[過去ログ] 【コスパ】DALI OBERON/ZENSORシリーズ 13【未知】 (1002レス)
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787: 2019/10/24(木)14:07 ID:FiAs1wMo(1/10) AAS
 兄は妹を守るように抱きかかえると、ようやく俺の上からどいてくれた。
 妹も同じ青い目をしており、怯えも露わに俺を見ている。
 そんな怖がるほど陰気かね?
 王宮にいる間は身嗜みにも気を付けていたけど、今は一人だし、髪も服もずるずるじゃ、幼女からすれば不審者か。

「勝手に人の住まいに侵入しておいて、誰とはとんだ不遜さだな。躾のなっていない子供は嫌いだ」

 ここは俺の家!
 そこはしっかり主張させてもらうぞ。

 と思ったら、兄のほうがすごい勢いで睨んで来た。
 幼さの残る顔は十幾つかと言った年齢。
 物事の分別がついていていい年齢だと思うが?
省13
788: 2019/10/24(木)14:14 ID:FiAs1wMo(2/10) AAS
 なんて考えたら、兄妹から削ぎ落されたように表情が消えた。
 あ…………これは、やばい。

「死のうとしたのに、なんでお前みたいなのがいるんだよ」

 あー! 自殺志願だったよ!
 若すぎる身空で何やってんだ!
 おい、本当にこいつらの親何処だよ!?

「馬鹿なことを言うな。俺が何処を住処にしようと関係ないだろう。その時の勢いで死ぬにしても場所選びが最悪だ。そんな奴はどうせ死ねない。さっさと家に帰って寝ろ」

 親元に帰れと言ったら、妹のほうの顔が無表情な中に悲壮感漂う空気を醸し出した。
 そんな妹を腕に抱いて、兄のほうは俺に敵意に満ちた目を向けてくる。
省10
789: 2019/10/24(木)14:16 ID:FiAs1wMo(3/10) AAS
 狩られるのは市井にいる権力者に与しない魔法使いたち。つまりは、権力者による魔法の囲い込みの一種だ。
 もちろん、魔法使いも馬鹿じゃない。俺みたいに隠棲する奴もいる。追っ手をかけられても逃げ切る奴もいる。
 ただ、この兄妹の母親は、子供二人を連れて逃げ切れなかったんだろう。
 そして残された魔女の子供二人。
 世を儚む理由、ばっちり揃ってんじゃねぇか。

「こんな世界、生きるなんて願い下げだ。魔女の子なんて言われて、見世物みたいに殺されるくらいなら、俺は、自分の死にざまくらい、自分で…………」
「無理だな」
「なんだと!? あんな残虐な人間たちの中でなんか!」
「少なくともお前らの母親は本物の魔女だ」
「お母さんは、いつも優しい普通のお母さんだったよ!」
省11
790: 2019/10/24(木)14:18 ID:FiAs1wMo(4/10) AAS
 そんなことを考えながら、俺は指を一つ鳴らして魔法を使った。
 兄妹を受け止めた時に濡れたローブが不快で、乾かしただけ。ついでに濡れ鼠二人も乾かした。手間は変わんねぇからな。

「ふ、服が…………? 今の、魔法か?」
「他に何があるんだ?」

 兄のほうが自分の体をまさぐると、妹は転がり落ちるように兄の腕から出て来た。

「どうして? 杖は、呪文は?」
「俺には必要ない」

 他の魔法使いならそういう触媒が必要になるけど、俺は天才だからな。
 昔からそういうのがいらない。頭の中で思い浮かべるだけでいい。
 妖精や精霊なんかの魔法の使い方だ。俺は自然と身に着けたけど、他の魔法使いたちはやろうとしたら何十年か研鑽を積まなきゃいけないらしかった。
省11
791: 2019/10/24(木)14:19 ID:FiAs1wMo(5/10) AAS
「泉の精…………? 水に関係する精霊は、女のはずだろ」
「お前、妙なこと知ってるな。だが、それは水から生まれた人型の精霊に限定だ。別に生まれた後、泉に住みついたなら女じゃなくてもいるぞ」

 大抵が女だけどな。昔関わった水の精は、人間の男に惚れられるほどの美貌を持っていた。本当ならそのまま男を水の中に攫う習性の精霊だったけど、まぁ、男のほうもイケメンだったんだよ。
 殺さずに男を帰したら、男のほうが水の精に猛アタックかけてた。
 恋は盲目と言うが、あのイケメン人の話聞かないくらい猛進してたから、何度か魔法で爆破したな。あれも今じゃいい思い出だ。

「本当に、泉の精さん?」
「おい、こんな陰気で胡散臭い奴の言うこと信じるな」
「でも、触った時の冷たさ、人間じゃないよ」

 悪かったな、人外疑うほど冷たくて!
 昔から体温低いんだよ! その上今じゃ水中暮らしだから、体温も上がらないんだよ!
省13
792: 2019/10/24(木)14:20 ID:FiAs1wMo(6/10) AAS
「お、お兄ちゃん…………」
「だ、大丈夫だ。お前は、俺が守るから」

 一緒に入水自殺しようとしといて何言ってんだよ。
 その気概はもっと早く発揮しとけ。

「それで? 名を寄越すなら、俺の召使として生かし、働きによっては泉から出してやるが?」
「…………わかった。俺の名は…………ヘンゼル。こっちはグレーテ、ルだ」

 はい、偽名いただきましたー。
 魔法使い舐めんなよ。
793: 2019/10/24(木)14:21 ID:FiAs1wMo(7/10) AAS
3章(タイトルネタ切れ)
仮名、ヘンゼルとグレーテルを拾った俺は、さっそく二人をこき使うことに決めた。
 ま、ご主人さまに偽名名乗るなんて舐めた真似したお仕置きだ。
 俺が本物の精霊だったら、今頃問答無用で呪われてたぞ。

「寝る間も惜しんで俺のために働け! それがお前たちの役目だ!」

 それっぽく手を広げて命じてみたら、兄ことヘンゼルに冷めた視線を返された。
 妹ことグレーテルは、何度も瞬きをして首を傾げる。

「働くって、何をすればいいんだ? こんな水の中で、俺たちにできることがあるとは思えない」
「大抵のことは魔法でどうにでもなるがな。ちゃんとお前たちように仕事は考えてやる」
「今から考えるのか」
省2
794: 2019/10/24(木)14:21 ID:FiAs1wMo(8/10) AAS
 というところで、ちょっと魔法を使う。これは俺が考えた魔法で、相手の基本的な情報を読み取れるというもの。
 王宮で人の名前とか血縁関係とか覚えられなくて作った魔法なんだよな。

 えーと、ヘンゼルの本名はヨハネス=ドルフ。グレーテルはマルガレーテ=ドルフ、ね。
 ドルフってのは家名じゃなくて、村を表す名前だ。つまり村人っていう身分を表す。
 が、気になる項目が魔法にある。血筋だ。
 こいつら、水の精とのハーフだな。水の精が女って知ってたのは母親が水の精だったからか。けど兄妹の反応からして、正体は秘密にしてたんだろうな。
 水の精は誘惑の性質があるから、たまに人間の男と結婚する奴いるんだよなぁ。

「いつまでも座り込んで怠惰に耽るな。立ってこっちにこい」
「なんだその言い方!」
「あの、泉の精さま!」
省9
795: 2019/10/24(木)14:22 ID:FiAs1wMo(9/10) AAS
「買い取ってって、金があるのか…………」

 おっと、そこで俺への不信深めるのかよ。

「お兄ちゃん。こんな水の中におうち作れるなんて、すごい精霊さまだよ、きっと」
「魔法の腕は、確かみたいだけど…………」

 うわー、背中に猜疑の視線が突き刺さるー。疑り深いな、ヘンゼル。
 いや、こうしてなきゃここまで妹守ってこれなかったってことか?
 で、行き場失くして、このままじゃ死ぬってわかったから、命の終わりは自分で始末つけようって? ふざけんな!

 死んだら負けなんだよ。
 国が相手で歯が立たなくて、強がってその場を去ることしかできなくてもな、自分を陥れた奴らの思うままに死んでやる必要なんかないんだ。
 俺はちょっと、復讐とか見返しやるなんてやる気起きない年齢だけどさ。お前らはまだ子供なんだ。今から巻き返しの未来を見据えて生きていいはずだ。
省8
796: 2019/10/24(木)14:23 ID:FiAs1wMo(10/10) AAS
「そんなみすぼらしい体では、身体能力の伸びも見込めないだろう。少しは俺の役に立つように魔法でも覚えてみるか? まぁ、覚えられるだけの頭があったらの話だが」
「はぁ? 言ったなてめぇ…………」

 いや、本当、ヘンゼルくん? なんでそんなに喧嘩っ早いの?
 睨み殺しそうな顔するなよ。教える気が失せるから。
 俺、小さい時から天才って持て囃されたから、肉体言語とか嫌いなんだよ。

「お兄ちゃん、泉の精さまにそんな口きくのは」

 グレーテルはいい子だなー。

「やるなら魔法を覚えてからでいいでしょ?」
省9
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