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「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part5 (1002レス)
「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part5 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/
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756: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:41:50.87 ID:zqs4libc0 「ふむ、奴の過保護ぶりには呆れてしまうな 幾ら父上から念入りに頼まれていたとはいえ何もそこまで」 「なんて書いてあるんだい?」 「うむ、最近この街に教会とは関係のない危険な都市伝説が紛れ込んでいるとのことだ 教会の奴らがまるで危険みたいな口ぶりなのだからこれが笑えてしょうがない 恐らく昨日の男もその危険な都市伝説関連だと見るべきだろうな」 いや、充分危険だと思います。 「奴らの神でも引っ張り出さない限り相性で勝てないものを延々と襲ってくるのだから愚かにも程があろう」 「あははは……」 やっべええええ、リアクション困るうううう! 「で、その危険な都市伝説って?」 「神様、邪神の類だそうだ、もはや都市伝説って騒ぎじゃないと思うのだがな」 ツッコミを待っているのだろうかこの少女は 「そうだな」 だからって突っ込むと思うなよ! あーでもクラウディアちゃんになら突っ込まれても構わないよ! ふはははは!男のくせにずいぶんと情けない声をあげるのだな!とか言われて口では言えないあんなことやこんなことをされるのも吝かではないよ! ちなみに本来はやぶさかじゃなくてやふさがだったらしいね! でも今では廃れた言い方だしやっぱり吝かでいいよね! http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/756
757: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:42:26.19 ID:zqs4libc0 「で、奴らは私に好意を抱いているのだそうだ」 「好意?」 「そうだ、まあ碌でもない奴らに人気が出てしまうのも私の美貌と知性、そしてカリスマ故 それは特別に許してやるとしよう」 「でも厄介だな」 「何故だ?」 「触らぬ神に祟り無し、って知ってる?」 「ああ」 「好かれているということは向こうから接触を求めてくる可能性が有るってことだ」 「向こうから触ってくる上に祟りのある神か」 「そゆこと」 「厄介だな」 「そうなると……やはり同じ敵を相手にしている鷲山との連携は大事かもな」 「いや、それについても手紙があってな」 「え?」 「鷲山九郎はその邪神に乗っ取られている可能性があるのだそうだ」 思い出す、先日の戦いを。 あの禍々しい黒い甲冑を纏って剣を振るっていた姿。 あれが本当に鷲山九郎なのだとしたら……確かに乗っ取られているのかもしれない。 「明日のダブルデートが少々面白くなってきたな」 「面白いなんて言っている場合じゃないんじゃないの?」 「ふん、この私にとって危地こそが揺り籠、悲鳴こそが子守唄 相手が何であろうと私自ら見定めるだけだ」 不敵に笑う陛下。 彼女に引っ張りまわされるのがなんだかんだで楽しみな僕が居ることに僕は気づいていた。 【陛下と僕と獣の数字 第六話 続】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/757
758: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:43:55.58 ID:zqs4libc0 【鴉―KARAS― 第四話「変性の力」】 「で、俺の能力ってどうなるの?」 「鞘を鎧に作り替えたり、刀剣を作り替えたり、更に自分自身をバイク・飛行機に作り替えたり能力まで有る 変えて替えて換えて代えて還って帰って却って反る それしかできないがゆえに全てを手にすることが出来る」 「俺の記憶が正しければ単純特化型って奴か 六つに分類される都市伝説の能力の発現のうち、その一つにだけ特化した契約回路 それ以外には一切開かず、契約したとしても何も起きない それどころか都市伝説の条理すらそちら側に引きこむ異常な回路だ 向いているとか得意とかそういう次元じゃない 全てがその方向にねじ曲がる才能、もはや呪いだろう」 「ああ、だからこそ本来ならば引き出されないレベルの八咫烏の力が生まれている まあまだ経験が足りないからあと十年は必要だろうけどね 完全に能力を引き出すには」 「十年、ねえ。他の武器を練習した方が早いんじゃないか?」 「たった十年で神にも及ぶ力が手に入るんだ。誇張じゃないぞ? ならば安いものだろうに。お前のような才能に恵まれた人間は中々居ない 契約を武器だと思うな、武器だけではない、もっと広範な用途を持つ道具だと思え」 「成程」 「そして戦いになれないうちは私が身体を操って戦わせるから安心しろ」 「ありがとう」 「単純特化について知っている割には自分の体について知らなかったのか」 「契約はするなと言われていたからな」 「……ごめんね>< まあ契約するまでは分からないからね、それこそとてつもない医療技術と錬金術 それに魔術の心得と都市伝説の知識が無い限り じゃあさっそく能力の練習といきますか」 「練習?」 「来てるんだよね、私の敵が。大したことないし倒しておかないと」 「その敵の名前って?」 「ナイアトラップ、私自身だ」 そう言って彼女は指を鳴らす。 次の瞬間、九郎の目の前には地獄が広がっていた。 燃え盛る商店街、人々の悲鳴、哄笑する男、怒り狂う少女。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/758
759: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:44:32.06 ID:zqs4libc0 「なんだこれは?」 「空間転移、平行世界の運営や時間操作に並ぶ操作系統究極の一 条件付きとはいえこなしてしまう辺り如何に私が…… なんて言っている暇はなさそうだな」 足元に転がってきたのは老婆の腕。 「その、なんだっけ。俺の身体を操ってくれ」 「ああ」 二人の姿に気づかずに少女に話しかけ続ける男。 男の周囲には、否、商店街全体に燃料が撒き散らされている。 少しでもそれに火をつければ……辺りは大火災に見舞われる。 男が持っていたマッチを投げ捨てたその時 「鴉、限定解除」 宙を疾駆する漆黒の影。 九郎は振るう。 白刃が二回、宙を舞う。 九郎は飛ぶ。 黒翼が二度、軌跡を描く。 マッチの火は、剣の閃きによって消し去られていた。 「来ましたか鴉!」 「這い寄る混沌、貴方の好きにはさせない」 「ククク、私の庇護下から逃げるとは愚かな真似をしたものだ 死体に都市伝説としての貴方の力を埋め込んだ所で私を討伐できるとでも? 大人しく我が下に還るのです!」 そこから後のことを九郎は覚えていない。 ただ目が覚めると自分はベッドの中に居て、トトが自分の顔を心配そうにのぞき込んでいた。 【鴉―KARAS― 第四話「変性の力」 続】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/759
760: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:45:29.92 ID:zqs4libc0 【鴉―KARAS― 第五話「皇帝来たる」】 「ただいまー」 「おかえりなさい、お風呂にする?ご飯にする?それともあ・た・し?」 「もう定番だよねその挨拶」 「で、何か有ったの?そんな難しそうな顔して」 「うん、昨日会った契約者ってウチのクラスの女子なんだけどさ」 「うむ」 「お前とそいつの親戚の――こいつもクラスメート――奴と四人で遊びたいんだとよ」 「此処に呼ぶ分なら構わないぞ、何をされても返り討ちにできる」 「ところがどっこい、遊園地だとさ」 「……お互いに能力が使えないじゃない」 「衆人環視の元だしな」 「話しあうだけなら最高の場所ね」 「暗殺にも最高だろう」 「暗殺?」 「相手がサンジェルマン伯爵と決まった時から心配なのはそれだよ」 「少なくとも九郎に限っては暗殺の心配はないよ」 「何故?」 「死んでるからね、私が処置しなきゃそもそも心臓だって動かないし」 「あー……そういやそうか」 改めて事実の重たさにため息が出る。 そう、彼は死んでいるのだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/760
761: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:46:07.86 ID:zqs4libc0 「ありがとうな」 「巻き込んだのは私だし、ごめんなさい」 「謝るなよ」 「お礼言わないでよ」 「「悪いのは……」」 声が重なった所で互いにため息を吐く。 「この話は無しか」 「そうだね」 「ま、とにかくサンジェルマンの私兵には無茶苦茶強いのが四人いる トランプの役になぞらえてフォーカードと呼ばれる奴らだそうだ」 「なにそれ」 「お前知らなかったの?」 「情報屋と同じレベルで情報なんて持ってないから 組織に関わらないように言われていた割には詳しいんだねえ」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/761
762: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2012/01/25(水) 22:46:35.74 ID:zqs4libc0 「ああ、本当に危険なのは何も知らないことだからな まずはスペード、こいつは先代も今のも剣術の達人、とにかく一対一が強いそうだ 次にハート、今は空席だと言われている 先代のハートは暗殺されたそうだが基本的には暗殺者の為の名前だ もしかしたら先代のハートはサンジェルマンに暗殺されたのかもな ダイヤは戦術・戦略面に強い、情報に関わる都市伝説じゃないかと睨んでいるが詳細不明 クラブは今のところ一番の古株、魔女だと言われている 魔術系都市伝説同士の戦いならば恐るに足らないが……だからこそということもある 気をつけておくに越したことはないだろう」 「へえ……、となると怖いのはダイヤかな」 「同じ見解だ」 「情報力は馬鹿にできないってのは学ばせてもらっているつもりだしね」 「ああ、まったくだな」 「じゃ、これからその遊園地に行こうか」 「え?バイト有るんだけど」 「馬鹿だなあ、遊園地が閉まってから行くんだよ 先んずれば人を制すだ、先回りして罠を貼っておくに越したことないだろう?」 「成程、じゃあバイト終わってから行きますか そろそろ時間だし行ってくるよ」 「デート!デート!」 「なんか違う気がする〜……」 「いってらっしゃーい」 バイトに向かう九郎をトトは嬉しそうな顔で見送っていた。 【鴉―KARAS― 第五話「皇帝来たる」 続】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/762
763: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:47:49.10 ID:IgtB3X/g0 今回の物語は日夜都市伝説が蠢き戦いや騒動を繰り広げる 学校町の話――ではない。 それは、特別に暑苦しい昼下がりの事だった。 千葉県夜刀浦市民会館二階ホールにて フォトモンタージュ現代美術展が 開かれている事を知る人間は殆ど居なかった。 別段秘密にされていた訳でもない。 市民会報や掲示板にはちゃんとお知らせのビラが貼られていたし ネット上の市のホームページの行事欄にはきちんと記載されている。 ただ、興味の対象として捕らえる事が出来なかったのだ。 皆、日々の生活や興味の対象は幾らでもある。 態々それを見に行くものの殆どが 美術自体を生業にするものや出展した関係者達だ。 だから……彼女が偶然にこの美術展を知り 此処に訪れた事は夜刀浦市民にとって非常な幸運だっただろう。 「おもしろいわねー」 人も疎らな美術展の会場で一人の女子高生が真剣に モンタージュ写真を見ている。 彼女の名前は空野暦。 リボンと艶やかな長い黒髪が特徴的な女の子。 そして出来うる事なら平穏な日々を送りたいと 心底から願っている契約者でもある。 「痛っつつつつつ……」 暦は痛みに対しては我慢強いと自負しているが…… 彼女の左足にはまだゴツいギブスが厳重に撒かれ 松葉杖を付かねば歩く事すらままならない状態である。 これはとある都市伝説との戦いの後遺症だ。 「靭帯はズタズタだし骨は粉々だもんねぇ……」 叫びを上げてもおかしくないし恥ではない重症だ。 知り合いの伝を当たって都市伝説による治癒を施せば こういう傷など直ぐに治ってしまう。 いや、寧ろ自分の都市伝説を使用すれば 一瞬すらも掛からないのだが…… 「油絵が専門だけどフォトモンタージュも 表現方法の勉強になるわー」 都市伝説に頼りすぎれば飲み込まれてしまうかもしれない。 それに今は少し戦いの輪廻を離れたい気分だったのだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/763
764: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:48:23.60 ID:IgtB3X/g0 リハビリがてら3時間かけてこんな遠くの街の美術展まで来てしまう辺り…… 少し普通の人と既にずれているような気もしないでもないが…… 「えーと……次はー」 さまざまな写真によって芸術的なモンタージュになっているモノクロ写真が目に入った。 機械仕掛けを写した画像のカットが、男の姿の上につぎはぎされている。 彼の胴体からは歯車とワイヤーが突き出し、片方の目は小さな時計の文字盤に置き換えられていた。 それは機械人間の肖像画だった。 『人皮機械』 それがその肖像モンタージュ写真のタイトルだった。 美術品の出来としては非常に良い出来だ。 吸いつけられるように目が離せない。 「泣き叫べ、と時計に言われたんだ」 と見知らぬ男の肖像画がしゃべった気がした。 それはまるで質の悪い電話から聞こえてくるようなキーキー声だった。 暦は驚いてあとずさった。 「何これ……こんな禍々しい絵見たこと無い……」 これは……怪異だ。 さっさとこんな写真からは離れたかったのだが どういうわけかこの写真から離れる事も目をそらすことも出来ない。 黙って暦は時計の文字盤の形をしたその写真の目を見つめる。 気力を総動員してこの絵を読み解こうとするように。 ……作り手の感情の色が一切見て取れない。 人と機械がこの上なく醜いバランスで混在しているのに美しい。 混沌としているのに…… 震える指でまさぐった制服のポケットに硬いものが当たる。 その途端暦はこの何ヶ月間持ち歩きはするものの 使用を禁じていた自らの都市伝説の存在を思い出す。 時を駆ける翼……レアード複葉機から創られたナイフの事を。 心を決めて躊躇い無く刃の部分を強く握り締めると鋭い痛みが走る。 それでようやく目を逸らす事が出来た。 すると何時の間に現れたか、直ぐ近くに謎の黒人が立っている。 時計の文字盤の透かしが入ったモノクル(片眼鏡)を掛け 蜘蛛の巣のような模様が入った黒のタキシードを着た中年紳士だ これまた黒くて硬そうな帽子を被って黒い葉巻を吸っている。 顔色まで黒人の平均以上に黒い。 その紳士は先ほどから暦を観察していたのだろう。 哂って頷きかけてきた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/764
765: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:48:46.35 ID:IgtB3X/g0 「君の持っているナイフは凄いね」 奇妙に抑揚の無い声だった。 「力を欲する契約者皆から羨ましがられるだろう」 「あんまり欲しくなかったんだけど……まあ成り行きで……」 「それでは君は幸運な娘だね」 氷点下のように辺りは寒い。 幾ら今日が暑いとはいえクーラーが効き過ぎでないだろうか。 「ところが君はそう嬉しそうでもないようだね」 黒い紳士は薄哂いを浮かべながら言った。 暦は微かに頷いた。 「暫く君を見ていたんだが…… どうやら君は力と才能ある選ばれし者なのに 人間との遊び方をまるっきり知らないようだね」 「……人付き合いは上手じゃないのよ」 「一つこの私が教えてあげようか」 暦は黙って頷いた。 「人は己に無い物を欲しがる」 紳士の声は妙に抑揚無く続けた。 「人の魂は欲望の塊、罪の詰まった袋だ。 利のない友達など決して長続きはしない。 快楽を与えてくれないものなどに見向きもしないんだ」 暦はなんだか催眠術に掛けられている気分になってきた。 「その力があれば君はそれこそなんだって出来るんだよ? 君はただ一方的に奪い、好きな者や友達にそれを与えるだけでいいんだ。 気兼ねも遠慮も必要ない。 権力者や人生の勝利者は皆やっている事さ。 弱者だけがくだらない道徳をよく唱えて その弱肉強食の宇宙のコトワリから目をそむける。 いちいち魚の身になっていたら刺身は食べられないだろ? 苦しみに喘ぐ者が居る一方でそんな不幸や惨めさとは無縁のもの…… いや、むしろそういう弱い敗者を踏みつけにすることで 自らの幸福や平穏のありがたさをしみじみと実感できるものさ」 「ううう……」 「君だって本当は分かっているんだろう?強者なんだから。 奇麗事では何一つ解決しない。 決断できる強者の闘争と力のみが全てを解決していた。 他の人間より力を手にいれ、成功し、金持ちになった人間には 友情だの間の名誉だのはひとりでに集まってくるものだ。 どうだね?人間との遊び方がこれでよく分かったかね?」 「そりゃ……もうよくわかったけどさ……」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/765
766: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:49:17.93 ID:IgtB3X/g0 「ただ素直に心の赴くがままに従って 君の力で素敵なものを集めればいいんだ。 この世界の素敵なもの、綺麗な物が皆貰えたら、勿論君は嬉しいだろ? いいよ!皆君に上げよう! いやいやお返しに何かする必要は無いよ。 ただ私が言ったとおりに君が遊んでくれるだけでいいんだ――どうだね?」 酷く甘やかな誘惑だ。 黒い紳士は嬉しげな反応を期待して暦に哂い掛ける。 暦はおぼろげながら自分が既にある種の戦いに巻き込まれていると感じた。 だがどう対応していいか掴みかねている。 この黒い紳士――おそらく人間ではない。 話す言葉は聞き取れる。 だが心の色が全く見えない。 暦は黙って首を振った。 「何だって!?これじゃまだ足りないっていうのかい?? 一体何が不足なのか教えてくれないか?」 「私は振りかかる火の粉だけは払う。 ……でもその生き方は好きになれない」 暦は端的にそう答えた。 黒人の紳士はガラスのような虚ろな目で暦を見つめた。 この男……白目が無い。 「そんな事は問題じゃない」 男は冷ややかな声でそう呟いた。 この人外はどういうわけか人を不安にさせる。 けれども暦はなんだかこの男が哀れに思えてならない。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/766
767: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:49:50.59 ID:IgtB3X/g0 「貴方の話し振りだと強者は別に何をやってもいいってことになるじゃない。 私は周りの友達も今の人生も結構気に入ってるんだから」 相手は急に顔を顰めた。 だが直ぐにまた剃刀の刃のような嘲笑いを浮かべた。 「悔い改めよ!ハーレクィン!」 まるで神のように黒い紳士は声を落として囁いた。 「時間を弄ぶ道化にすぎない人間よ、それは神を冒涜する能力だぞ。 人間の手に時間を返そうとするなど…… それは門にして鍵、全にして一、一にして全なる者にのみ許されている。 君は友達が好きだといったな? だが君が居る事で君の友達はどういう利益を受けている? 何かの役に立つか?幸福にしているか? いいや、そんなことはない。 多分これまで君は時間だけを見つめてそんな事気にも留めなかったんだろうね暦…… いずれにせよ、時間を操る強大な能力。 そして心の色と時間を覗き込むその才が本当に皆に受け入れられていると思っているのかい? 強大な力におののき排斥されるのが関の山なんじゃないかい? そうだ、そのつもりは無くても、君は本当は世界の敵なんだ!! それなのに、君はやっぱり誰かが好きだなんていうのかね?」 暦は一瞬自信が無くなってこの男の言う事は正しいのではないかとさえ思った。 「我々はただ皆を放っておいてもらいたいんだよ。 君がもし本当に友達や人間の事を大事に思うならそれに協力してくれるね?」 「えー、やだー」 何一つ真実を語っていないものに従うつもりは毛頭無い。 暦は黒い紳士の心が潜んでいる手ごたえの無い闇の中に真っ直ぐ目を向けた。 幾ら努力しても彼の心の色が見えない。 黒ですらない空っぽの透明な闇の中に落ち込んでいく気がする。 「無駄な努力など止める事だな」 皮肉っぽくニヤリと黒い紳士は笑った。 「我々に立ち向かう事など出来るわけが無い」 それでも暦は諦めなかった。 「それじゃあ、あなたの事を心底から愛してくれる人は誰も居ないの?」 男は押し黙って顔を歪めた。 「……時弄ぶ忌まわしい神殺しの小娘、何れその報いを受ける日が来るだろう」 そういって黒い紳士は消えていった…… 「なんだったのかしら……一体……」 だんだんと恐ろしい寒さは引いていった。 【続く】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/767
768: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:51:15.78 ID:IgtB3X/g0 代理されてなかったことに気がついたので そしてこの続きのお話も投下されたのでそちらも代理しますの http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/768
769: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:51:54.11 ID:IgtB3X/g0 「しつこいなあ……あーもう……きりが無いなあ……」 千葉県夜刀浦市民会館の屋上を戦場にして空野暦は戦い続けていた。 屋上のタイルの罅割れから青黒い煙のようなものが噴出し それが凝り固まって異形を形成する。 見た目は犬に似ているが 気弱なものは正気を欠くおぞましい見た目をしている。 注射針のようなのたくる鋭い舌。 腐った肉がカーテンのように垂れ下がり 青味がかった腐敗液を滴らせる この上ない悪臭を漂わせながら歩く魔獣。 狂気の妄想、語られてはいけないもの。 ホラー映画のみを舞台とすべき怪異。 唯の人間が出来ることなど 本来は悲鳴を上げながら貪り食われるだけなのだが…… しかもそれに相対するのは松葉杖に寄りかかる少女だ。 だがその少女の暦は騒ぎもしない、喚きもしない。 ただ脳裏にフライト計器を呼び出す。 彼女の契約している都市伝説、レアード複葉機の効果だ。 だが空を飛ぶための計器ではない。 時空を超えるための飛行機なのだ。 時計は現在居る時間を。 人工水平儀、高度計、昇降計は空間に置ける位置を。 燃料計は心の力の残量を。 油圧系は心の力の出力を。 対気速度計は周囲の時間の加速度合いを。 タコメーターは体内時間を。 旋回計は過去に向かっているか未来に向かっているかを。 定針儀は時間跳躍先を。 ラジオスタックは現在居る世界線と元居た世界線を示している。 「範囲指定はナイフの軌道上先端部のみ…… ……限定空間範囲における周囲時間最大減速……」 嵐の中を冷静に操縦桿を握るパイロットのように。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/769
770: 悔い改めよハーレクィン!と彼女は言われた ◇DkTJZY1IGo(代理) [sage saga] 2012/01/25(水) 23:52:30.94 ID:IgtB3X/g0 自らに襲い来る腐敗した魔犬に対し レアード複葉機とセスナ機との翼より削りだされたナイフを片手で数度閃かせる。 ……もし他の人間が彼女を見ていたらタイミングが早いと評するだろう。 敵の遙か手前でナイフを振ったようにしか見えないだろう。 暦の脳内で激しく対気速度計が減少する。 その間にも魔犬は彼女の喉笛を噛み破らんと跳躍し…… 空中で見えない紐に縛られたかのようにぎこちなく止まった。 それは先ほど暦がナイフを滑らせた場所で…… キャンバススプリット 「――空間裂く銀の翼」 暦は一言呟いた。 魔犬の喉から尻尾までが滑らかにズレ…… 腐敗した肉が三枚に下ろされる。 どさ、と音を立てて切り裂かれ、再び青黒い煙になって空中に消える…… レアード複葉機の持つ時間操作能力をフル活用して ナイフが通った軌道の空気分子の時間を限りなく減速。 ゼロに近づけて空間にピン止めする…… 時間を止められたナイフの軌道上の空気分子は…… 分子一個分の厚み以外持たない地上で最も鋭利な刃と化す。 その刃の檻に突っ込もうものなら五体をバラバラに寸断されて当然。 暦は只悲鳴を上げるだけがとりえの悲劇のヒロインなどでは断じてない。 運命と言う脚本に対し、力持つ人間が頑強に抗った時…… その物語はがらりと変わる。 これではモンスターの登場する恐怖劇(ホラー)ではなくB級アクション映画だ。 「……インターバルまで十五分と言った所かしら」 勝利に沸き返る訳でも安堵の息をつくわけでもない。 あの黒い紳士が消えた直後からこいつ等は現れ始めた。 先ほどから暦はこの都市伝説と戦っているが殲滅したわけではないのだ。 一時的にバラバラにしたところで ジャスト十五分後にはまた建物や物質の角から現れる。 微かに自分の使うのと同じ時間系都市伝説と似た気配を感じる。 空間や時間を越えて逃げた所で無駄だろう。 こいつをどうにかして殺しきるしかない。 一旦落ち着いた所で携帯電話を取り出す。 とりあえず衛悟に掛けて見る。 「もしもしー衛悟ーはろーわたしー。 ん、今ちょっと千葉県夜刀浦市に居るんだけどさー。 さっきからゾンビ犬にきりなく襲われてちょっと難儀してるのよー 斬り刻めば一旦は撃退できるんだけどー。 なんかそういう都市伝説に心当たりないかなーって」 【続く】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/770
771: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2012/01/26(木) 10:15:52.84 ID:7nsggzsDO 代理乙 感想は避難所にて http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/771
772: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2012/01/26(木) 12:22:04.23 ID:7nsggzsDO 他所の作品の理不尽なバッドエンドに憤りを覚える時はやはり自分も白の軍勢なのだと実感を得られます http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/772
773: シャドーマンの ◆7aVqGFchwM [sage saga] 2012/01/26(木) 14:37:42.92 ID:87Ra1Dom0 >>772 しかし少しでもエロに走ると私のようにピンクの軍勢になってしまうのでお気をつけて というか皆でなろうぜピンクの軍勢 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/773
774: こっくり無残 ◆GsddUUzoJw [saga] 2012/01/26(木) 20:40:16.07 ID:QtVm4WGV0 ※この話に用いられた方法は、ついさっき思いついた物であり効果が実際にあるとは限りません 深夜0:05、千葉県夜刀浦市の某高校にて。 「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいで下さい。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」 『新年最初の獲物キタ━━━(゚∀゚)━━━!!』 ススッ 「おおっ!凄ぇ、本当に動いた!じゃあ、次は……」 『ふっふっふ……』 私は都市伝説【こっくりさん】。 生前は、立派な一匹の妖狐…………になる直前で、漁師に撃たれて命を落とした哀れな狐の霊です。 いやー最近私を呼んでくれる子供がすっかり居なくなっちゃって、ノロノロコロコロ出来なくて鬱憤たまってたんですよ、色々と。 その間暇すぎて、人間共の暮らしに溶け込んでたら何か人化の術使える様になるわ、特技が強化されるわでw 『小銭飛ばし?何それ美味しいの?』状態ですよもうwwでも別に努力したわけでもないのになー、なんでだろうなー。 ……まあいっか。今はこのいたいけな男子高校生をどうやって嵌めようか考えましょう……ふっふっふ……。 『少年……君に恨みはないが、これも【こっくりさん】としての宿命なのですよ』 だから私は悪くない。悪いのは油揚げも御神酒も用意せずに、私を呼び出した君自身です。 さあ、次の質問は? 「こっくりさん、こっくりさん、あなたは女の子ですか?」 『……え?』 ……え?いきなり何聞いてるのかこいつ……確かに生前は雌だったので「はい」に移行する。 おいやめろ、無言でガッツポーズすんな腹立つ。 「こっくりさん、こっくりさん、あなたの履いている下着の色は?」 『はい!?』 いや、本当に何聞いてるの!?答えるわけが「返事なし……ノーパンか」何でわかるの!? その後も、そいつのよくわからない質問は続いた。 「こっくりさん、こっくりさん、あなたがよく着る服は?」 『いつもは巫女服だけど、って惜しい!もう少しで指を離しそうだったのに!』 「こっくりさん、こっくりさん、あなたの尻尾はモフモフですか?」 『自慢じゃないけど、まあ毛並みは良い方ね』 「こっくりさん、こっくりさん、あなたの男性経験は?」 『……その、生前に稲荷さまからお情けを……って何言わせるんじゃー!』 「こっくりさん、こっくりさん、あなたは今まで何人殺しましたか?」 『ふっ……自慢じゃないけど一桁よ!少年でようやく二桁目(泣)!』 「……こんな物かな。さて、そろそろ終わりにしようか」 『よ、ようやく帰れる……』 駄目だ、精神的にもう限界。悔しいがこいつは諦めて、また次の機会を―――。 「よいしょっと」ペリッ 『はっ?』 次の瞬間、私は自分の目を疑った。先程まで五十音の並んでいた紙が、一瞬で真っ白に―――違う。 『か、紙を……二枚重ね……?』 「これで『はい』か『いいえ』しか答えられないよな。こっくりさん、こっくりさん、お願いがあるんです」 そう言ってそいつは、左手で傍らのカバンを探って、一本の万年筆を取り出した。 そしてその蓋を器用に片手で開け…………。 「俺の、新しい雌奴隷になって下さい」 『…………ふっ…………ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!』 あれだけ質問した挙句に、最後は奴隷になれ!?オーケーよくわかった、要は自殺志願者かこのガキ!殺す!こいつは絶対に殺す! そう心の中で叫びながら、私は『いいえ』の文字のところまで一気に十円玉を移動させた。 「危なっ、指離すとこだった……でも、嬉しいですよこっくりさん」 『は?何を言って』 「だって、わざわざ自分から『はい』に行ってくれるなんて。そんなに奴隷になりたかったんですか?」『…………!?』 思わず自分が十円を動かした場所、その下に書かれた文字を見る。そこに書かれていたのは…………『はい』。 …………なん、で…………!?ま、まさか!さっき剥がした紙の『いいえ』の部分の下に『はい』と書いて…………! 「さて、こっくりさん。もし本当に奴隷となってくれるなら、この万年筆にお入り下さい」 『……ぃ……ぃゃ……』 こいつはルールを破っていない。だから、私も【こっくりさん】のルールに従い、選ばなければいけないのだ―――――― 『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………!!』 ――――――目の前に示された、二つの『はい』のどちらかを。(終) http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/774
775: プラモデルの人 ◆GsddUUzoJw [saga] 2012/01/26(木) 20:41:06.06 ID:QtVm4WGV0 投下完了! http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324651745/775
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