[過去ログ] 「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part5 (1002レス)
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249: 以下、あけまして [saga] 2012/01/04(水)21:54 ID:1oKxP7R+0(1/4) AAS
「心から誰かを愛せたら幸せだろうな」

 そう願っていた。
 目を覚ますと、家族はおろか親戚すら誰もいなくなっていた。
 残されたのは莫大な遺産と無駄に広い家屋敷。
 既に友達は皆就職しており、家に残っていた三年前のカレンダーと唯一生き残った祖母の遺書だけが僕と世界をつなぐ唯一の縁だった。
 話しかけてくる人間という名前の生物は皆異臭を放つ肉塊だし、
 見慣れたはずの実家の周りの自然の中に美を認めることなど到底出来なかった。
 恋人は最初に僕を診察していた医者と結婚したそうだ。
 今はどこか遠い所で幸せに暮らしているのだという。
 腕の良い探偵が教えてくれた。
 検査の為に続く入院。
 死んだほうがマシなくらいの退屈の中で、僕はその少女に出会った。

「お兄ちゃん、私を見て逃げないの?」

「え?なんで逃げなくちゃいけないんだ?」

「私ね、吸血鬼なんだよ」

「面白い事をいう子供だね、ご両親は?」

「見つからないの……」

 彼女はよく笑った。
 全て腐り落ちる世界で彼女だけは美しかった。
 だから僕の検査入院が終わる頃、無駄に広い家に一人住人が増えた。
 探偵に彼女の両親を探してもらうように依頼して、僕は為すべきこともないままに彼女と二人だけで時を過ごした。
 彼女は度々僕の血を求めた。
 彼女は普通の食事を受け付けない僕のために何時も一生懸命料理を用意してくれた。
 まずくてしょうがなかったが一生懸命食べた。
 月明かりが美しい晩だった気がする。
 黒い服の男が家に押しかけてきて僕に銃を向けてきた。
 彼女は僕を守るためにその男を殺した。
 何を思ったか僕はその男の肉を口に含んだ。
 眼を丸くして少女が僕を見ていた。

「…………おいしい」

 信じられなかった。
 それが分かってしまうと、僕には町に満ち満ちるあの不快な人間たちがよく肥えた豚や羊に見えてきた。
 恐ろしかった、人間を食べたくて食べたくてしょうがない。
 でも食べたくない、そんな事間違っているから。
 そんなことを少女に涙ながらに告白した。
 少女は聖母のように微笑み、僕を抱きしめてこう言った。
 
「じゃあ人間じゃなくしてしまえば良いんでしょう?」

 その日から、僕にも正常に見える人間が少しずつ増えてきた。
 大学にも行けるようになってきた。
 大学を卒業したらどこか楽な職場に就職して、正体はわからないけれどもこの可愛らしい少女の為に生きていこう。
 二人で普通に生きていこう、そう思っていた。
 
「調査を頼まれた娘の両親はもうこの世には居ない」

 探偵が調査結果を持ってきた。

「どんな人だったんですか?」

「ああ、貴方も理解しているとは思うがそのお嬢さんは人間ではない」

「知っています。吸血鬼でもなんでも構いません、どんな人かわかればそれで良いんです」

「吸血鬼、か。吸血鬼ですら無いよ。そこのお嬢さんは……この地球の存在ではない
 人間を主食とし、自分の因子を人間に植えつけることで増殖する都市伝説、エーリアンの類だよ
 幸い、育ての親――彼らは研究者だったんだが――の教育が良かったらしく今のところは君だけで我慢しているようだがな」

 それでも構わなかった。
 僕は彼女の為に生きることを決めたのだ、死ぬこともまた……
 
「口にしづらいことも含めてこの資料に載っている、報酬は指定した口座に振り込んでくれ
 それとこれは親切、今君が少女にやらせていることはやめさせたほうが良い
 幸い君の家は裕福なようだし、食事に関しては我慢して、その少女と二人で末永くこの家で生き続けたほうがいい」

 そう言って探偵は僕の家を出ていった。
 少女は終始彼への敵意を隠さなかったが、僕はそれを宥めた。
 他人の親切は素直に受け取りなさい、と昔祖母が言っていたから。
 幾度この少女と朝を迎えるのだろう
 幾度この少女と月を眺めるのだろう
 止まぬ狂気がこの理性を押しつぶすまで。
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