【夢か】SSスレ【幻か】 (528レス)
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1(1): 2011/12/28(水)20:11 ID:N1YE.l9Q0(1) AAS
ここは能力者スレ避難所、SSスレです。
基本的には能力者スレに出てきたキャラに関係したりするSSのみの投稿でお願いします。
別の人が動かしているキャラを登場させる場合は、本人の許可をとってから登場させるようにしましょう。
次スレは>>950が立ててください。
264: 倉木美緒は暗闇に◆iDgO7JBpUY 2015/02/18(水)02:30 ID:bUc5dcK60(3/3) AAS
「披見体の筋肉…内臓は…… 常人のそれと…大きく違い ・・・ない」
いやだ・・・
「やや筋肉質…… それは…能力の多用で… 強化され……と…推測」
おれは・・おれはまだ・・・
「抵抗…力から…… 能力は…下級……ハズレ…… 突出した……ない・・・ 」
省17
265: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:08 ID:0kLeiltE0(1/8) AAS
・大司教アーグのキャラ設定SS
・途中グロ有り、矛盾有り、自己完結。
上記の通りな感じですのでお気を付けを。
266: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:10 ID:0kLeiltE0(2/8) AAS
アーグが生まれたのは、現代から数えて243年前になる。
最早歴史の中の世界であるから、電子機器も無かったし、手術の方式なども非常に古典的であった。
だから、彼がその身に数多くの奇形を持ちながら生まれ落ちても
誰にもその奇を取り除くことは出来なかった。単眼、多腕、骨格の異常。
育つに連れて歯列や爪にも常人にはない異変が起きた。五感にしても目は
光を辛うじて認識できる程度であり、耳は聞こえず、必然的にしゃべることは出来なかった。
食事はスープで解した物を流しこむように食べさせる。
呪われた子供、という渾名すら付くほどの、徹底した奇形児であった。
何もない時代だからこそ、彼の両親や親族はこぞって神にすがった。
当時地方の一宗派であったゼン=カイマの僧達の元に、彼の”厄落し”を依頼したのである。
省13
267: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:12 ID:0kLeiltE0(3/8) AAS
「今日だけで80人目になるか……」
騎士団長ゴドリックはため息を吐きながら視線の先の処刑場を改めて眺めた。
街の外に作った、改宗を拒む異教徒の首を撥ねる為だけの処刑場を。
20人ほどの騎士団員が絶えず人々の首を落とし、棺桶に遺体を収めて運び出しているが
午前一杯かかってもまだ三割も捌ききれていない。
それだけ今回の遠征は成果があったということだが、戦いが終わってアドレナリンが切れ
何十人と死を眺め続けると感覚も鈍くなる。黒髪を後ろに束ねてから唇を舐めるとほのかに鉄錆の味がした。
「カラッド……カラッドは居るか、副団長は。」
「居ますよ、此処にね。ちょっと斧を持つのも疲れたんで休憩してたんです」
「ご苦労なことだ……残りの囚人の中に、あのゴーレム使いは居るのか?
省14
268: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:14 ID:0kLeiltE0(4/8) AAS
さて、大司教。ゴドリックの属するゼン=カイマにおいては、全権を委任された存在だ。
その飼い犬が司教たちであり、更に下にゴドリック率いる近衛騎士団が位置している。
つまり元を辿ればゴドリックの飼い主も大司教であり
必然的に距離をとって頭を下げ、膝を付いての報告となった。
味方の戦傷者、敵方の捕虜数、処刑者数、改宗者数。
伽藍から召し上げた宝具の数々を覚えている限り伝え直し、今後の指示を仰ぐ。
その段で大司教自らが頭を上げろ、と言ってから初めてゴドリックは彼を見た。
異装である。背はゆうに2メートルを超えているだろう。見立てでは240cmはある。
ひどい弱視だとかで、目元は頭巾から伸びる白い絹で覆うようにしていた。
手元の袖も布が長い。こちらは両手に異教徒から受けた大きな火傷の跡があるのだと言う。
省28
269: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:18 ID:0kLeiltE0(5/8) AAS
台に固定された女の手足が痛みにピンと伸び、拘束のベルトと
鎖がガチャガチャと音を立てる。その身には一分の布切れすら纏うことは許されず
健康的な小麦色の肌に血液のどす黒い赤が栄える。
彼女の腹部を麻酔無しに切開するメスの動きは止まることもなく
氷上を踊るスケーターの様に綺麗に肌と筋繊維、そして臓物を切り開いて
鯨油の明かりに照らしだす。向かいの牢獄からは怒号が飛んだ。
しかしそれを意にも介さぬクツクツという笑い声が地下牢に響いた。
『そうそう怒るでないわ、異教徒共が。どうせ明日の昼には死ぬのだ
今此処で不興を買って犬死にしたくは無かろうが?
貴様らの死に際なぞ、私の目配せ一つで変わるのだ。火炙りでも良かろう
省30
270: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:23 ID:0kLeiltE0(6/8) AAS
『痛いではないか、騎士よ……神の猟犬である貴様が、神の代弁者たる私に仇なすのか?』
『貴様は代弁者などではない、悪魔め。知っているのだ
この数十年……私の先代、先々代……。汚職と腐敗がゼン=カイマに蔓延ったのは
60年以上もの昔に貴様が大司教になった頃からだと、既に調べが付いている』
『それも優秀な部下の調べかね?それとも、愚かしい歴代の騎士団長達の所業かね。
……なに、どちらでも構わんさ。何故なら間違っているからだ』
大司教は剣で裂けた傷口をその術で癒やしながら笑った。
傷口の血は止まり皮膚も張ったが、口元は裂けたままであった。
『良いかね騎士団長、そもそもだ……。キミは異教徒に対して
まさか殺すべきではないだとか、信仰の自由を許せだとか言うまいな?
省30
271: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:25 ID:0kLeiltE0(7/8) AAS
捻くれた爪がじゃらりと音を立てる。大きく長い指が動けぬ騎士団長の頭を掴んで
間近に詰め寄りながら問いただす。電流が頭脳を痺れさせたのか
ゴドリックは答えられない。ニヤリと笑った大司教は、彼にある術をかけた。
掛けてから、地上へ――大聖堂へと戻る道を歩んだ。
祭壇の階段から表に出ると、そのすぐ側には若き副団長が立っていた。
突然斬りかかるようなことはなかった、が―――。
『……あの、大司教様。団長を見ませんでしたか?
先ほど、大司教様と会ってくると言って出て行ったきりでして、ぁ……グっ、な…!?』
『フン……カラッドというのは貴様よな、ちょろちょろとネズミのように彷徨く若造が。
大事な大事な騎士団長サマは既に我が手の内よ。貴様も同じようにしてやろうではないか
省17
272: 『源』◆SYLP4psCi. 2015/02/19(木)13:38 ID:0kLeiltE0(8/8) AAS
『……それで、ボクの身体は誰のものなのさ?
ゴドリックってのはおっさんだし、アンタの側で死んだんだろ?』
『あぁ、それはカラッドという小僧のものよ。アレは蘇生させた後に拘束してな
実験台にしたのだ。便利だったからな、力あるものの肉体というのは……のう、ブリッツ?』
『あら、そんなお話を聞くと私の身体は何処から来たのか知りたくなりますわ、アーグ様。』
『……聞きたいか?お前のはいささか特殊だぞ、ロースよ。
異教徒共の中には、聖女扱いされていながら平然と男を持つ者も居てな。
孕んでいるのが居たから、胎児だけを引き出してな。……櫻には
幼少の女を連れ帰って育て、理想通りに育てた男の話があるそうだが
中々どうして、胎児からそうしてやった者もおるまいて。事実は小説よりも奇、よな』
省10
273: 2015/02/20(金)04:33 ID:Jfel1XAU0(6/6) AAS
命、なんて物は簡単に壊す事が出来て、存外簡単に創る事も出来るらしい。
勿論男女の秘め事だとか色々あるけど……ボクには試験ベイビーなんて言い方が一番合っているのだろう。
聖人達や人外の遺伝子を複雑に混ぜて創られたのがボク。教会の剣として創られて、少し戦闘に秀でた教徒達程度じゃ太刀打ちできない相手をボクが担う。
其れは悪人だったり魔物だったり、中には悪魔も居たりしたけど。
――――そうして任務を続けていたら、気が付いた時には死神なんて随分と格好いい渾名を付けられてた。
創り出されてまだ間もない頃。ボクがボクとして確立して居なかった頃。
ただ淡々と与えられた任務を遂行するだけで、笑う事も無かった時の事だけど。
話を聞けばそれはもう凄まじい殺戮方法だったらしい。
今はボクの愛銃とか色々あるけど……ナイフで腹を割いて中身を引き摺り出したり、腕を叩き折って引き千切れば其れで刺し殺したり、なんて。
どっちが悪人かも既に分からなくなるくらい、何時も辺りを紅くしていたから。
省25
274: “終章”(1/2)◆vrv2g2Oz1g 2015/03/09(月)23:05 ID:a1iB7Jzc0(1/3) AAS
――泥の街。瓦礫に塗れた泥の中、黒い女は其処にいた。
それを囲むは三人の若い男。この街で出会い、共に育った血の繋がらない三兄弟。
この女に拾われて、それぞれが新たな生を歩み出し。ある者は斃れ、ある者は染まり、ある者は堕ちた。
そして、巡り廻ったこの世界で。それぞれに、救われた。
「……一体、何が言いたいんだ。先生」
切り出したのは長兄だった。頬に刻まれた革命者集団の証は、今や残党も彼一人。
灰色の双眸で鋭く見据えるは、かつてその教えを享受してくれた師。あるいは、育ての母。
「ふふ、悦那ったら……この中で一番賢い子は、貴方でしょう?
理解はしている癖に、感情がそれを認めたくない……さしずめ、そんな所かしら?」
省15
275(1): “終章”(1/2)◆vrv2g2Oz1g 2015/03/09(月)23:05 ID:a1iB7Jzc0(2/3) AAS
「悦那・スティングレイ――1955年6月11日、中国・大連市生まれ。
1989年6月4日、中国・北京市にて、生身一つで止めようとした戦車に轢き殺され死亡。享年34歳」
(――流行りの熱に駆られて、なんて。そんな下らない思想など、母の祖国・パリの街に誓って受け入れない。
バタイユの教えを血に、抱く思想への誇りを糧に、下らない大戦の後始末を。俺達は、無痛の革命を起こす者。 )
「セシル・シュトラウス――1909年10月31日、ハンガリー・ブダペスト生まれ。
1945年3月16日、ドイツ・ランツベルクの強制収容所にて死亡。享年36歳」
(――広い癖に陰気な街だった。しかも売春婦と国籍違いの亡命者との相の子、まともな教えはユダヤの聖典だけ。
下らない時代に生まれたものだと思った。この身に掛かる災いも何もかも、全てが時代のせいだと思う他無かった。)
「墨廼江 月彗――1889年8月15日、京都・島原生まれ。
1921年12月24日、客の女に毒を盛られて死亡。享年32歳」
省22
276: ◆vrv2g2Oz1g 2015/03/09(月)23:11 ID:a1iB7Jzc0(3/3) AAS
/>>275タイトル部分、(2/2)のミス。
/タイトル通り“終章”です。関わって下さった皆々様に感謝。
277: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:30 ID:PZLtbeYg0(1/7) AAS
火の国郊外に捨てられていたひとりの赤ん坊を保護した自治体が彼女に授けた名前は「ワン・ユェイエ」であった。
ユェイエが初めに送られた施設は国の経営するものではなく、火の国の実業家カオ・クントンの妻カオ・ユーリンが夫亡き後に設立した「日だまりの家」という孤児院である。
クントンはかつて火の国が大規模な戦争に巻き込まれていた際、一代で一山の財産を築き上げた名君であると共に、とても情に厚く情け深い紳士であった。ユーリンもまた非常に温厚な性格であり二人は仲睦まじい夫婦であったが、戦争時の負傷によりクントンは子を成す力を失ったため二人の間に子供が授かることは無かった。この孤児院は若干28歳にしてこの世を去ったクントンの遺言に従って設立されたものである。
幼いユェイエは優しい老婦人ユーリンと、同じく身寄りを失ったお兄さんお姉さん達の慈愛のもとですくすくと育った。生まれつき気が弱く体も丈夫でなかった彼女は「姉妹」や「兄弟」達との喧嘩では一度も勝ったことがなかったが、ユーリンおばあちゃんの絵本の読み聞かせが始まるとすぐに泣き止んで一番前に座り熱心に話を聞いた。あとで年長の兄弟たちに諭され相手が謝りにくると、いつでもユェイエは「きにしてないよ」と笑った。両親こそいなかったが彼女にとってはユーリンこそが祖母であり、日だまりの家で暮らすみんなこそが家族であった。
ユェイエが8歳の時日だまりの家はカノッサ機関に襲撃され、ユーリンをはじめとしてユェイエ以外の全員が殺害された。夜は日だまりの家の全員が集まり夕食をとる時間であったが、借りていた絵本の返却期限を忘れていたユェイエはたまたまその時近くの図書館を訪れていたのである。機関の襲撃の理由はユーリンの残しているだろう隠し財産の情報を聞きつけたから。ただそれだけだった。当然隠し財産などは存在しなかった。機関員の腹いせにより日だまりの家は跡形もなく焼き尽くされ、現在は工場が建っている。図書館からの帰り道でユェイエは惨劇を聞きつけた警官により保護され、新たな養護施設に送られることとなった。
ユェイエは泣き続けた。幼い彼女にとってそれがどれほどの悲しみであっただろうか。しかし彼女には家族との思い出が、残してくれた愛情があった。かつてユーリンは日だまりの家の子等に言ったことがある。皆がずっと一緒に幸せに暮らすことができればそれはとても幸せなことだけれど、それは叶わないことなの。私がいずれ天国へ行ってしまうみたいにね。お別れのときは必ず来るの。だからいつか貴方たちが離れ離れになることがあっても、どうかそれを目いっぱい悲しんだ後はしっかり泣き止んで。そうしたら、悲しさなんてお空へ飛んでっちゃうくらいに楽しいこと嬉しいことが、素敵な貴方たちにはきっといっぱい見えてくるから。
その言葉を思い出せるくらいにまで落ち着いたとき、彼女の涙は止まっていた。健気な少女は、新しい受け入れ先で、そしてこれからの未来で希望を持てることを信じたのだった。
そして少女は奈落へと落ちてゆく。深く、深く。二度と陽の光の射さない場所へ。
278: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:31 ID:PZLtbeYg0(2/7) AAS
「サニー。私たちは、いつか陽の光の中を歩けるのかな」
「大丈夫だよ。信じていれば、絶対に夜は明けるから」
サニー・ヘリオスはいつものように輝く傷だらけの笑顔でそう答えた。私よりもよっぽど多く殴られて蹴られたはずなのに、そんなことを微塵も感じさせないような明るい笑顔だった。
「ごめんね」
「へ?何が?」
「庇ってくれてるサニーが元気なのに私は弱音を吐いてばっかりで、それでサニーに申し訳無いなって思ったから」
「ぜーんぜん、平気に決まってるじゃん!それにね、ユェイエは根本的に間違ってるよ。悪いのはユェイエじゃなくっていじめる側のほう。だからユェイエはなんにも悪くないの。でしょ?」
顔をずいっとこちらに近づけてくるサニー。なんだか私は急に恥ずかしくなって、あ、とかうん、とかもにょもにょと言葉を濁して顔をそむけた。
「わかればよろしい」
サニーは満足げな顔をした。教官2人、児童8人からなる女性用孤児院の、児童部屋、4つの2段ベッドのうちの1つの上。私は絶望の中で輝く希望と二人きりの世界で、確かな暖かい安らぎを感じていた。
279: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:32 ID:PZLtbeYg0(3/7) AAS
どこの国でも、どこの町でも、それこそこんな地下の穴倉のようなところでさえくだらない『いじめ』というものは存在する。彼女たちが、私たち二人の何が気に入らないのかはわからないけれど、とにかく私達は何かにつけ精神的・肉体的な暴力を日常的に受け続けていた。いや、本来ならば「私」だけで済んだのか。
この国営のさびれた孤児院に収容されてから一か月ほどは何も無かったけれど、それは彼女らがただ様子見をしていただけなのだろう。体も気も弱く、おまけに肌の色も異なる私は彼女ら…サニーは「イエローモンキーズ」なんて呼ぶけど、とにかく彼女らにとっては格好の標的だったのだろう。
何しろストレスの溜まる場所であるとは思う。国営だと言うのに、収容している子供を学校に行かせる金さえないと言うのだから。私もサニーも14歳。私は此処に入れられてから6年になるわけだが、本来ならばその間は当然小学校、中学校と義務教育に従い学校に通っているはずである。
義務教育もタダではない。私立学校は当たり前のこと、公立学校だろうが国立だろうが人ひとり学校へ通わせるにはまとまった金が要るのだ。火の国の中心部はさぞ栄えていると聞くが、このあたり郊外は特に貧しい。本でどこかの国にはスラム街というものがあると知ったが、多分それと程度は同じだ。施設を出ようにも自力で生きていくための働き口すら無い。私達孤児は割り当てられた施設に甘んじるしか生きる術が無いのだ。
教官二人はいじめの現場を見ても助けてはくれない。見て見ぬ振りをするだけだ。彼らの仕事はただ定められた時間に私達に食糧を与え、そして孤児院の敷地から子供が脱出できないようにすることだった。だから、ここは孤児院と呼ぶよりも監獄と呼んだ方が適切なのかもしれない。社会的弱者をただ形だけ「保護」という名目で監禁する施設。私達は囚人で、獄卒は教官だ。
いじめっこ軍団のリーダーを、サニーはショウジョウと呼ぶ。本名でないことは確かである(多分、デクァンとかいったはずだ)。サニーいわく、櫻の国の言葉で『大きな猿の化物』の意味らしい。それと、『女の子』をあらわす言葉を掛けた言葉遊びだそうだ。櫻の国の言葉は知らなかったからよくわからなかったけど。ショウジョウを頂点とする6匹の猿軍団、それがサニーが彼女らを表すときの比喩であった。
ショウジョウ達に陰湿ないじめを受けていたさ中、新たに施設にやってきたのが同い年のサニーだった。サニーは肌の色で分類するなら私の仲間だったけど、とても明るかったから初対面の時は『ああ、この人も私の敵になるんだな』と思った。それは凄く失礼な想像だったのだけど。
始めはショウジョウとサニーは楽しそうに話をしていたのだけれど、ショウジョウがその日の朝私にしたことを語ったとき、サニーはショウジョウの顔を突然殴った。お前、何て事するんだ、ユェイエにあやまれ・・・そう言って私のために戦ってくれたとき、まだ小さかった私の心がどれだけ救われたことか。もっともショウジョウは私達より3つも年上だったし、他の取り巻き達も同じくらいだったから、サニーは教官が見ていない場所でめちゃくちゃにやられてしまった。
ショウジョウ達が気の済むまでサニーを痛めつけた後、陰から見ていることしかできなかった私はサニーに駆け寄って、抱き起こして尋ねた。どうしてあんなことを、と。サニーは、何もしてないユェイエがいじめられるなんて間違ってる、と答えた。
私がずっと思っていたけど抑えていた気持ちを、サニーは恐怖や常識に支配されずにすぐさま表に出した。出してくれた。それを思った時私は凄く嬉しいような悲しいような気持ちになって、サニーに抱き付いてわんわん泣いたのを覚えている。
省1
280: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:33 ID:PZLtbeYg0(4/7) AAS
サニーが来るまでの数年は、泣いても喚いても誰一人助けてくれる人はいなかった。ショウジョウ達は悪い意味で『手加減』というものを知っていたから、殺されることこそ無かったものの、その代わりに私は生きながらにして地獄を見させられた。
骨を折られたり血を吐かされたり、あるいは鞭(実際は縄跳びに使うロープだったが)打ちの刑と称して全身にミミズ腫れを刻まれたり、日に三度与えられる僅かな食糧を汚い靴で踏みつけられたり、あげくそれを無理やり胃に流し込まされたり、風邪をひけば、あえてその状態で激しい運動をさせて状態を悪化させ、夜通し吐き気や頭痛に苦しんだり。
だけどそれら肉体に与えられる苦痛を、私はいつからかあまり気に病まなくなっていった。何故ならもっと気に病むべきものができたからである。
与えられる苦痛そのものではなく、今日は一体何をされるのだろうという、『恐怖すること』自体への恐怖。殴られるから恐ろしいのではなく、殴られるかもしれないから恐ろしい。恐ろしいと思うことが恐ろしい。本来何も起きていない筈なのに、恐怖が苦痛を誘発する。こうなってくるともはや幻覚や妄想癖に近い症状である。積み重ねられた暴行によって私の精神は極限まで衰弱していた。明日が来るのが恐ろしくて眠れない夜を一体幾つ過ごしただろうか。その悪夢に耐え切れず思わず叫びだした時は、うるさい、眠れないという理由でまたリンチを受けた。
サニーが来るのがもう少し遅かったなら、私はショウジョウ達に殺されるまでもなく死んでいたかもしれなかった。簡単な話だ。楽になろうと思えば首を吊ればいいのだから。
しかし救世主は私と同じ地の底へ舞い降りた。サニーと過ごした時間はまだ2年にも満たなかったけれど、サニーさえ一緒にいてくれれば地獄だって抜け出せるような、そんな気すら覚えていた。
始めのうちサニーはショウジョウ達の暴力に果敢に立ち向かっていたけれど、それがサニー自身へ、ひいては私への仕打ちの悪化を招くことを悟ると、数ヶ月後にはサニーは暴力を用いた抵抗をやめるようになった。代わりにサニーは私と共に苦しみ、私の恐怖を分かち合い、時には冗談も交えて、そしていつでも励ましてくれた。輝く笑顔と一緒に。
こんな施設おかしいよ、きっといつか国の調査が入って教官もろともいちもーだじんだよ。だからその時まで頑張ろ?
悪い風に考えちゃだめ。私ね、将来ちゃんと働いてお金持ちになったらあいつら奴隷としてこき使ってやるんだ。・・・ってうそだようそ、本気にしないでよもー。悪いことに悪いことで返したらあのおサルさんたちと同じだもんね。
あいつらがいない今こそ勉強しなくっちゃ!社会に出たとき通用しないもんね・・・ってあれ?ユェイエってもしかして凄い頭良い?しょっく!
省7
281: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:35 ID:PZLtbeYg0(5/7) AAS
ある日のことだった。いつものように私とサニーはショウジョウ達のいじめを受けた。サニーは覆いかぶさるようにして私を彼女らの汚い足蹴から守ってくれた。もっとも私も負けず劣らず傷だらけになったのだけど。
いつもと少し違ったところは、ショウジョウ達が私達の私物に手をだしてきたことだ。ついこの前私もサニーも殺されかけるくらい痛めつけられたからか、あるいは新しい遊びを求めたからか。ともかく彼女らは二段ベッドの部屋に押し入って、次々私とサニーの持ち物をあさり始めた。私は後ろから連中に羽交い絞めにされて、サニーは部屋から離れた場所で手下の押さえつけられていて、私はただその光景を見ていることしかできなかった。
もっとも私の持ち物なんて与えられた教科書くらいしかなかったから、ショウジョウの矛先はすぐにサニーの私物へ向けられた。
逆さにされたバッグから様々なものが出てくる。手鏡、水晶で作られたネックレスみたいなもの、サニーのお気に入りの小説、そして、何かの像・・・
あの像は確か前に、これって何?と質問したら、あはは、何でもないよ、と言ってサニーが珍しく決まりの悪そうな表情を浮かべたものだ。でもそれきりで、すぐにサニーは楽しいお話を始めてくれたから私はそれ以上聞くのも悪いのかなと思った時の・・・
「見ろよ!こいつ仏像なんて持ってるぜ!気持ち悪い!!」
ブツゾウ?
ショウジョウと取り巻き達はわざとらしく下卑た声をあげて、そして思い切りその像を床に叩き付け、足蹴にした。年季の入った何かの像は音をたてて真っ二つに折れた。人間をかたどっているらしいそれはひび割れ、大きな破片がいくつもぽろぽろとこぼれた。ショウジョウ達はそれで満足したのか、爆笑しながら部屋を出て行った。
サニーは就寝時間を過ぎてやっと寝室へ戻ってきた。ショウジョウ達が寝入るまで私達二人は満足に眠ることはできないため、何とか教官の目を盗んで消灯時間を過ぎてから寝始めるようにしていたから、それは特別なことではなかったのだけど。今日は私の方が先にベッドに就いていた。サニーは相当ひどくやられていたようで、全身痣だらけだった。
「ユェイエ、大丈夫だった?」
省12
282: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:35 ID:PZLtbeYg0(6/7) AAS
真夜中、目が覚めた。久々に猛烈な不安感が私を襲ったのだった。汗が全身ににじんでいる。乱れた呼吸をなんとか整えようとする。しかし、自分の力ではどうしてもその恐怖はぬぐえなかった。
私は、愛しい親友の名前を呼んだ。
「・・・サニー」
「・・・サニー?」
何か違和感を感じて、私はベッドの下を覗きこむ。
サニーのベッドはもぬけの殻だった。
「うそ」
サニーがいないはずは無い。トイレにしては長すぎるし、こんな時間に外出していることが教官に見つかればそれこそ只では済まされない。本当に殺されるかもしれないのだ。
ならサニーはどこ?
嫌な汗が全身から噴き出る。嫌な想像が私の頭をよぎる。まさかサニーに限ってそんなことはあり得ないのだけど。どんな状況でも明るくて、いつだって私の進むべき道を照らしてくれて・・・
省57
283: 歪んだ光 2015/03/21(土)23:37 ID:PZLtbeYg0(7/7) AAS
その後、ワン・ユェイエは騒ぎを聞きつけた孤児院の職員2名を殺害。凶器は職員が所持していた拳銃。親友の自殺を目撃した時前述の固有能力が発現したため、銃器での攻撃が有効と判断した職員はその虚をつかれ、逆に銃を奪い取られ殺害された。
またすぐ後に孤児院内の集合寝室へ戻ったユェイエは、自身の枕を用いてまだ睡眠中であった孤児院の児童、ミン・デクァンをはじめとする6名を殺害。死因は全員、枕で呼吸器をふさがれたことによる窒息死。
彼女は拘束が無くなったことと自身の能力を利用して、孤児院裏側の切り立った崖から飛び降りて逃走。翌日にはこの孤児院での大量殺人事件は火の国全域でセンセーショナルに報道されるも、結局犯人が自警団並びに警察に捕らえられることはなかった。
私は無風の月夜を駆ける。
浴びたばかりの鮮血が服を、手を、顔を濡らしている。
サニー。
貴方の遺書。
『ほとけさまはこわれました らくになりたいから死にます さよなら』
貴方は無理をしていたのね。
それは私がさせていたようなもの。出会ったころの貴方は宗教なんて知らなかったもの。
省22
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