◆三島由紀夫の遺訓◆ (511レス)
1-

38: 2011/02/02(水)12:30 ID:vk9kF/RH(2/4) AAS
これにもいろいろ複雑な事情があるが、小説家が外部世界の鏡にならうとすれば、そんなにいつも「素朴で明るい」
人間であるわけには行かない。しかし異国の港にひるがへる日の丸の旗を見ると、
「ああ、おれもいざとなればあそこへ帰れるのだな」
といふ安心感を持つことができる。いくらインテリぶつたつて、いくら芸術家ぶつたつて、いくら世界苦
(ヴエルトシユメルツ)にさいなまれてゐるふりをしたつて、結局、いつかは、あの明るさ、単純さ、素朴さと清明へ
帰ることができるんだな、と考へる。
いざとなればそこへ帰れるといふ安心感は、私の思想から徹底性を失はせてゐるかもしれない。しかしそんなことは
どうでもよいことだ。私は巣を持たない鳥であるよりも、巣を持つた鳥であるはうがよい。第一、どうあがいた
ところで、小説家として私の使つてゐる言葉は、日本語といふ歴然たる「巣鳥の言葉」である。
「いざとなればそこへ帰れる」といふことは、同時に、帰らない自由をも意味する。ここが大切なところだ。
帰る時期は各人の自由なのであつて、「いざとなれば帰れる」といふ安心感があればこそ、一生帰らない日本人が
ゐるのもふしぎはない。

三島由紀夫「日本人の誇り」より
1-
あと 473 レスあります
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル

ぬこの手 ぬこTOP 0.005s