[過去ログ] 「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part5 (1002レス)
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189: 知らぬところで知らぬ間に◆W5H6Y5Rl3M 2011/12/30(金)23:56 ID:y6bDQyoxo(4/5) AAS
「私は、先生の世界を独り占めしたいと思いました! まだ世に出ていない、誰も読んでいない作品を私だけが読み! 先生の世界を終わらせて、誰もが触れ得ないものにしたいと!」
「はは、監禁とかして、自分だけの作品を書かせたりとか、そういうんじゃないんだ」
「監禁なんてすぐ露見するじゃないですか! そうしたら全て台無しです! 私だけの世界を先生に創り上げてもらっても、すぐにデリカシーの無いマスメディアに食い散らかされるのが落ちです!」

 血塗れの腹を抑えて崩れ落ちる葉鳥
 霞む視界の中で、改めてソファに座りじっくりと原稿を読み返している編集の女性

「残念、だなぁ……君、とは、良い友達に……なれそ、う、だったのに」
「でもただの友達じゃ、先生を自分だけのものにはできませんから!」

 ああそうか
 手段が直接的かつ短絡的なだけで、この子は自分と良く似ている
 そんな事を思いながら、葉鳥は重たくなった瞼を下ろし
 その分の体力で、肺と、喉と、舌を動かす

「でも、ね? 君がいくら自分だけのものとしようとしても……君の記憶の中にある限り、日常のほんの些細な事で少しずつ少しずつ漏れ出していって、いつか君だけのものではなくなるんだよ」

 見届けられないドミノ倒しのために、牌を一つ並べ足し
 葉鳥の身体から溢れた『バタフライ・エフェクト』は、その命と共に次々と崩れ落ちていくが、その羽ばたきは小さな小さな揺らぎを残していく

「大丈夫ですよ、そんな事をしなくても」

 そして
 まるでその行為に気付いたかのように
 羽ばたき消えていく蝶を慈しむように手を空中に差し伸べて

「もう全て読み終わって、全部私の頭の中に入りましたから」

 先程ナイフが出てきたハンドバッグから、ペンケースほどの大きさの缶が取り出し
 積み上げられた原稿の束とUSBメモリにその中身、ライター用のオイルをぶちまける

「最初から、そのつもりです」

 濡れた原稿用紙の一枚を摘み上げ、安物の100円ライターで火を点ける
 炎はオイルで濡れた紙を瞬く間に燃やし、その指から落ちて
 一瞬で原稿用紙の束をテーブルごと燃え上がらせた

「先生の作品を抱いて、私も逝きますから」

 倒れ伏した葉鳥の傍らに傅いて、葉鳥を刺した血に塗れたナイフの先端を、ぴたりと己の首筋に当て
 赤い、赤い蝶が舞うように
 血飛沫の赤と、炎の赤が、舞い躍った

―――

「大変でした」
「なう」

 泣き疲れてディランの胸に抱かれたまま寝ている繰を尻目に、ダミアを抱いたサキュバスが憔悴した顔で囁いた

「えっと……どういう、事?」
「繰さんの部屋、燃えました」

 サキュバスの話によると、ディランの部屋とは反対の隣側、二つ下のフロアで火災が発生
 そこそこに延焼し繰の部屋を焼いた辺りで消し止められたという

「とりあえず持ち出せるサイズのものは、片っ端から部屋の外に放り出して無事だったんですが。ベッドとか家具類は軒並み全滅だと思われます。放水も景気良くぶち込まれましたので」

 幾分かしっとりとした髪が張り付く頬で、ダミアのふかふかした毛並に頬擦りをするサキュバス

「空き部屋があればそっちを借せたんだけどって、大家さんに言われました。丁度、一緒に焼けたところにしか無かったそうで」

 はふうと大きく溜息を吐くサキュバス

「繰さんがこんな時に、こんな事が起きなくてもいいのに……」
「それなら」

 ディランは、何かを決意するかのように頷き

「僕の部屋に、一緒に住もうと思うんだ」
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