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【腐女子カプ厨】巨雑6440【なんでもあり [無断転載禁止]©2ch.net (697レス)
【腐女子カプ厨】巨雑6440【なんでもあり [無断転載禁止]©2ch.net http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/
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582: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:13:11.54 d エレンが人間であるという証明のために、リヴァイがそういうこと≠他でもないエレンにしようとしている。 あまりにもエレンは特殊な入団だったため、あまり詳しくはないけれど、まだエレンが訓令兵だった頃、風の噂で聞いたことがある。 特に男性兵士の間で、お互いの信頼や味方であることの証に身体を開くことがあると。 もちろん、身体を開くのは若い兵士だ。 きっとリヴァイは命令で、触れたくもないエレンの身体に渋々触れようとしている。 今以上の迷惑は、かけたくない。 嫌悪感を抱かれるのは仕方内にしろ、せめて、きれいな身体で挑みたい。頭の先から足の先まで、石鹸の匂いしかしないように。 リヴァイが触れるのは最低限必要な局部だけかもしれないけれど、どこまで触れるのかはわからない。そっと萎えた自身も、奥の窄まりも、洗える範囲で指を辿らせていく。 「……アッ」 若い身体は正直だ。泡立てた石鹸で下腹部を洗うだけで反応してしまうのだから。はしたないな、と頭の片隅で冷静に思っても身体は高ぶったままだ。 残念ながら思考と身体の反応はイコールではない。 快感を得られるか否かは、接触によるものであって、精神のありようではない。もっとも、単にエレンが本能に左右されやすい年頃なのかもしれないが。 窄まりのシワを伸ばして洗って、中に指を差し込んでようやく自身が萎えたことに安堵し、また泡を足していく。泡がひりひりする。しかし、途中でやめるわけにはいかない。リヴァイが触れても問題がないくらい綺麗にしなくてはいけないのだから。 念には念を、と二本の指で洗い終える頃には、エレンはぐったりしてしまっていた。 「……遅い」 いつもよりも二倍ほど時間をかけて風呂に入ったエレンが地下室へと戻ると、待ちくたびれたらしいリヴァイから早速お小言をもらってしまった。エレンは恐縮したまま頭を下げる。 「す、すみません」 「いいから、こっちに来い」 リヴァイは待ちくたびれたと言った具合に、縄をその手に巻き付けたり引っ張ったりと、暇つぶしをしていたようだった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/582
583: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:13:40.38 d エレンが言われるまま素直にベッドに近づくと、腕を引かれて寝転ばされる。湯上りで火照った身体がひんやりと冷たいシーツに触れ、心地いい。 エレンがシーツの心地よさに目を細めていると、ベッドサイドテーブルの明かりに照らされたリヴァイの影が揺らめいた。 エレンが顔を上げると、リヴァイはエレンを囲うように覆いかぶさっていた。 「お前、随分肌が白くなったな」 エレンはさり気なく視線をシーツに落としてリヴァイから目を逸らした。 「よく、洗ったからでしょうか。……少し擦りすぎたかもしれません」 肌をよく擦ると垢も取れるが血行もよくなる。赤い肌は普段よりも肌を白く見せるかもしれない。 実際のところ、エレンの肌は日によく焼けていてあまり白くはなかった。……なかったのだけれど。 度重なる巨人化の影響で何度も肌が再生したようで、訓練兵だった頃よりずっと白くなっていた。 本来の肌の白さと言われればそれまでなのだが、己の中の化物の力がなんてことない一瞬さえも支配しているように感じられて少しだけ薄気味が悪い。 日焼けは結局のところ火傷なわけだが、ある程度男は焼けていた方が強く見えていい、とエレンは考える。 ただし、リヴァイのようにそもそもの存在が最強であれば、肌の白さや黒さは関係ないのだが。 リヴァイはそんなものかと頷いてエレンの服の裾を掴んだ、と思うとぺらりと捲った。エレンの腹が見える。 「……ああ、悪い。寒かったか」 エレンが驚いて咄嗟に声を上げると、リヴァイは服を戻して謝ってくれる。 一瞬にして心臓が早鐘を打つ。 驚いたけれど、これからリヴァイとエレンがしようとすることを考えると扱く当たり前のことだ。 こんなことで驚いていてはいけない。全身リヴァイに触れてもらえるように洗ってきたくせに。 エレンは自分を奮い立たせるように首を左右に振って、自ら服を捲り上げた。大丈夫、綺麗、なはずだ。 「いえ、……すみません、ちょっと驚いちゃって」 「驚く?」 抱かれるにあたって覚悟は決めたとはいえ、貧相な身体だ。 大人のリヴァイと比べると、エレンの身体は筋肉も全然ついていないし、骨格もまだ発達途中で薄い。 おまけに風呂で肌を擦りすぎたせいで少々赤味を帯びていて、少し恥ずかしい。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/583
584: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:13:44.30 d エレンもこの身体をリヴァイに開くために、中まで洗ってきたのだ。むしろ触れてくれなければ無駄な苦労だったと虚しくなる。 リヴァイはエレンを見下ろしたまま、触れさせられた腹を撫でた。 その手つきは、いつもリヴァイがエレンの頭を撫でるときとはまるで違った。 形を確かめるような、皮膚をたどるような、羽がふわふわと肌の上を踊るようなそんな繊細な触れ方だった。 「……まあ、抵抗されると少し手間だからな」 リヴァイの声も、心なしか柔らかく聞こえる。兵士たちの前にいるときのリヴァイでもなく、民衆の前にいるときのリヴァイでもない。 地下室の暗闇の中、明かりに切り取られた小さな空間だけの特別な秘め事――エレンはゆっくりと空気に呑みこまれていく心地だった。 リヴァイの声が柔らかくて、勘違いしそうになる。 しかし、これは命令なのだと言い聞かせて、兵士としてリヴァイに続きをねだる。 「うまくいかなかったら、気絶させてでもお願いします」 「気絶? それはむしろやりにくい」 「なら、頑張ります。声は出さないほうがいいですか?」 「声? いや、それはどちらでも構わないが、悲鳴は勘弁してくれると助かる」 「わかりました」 エレンはさらに服を捲り鎖骨のあたりまで露出させ、今度はベルトに手をかける。 なるべくリヴァイに手間をかけさせないように、ことをスムーズに運べるように。羞恥心を振り切るようにエレンは衣類を肌蹴させた。 「おい……?」 腹を撫でていたリヴァイの手がぴたりと止まる。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/584
585: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:14:09.85 d エレンは構わずベルトとボトムを寛げ、腰から引き下げた。 しかし、リヴァイの身体がすぐ上にあるせいで、うまく脱げない。 足から引き抜くには少し難しいし、脱がなければ汚れてしまう。 せっかく勢いに任せて羞恥心を置いてけぼりにしようと思ったのに、とんだ誤算だ。 ちらりとリヴァイを見上げ、恐る恐るねだった。 「脱ぎにくいので……できれば、少し手伝ってもらってもいいですか?」 リヴァイは驚いているのか、まじまじとエレンを見つめた。 「全裸でやるつもりか?」 「その方が、いいかと」 ところで、エレンはあまり服を持っていない。 綺麗好きなリヴァイのことだ。きっと、汚れた服で寝ることは許してくれないだろう。 そうなると、エレンが選ぶのは、全裸で寝るか、服を着て寝るかの二択になる。 ことが済んだ後、きっと羞恥心はエレンに追いついてしまう。 リヴァイが地上へ帰った後も一人裸で情事後の雰囲気を引きずるのはつらい。 服を着て、夢だったんだとでも思っておいた方が、ずっとマシだ。 「わかった。……なら、縄をもう少し考えてくればよかった」 縄、の一言に妙な緊張が戻って来る。 リヴァイの声は相変わらず優しいままだったが、どうやら縄は使うらしい。 「やっぱり、縄は使わないといけませんか?」 「そうだな。むしろ縄がメインだ」 縄は抵抗したら使われるのだろうと思ったけれど、そうでもないようだ。 もしかすると、リヴァイがエレンを抱くための必須条件なのかもしれない。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/585
586: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:14:13.62 d 縛れば少なくとも、エレンから手も足も出なくなり、無駄な接触は避けられるだろう。 抵抗だけではなく、エレンがリヴァイの身体に腕を回したり、腰に足を回したりすることも好ましくない、そう仮定すると納得できる。 エレンの表情があからさまに硬くなったことに気が付いたのか、リヴァイは腹から手を離し、頬を撫でてくれた。 頬は手を添えるだけで、目尻を親指でそっと撫でてくれる。 まるで甘やかされているような心地だ。 「心配するな。こういうのは不得手じゃない。……痛くするつもりはないから、練習だと割り切って身を任せろ」 「はい……」 優しい手に縋りたくなるが、練習≠フ一言でさらに心配になってしまう。 まさか他の兵士にもエレンは身体を開かなくてはならないのだろうか。嫌だ、と直感的に思う。 身体を開くのならば、幼い頃から憧れていたリヴァイがいい。むしろ、リヴァイ以外、この身を捧げようと思っていない。 先ほどよりも不安な気持ちで見上げると、むに、と下唇を親指で下げられる。目尻に触れていた優しい指は、いつの間にか官能的にエレンに触れている。 ぐっとリヴァイは顔を近づけた。 「キスは、大丈夫か?」 どきり、と心臓が跳ねた。今にもキスができそうなほどに迫ってきているというのに、今更聞くのだろうか。――聞くのだろう。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/586
587: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:14:39.43 d エレンが応と返事をしなければ、リヴァイはキスをせずに抱いてくれる。 エレンは瞬きで返事をした。 すぐにリヴァイの唇が重なった。 あまりにも近い距離に恥ずかしさが追いついてしまって咄嗟に目を伏せる。 視覚が遮断されてしまうと他の感覚器が鋭くなるとかいうが、本当らしい。 見てはいないから実際のところどうなっているのかわからないけれど、リヴァイの唇が啄むように何度かエレンの唇に触れた後、唇よりも柔らかいぬめった何かがくすぐった。 小刻みに触れる何か≠ェ気持ちよくて唇で挟むと、吐息が触れた。 そしてちゅるんと音を立てて離れていく。 「お前、キス好きなんだな。……優しくしてやる」 リヴァイの声は楽しそうだ。そっと瞼を持ち上げると、リヴァイが舌を出しているところが見えた。 「ん……舌?」 エレンが思わず口に出すと、リヴァイは上機嫌な様子でエレンの額に自身の額を重ねた。エレンによく見えるように舌を出して見せてくれる。 「舌だ。……ほら、口を開けて舌を出せ」 「あ……ん、く」 エレンがリヴァイを真似て舌を差し出すと、またすぐに唇を塞がれてしまった。 今度はぱくりと舌を食べられて、息が出来なくなる。 もごもごとしゃべると、おかしかったようでリヴァイの吐息が笑っている。 まるで子供を甘やかす大人のようだった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/587
588: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:14:43.02 d リヴァイはどうやらエレンを優しく抱いてくれるらしい。 はじめ縄を見せられたときは、どんな酷い抱かれ方をするのか不安だったけれど、冷えた心も妙な緊張も少しずつほぐれていく。 リヴァイの手がシーツとエレンの身体の間に差し込まれ、掬いあげられるようにして抱き上げられる。 「あ、……へい、ちょう」 「ん、全裸だろ? ほら、腕を上げろ」 エレンの息が上がる頃、ようやく唇が解放されたというのに、口がすぐ寂しくなってしまう。 しかし、いくらリヴァイが優しいからと言ってあれやこれやと我儘を言ってはいけない。これは、儀式なのだ。 エレンがいかに調査兵団に、否、リヴァイに身を捧げられるかを示す、儀式。 エレンはリヴァイの言う通り腕を上げ、服を脱がしてもらった。 中途半端に脱いでいたボトムも下着ごと取り払われて、正真正銘全裸になる。リヴァイの視線が肌に突き刺さるようで、落ち着かない気持ちになるけれど、同時に冷静にもなる。 エレンの身体を隠すものはもう何もなく、ただのエレンがベッドに座っているだけだ。 リヴァイの手が背中に回る。 「あ……」 「細い身体だな。傷もない、綺麗なもんだ」 「……巨人化をすると、傷痕も何も残りませんからね」 抱きしめられたままエレンが自虐的に答えると、リヴァイはそうじゃないと背筋をたどるように撫でる。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/588
589: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:15:08.75 d 「卑屈になるな。……それでいい。お前はこの力だって利用して目的を果たすんだろうが」 「はい……兵長」 エレンの声は、震えてはいなかっただろうか。 リヴァイは、わかってくれている。 エレンが巨人を憎んでいることも、そのためにはこの身体だって化物としてだって闘う意思があることも。 エレンは、誰よりも強い目的意識を持っている。エレンが優れているのは頭脳でも戦闘能力でも、何でもない。 目標に向けて、目的に向けて、一心に努力を続けることのできる意思の強さだ。 その目的を手にするまで決して足を止めない、止めることは許さない。 そんな、強さがある。そして、そのエネルギーは周りまでも巻き込んで、影響する。 ――それでも、エレンはまだ十五だった。リヴァイの半分も生きていない子供=B 大人しく子供でいられる時間は疾うに過ぎ去ってしまい、大人と対応に渡り合うために一人前になることが必要だった。 幼さは、敵だった。 エレンは早く大人になるため、人一倍努力を重ねてきた。 大人として認められる兵士になるため、三年間厳しい訓練にも耐えてきた。 それなのに、今こうしてぎゅっとエレンを抱きしめてくれている腕にすがりたくなってしまう。 リヴァイの腕の力強さに、幼心が揺さぶられる。 兵団服を脱いだエレンは心まで無防備だ。 大切な人を失ったあの時から、エレンの幼い心は止まっている。 情操教育のすべてはあの瞬間途切れた。 いつもは兵士という強靭なコートを着ているけれど、裸になってしまえば幼い心が剥き出しで、頼りない。 本心が――見え隠れする。 本当は、誰かに甘えたかったのかもしれない、だなんて。 幼い頃憧れた翼に、大人の腕に、泣きたくなる。 ぽんぽん、とあやすように背中を撫でられ、甘いキスをされ、エレンはついにリヴァイの身体に手を伸ばした。 リヴァイが早く縛らないからいけないのだと。 リヴァイは、拒まない。 つづきは最彼で!(笑) http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/589
590: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:15:56.21 d 【腐女子カプ厨】巨雑6439【なんでもあり】 http://shiba.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459925027/ http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/590
591: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:15:59.91 d 幸福の箱庭 by 黒繭 甲高い鳴き声と共に小さな影が飛び立った。その姿を大きな瞳に写した少年は空高く舞い上がろうとする一羽の小鳥をまるで追うようにして右手を掲げる。 その指先に触れたのは尾羽の滑らかな手触りではなく、冷たい無機質な感触。 いっぱいまで開かれた金翠色の双眸を、上から帳が下ろされるように影が覆う。まるで諭すみたいに、温かい手が両翼が生えていたはずの背中をゆっくりと撫で下ろした。 その手は優しくて、どこまでも安心を与えてくれるから、少年はどうしても眦から零れるものを止めることが出来なかった。 開いた本を片手に乗せ、文字の羅列をひたすら目で追っている金髪の少年と、難しい顔をして眉をひそめ、迷わせながらペンを走らせる暗褐色の髪の少年。 テーブルの角に斜め向かいに座った彼らはどちらも下を向いて、今やるべき事をただ黙って各々打ち込んでいる。 先に沈黙を破ったのは暗褐色の髪を持つ少年。 書き洩れがないか紙を上から下までざっと目を通した彼は、ふう、と短く息を吐いた後、持っていたペンをテーブルの上に置いた。 「アルミン、出来たぞ」 そう呼ばれた少年は、自分の名を綴る声に本から現実へと引き戻され、顔を上げてそちらを見る。 そしてお願いしますというように目の前に両手でスッと差し出されたその紙を受け取ると、目を走らせ出来たものを確認した。 右手にペンを持ち、まるをつけ、その下もまるをつけてチェックを入れたり、それからまるをつけ、直しを入れて、まるをつける。 正解の方が多いだろうか?そう思いながらも紙を渡した方の少年は、手を膝に置き、真剣な顔で相手の次の言葉を待った。 「凄いよエレン、この前より断然出来るようになってる」 「そ、そっか!良かった」 その言葉にやっと緊張が解れた様子で、エレンと呼ばれた少年は採点が終わるまでの間に溜め込んでいた息をやっと吐き出し、少しの笑みを浮かべる。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/591
592: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:16:27.16 d 正直、あまり得意ではないし、難解な数式やら興味のない王族の歴史なんぞを覚える事に意味があるのかは分からない。 必要だと言われればそうなのだろうと思うし、同じ年頃の少年たちが皆相応に勉学に勤しんでいて知っているべき事だと言うなら、自分も出来るようになる必要はある。というくらいには考えていた。 「お前の教え方が上手いおかげだけどな。」 「エレンが努力してるからだよ。あとは、ここの計算の仕方だけど……」 「2人共、お茶が入った。少し休んで」 部屋のドアを開けて中に入ってきたのは黒髪の少女。その片手には金属製のトレーとその上にティーポットとカップ、中央に菓子が置かれていた。 先程から、部屋の向こう側からオーブンの熱で拡散され、屋敷中に広がっていた焼き菓子のいい匂いがずっと鼻孔を擽っていたことには気付いていた。 少女が入ってきた途端、更に香ばしいバターの匂いが部屋に充満して、少しの空腹の隙間を突付いてひとりでに鳴り出しそうだった腹をエレンはなんとか持ち堪えたと撫で下ろす。 ソーサーごと目の前に置かれた紅茶はそっちの気で、真ん中にやってきたお待ちかねのマドレーヌを手に取り、嬉しそうにそれを頬張るその表情には年相応のあどけなさが宿る。 少女はティーカップを配り終えるとエレンの隣の席に座り、美味しそうに食べるその顔を横で見ながら朗らかに笑み、口に合ったようだと安心した様子で彼に声を掛けた。 「エレン、厨房に昼食も用意しておいた。」 「ん、ああ。悪いな、ミカサ。助かる」 そう答えて視線を少女の方へ送るために顔を右横に向けると、ついてる。 と言われながら頬の食べカスを指で拭われたエレンは、母さんみたいなことすんなよ!と、不満気に顔を顰めた。 そんなよくある光景を静かに眺めていた金髪の少年は、ふ、と笑い、ティーカップを口元に運ぶ。 自分でも気付いている。突っ慳貪に相手を突き離そうとも、素直になれないだけだ。 血の繋がりはないが今や唯一の家族であり、母代わりになろうと躍起になっているミカサ。 自分に無償で座学を教えに来てくれている昔からの幼馴染み、アルミン。この2人と過ごす時間はエレンにとって心地よいものだった。 当たり前のようにずっと自分の傍にあるそれらは、ありふれていて、だけど絶対に無くしたくないものだ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/592
593: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:16:31.15 d この癖は、いつからだったか。 大切な人たちから自分に向けられる言葉や表情、一つ一つを思い出にしようと、心にしたためるようにして深く刻み付ける。 「なぁ、ヒストリア……いや、女王様は元気か?」 そういえば、と、ふと思い浮かんだ見知った顔。 だがその人物は自分とはあまりにかけ離れた地位にあり、今や名前で軽々しく呼んでいいような身分の相手ではない。 まさか自分と共に勉学や訓練に励んできた仲間が、国の主になってしまうなんて。 元々、由緒正しい王族の血筋であったことが明らかになり、国の変革を求める人々らによって祭り上げられた彼女は、形ばかりだった今までの王に成り代わり、名前も生活をも一変させて女王として国に君臨することになった。 「今は僕たちも遠目で見れるだけなんだ。でも、時々隠れて手を振ってくれたりするよ」 「そっか。もう暫く会ってない気がするな…」 彼女が女王に就任してから会えたのは、2度程だったか。お忍びで此処へ来たヒストリアとミカサやアルミンを含む同期連中が数人、自分の誕生日に皆でパーティーを開いて祝ってくれたのがもう大分前のことのように思える。 「なぁ、あと、ライナーとベルトルトは?アニのやつもずっと見てないような気がするし」 エレンの言葉に、隣に居たミカサが顔を上げて斜め前に座っているアルミンを見た。 アルミンは持っていたティーカップをソーサーに戻すと、話し始める。 「アニの方は憲兵の仕事が忙しいみたいで。他の2人も僕らよりずっと大変な任務があるからね。なかなか時間が取れないらしい」 「そっか。みんな忙しくやってるんだな…」 訓練兵を卒業して疎遠になってしまった者も当然いる。 アニはあんな性格だ。同期だからといって自分一人のためにこんな場所まで訪ねて来るはずもない。 しかし、それぞれが自分に与えられた役割を果たしている。 …自分ばかりが、取り残されて。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/593
594: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:16:56.60 d 「エッレーン!お邪魔するよ〜!」 「あ。この声、ハンジさんだ。」 玄関の呼び鈴よりも余程威勢のいい声が響き渡り、その声の主である客人をもてなさなければと慌てて立ち上がったエレンは、部屋のドアからロビーに急ぐ。 「こんにちはエレン君、早速だけど庭の手入れをさせてもらうね」 そう言ってハンジの斜め後ろに立っていたのは、この人の部下。 頭には日除けの麦わら帽子を被って首にはタオルを巻き、両手に使い古された軍手をはめて右手には彼の得物とも取れる使いなれたスコップ。 その出で立ちは熟練された庭師であることを物語っている。 …彼の実際の職業はともかくとして。 自分たちの上官でもある客人の訪問に、エレンに続いてミカサとアルミンも出迎えようと部屋から出てきた。 「いつもすみません、モブリットさん。ハンジさんも忙しいのに…」 「いいの、いいの。私は息抜きで遊びに来てるんだから。モブリットも何かを世話するのが趣味なだけなんだから気にしないでいいよ」 「お言葉ですが、ハンジさん。僕は貴方の世話は趣味でやってるわけじゃないですからね。」 モブリットの、上司に対する恐れもない毅然としたその言葉に笑いが起こり、ハンジ本人とエレンまでも同じく声を上げて笑った。 皆でこんな和やかな会話をしながら、笑いの絶えない生活が当たり前のようにいつも傍にある。 こんな穏やかな毎日が与えられているのは、自分がこの場所に居ることを許されているからだ。 「そろそろ僕たちは帰るね。」 そう言ったアルミンと、泊まりがけで必要だった荷物を纏めたミカサがその後に続く。 外開きの玄関のドアが開放され、出ていこうとするミカサとアルミンにつられてエレンは咄嗟に足が動いた。 踏み出してしまった一歩。だがその先を続けられない。続けてはいけない。 いつだってこの2人の隣を歩いていた。 だけど、今の自分にその権限は与えられていない。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/594
595: 名無し草 (ワッチョイ 8db8-xmDs) [sage] 2016/04/07(木) 20:16:57.93 0 〜● http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/595
596: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:17:00.51 d 「外まで見送りは要らないよ、エレン」 「…ああ。オレもいつかお前たちに追い付くから、それまで待っててくれよな」 エレンがそこで笑って見せたのは、精一杯の強がりだった。 今は自分が出来る事をしなければならないと、思っているから。 その顔を見たミカサが持っていた手荷物を取り落とす。 玄関に投げ出されて鞄の中からバラけ出た替えの洋服が散らばったことなんか気にもせず、エレンに駆け寄り彼の体を強く抱き締めた。 「安心して此処に居て。エレン、貴方の世界は残酷なんかじゃない…」 「………」 「ミカサ、行こう」 落とされた鞄に荷物をまた押し込めて本人の代わりに拾い上げたアルミンがミカサの肩に触れて、先を促す。 ゆっくり離れていくミカサの顔は泣き出しそうなのに笑顔で。 前にもこんな顔を見たことがあった気がするのに、それがどういう場面だったのかどうしても思い出せない。 不安にさせないようにという気遣いからか、自分の顔を見て微笑んだまま外に出て行く2人に何て声をかければ良いのか、エレンには分からなかった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/596
597: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:17:27.70 d 「心配しなくてもあの2人はまたすぐ会いに来てくれるよ、親友なんだから。」 3人の様子を黙って見ていたハンジが、あの2人が居なくなってもボンヤリと玄関のドアを眺めて放心したままその場に立ち尽くしていたエレンの背中に声をかける。 振り返って頷いた顔はそれでもすっきりしない物憂げな表情だった。 そんな彼の気持ちを切り替えさせなければと考えたハンジは屋敷の奥へと勝手に歩き出す。 「…さてさて。モブリットの庭仕事が終わるまで私たちは何して待ってよっか。座学の時間にする?」 「あ、えっと…ハンジさん。今日はまた一勝負お願いしてもいいですか」 「おぉ!私に何勝何敗したか覚えているかな〜?エレン。」 「ハンジさんの5勝0敗。オレの勝ち星無しで連戦連敗。ですよね」 玄関から応接間へと移動した2人は、向かい合うソファに座り、中央に置かれたテーブルにチェス盤を拡げて駒を並べる。 先行するのは白を選んだエレンだ。 時間が経つにつれ互いのポーンが数個取られていき、エレンの持つ重要な駒の多くはボードの端へ追いやられる。 ハンジが次の一手でチェックに持ち込めるかと思われた瞬間だった。 エレンが自分のルークをキングの隣へ動かし、キングを後退させる。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/597
598: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:17:32.26 d 「良い一手だ。アルミンの入れ知恵かな?」 「ふふ。バレちゃいましたか。昨日あいつに教えてもらったんですよ」 昨晩、徹夜でアルミンと対戦してやっと覚えた手だ。 一手で2駒動かし王を城で守ることが出来るキャスリングという特殊な技。 この前までは、それぞれの駒を動かせる範囲や簡単なルールくらいしか頭に入ってなかったエレンだったのが、実に目覚ましい進歩だ。 キングを動かさず守りに入れたいのは分かる。 チェックメイトを決められればそこでゲームが終わってしまうのだから。 しかしそれに相反し、後先を考えず攻める一方であるナイトの縦横無尽な動かし方。 キングやナイト、ポーンたち。 それらをエレンが誰に見立てて動かしているつもりなのか、ハンジには手に取るように分かってしまった。 みんなの力が必要だと理解していながら、どうしても自分が先行して動くこと止められない、エレンらしい戦い方。 それでエレンがこの先サクリファイス(犠牲)という一手まで覚えたなら、自分たちは見るに耐えられないだろう。 ボードゲーム上の事だとしても。特に彼は。 「やっぱり負けちゃいました」 残念そうに笑ってエレンがそう呟く。 決め手となったのは、自分の駒が相手の駒に囲まれてしまいそれにエレンが気を取られている隙に、駒を奥へと動かしていたハンジがプロモーションという手を使ってポーンでしかなかった駒をクイーンに昇格させ、チェックに使った奇術だった。 それはさしずめ一兵士から一日にして女王にまで上り詰めさせられたヒストリアのように。 「なかなか良い勝負だったよ」 「…ねぇ、ハンジさん。オレたちの戦いは、こんなボードの上で行われているような生半可なものだったでしょうか」 「……?」 「ヒストリアの存在は確かに重要だった。けれど相手のキングを取れば終わりに出来るような、そんな簡単な戦いじゃなかったはずです。」 続けてエレンは言い放った。 「だから、ちゃんと皆殺しにしねぇと…」 声色が一変し、見開かれた双眸が攻撃的な金色を湛えてぎらりと光る。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/598
599: 名無し草 (ブーイモ MMb8-w8Te) [sage] 2016/04/07(木) 20:17:52.68 M 身体痛すぎてマッサージ行ってきたは http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/599
600: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:17:57.95 d 「エレン…?いきなり物騒なこと言うなぁ。どうしたの?」 しかし殺意剥き出しの顔を今しがたしていたはずのエレンが、今度は俯いて顔面蒼白になり、いやだ、こわい、と言いながら急に体を震わせ始める。 「何で…?オレのキングが無い。居ないんです、此処に、」 「……え?」 エレンの駒だった白のキングは台座の上に置かれている。 しかし、それは彼の眼には映らない。どうやらチェスの駒のことを言っているのではないらしかった。 「オレは、あの人の命令ならちゃんと従えるのに…」 ハンジは気付く。エレンが言う『あの人』が、誰のことを言っているのか。 「命令…?違う、そうじゃないッ!オレは自分の意思であいつらを…!」 大声で叫んだエレンがソファから急に立ち上がる。 エレンの意識と魂は交錯していた。 唯一信じて自分を託せるその人にその身を委ねたいという彼の意識と、自分が思うように戦いたいと思えば檻をも破壊できるほどの攻撃性を孕んだ、魂とが。 均衡が崩されつつある。 これ以上は自分の手に負えないと判断したハンジが何とかしなければと、自分も立ち上がった。 「少し落ち着こう、エレン。待って、今、薬を…」 激昂し今にも暴れ出しそうなエレンに背を向け、ハンジはこの部屋で安定剤が保管されているであろう場所へ移動する。こういった不測の事態でも対応出来るように念のため、各部屋に用意してあったはずだ。 注射器で精神安定剤を打つ前に手がつけられない状態になったらどうするべきか。生憎、気密性の高い防音に優れた屋敷だ。 異変に気付いた部下が駆け付けてくれる見込みはあまりない。外に出て先にモブリットを呼びに行くべきかどうか。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/600
601: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/07(木) 20:18:01.98 d 考えながらもハンジは飾り棚の引き出しから取り出して、密閉された容器に入っていた薬を注射器で吸い上げさせ、準備をする。 「嫌だっ…!オレはッ!誰の指図も受けないッ!」 ガシャンッ エレンの手によって乱暴に振り払われたチェス盤が大きな音を立てて床に投げ出される。飛散してばら蒔かれた駒が床に転がり落ちた。 朧気な意識の奥底からそれでもいつだってじわりと胸を掴んで離さない記憶。 深紅の絨毯に散らばるその様を見て、赤く赤く無惨に投げ出された幾つもの亡骸が脳裏に思い起こされる。 敵も仲間も同様に。無数の死体の上に築き上げてきたのは、ただ国の安寧を願うためのものだったか。 自分たちが手に入れようとしていたのは平和という偶像で飾られた小さな世界でしかなかったのか。 狂っているのはオレじゃない。 ずっと前からエレンはそんな違和感を少しずつ感じていた。 皆が話している言葉と自分の記憶とにズレが生じて、本当のことが分からなくなっていたことに。 自分はどうして此処に居なければいけないのか。 己の意思を蔑ろにされてまで閉じ込められている理由が分からない。 もう誰の言葉も信じられないならいっそ、自分の感情に付き従うしかないのではないか。 そう。自分を支えてくれていたのは、ミカサとアルミンだけじゃない。 いつも隣に居て自分を見守ってくれていた人が、他にも居た。 家族や親友という繋がりが足枷になって引き止めさせてしまうのならば、自分に対し何の柵もない彼ならきっと。 あの人ならば…自分の全てを理解してくれる。望みを伝えれば此処からだって解き放ってくれるはずだ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1459947423/601
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