SSスレ(萌え)8 (188レス)
上下前次1-新
59: 陸士長 2012/06/21(木)13:04 ID:vylzbKeg0(9/15) AAS
「た、大変です! 三番機がやられました、右翼から炎上……ああ、右翼が、折れた!!」
後部銃座の乗員は見た。物凄いスピードで通過した敵戦闘機(双発だった?)が通り抜け様に八番機のランカスターに銃撃を浴びせ、右翼をへし折ったのを。
彼には与り知らぬ事だが、機首に集中配備されたMG 151/20機関砲3門の弾幕は頑丈極まりない筈のランカスターの右翼を軽々と穴だらけにしてへし折ったのだ。
翼を喪ったランカスターは高度を下げながら雲の下へと消えていった。パラシュートは……見えなかった。
「なんだあれは!」
「Bf109でも、Fw190でもない……」
「双発だった、Bf110か!?」
「バカヤロウ、Bf110があんな速度で飛ぶわけねぇだろ!!」
あまりの事態に混乱した各機の無線が悪戯に飛び交う。
普通なら叱責して落ち着かせる役割である編隊長も、未だ状況に追いついていない。
だが、その未確認機は爆撃機群の混乱が落ち着くのを親切に待つつもりはないようだ。
大きく旋回して浮上、再び編隊の背後に回り込み始めた。
「うわ、また後ろから来るぞ気をつけろ!!」
「撃ちまくれ、後ろを撃てる銃座は全部撃て、いいから撃つんだ!!」
機体上部の回転銃座も後方を向き、迫り来る敵機に向かって撃ちまくる。
当たらずともいい、せめて敵機の進行方向を逸らすことが出来れば……。
数十機の密集した爆撃機の防御射撃は凄まじかった。レシプロ戦闘機であれば落ちていただろう……そう、レシプロならば。
弾幕など気にもした様子もなく、敵機は突っ込んできた。
凄まじい加速により銃座は捕捉も連携も取れず、ただ闇雲に機銃弾をばらまくだけだった。
そして再度の敵機通過。編隊機指揮機の前方を飛んでいた11番機に機関砲弾が縫い付くように撃ち込まれエンジンから火が噴いた。
胴体にも重大な損傷を受けたのだろうか。11番機は見る間に高度を下げ編隊から脱落していく。
「今度は11番機が喰われた、畜生!!」
「銃座は何をやってるんだ!!」
「早すぎて敵機を捕捉できません!!」
「11番機より通信、我操舵不能、我操舵不能!!」
もはや爆撃機隊は、パニック状態になりつつあった。
同じ被害でも相手が良く知る戦闘機なら、これ程混乱は起きないだろう。
だが、あれは一体何者だ? あまりにも圧倒的すぎる速度に防御射撃すらもままならない。
「くそ、くそ、ナチの化けものめ、お前は一体なんなんだ!?」
「て、敵機、前方に……ひ、こ、こっちに来ます!!」
「う、撃て、撃て、撃てぇ!!」
機長は上擦った声で叫びながら何とか機体を回避させようした。
しかし……その瞬間、ランカスター内部の搭乗員は自失呆然となった。
彼らが撃ちまくっていた機銃弾が……敵機の傍で停止したのだ。
機銃弾の速度と敵機の異常な速度の為、何が起こったのか一瞬しか解らなかった。
他者が観測すれば何とか解ったかもしれないが、爆撃機隊は混乱状態であり落ち着いているものなどいなかった。
気付かなかった。敵機の進行上に這入り込もうとした機銃弾が悉く停止し、敵機通過後にまた動き始めた事に。
その為に幾ら撃ち込もうが、一発たりとも有効打を敵機に与えられない事も。
「一体、お前はなにm」
迫り来る敵機……黒い双発機に向かって機長は問うた。
返事は20mm砲弾の雨だった。
機首をボロボロに破壊された編隊指揮官機は胴体から火を噴きながら高度を落としていく。
しかし、誰も知ることもないが機長は死ぬ直前に確かに見た。
迫り来る二機のプロペラが付いてないエンジンを搭載した漆黒の機体を。
赤く塗られた尾翼に浮かぶ隻眼の黒うさぎを。
そして―――操縦席。
フィールド・グレーのパイロットスーツに身を包んだ小柄な人影。
人影の眼部を覆うスモークゴーグル。
その左側から、黄金の光が漏れ出ていた……。
パイロットの口元に冷ややかな笑みが浮かび、そして20mm機関砲弾が機長の視界を永遠に奪った。
彼が最後に見たもの、それは人為らざる黄金の煌めきだった。
三機のランカスター重爆撃機を撃墜した黒い戦闘機は、それ以上攻撃を行わず高度を下げ去っていった。
「ランカスター重爆撃機を三機撃墜……燃料の残量僅か。これより帰投する」
凛とした、冷たく可憐な言葉が発せられた後。
黒い戦闘機は切り裂くような音を立てて基地へと帰投していった。
後に本土爆撃を行う英国空軍のパイロット達から死に神の如く恐れられる、『黒兎』の初陣であった。
おわり
上下前次1-新書関写板覧索設栞歴
あと 129 レスあります
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル
ぬこの手 ぬこTOP 0.003s