。声に出さなければこの期に及んで気持ちが揺らいでしまう。 大好きな人の時間を奪ってしまう。リヴァイを自分から解放してあげなければならない。 エレン自身からリヴァイに別れを告げる。できるだろうか。 いや、しなくてはならない。リヴァイに罪悪感が残らないように。その為に自分が悪者になっても。 気づけば、リヴァイたちはどこかへ行ってしまっていた。 二人は最後までエレンがここにいて、会話を聞いていることは知らないままだった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/605
606: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:06:55.90 d 「先生さようならー!!」 「おう、また明日な!!」 勢いよく手を振る少女に向かってエレンも同じように大げさに両手を上げて手を振った。その隣にいる母親は笑いながらエレンに向かって頭を下げている。 彼女は母親にしてはまだ若かった。エレンと同じ年代だと聞いたことがある。 自分ももしも早く結婚をしていればあれくらいの年代の子供がいたのだろうか。 子供の手を引いて帰っていく親の姿を見るたびにエレンはそう考えていた。 シガンシナ地区にある小さな保育所がエレンの勤務先だった。 住宅街の傍にあるこの保育所に預けられるのは先ほどの母親のように両親が共働きをしている家庭や母子、または父子家庭の子供も多い。 あまり各家庭の事情を詮索するつもりはないし、エレンとしては子供と触れ合えればそれでよかった。 昔から子供が好きだったから今の職業は天職だと彼自身は思っている。 両親――特に父親はエレンに医療関係に従事をしてほしいと願っていたようだったが、彼自身そこまでの学がなかった為早々に諦めた。 単純に子供が好きだからといってこの仕事は続けられるものじゃない。預かっている子供たちの中には難しい家庭の子供や両親もいる。 彼らも人間であるから、ともちろん念頭に置いて応対はするのだがそれでもやはり理想と現実は大きく異なることもある。 ストレスだって思いのほか溜まるし、休日も満足に休める時間も少ない。 それでもエレンはこの仕事が好きだ。子供が好きで、彼らと触れあえる時間はここでしか得られないものだった。 親子の姿が見えなくなるとエレンはくるりと振り向いて園内の中へと戻る。 あと残っているのは――親がまだ迎えに来ていない子供はミカサだけだった。 「ミカサ」 教室を覗けばミカサは一人大人しく積み木遊びをしていた。 エレンの声にぱっと表情を輝かせた彼女に笑いかけながら「おいで」と彼はしゃがんで両手を広げる。 途中まで積み上げた積み木を放り出してミカサはエレンに向かって走ってきた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/606
607: 名無し草 (ワッチョイ 53a2-G+K4) [sage] 2016/04/06(水) 14:07:03.87 0 まさか地下室来年とかなダハハ ループしてるのはわいらやねん http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/607
608: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:07:22.21 d スピードをつけたおかげで抱き着くというよりは彼女の突進を身体で受け止め、思わずよろめいてしまう。 「こら走るなよ。危ないだろ?」 「だってエレンが呼んだから」 「エレンじゃなくて先生って言いなさい。ったく」 そうは言いながらもエレンは笑いながらミカサを抱きあげた。 そして慣れた様子で彼女を抱き上げると、先ほどまでミカサが遊んでいた場所まで連れて戻る。 ミカサは毎日最後まで残る園児だった。彼女の父親は毎日迎えが遅く保育所が閉まるぎりぎりの時間にならないといつも迎えに来ない。 駅からここまで走って来る時もあるらしく、冬でも額に汗を浮かべて迎えに来ることもあった。 すまないと頭を下げる彼のことをエレンも他の保育士も迷惑だとは思ってはいなかった。 詳しくは知らないが父親と母親は彼女がこの保育所に預けられる前に離婚をしてしまったのだと聞いている。 たまに彼女が母親に連れられて帰る子供の姿を羨ましそうに見つめることがあった。 やはり母親が恋しいのだろうか。その姿を見るたびにエレンは胸が締め付けられるような思いをしていた。 「ミカサ、楽しいか?」 だからというわけでもないが他の子供たちよりもエレンはよくミカサにこの問いかけを行う。 彼女以外にも片親の家庭の子供だって何人かいる。 その子供たちも片親を恋しく思い寂しさを抱いているはずだ。 エレンは彼らにも同じ問いを聞いているがミカサには特についつい同じ質問を繰り返してしまう。 贔屓目に見てしまうことは悪い事だと思っているがミカサだけは特別だった。 彼女だけはどうしても放っておけず、それ以外にも他の子供たち以上に構ってしまっていた。 ミカサは積み木を手にしたままエレンを見やった。 決して大きな瞳ではなかったが彼女の目はとても綺麗だ。 澄んだ瞳いっぱいにエレンを映しながら、ミカサは控えめに首を振る。 「エレンがいるから寂しくはない。私は楽しい」 「エレンじゃなくて先生な」 彼女以外は皆「エレン先生」や「イェーガー先生」とちゃんと呼んでくれるのに、ミカサだけは「エレン」と彼を呼び捨てで呼ぶ。 はじめからずっとそうだ。 いくら言っても直そうとしないのでエレン以外の子供も保育士も何も言ってはいない。諦めていないのは彼だけだ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/608
609: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:07:26.19 d ため息をつきながらエレンはミカサが組み立てた積み木の上に最後のひとつを乗せる。 三角形の積み木を乗せれば家のような形が出来上がった。 ミカサはその周りに小さなぬいぐるみを並べる。どうやら積み木の建物が彼らの家らしい。 「どれがお父さん?」 「クマさん。それでウサギさんがお母さん」 並べたぬいぐるみを一つひとつ指さしながらミカサはエレンに家族たちを紹介していく。 それを眺めながらエレンはミカサに相槌を打っていた。 「ワンちゃんがお兄ちゃんでネコちゃんが妹」 「そうか、たくさんいるな」 「うん、みんなが寂しくないように。家族は沢山いたほうがいいから」 微笑ましく思っていたがその一言でエレンは思わず表情を曇らせる。こういう場合はどういう顔をすればいいのか、一瞬分からなかった。 「ミカサは今、寂しいのか?」 ミカサはウサギのぬいぐるみを抱きしめながら彼顔を上げた。無表情で自分を見つめるエレンにミカサは小首を傾げる。 「寂しくない。エレンもお父さんもいるから」 ぎゅっと彼女の腕に力がこもったのが分かった。寂しくなんてないわけがない。 ミカサのことをずっと見てきたエレンにはそんなことくらいすぐに分かってしまった。 ミカサは強い子だ。素直だし我儘も滅多なことでは言わない。 泣きたいこともあるのに泣こうとはしないし、自分のことよりも周りのことを常に見ているようなタイプの子供だ。 強がる必要なんてどこにもないのに。エレンは手を伸ばして再び彼女をぬいぐるみごと抱きしめた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/609
610: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:07:51.88 d 「……エレン?」 先ほどよりも強く、きつく抱きしめる彼の腕にミカサは困惑を示す。 はっ、と我に返りエレンは慌てて腕の力を緩めた。 身体を離すことはなく、腕の中にミカサを閉じ込めたままエレンは彼女の顔を覗き込む。 「そうだよな、こうやっていれば寂しくなんてないもんな」 やはりミカサだけはエレンにとって特別だった。 どうしても構ってやりたくなってしまうし、他人事として見られない。 出来ればずっと傍にいてやりたいと思う。 この保育所から巣立った後も、自分がもしもこの子と一緒に暮らせればきっと寂しい想いなんてさせない。 彼女とこうして迎えが来るまでの時間を二人きりで過ごしている間、何度もそういった想いが過っている。 しかし彼女と一緒にいたいという理由はそれだけじゃない。 ミカサと一緒に暮らしたいという理由はそんな単純なものじゃない。 さらにいえばそれは彼女には直接的には関係がなかった。 どちらかといえばエレン自身の問題ではあるし、しかもこれはミカサのことを考えたうえでのものじゃない。 むしろミカサにはさらに寂しい想いをさせるだけだろう。 新しい母親と出会わせてやることが出来なくなるのだから。 これらは万が一に、エレンが彼への想いを成就させた場合の話ではあるのだが。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/610
611: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:07:56.34 d がらっ、と扉が開く音がする。 エレンとミカサ、二人揃ってそちらのほうを見やれば一人の男がそこに立っていた。 今日は額には汗は浮かんではいない。チェックのマフラーを巻きグレーのスーツを着た男は彼らの姿を見て鋭い瞳をほんの少し和らげた。 どきり、と心臓が大きく高鳴った。ミカサよりも彼のほうへと視線が釘付けになり、外せなくなってしまう。 穏やかに見つめる視線は自分に向けられたものじゃないことは知っている。 それでも今は勘違いもしてしまいそうになる。 いや、実際してしまっていた。彼がそんな眼差しで自分を見つめているものだと思うと胸がさらに苦しくなる。 「お父さん」 ミカサは彼に向かってそう叫ぶ。その声にエレンは現実に引き戻された。 気付いた時にはミカサはぬいぐるみを手放していた。 エレンの腕から抜け出すと彼の元に向かって歩いて行く。 「お父さん」と彼女に呼ばれた男はしゃがみこんでミカサと目線を合わせる。傍まで来た彼女の頭を撫でるとミカサは嬉しそうに笑みを零した。 「遅くなって悪かったな。いい子にしていたか?」 「うん、エレンと一緒にいたからいい子にしていた」 大きく頷いたミカサに「そうか」と男はつられたように笑みを浮かべた。 人によってはそれが微笑みだとは分からない程度のものだ。しかしミカサにも、そしてエレンにもそれは彼の精一杯の笑顔だということは見て明らかだった。 ミカサに続き遅れてエレンも彼らがいる入り口のほうへと歩み寄った。手にはミカサの荷物や上着を持ち彼女の帰り支度もついでに用意してやる。 「お疲れ様です、リヴァイさん」 エレンは父親の名前を呼んだ。ミカサからエレンへと視線を移し、「ああ」と表情を変えないままに頷く。 「今日も遅くまで悪かったな」 「いいえ、これがオレの仕事ですから。気にしないでください」 エレンは答えながらミカサに上着の袖に手を通す様に促す。その姿は父親であるリヴァイよりも手慣れた様子だった。腕を広げたミカサに合わせて上着を羽織らせ、そのままボタンまで留めてやった。 「遅くなるようなことがあれば事前に連絡を頂ければ夕飯くらいまでは面倒を見ますから。いつでも連絡してくださいね」 「ああ、いつも本当にすまないな。助かる」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/611
612: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:08:21.75 d エレンがいつも最後まで残ってミカサの相手をしていることはリヴァイも知っていた。 この時間帯に残っているのは大抵エレンしかいない。 はじめはあまり話すこともなかったが、機会が増えれば自然と会話も増える。 しかもエレンは女性ではなく男性だったから余計に距離も縮まったのかもしれない。 子供を放っておいて仕事に行くなんて、という女性からの視点ではなく同じ男性として同情をしてくれるエレンにリヴァイはいくらか救われているのだというは話をリヴァイ本人から直接聞いたこともあった。 付き合いが深くなれば連絡先も交換をするし、対応に関しても贔屓とまではいかないが少し甘くもなってしまう。 リヴァイは仕事が終わってから急いで保育所までやって来てはくれるが、それでも最終の預かりの時間を過ぎてしまうことも何度かあった。 そういった時もエレンは文句も言わずにミカサの相手をしている。 事前にリヴァイから連絡を貰えば彼女と一緒に夕飯まで食べることさえもたまにあった。 本当は公私混同なんてしてはいけないことなのだが、エレンはリヴァイに対して甘かった。彼だけは特別だ。 ミカサだけではなく……――いや、ミカサがリヴァイの子供だからこそ彼女まで特別扱いしてしまう。 「寂しくなかったか?ミカサ」 上着を着せ終え鞄を背負ったミカサにリヴァイはエレンと同じ質問を問いかけた。差し出された大きな手を握り、ミカサは大きく頷いた。 「エレンがいたから大丈夫。お父さんが来るまでちゃんと待っていた」 「そうか。それならいい。いい子にしていたご褒美に今日はハンバーグでも食うか?」 「!!うん、お父さんと一緒に食べたい!!」 リヴァイの前ではミカサも一人の子供だ。 いくらエレンが好きだと言っていてもやはり態度は大きく違う。 ミカサが感情をここまで素直に表せるのはリヴァイの前だけだ。 二人の姿を見守りながらエレンは自然と笑みを浮かべている。 「それじゃあ、エレン。また明日」 「ええ、また明日。おやすみなさい」 「おやすみ、エレン。また明日」 ひらひらと小さく手を振るミカサに手を振り返しながらエレンは二人の姿を見送った。手を揺らしながら二人は寒空の下を歩いていく。 リヴァイの手を小さな手のひらで握っているミカサの姿にエレンはほっと胸を撫でおろした。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/612
613: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:08:26.19 d 同時に抱くのはやはりミカサに対しての罪悪感だった。 彼女の父親のことを父親として見ることをしていない。 一人の男として意識をしている。 その為にミカサのことも多少なりとも利用していた。 悪いとも思うしいけないことだともちろん自覚はしている。 でもそれを止められない自分がいることもまた事実だ。人として最悪だ、エレンは彼らの姿を見送る度に自分を蔑んだ。 幼いミカサは恐らく気付いてはいないはずだ。 エレンが自分の父親のリヴァイに恋情を抱いていることを、まだ彼女は知らない。 エレンはゲイだ。 いつから、という明確な時期はない。 中学に入学し、周囲の友人たちがグラビアアイドルの際どい写真やクラスメイトの可愛い子の噂話などで盛り上がっていたがエレンは大して興味がなかった。 しいていうなら隣のクラスの同級生が気になる程度だったが、それは女子ではなくて男子生徒だった。 その頃はただの憧れに似た感情だと思っていた。 クラスは違ったが彼とは仲が良く、顔を合わせば話をするくらいだった。 彼はあまりよく喋るようなタイプの人間ではなかったが頭もよく誰に対しても優しかった。 自分にないものを沢山持っていたから憧れていたんだろうとはじめは思っていたが、実際は全く違った。 そのことに気が付いたのは二年目の夏休みが終わった後、彼に初めての彼女が出来てからだ。 突然心の中に出来た大きな空洞にエレンは驚き、その日はよく眠れなかったことを覚えている。 日が経つにつれてそれは「空虚」だということに気付き、自分が彼を必要以上に欲していたことに気が付いた。自分は彼に憧れていたんじゃない。 彼を欲していたんだ。 その気持ちに気が付いてもどうすることも出来なかった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/613
614: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:08:51.92 d むしろさらに愛おしいと思う。友人たちが可愛い女性に欲情するように、エレンも好きになった男に同じように欲情をした。その頃辺りからだろうか。 周囲のことをそれほど気にすることがなくなったのは。さすがに自分の性癖を簡単に打ち明けることは出来なかったが、昔よりはまだマシだ。 自分は男が好きだ。男しか好きになれないとはっきりと受け入れてしまうとこれまで悩んでいたことが少し馬鹿らしくも思えた。 だからエレンは生まれてから一度も女性を抱いたことはない。 これから先も間違ってもそんな気は起らない。だから結婚もしないし子供を授かることもないだろう。 両親には申し訳ないと思うが自分の気持ちも変えられない。 でも子供は好きだったからなるべく彼らと接することが出来る職業に就きたいと思った。 そしてエレンは保育士を志し晴れてその夢を叶えることが出来て今に至っている。 やりがいのある仕事だし飽きも来ない。そして何よりも子供たちと過ごす毎日は楽しく、自分が後ろめたさを感じながら生きていることを忘れさせてくれた。 ちょうど社会人になってから恋人とは上手くいかないようになっていた。新しい恋人が出来て短い付き合いばかりだ。 そんなことを馬鹿みたいに何回も繰り返していくうちに、次第に付き合い自体が面倒になって身体だけの関係を重ねるようになっていた。 週末には夜に行きつけのバーに通ってその夜の相手を探すことだってあった。 体中が空っぽになって何をやっても満たされない。自分は一生このままなんだろうと思っていた。 リヴァイがミカサを連れて保育所へやって来たのは。 小さな女の子の手を引いてやって来たその父親の姿に、エレンは目を奪われた。 「おはよう、エレン」 翌朝、いつものようにリヴァイはミカサの手を引いて保育所にやって来た。 入り口に立ってやって来た子供たちを出迎えていたエレンは二人の姿を見るや否や満面の笑みを浮かべる。 「おはようございますリヴァイさん。それにミカサも」 にっこりと笑いながら彼女を見下ろすとミカサも嬉しそうに笑った。 滅多なことで笑わない子だったがエレンが相手をすると別だ。彼にだけは特別、彼女は笑うことが多い。 リヴァイ曰く、自分と一緒に家にいる時よりもエレンといる時のほうがいい笑顔をしているらしい。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/614
615: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:08:55.82 d 「おはよう、エレン」 「だからエレン先生だって。あと『おはよう』じゃなくて『おはようございます』だろ?ほら、ちゃんと言って」 昨日は許してくれたが今朝はそうはいかなかった。 ちゃんと言えるまでここを通さないと仁王立ちをして立ちふさがる。 腕を組んでわざと怖い顔をするエレンに、さすがのミカサも怖気づいてしまう。 「う」と声を漏らして思わずリヴァイの手を強く握った。 「どうしよう」とリヴァイに助けを求めたが彼もエレンと同じような顔をしていた。 残念ながらミカサを助けることはなくただ首を振るだけだ。 「おはようございます。エレン、先生。」 「よし、えらいぞ。よく出来ました」 渋々彼女は言う通りにはしたが、またすぐにエレンと呼ぶのだろう。 不貞腐れる彼女の頭に手を置き、ぽんぽんと軽く叩いて褒めてやる。 するとすぐにまた表情を明るくし、機嫌を良くした。 よくよく見ればミカサの鼻先はや頬は少し赤くなっていた。 寒そうにマフラーに顔を埋めているし、昨日はつけていなかった白い耳当てまで付けている。 これは多分リヴァイに付けられたんだろう。 昨日に比べれば確かに今朝は冷えていた。 夜中に雨が降ったおかげで濡れたコンクリートが冷えて一部は凍って滑りやすくなっている場所もある。 「今日は寒いな。早く中に入って温かくしろよ?」 部屋の中は朝からストーブをつけているので暖かいはずだ。 これ以上ここにいると風邪を引いてしまうかもしれない。 頭に置いた手をもう一度ぽんとまた一つ叩いた。エレンの言葉にミカサは素直に頷く。 「お父さん、行ってくるね」 リヴァイと繋いでいた手を呆気なく手放して、入り口まで走っていってしまった。 最後に建物に入る前に一度二人のほうを振り向き「お父さんいってらっしゃい」とだけ言うとミカサはすぐに中に引っ込んでしまう。 ミカサぐらいの年の子でもまだ母親から離れられない子供も中にはいる。 ここまで手を引かれてやって来てもいざ保育所の中に入ろうとすると・嫌がって泣いてしまう光景を目にするのは割と日常茶飯事のことだ。 あの歳でもういくつかのことはしっかりと割り切っているようで、リヴァイと離れることもあまり寂しがっている様子を見せたことはなかった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/615
616: 名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4) [] 2016/04/06(水) 14:09:22.56 d 今朝のリヴァイは黒いコートを羽織っていた。 それと同色の手袋をしながらミカサと同じようにマフラーに顔を埋めている。恐らくミカサもああやって寒さをしのいでいたのは、リヴァイの格好を真似ているからだろう。 親子で似た仕草をしている彼らを微笑ましく思い口元が緩んでしまう。 「偉いのはお前のほうだろう。よくもまあチビをあんな簡単に手なずけるな」 リヴァイは感心した様子で息をつく。吐き出した吐息は白くふわりと舞った。 「それが仕事ですから。でもミカサはすごく楽なほうですよ。ちゃんと良い子にしてくれますから」 「……そうか、ならよかった」 ほっ、としたのだろう。瞬間、表情を綻ばせたリヴァイにエレンは目ざとく気が付いてしまった。 「あ、」と思った時にはもう遅かった。彼の表情から目を離すことが出来なくなってしまう。 綺麗だ、と思ってしまった。男なのに。いや、男だからそう思ってしまうんだろう。 目じりに少し皺を浮かべて笑ったリヴァイは父親の顔をしているのに。自分だけが彼だけを「そういう対象」で見つめてしまっている。 「どうした?」 あまりにも食い入るように見つめていたエレンにリヴァイは少し怪訝そうに眉を潜ませていた。 エレンは慌てて首を振り「な、なんでもありません」としどろもどろになりながら答える。 しかしリヴァイの視線は外れることはなかった。むしろその眼差しはきつくなり、エレンに突き刺さるように鋭いものになっていく。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459819775/616
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