アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.14 (1000レス)
アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.14 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/
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590: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] こんばんは。お久しぶりであります。 >>581氏 SS投下お疲れさまです! 遂に・・・遂にNATOが動き出しましたか。 異世界側は、次々と現れるNATO軍に対して何を思うのか・・・ それでは、長い間お待たせしてしまいました。 SSを投下いたします。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/590
591: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 第274話 暁から来たる刺客 1485年(1945年)12月9日 午前4時 シギアル沖北東312マイル地点 北洋の海は、本格化した冬によって氷点下近くにまで達していた。 海上をなびく風は弱く無く、波は風に煽られてやや高くなっている。 時折ふぶく突風は、極低温にまで達した冷たい海水を宙高く吹き散らしていく。 そこを、唐突に現れた巨大な物体が腹に応える音を立てながら、鋭い切っ先で冷たい海水を難無くかき分けていく。 物体はその巨体を上下させながら、早いスピードで海上を驀進していく。 真っ平らな甲板に、中央部に纏まった艦上構造物を持つ物体…… もとい、第3艦隊旗艦である正規空母エンタープライズは、周囲の正規空母、護衛艦艇群を率いながら、北洋の海を一路、 西に向かって進み続けていた。 夜闇に包まれた、殺風景な外界から離れたエンタープライズ艦内の一室。 同艦の奥深くにある調理室では、艦橋や艦の張り出し通路で防寒服を着ながら当直任務を行う水兵とは打って変わった光景が 繰り広げられていた。 「チーフ!間もなく最初の奴がアガリます!」 「OK!すぐに第2陣を突っ込めよ!!」 ブリック・サムナー1等兵曹は、部下に指示を飛ばしながら、眼前にある鍋をレードル(お玉)で掻き回していた。 調理室内には熱気が籠っており、サムナーを始めとする炊事兵達は汗みずくとなりながら、朝食作りに没頭している。 エンタープライズの乗員数は、空母航空団のパイロット等も含めて計2800名以上に上るため、朝食を作るだけでもかなりの重労働である。 しかし、そこは場数を踏んでいる事もあり、サムナー兵曹ら炊事兵達は、慣れた手つきで調理を続けている。 調理室内には、一種の刺激臭のような匂いが立ち込め始めていたが、彼らは別に気にする事もない。 サムナー兵曹は無言で掻き回していたレードルを上げ、小皿に少量を付け、それを口に入れた。 「ふむ……いい出来だ」 サムナーは味に満足しながら、再び鍋を掻き回していく。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/591
592: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 調理室内はしばしの間静かだったが、別の炊事兵が油の入った大鍋に、何かを続々と入れていく。 直後に、油がはぜる音が鳴って、室内が再び喧騒に包まれた。 「チーフ!ライスが炊けました!」 サムナーは別の部下からそう伝えられると、彼はその部下に顔を向けてから新たな指示を飛ばし始める。 「ようし、後はいつも通りの要領で頼む。本命も丁度出来上がった。後は……」 そこへ、スピーカーから総員起床の号令が流れ始めた。 艦内アナウンスを聞いたサムナーはニヤリと笑ってから、続きを口にする。 「ヴィクトリーを、腹を空かした皆さん方に召し上がって貰おう。本物のヴィクトリー(勝利)を得て貰うためにもな」 午前4時30分 エンタープライズ艦内士官食堂 エンタープライズでは、午前4時20分に総員起こしの号令がかかり、当直員以外の、眠りに付いていた将兵全員がベッドから飛び起きた。 午前4時30分には幾分早い朝食の支度が艦内の食堂で整えられつつあり、ある士官食堂内でもその準備は着々と進んでいた。 第3艦隊司令長官ウィリアム・ハルゼー大将は、エンタープライズの艦橋で、第3艦隊司令部幕僚達と朝の挨拶を交わした後、 軽い冗談を吐きつつ、朝食を摂るために士官食堂に足を運んだ。 先頭を進んでいた第3艦隊作戦参謀、ラルフ・ウィルソン大佐がドアをノックしてから開く。 室内で準備していた主計兵達は、彼らが入室すると一斉に直立不動の態勢を取った。 「おはよう諸君」 「おはようございます!」 ウィルソン大佐の挨拶に、主計兵達を代表して1等兵曹の階級章を付けた下士官が返答する。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/592
593: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「諸君、続けていいぞ」 ウィルソン大佐がそう言うと、1等兵曹はやや頷き、部下の主計兵達に目配せしてから作業を続けさせた。 司令部の幕僚達がテーブルの側に用意された席に付くと、主計兵達は置かれた皿に朝食を盛りつけ始めた。 「ほう。今日はヴィクトリーカレーか」 ハルゼーは、目の前に置かれた朝食を見るなり、上機嫌な声で主計兵に話しかけた。 「はっ。自分達が気合を入れて作ったカレーであります」 その若い白人主計兵は自信満々といった表情を浮かべながら、ハルゼーにそう答えた。 「ふむ……サムナー兵曹もすっかり成長した物だな」 名前を呼ばれた1等兵曹……サムナー1等兵曹は、ハルゼーに体を向けた。 「長官。お褒めの言葉、ありがとうございます」 「君の発案したカレーライスは、今や合衆国海軍にとって必要不可欠な物となりつつある。今や、このヴィクトリーカレーは、 このエンタープライズのみならず、第3艦隊の艦艇全ての食堂で、将兵達の腹を満たしつつあるだろう」 この時、ちょうど司令部幕僚全員への配膳が終わった。 ハルゼーは、スプーンにライスとカレーを乗せ、それを口元まで近付けてから止めた。 「諸君。このヴィクトリーカレーのように、我々は勝ち取ろうではないか。来たる、今日の勝利(ヴィクトリー)をな!」 彼は快活な声でそう言い放った後、スプーンを口に入れた。 カレー独特のツンとした味わいが広がる。それは咀嚼するごとにより深みを増し、白いライスがその辛さと見事に調和する。 空調が効いているとはいえ、冬の冷気に幾分冷やされていた室内が、ほんのりと暖かくなったようにも感じられた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/593
594: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「うむ、やはり美味い!」 「ええ。これぞまさにカレーライス。頭の中の眠気も打ち消してくれますな」 参謀長のロバート・カーニー中将も口元に笑みを浮かべながらハルゼーに言う。 「このフライされた豚肉も美味いぞ」 ハルゼーはスプーンで切ったカツを頬張りながらカーニーに返す。 揚げた豚肉……日系人からはカツと呼ばれる揚げ物もカレールーとライスに絶妙にマッチしており、口の中で感じる程良い柔らかさと サクサクとした食感は、誰が食べても満足できる美味さであった。 「朝から食べるヴィクトリーカレーか……いやぁ、この艦に乗れて本当に良かったと思いますね」 やや場違いな声音で言う若い青年の声に、ハルゼーも深く頷く。 「うむ。俺もそう思うぞ。ラウスも幸せ物だな!」 第3艦隊魔道参謀としてバルランド軍より派遣されたラウス・クレーゲル少佐は、ハルゼーに言われるなり、まんざらでもなさそうに頭を掻いた。 「しかし。よく実行できましたな……出撃前のカツカレー」 航空参謀のホレスト・モルン大佐は、冷静な声音でハルゼーに言う。 「それほど。各艦の料理長も勝利を掴んでほしいと思っているのだよ。じゃなけりゃ、大は戦艦、空母から、小は駆逐艦まで…… 103人の料理長が集まって計画する事は無かった筈さ」 「個人的には、カレーの知識も多く有している元英海軍艦の料理長達までもが、サムナー兵曹と接触している事に驚いております。 彼らはなかなかプライドが高い筈ですが……」 「サムナー兵曹の料理のセンスはかなりの物らしい。彼らも、サムナー兵曹の腕前に興味があったのだろう」 モルン大佐に対して、ハルゼーはそう答えながら、再び食を進める。 「……予定通り行けば、あと1時間後には第1次攻撃隊の発艦が始まりますな」 「ああ……遂に始まるぞ」 ハルゼーは言葉を区切り、残ったカツカレーを完食すると、幕僚達を見回しながらゆっくりと喋り始めた。 「第3艦隊にとって。そして、シホット共にとって、最も長い1日が」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/594
595: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 午前4時50分 空母エンタープライズ艦内 搭乗員待機室 エンタープライズ戦闘機隊の中隊長を務めるリンゲ・レイノルズ大尉は、部下の戦闘機パイロットと共にブリーフィングルームに入室し、 席に座ってから5分ほど経った時、室内に飛行長が入室して来るのを確認した。 「おい、飛行長だ」 彼は、それまで雑談を交わしていた部下にそう言うと同時に、最前列で待っていたエンタープライズ攻撃機隊(VA-6)指揮官 ユージン・リンゼイ中佐が口を開く。 「起立!」 室内に居た搭乗員全員が立ち上がる。 飛行長のダニエル・スミス中佐が地図の掲げられた壁の前で足を止め、流れる動きで体の向きをパイロット達に向ける。 「諸君、楽にしていい」 「着席」 スミス中佐は両手で座る様に促し、リンゼイ中佐の指示でパイロット達は席に座った。 「諸君。朝一のヴィクトリーカレーは余程美味かったようだな。皆の顔色がこれまでにない程、良いように見えるぞ。 ならば、いいメシを食った後は、いい仕事をしてもらうとしよう」 軽いジョークが室内に響き渡ると、パイロット達は一様に小さく笑い声を上げた。 スミスもそれにつられて微笑むが、すぐに真顔になる。 「……レーフェイル大陸沿岸で行われた猛訓練の成果を、遂に発揮する時が来た」 スミスは指示棒を持つと、背後に掲げられている地図の一点を、先端で突いた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/595
596: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「本日早朝を持って、我がエンタープライズ航空群は、他の母艦航空隊と共同で、シホールアンル帝国首都ウェルバンル、並びに、 同地の東20マイルにあるシギアル軍港に攻撃を行う。第1次攻撃隊は、今より20分後の午前5時10分に発艦を開始する」 スミスは指示棒の先端を敵地から、味方機動部隊の位置までなぞらせた。 「味方艦隊から敵地までは300マイルだ。道中、シギアルから50マイル圏内に居る敵の洋上監視艇に攻撃隊は発見されるが、 首都に侵入しているミスリアルの魔道士が通信妨害魔法を使って首都近辺、並びにシギアル港周辺の魔法通信を一定時間遮断するため、 奇襲はまず成功するだろう」 スミスは顔を地図からパイロット達に向ける。 「つまり、第1次攻撃隊は、首都やシギアル周辺に点在する敵ワイバーン群の迎撃を気にせずに攻撃できるという訳だ」 彼は一呼吸置き、再び地図に顔を向け直す。 「現在、シギアル港には、旧式戦艦を初めとする多数の敵艦船が停泊していると思われる。また、敵航空部隊は、シギアル港周辺だけでも 300以上、首都近辺には100以上が確認されており、通常の強襲なら、まずこの400近い敵ワイバーン集団の迎撃を受けた事に なったであろう。だが、先も言った通り、敵の魔法通信は、首都に潜んでいる味方が遮断してくれるから、敵の迎撃を受ける心配はほぼ無い。 むしろ、敵騎が地上に居る所を、戦闘機隊、爆撃隊の銃爆撃で一挙に殲滅する事が出来るだろう」 スミスは指示棒を下げ、パイロット達に姿勢を向ける。 「以上の説明からして、第1次攻撃隊の主目標は敵ワイバーン基地並びに、地上で待機している敵航空戦力の覆滅。並びに、軍港に停泊している 在泊艦船の撃破となる。攻撃方法は、訓練と全く同じである。いつも通り、しっかりとやってくれ。私からの説明は以上だが……何か質問は?」 スミスの問いに、リンゲは真っ先に手を上げた。 「レイノルズ大尉。何かね?」 「はっ、1つだけ確認いたします」 席を立ったレイノルズは、懸念していた事を問い質す。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/596
597: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「もし、首都の味方が敵の魔法通信妨害に失敗した場合、第1次攻撃隊は最初から、緊急発進した敵ワイバーン隊とぶつかる事になります。 そうなりますと、戦闘機隊はまだしも、護衛する攻撃機隊が危険に晒される恐れがあります。そのような事態に至った場合、艦隊司令部は どのような対応をお考えでありますか?」 「それを今から説明する所だ」 スミスは淀みない口調で説明を始めた。 「今回、我が艦隊は3つのカテゴリーに沿って行動する事になる。まず、カテゴリーAは第1次攻撃隊の奇襲に成功した時だ。この場合、 第3艦隊は航空隊の反復攻撃をもって、シギアル、ウェルバンルの重要拠点並びに、在泊艦船を撃滅する。次に、カテゴリーBだが、 これは首都の魔法通信遮断作戦が失敗した場合、第1次攻撃隊は進撃途上中なら攻撃隊を分離し、第2次攻撃隊の戦闘機隊と合同して ファイターズ・スイープを挑み、以降は強襲を行う。そして、敵戦力の覆滅が可能ならば攻撃を続行し、損害が大きければ攻撃を中止し、 戦艦を主力とする水上砲戦部隊を編成し、突入させてシギアル港の破壊を試みる予定だ」 「戦艦部隊を突入させるのか……」 誰かが唖然とした口調で呟くのが聞こえた。 「最後のカテゴリーCだが……これは敵側に、こちらの意図を完全に察知され、港の敵艦隊が既に脱出し、迎撃態勢を整えられている事を 想定している。この場合、攻撃は一時中止し、攻撃隊の編成を見直して爆撃を行うか、または中止して反転するかを司令部が判断する。 言うなれば、このカテゴリーCが最悪の事態を想定したものになる」 「最後はハルゼー長官の判断次第……という事ですな?」 「そうなるな」 リンゲの問いに、スミスは深く頷いた。 「まぁ、ウェルバンルに潜入している味方は相当に優秀だと聞いている。上手くやってくれるだろう」 スミスは安心させるかのような口ぶりでパイロット達にそう言い放った。 「他に質問はあるかね?」 スミスはパイロット達を見回しながらそう尋ねるが、リンゲの他に質問をする者は居なかった。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/597
598: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「よろしい。では」 スミスは幸運を祈ると言おうとしたが、唐突にブザー音が鳴り響いた。 「お……何だ?」 リンゲは首をかしげながら、室内に設置されているスピーカーに目を向けた。 「……おはよう諸君」 スピーカーから声が流れてきた。その声の主は……第3艦隊司令長官、ウィリアム・ハルゼー大将のものだ。 「今日……遂に敵の本拠地を攻撃する時がやってきた。諸君らは、今日のために厳しい訓練によく耐えてきた。諸君らの頑張りは とても素晴らしい物があり、その練度は、間違い無く……世界最強に相応しい物であると私は信じている。そこで、私は…… 諸君らに簡潔ながらも、命令を伝えようと思う。命令は3つ」 スピーカーから流れてきた声が、ぱたりと止まった。 すぐに言葉が流れると思われたが……5秒ほど間を置いてもハルゼーは言葉を放たない。 10秒程経過しても同じだ。 (……長官は何が言いたいんだ?) 誰もがそう思い始めたとき、ハルゼーは唐突に命令を発した。 「1、攻撃せよ!2、更に攻撃せよ!そして3……目標に休む暇を与えず、激しく攻撃せよ!」 ハルゼーの怒声めいた命令が発せられるや、誰もが目を瞬きさせる。 「もう1度言う……攻撃せよ!攻撃せよ!ただひたすらに攻撃せよ!!」 ハルゼーの強い声音が、全艦隊に響き渡った。 しばしの間、室内はシーンと静まり返っていた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/598
599: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「以上だ。それでは……この作戦に従事する全将兵の幸運を祈る!」 直後、ハルゼーの放送が終わった。 その瞬間、室内では爆発的な歓声が沸き起こった。 「OK!首都に居座るシホット共にきつい目覚まし時計をプレゼントしてやろうぜ!」 「ああ!それもとびっきり強力な奴をな!!」 誰もが顔を上気させ、現地での活躍を誓い合った。 「士気も上がったところで、ブリーフィングを終了する。諸君、必ず……帰還せよ。これは命令だ!分かったな!」 スミスの言葉に、歓声を上げていたパイロット達は体をスミスに向け、姿勢を直立させてから一様に敬礼を送った。 スミスは軽く敬礼を返してから室内から退出する。 その直後、搭乗員出撃準備のブザーが鳴り始め、パイロット達は次々と室内に飛び出し、飛行甲板へと駆け出して行った。 エンタープライズの艦橋では、マイクを置いたハルゼーが自慢気な表情でラウスに問いかけていた。 「どうだ。なかなかの名演説だったろう?」 「はは……これぞハルゼー提督だと思いましたね」 ラウスは苦笑を浮かべながら答える。周りにいた参謀達も一様に微笑していた。 「ところで……首都にいるお仲間から何か連絡が入ったようだな」 ハルゼーは全艦隊へメッセージを送っている最中に、隣にいたラウスが一瞬、片手で頭を抑えながら離れていったのを見ていた。 「ええ。首都の工作班からは準備完了との報告が入りました」 「ふむ……では、出撃準備を終えるだけだな」 ハルゼーは頷くと、ゆっくりとした足取りで艦橋の張り出し通路に向かった。 通路に出ると、そこからは飛行甲板が一望できた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/599
600: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] まだ夜も明けきらぬ中、整備員が所々で照らされるライトの明かりを頼りに、出撃前の最終チェックを行っている。 そこに、発艦準備に取り掛かる攻撃隊パイロットが自らの愛機に駆け寄っていく様が見て取れる。 様々な色の服を着た整備員達は、甲板のあちこちで入念な準備を進めていく。 操縦席で最後の調整に当たっていた整備員は、パイロットが近付くなり機体の状況を一通り説明しつつ、最後の点検を順次終えていく。 コクピットに座っていた機付き整備員も、パイロットに愛機を引き渡すため、手慣れた動きでコクピットから出て、パイロットが入れ 替わりにコクピットに入っていく。 エンタープライズの飛行甲板には、弾薬を搭載し、暖機運転を終えたF8Fベアキャット24機、AD-1スカイレイダー24機が翼を 折り畳んだ状態で駐機している。 エンタープライズの第1次攻撃隊はこの48機で構成される事になっている。 エンタープライズの左隣800メートルを航行する空母ヨークタウンも、F8F、AD-1計48機、それに加えて、誘導役のS1Aハイライダー1機が 攻撃隊の出撃に先駆けて発艦する予定だ。 この他にも、空母ワスプからはF8F16機、AD-1A16機、軽空母フェイトからはF8F8機、AD-1A10機が発艦する。 TG38.1だけで、実に147機もの艦載機が、一路、敵首都攻撃に向けて発艦するのである。 これはTG38.1だけの数字であり、TG38.2、TG38.3の攻撃隊も加えれば、その数はかなりの物になる。 そして、第1次攻撃隊の発艦が終えてから1時間以内には、TG38.2の艦載機も含んだ第2次攻撃隊が発艦する予定であり、 これらも含めると、総勢700機以上もの大攻撃隊が敵の牙城ともいうべきウェルバンル……そして、シギアル軍港に襲い掛かることになるのだ。 「さすがに、真っ暗闇だな。ここからの見栄えも宜しくないもんだ」 「日没まで時間がありますからねぇ。あと、風が強くて寒いっすわ」 ハルゼーは手すりに手を置きながら、隣のラウスに語りかける。 対するラウスも、いつもののんびり口調で彼に答えた。 「防寒服越しでも冷たい風が伝わるな。それに加えて……波もやたらに高い。発艦作業を行うには少し厳しい環境だな」 ハルゼーは快活そうな声音で言いつつも、心中では海上の荒れ具合が気になっていた。 第3艦隊の各艦は、現在、北太平洋の荒れた波の中を時速24ノットで航行を続けている。 発艦時になると、各艦は時速28ノットから30ノットまで速度を上げるため、自然と艦の動揺も大きくなってくる。 今の波の状態なら、なんとか発艦は可能であるが、これ以上に大きくなると艦載機は発艦できないかもしれない。 「気象班の予報では、午前5時頃には天候は回復し、海上の波も穏やかになるようだが……果たして、そうなるかな」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/600
601: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] ハルゼーが眉を顰めながらそう呟いた時、ひと際大きな波がエンタープライズの艦首に踏み潰され、ドーンというやや大きな動揺と共に 飛行甲板最前部が海水で洗われた。 これと同様の光景は、第3艦隊のあちこちで見られており、エンタープライズの右舷側斜めを航行する戦艦アイオワなどは、艦首付近が海水に 覆われて派手に水しぶきを上げる程であった。 ハルゼーは無言のまま、その場で発艦の機会が巡るのを待ち続けた。 午前5時10分になると、幾らか艦の動揺が収まってきたように思えた。 「お……これは、予報通りになるか?」 「ほんの少しですが、揺れが小さくなってますね」 「ラウスもそう感じるか」 ハルゼーはニヤリと笑いながら、心中では予報官の正確な天候予測に賛辞を送っていた。 午前5時20分には艦の揺れも更に収まり、今では全速航行しても発艦可能なレベルになっていた。 この時、飛行甲板で駐機していた第1次攻撃隊参加機が一斉にエンジンを始動し始めた。 第1次攻撃隊の参加機には、消火器を持った甲板要員が1人ずつ待機していたが、特に異常がないことを確認すると、即座に離れ始める。 総計48機もの艦載機が発するエンジン音は凄まじい。 その轟音はまるで、獲物を前にした巨獣があげる雄叫びのようにも聞こえた。 「長官、TG38.1司令部より通信。発艦準備完了!続いて、TG38.2、TG38.3司令部よりも発艦準備完了の報告が 届いております」 航空参謀のモルン大佐が報告を伝えてきた。 「……よろしい」 ハルゼーは深く頷くと、張りのある声音で待望の命令を発した。 「命令を伝える。攻撃隊、発艦開始せよ!」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/601
602: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 命令が発せられたあと、TG38.1、TG38.2、TG38.3の各艦が群旗艦からの命令を受け取り、その後、一斉に風上に 艦首を向けていく。 大小さまざまな艦が一斉回頭していく様はとても見応えがあり、各艦のレーダー員は平静さを装いながらも、心中では見事な艦隊運動を 誇らしげな気持ちで見つめていた。 エンタープライズは、僚艦であるヨークタウン、ワスプ、軽空母フェイト、戦艦アイオワを始めとする護衛艦群を従えながら、輪形陣を 組んだまま、風上に向けて鮮やかな転舵を終えた。 飛行甲板最前部から強い風が流れる。艦の速力は30ノットを超えており、発艦に必要な合成風力を得ていた。 エンタープライズ所属の第1次攻撃隊参加機は、最前列のF8Fから次々と車輪止めが取り払われ、まずは1番機がやや前方に出て 発艦指示を待つ。 リンゲ・レイノルズ大尉は、コクピットの風防ガラスを開け、艦橋の発着艦シグナルを見つめ続ける。 赤色のライトが緑に変われば、発艦始めの合図だ。 視線を前方下方に向けると、旗を持った甲板要員が旗を掲げたままその時を待っていた。 「いよいよか……」 リンゲはそう呟いた後、固く口を閉じて発着艦シグナルが変わるのを待つ。 程なくして、ライトが赤から緑に変わった。 次いで、甲板要員に視線を移すと、甲板要員も旗を振った。 「行くぞ!」 リンゲは意を決したように呟き、エンジンの出力を上げ、ブレーキを解除する。 機首の大馬力エンジンは愛機をぐんぐんと前方に引っ張り、滑走開始からそう間を置かぬうちに機体の尾部が浮き上がった。 弾薬と燃料を満載にした上に、胴体には増槽タンクを付けて重くなっている機体だが、機体全体の重量はF6Fよりも軽いため、 さほど重々しさを感じる事はなかった。 ベアキャットは轟音を上げながらエンタープライズの甲板を駆け抜け、甲板最前部を走り終える前に機体は完全に浮き上がった。 愛機は母艦を飛び立った後、最初の旋回上昇に入り始めた。 「1番機が鮮やかに発艦していきましたね」 ラウスは、第1次攻撃隊1番機の発艦風景を見据えた後、感心した口ぶりでハルゼーに話しかけた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/602
603: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「うむ。誰が見ても心地良いほどの発艦だったな」 ハルゼーは笑みを浮かべながら、何度も頷いた。 続いて2番機、3番機と、次々と発艦を終えていく。 この時、空にはいつの間にか朝焼けの光が見え始めていた。 「長官。夜明けですな」 参謀長のカーニー中将が東の方向を指さしながらハルゼーに言う。 「ワオ……予想以上に速い夜明けだな。気象班の知らせでは、夜明けは6時から7時半あたりだと聞いていたがな」 「これが例の、早明けというやつでしょう。この世界特有の……」 その言葉を聞いたハルゼーは、一瞬首をかしげつつ、発艦の状況と明るみ始めた東の空を交互に見やった。 そして、彼は再び笑みを浮かべた。 「何度も見てきた風景だが……どうしてどうして……今日は特にいい風景に見えるな」 ハルゼーがカーニーと会話を重ねている間にも、艦載機の発艦は順調に推移していく。 最後のF8Fが飛行甲板から飛び立った後、今度はAD-1の発艦する番となった。 ベアキャットよりも馬力の大きい(B-29が搭載しているエンジンとほぼ同じである)エンジンは凄まじいまでに唸りを上げている。 甲板要員がフラッグを振るや、そのエンジン音が更に木霊する。 魚雷2本を抱えたスカイレイダーは、その重装備も何のそのといった動きで順調に滑走し、飛行甲板最前部を蹴ると、最初はやや機体を沈み 込ませつつも、順調に高度を稼いでいった。 エンタープライズ所属の第1次攻撃隊は、24機のスカイレイダーのうち、半数ずつを雷撃チームと爆撃チームに分けている。 12機の雷撃チームが発艦を終えると、今度は爆撃チームの出番となった。 爆撃チームは、胴体、並びに主翼に計3発の1000ポンド爆弾を抱いており、これもまた重武装である。 爆撃チームも雷撃チーム同様、大馬力エンジンをがなり立てながら発艦していく。 その頃には、東の空も更に赤みが増し、幻想的な空間を現出していた。 爆撃隊の3番機が発艦する様子を、艦に搭乗している撮影班が艦橋前側の機銃座付近から撮影していたが、この時の風景は見事なまでに 絵になっており、後の記録映画や戦争映画では、このシーンが頻繁に使われることになるが、それはまだ先の話である。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/603
604: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 攻撃機隊の発艦は、朝焼けのグラデージョンが徐々に鮮やかさを増していく中、順調に続けられていく。 6番機の発艦時には、既に編隊を組んでいた艦載機隊が爆音を響かせながらエンタープライズの上空を飛び去り、その下を6番機が 重い3発の爆弾を抱えながら、勇躍出撃していった。 それから程なくして、爆撃チームの最後のスカイレイダーも発艦を終えた。 艦隊上空でTG38.1から飛び立ったF8F、AD-1Aは徐々に編隊を組んでいく。これらの数は計146機にも上り、これにヨークタウンから 発艦したS1Aが誘導に当たる予定だ。 そして、TG38.2、TG38.3からも攻撃隊発艦終了の報告が入った。 「長官、第1次攻撃隊が進撃を開始しました」 カーニー少将が上空を指差しながらハルゼーに伝えた。 上空を見上げたハルゼーは、その壮大な光景に胸が熱くなった。 「ハハ、こいつは壮観だぜ。やはり、訓練で見る大編隊と、実戦で見る大編隊は一味も二味も違うな」 ハルゼーは幾らか張りのある声音で言い放つ。 直後、エンタープライズの上空を幾つもの梯団に分かれた第1次攻撃隊が、朝焼けを背景に堂々たる陣容を見せつけながら通過して行った。 時に1485年……1945年12月9日、午前5時40分の出来事である。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/604
605: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 1485年(1945年)12月9日 午前6時20分 シホールアンル帝国首都ウェルバンル その日、シホールアンル帝国皇帝オールフェス・リリスレイは予定よりも早い時間に目が覚めた。 「……ふぅ。目覚めは悪くないな」 彼は、瞼を開けた後にすぅっと眠気が覚めていくのを感じるなり、軽い口調で呟いた。 就寝した時刻は12月9日を迎えてから1時間も経った午前1時頃であり、眠る直前までは、危機的状況に陥っている地上戦の報告を 受けて少なからぬショックを受けていた。 現在、シホールアンル帝国を取り巻く状況は加速度的に悪化している。 海軍はレビリンイクル沖の決戦で大敗し、シェルフィクル工場地帯は砲爆撃によって壊滅状態であり、陸軍は反攻作戦が頓挫し、逆に 反撃部隊が連合軍側の逆襲を受けて、重囲に陥っている有様だ。 偉大なる帝国軍が、悪夢と思い込みたくなる程の大敗を立て続けに起こしている状況は、オールフェス自身に相当なストレスを感じさせていた。 ただ、陸戦に関してはまだ望みが無い訳でもなく、包囲下にある部隊は一応、戦闘力を維持しているため、明日試みる現地での反撃が成功すれば、 まだ救いはある筈である。 それに加え、オールフェスは今日予定されている、ある式典で竣工する兵器に望みをかけていた。 「……手札が残っている事は本当に良い事だ。こんな絶望的な状況でも、心に受けるショックを幾分、和らげてくれるからな」 オールフェスは、陰りのある笑みを浮かべる。 彼は姿勢を起こし、ベッドから起き上がった。 そそくさと着替えを済ませたオールフェスは、普段と変わらぬ足取りで寝室から出て行く。 「おお、これは陛下。おはようございまする」 入り口で侍従長のブラル・マルバとばったり出くわした。 マルバは頓狂な声を上げていた。予定の時間よりも早く起きたオールフェスに驚いているようだ。 「今日は意外と早起きなのですな」 「ああ。気分が悪くなくてな」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/605
606: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] オールフェスはそう言ってから、マルバ侍従長の肩を叩いた。 「それでは、予定よりお早めに朝食を摂られますか?」 「いや……予定通りでいい。俺はそれまで、あたりを軽く散歩するよ」 「畏まりました。では、また後ほど……」 マルバ侍従長は恭しく頭を下げると、侍従長室に戻っていった。 侍従長室は、オールフェスの寝室からさほど離れていない場所にある。 中に入ったマルバは、室内で今日の予定を打ち合わせていたメイド長と、2人の主任メイドに顔を合わせる。 「陛下は、今しがた起床された」 「あら…予定より少し早いですね」 メイド長のエンフィ・クレフティムが意外そうな口ぶりで言う。 今年で37歳を迎える彼女は、1年前に退任したメイド長に代わってこの帝国宮殿のメイド長になっている。 彼女自身、17歳からここでメイドとして働くベテランであり、オールフェスの素性も知り尽くしている。 オールフェスはどこか奔放な所があるが、こういった起床時間等は、常に時間通りに動くため、メイドや執事達からは規則正しい一面を 持つ皇帝としても知られている。 「今日は確か、郊外の工場を朝一に視察される予定だ。その工場の視察の内容までは知らされていないが…恐らくは、その視察自体が 陛下自身の心を大きく動かされている物かもしれぬな」 「なるほど…では、今日は陛下も機嫌を良くされるかもしれませんね」 「最近は、あまりよろしくない報ばかりを受けられていたようだからな」 マルバはクレフティムに答えつつ、最近のオールフェスは本当に疲弊していると心中で思っていた。 (アメリカという国が、わが帝国と矛を交えるようになってからという物の、陛下はすっかりお疲れになられてしまった。今年の秋には、 ランフックが連合軍の空襲によって前例の無い惨事に見舞われたが、それ以来、陛下の心身はすっかり衰えられてしまった。今じゃ、陛下の 浮かべる笑顔は昔と違って、無理して作られているものばかりだ……) http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/606
607: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] マルバは、オールフェスを幼少期から見て来たが、ここ数年のオールフェスの変貌ぶりは、明らかに痛々しいと感じる程であった。 しかし……今日は久方ぶりに、愉快そうな表情を浮かべるオールフェスが見られそうである。 「もしかしたら、今日は何かの祝い事が起きるかもしれぬな。メイド長、念のため、昼と晩に用意する食材をいつもよりも多めにしよう。 酒類も余分に出すかもしれないな」 「承知いたしました。朝食に関しては、今準備している分でよろしいですね?」 「うむ。それで良い。お前達も……お昼以降は忙しくなるかもしれぬが、そこは心しておくれよ」 マルバの指示を受け取った2人の主任メイドも、心地よく返事した。 同日 午前6時30分 ウェルバンル東地区 まどろみの中に、見慣れた光景が現れた。 何度も、何度も見た同じ光景…… ひんやりとした古ぼけた部屋。室内には無数ともいえる本が棚に入れられた状態で並ぶ。 狭苦しい部屋にこれでもかと詰められた本の数々は、部屋の主が、魔法に注ぐ並々ならぬ情熱を来訪者に見せつけているかのようだ。 その部屋の真ん中に、ぽつりと置かれたテーブル。その一方にどこか気弱そうな銀髪のダークエルフが座り、こちらを見つめてくる。 「……いいのだな。君は」 傍目から見れば若い青年と言える男は……年齢の割には妙に重々しく、かつ、対峙している者の気持ちを試すかのように問うてきた。 「ええ。現状としては……これが一番ではないでしょうか?」 「はっ!相も変わらず……呑気な口ぶりだな!」 銀髪のダークエルフは、どこか小馬鹿にした口調で彼……レイリー・グリンゲルに向けて言う。 「失敗すれば、確実に死ぬ。そう、君は術式に命を食われてしまうんだ」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/607
608: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「そうですねぇ」 レイリーは腕組したまま、変わらぬ呑気な口調で相手に言葉を返していく。 「ですが、僕はやるつもりですよ」 彼は右手をテーブルに置き、そこに置いていた数枚の紙を相手に寄せていく。 「敵首都に迫る同盟国……アメリカ海軍機動部隊の艦載機を、わが種族最強の魔法を使って援護する……これほど素晴らしい物は無い。 と、私は断言しますね」 「禁呪指定を受けた危険な魔法を使ってでもか?」 「そうです。それに……我々は過去に、シホールアンルに屈辱的とも言える方法で国に攻め込まれ、危うく亡国というところまで 追い詰められた。貴方も最前線に立って戦闘を指揮していたから覚えているはずです」 「無論さ。あの時の恨みは絶対に忘れん……」 相手は、平静さを装いながらも、その口調は明らかに怒気を孕んでいた。 「そしてこうも言いましたね。“もし、アメリカ軍に助太刀できるなら、どんな物を用いてでも必ずやり遂げて見せる……”と」 レイリーは、陽気さを感じさせる笑みを浮かべながら、相手が以前発言した言葉をそのまま言い放つ。 「それでハヴィエナの術を使いたいという訳か。」 「わがミスリアルの中で、上級妨害魔法であるハヴィエナを有しているのは、エスパレイヴァーン族だけです。私は、ハヴィエナが例え、 術者の命を吸い取る禁呪の魔法と言われても、この魔法を使えると自負していますよ」 相手は、ハヴィエナの術式を渡す事に不安を覚えると同時に、躊躇していたが、レイリーはそれと対照的であった。 「……ミスリアル最高の魔法使い、レイリー・グリンゲル。私は王国の至宝とも言える逸材を、禁呪指定された魔法に食わしたくはない。 はっきり言って無茶だ!」 「その無茶は、既に1度経験しましたよ」 レイリーは不敵な笑みを浮かべながら、相手に渡した紙を指差した。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/608
609: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 相手は無言のままレイリーを見据えた。 「…………」 「ハルゼー提督率いる第3艦隊の艦載機集団が、無事に帝都に辿り着くには、相手の目と耳を潰すしか方法はありません。そのためにも、 大規模魔法通信妨害魔法……ハヴィエナは必要不可欠です」 「……艦隊の総力だけでウェルバンルやシギアルは叩き潰せるはずだ。敵の主力が、西のシェルフィクルに出向いているのならば、なおの事 可能だと思うが?」 「可能ではあると思います……ですが、首都近郊にはやはり、それなりの戦力を配置するはずです。情報にもある通り、シホールアンルは “出せる限りの航空戦力、艦隊をすべて抽出した”のです。それは即ち、出したくない戦力……首都近郊に有している親衛航空軍団や最低限…… 旧式とはいえ、戦艦を有する有力な艦隊は残しているでしょう。強襲ともなれば……ハルゼー提督の機動部隊は、この敵戦力とまともに かち合う事になります」 「……まともな戦力とぶつかれば、自然に強襲となり、被害もそれなりになる……と言う事だな?」 「その通りです」 レイリーは深く頷いた。 蝋燭の淡い光がレイリーの目を鋭く光らせる。 「故に、この作戦は奇襲として成功させたいのです。そのための」 「こいつ、と言う事だな」 相手はレイリーの言葉を遮る。 そして、机の下から袋を取り出し、それをテーブルに置いた。 「それが……」 「仰せの通りだ。こいつが、ハヴィエナだ」 相手は袋の中から複数の小石と、水晶球を取り出した。 その水晶球は、薄く、淡い水色に覆われていた。 「国王陛下の命令通り、これを君に授けよう」 相手は、先とは違って吹っ切れたような表情を浮かべていた。 「100年前に作られた忌まわしき吸血魔法と言われたこいつだが……君なら、こいつを使いこなしてくれるだろうな」 「族長……いいのですね?」 「いいもなにも、それはもう君の物だ。こいつを使って……」 エスパレイヴァーン族族長、ラムベリ・プラトは語気を強めた。 「連中のやったことをそっくりやり返してくれ。同時に私の怒りも、代わりにぶつけてやってくれよ」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/609
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