[過去ログ] 勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」 (970レス)
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937: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火)21:28 ID:HNArP37Wo(1) AAS
ここで放置プレイですかそうですかビクンビクン
938: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火)23:16 ID:cAvinyOto(1) AAS
裸ネクタイ靴下正座して待ってる
939: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:03 ID:wBktaGLT0(1/26) AAS
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 皮膚が、肉体が、削れていく。
 身を襲う激痛。焼けた鉄の棒を押し付けられているかのようだ。痛いのではなく、ただ熱い。それはもしかしたら血液の熱さなのかもしれないと思う。
 こんな私でも血は赤い。こんなどうしようもない存在でも、確かに血は赤いのだ。

 それは誇りでもある反面、心を苛む原因でもあった。私の血が赤くてよいはずがない。こんな、歪んだ心の持ち主には、それは重すぎる。申し訳なさすぎる。

九尾「お前は、黙って、立っていろ! そうすれば一瞬だ!」

 九尾が叫ぶ。でも、ごめん。そういうわけにはいかないんだ。
 こんな屑だけど、生きる資格なんてない鬼畜生だけど、生存本能は足を引っ張っているから。
 それに私は、きみに罰して欲しいんだよ。
省1
940: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:03 ID:wBktaGLT0(2/26) AAS
 あぁそうだ。私は一度たりとも曲がってはいなかった。私の性質と本分を紛うことは、ただの一つもなかった。そしてそれが、私の幸せが、誰かの不幸せの上に成り立つことを私は自覚していたのだ。
 人を騙し、裏切らせ、弄び、踏み躙り、何もかもをおじゃんにさせて。
 崩壊するものすべてに愛をこめて。

 楽しければいいのだ。それが私に課せられた衝動なのだ。
 だって、人間に一族全員殺された時も、私は笑っていたのだから。

 ま、私が煽動したんだけど、さ。

 あぁ、ごめんね、ごめんね九尾。

アルプ「でもこの生き方はどうにもできない!」
省2
941: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:04 ID:wBktaGLT0(3/26) AAS
アルプ「これが私の全力全開ッ!」

アルプ「チャアアアアアアアアアムッ!」

 眼を限界まで見開く。見る者/物すべてを魅了する誘惑の瞳。

 九尾だけでなく、老婆と、儀仗兵長も目を瞑った。
 でも遅い。でも温い。
 そんなんで私の魅了を避けられると思ったか!

 世界が変わる。まるで霧吹きで色水を噴霧していくかのように、さぁっと、世界は世界でなくなった。
 広がる菜の花と蒲公英。道はただ、人が踏みしめた跡が残っているだけ。
 青空が透き通っている。幾つもの丘の先に、白い雲がぷかぷかと浮かんでいた。
省2
942: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:04 ID:wBktaGLT0(4/26) AAS
九尾「ここは……」

クレイア「別の空間……いや、空間そのものを、チャームした……!?」

 儀仗兵長が目を白黒させている。そんなことができるのか、といった具合だ。
 できるんだよなぁ。

アルプ「ま、実際に挑戦したのは、初めてなんだけどね」

アルプ「ここは外界から完全に隔離された場所。いくらドンパチしたって、影響は出ない」
省6
943: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:05 ID:wBktaGLT0(5/26) AAS
 九尾が魔王を復活させようとしていたのは、かなり前から聞いていた。世界平和という目的も、九尾の食人衝動も、わかっていた。
 純粋に九尾を応援していたのだ。前魔王が消えて、新たな魔族は生まれない。私たちは兄弟みたいなものだったから、九尾に協力するのは当たり前だと思った。

 デュラハンのために少女を捕まえてきたのも結局はそういうことなのだ。九尾も、ウェパルも、デュラハンも、みんな幸せになればよかった。そのためなら私は何だってするつもりだった。
 事実してきたのだ。例えそれが全く関係のないことだとしても。

 だけど、衝動からは逃れられない。

 ふと、思ってしまったのだ。それはいつだったか……この戦争が始まったときか? 具体的な時期は、最早忘却の彼方だけれど。
 九尾の目論見を潰せば、彼女はどんな顔をするのだろうかと、どれだけ楽しい顔が見られるのだろうと、思ってしまった。

 それはやっていけないことだ。倫理ではなく感情でわかる。頭と心がそれの実践を必死になって止めている。だけど、鎌首をいったんもたげてしまったどす黒い魂の片鱗は、そんなものなど容易く吹き飛ばして……。
944: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:06 ID:wBktaGLT0(6/26) AAS
 デュラハンも、耐え切れなかった。彼は少女との戦いだけでは満足できなかった。より強い相手を求め、その相手として魔王を選定した。それくらいしか彼には衝動を満たせる相手が残っていなかった。

 何度九尾に心のなかで謝ったろう。ごめんと、ごめんなさいと。
 幸いにも九尾はこの衝動をわかってくれた。どうにもならないものなのだ。私が私でいる限り。そして、だからよしとはせずに、きちりと裁いてくれるという。それが、何よりうれしい。
 裁かれるのは人格があるからだ。私はこんな屑だけれど、確かに一つの個体として殺される。それは涙が出てしまうくらいの過ぎた幸せだと思った。
 同時に、私の願いが叶えられてはいけないとも思った。だって、そうだろう。今まで散々他人の邪魔をして、計画を、希望を、ぶち壊して踏み躙って楽しんできた私に、幸せな死が訪れるだなんて……。

 まとまらない思考。二律背反。葛藤。ぐるぐる渦を巻く涙の螺旋。
945: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:06 ID:wBktaGLT0(7/26) AAS
 九尾の突撃。限界まで素早さを上げ、攻撃力を上げ、防御力を上げたその肉体は、まさに意思を持った砲弾だ。間に合わない。

 自動で地面がせりあがり、壁を作る。この世界は私の匣庭。全てが私を守ってくれる。

九尾「無駄ァッ!」

 所詮土塊。砲弾には叶わず、壁を打ち砕いて九尾が逼迫してくる。速い。
 ぼろぼろの羽をはばたかせて回避。追いすがる九尾のほうが速度は上だ。毒霧をまき散らしながらの攻撃も、全てフバーハで散らされる。

 やっぱり、九尾は強い。
省3
946: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:08 ID:wBktaGLT0(8/26) AAS
 煌々と明るい右手と、燦々と煌めく左手。
 メラゾーマとマヒャド。

九尾「合体魔法――!」

 本気だった。舐めプではない。
 自然と口角があがる。今は痛みも、恐怖も、心地よい。

 熱と冷気を伴った光線が向かってくる。チャームで軌道をずらそうとするも、軌道の振れ幅が速度に圧倒されていて、命中の進路は変えられそうにな

アルプ「――っ!」
省5
947: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:12 ID:wBktaGLT0(9/26) AAS
アルプ「っ!?」

 脚が動かない。
 手が動かない。

 九尾のせいではない。九尾は目を見開いている。
 ということは……人間か。

九尾「おい人間、これはこちらの問題だ、手を出すな!」

グローテ「……」
省5
948: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:12 ID:wBktaGLT0(10/26) AAS
グローテ「アルスは死んだ」

 人間としての、ということかな。
 さすがにここで、「いや、隔離したのあんただし」とは言えない。

グローテ「クルルは死んだ」

グローテ「メイは死んだ」

グローテ「お前らが殺したのじゃ」
省8
949: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:13 ID:wBktaGLT0(11/26) AAS
九尾「謝ってどうする!」

 九尾が私の前に現れて、火球を無造作に握りつぶした。

グローテ「……」

 火球の連射。その数は両手で足りないくらい。
 対する九尾も火球でもって応戦する。飛んでくるそれにぶつけ、相殺し、なんとか無傷で切り抜けた。

九尾「お前の始末は九尾が責任を持つ。あんな人間にやられてたまるかっ」
省6
950: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:15 ID:wBktaGLT0(12/26) AAS
 九尾は跳んだ。速い。瞬きの瞬間に首を刎ねられる速度だ。
 切迫した九尾は、けれど大きく弾かれる。帯電する空気。老婆と女性の周囲に不可視の障壁が張り巡らされているのだ。

九尾「小癪な」

 火炎弾を放つ。障壁に直撃し、互いの魔法が粒子を飛び散らせて拮抗していく。
 そこへ九尾が拳を叩き込んだ。鼓膜を直接震わせる高音が、障壁の破壊を示唆していた。

 だけど、

 老婆が剣を――刀を握っていた。骨ばった老体には全く不釣り合いな彎刀。事実彼女はそれを持ちきれず、切っ先を接地させ、柄の部分だけをなんとか支えている。
 それは確か、記憶が正しいならば、女性が持ってきて勇者に渡したものだ。確か誰かの形見だとか遺品だとか、そんなことを言っていたような気がする。
省3
951: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:15 ID:wBktaGLT0(13/26) AAS
グローテ「行くぞ、クレイア!」

クレイア「はい、師匠!」

 莫大な魔力を感じた。それは当然九尾も感じたようで、地を蹴って横っ飛び、その後空間転移で私のそばまで戻ってくる。
 虚飾に満ちた空っぽな世界に、一瞬、光が満ちた。

グローテ、クレイア「「ザオリク!」」

九尾「……」
アルプ「……」
省6
952: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:16 ID:wBktaGLT0(14/26) AAS
 みな甲冑を身に着けていた。しかしその意匠はばらばらで、同一国家なら統一されているはずの紋章すらばらばらである。
 周辺諸国の連合? そこまで考えて、固定されている首を脳内で横に振った。あれは事実として、同一国家の兵士じゃない。
 ならば一体何か。老婆はザオリクで、一体どんな集団を蘇生させたのか。

グローテ「さっき、たった二人と言ったな。わしらは二人ではない! わしらの目的のために犠牲になった者たちが、全員背後にいるのだ!」

グローテ「わしが殺したその数一六八九人! これだけの人数を――いや! これだけの意志を相手に、それでも九尾、お前はまだ軽々と勝てると言うか!」

 老婆が眼を血走らせて叫ぶ。魔力の消費が尋常ではないはずだ。これだけの魔法……ザオリクとは言っているが、厳密には完全な蘇生ではなく、召喚の類。
 この陣地内でのみ、彼らはもう一度生を受けられる。

 がふ、と音を立てて、女性が血を吐いた。地面についた両膝ががくがく震えている。完全に魔力枯渇の症状だ。
 老婆はそれよりも比較的症状は軽微だったけれど、血涙を垂れ流しながら歯を噛み締めている。力を籠めねば生きていけないとでもいうつもりだろうか。
省4
953: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:17 ID:wBktaGLT0(15/26) AAS
 いや、何よりも人外なのは、二人の凄絶なまでの意志。あそこまで体を傷つけても、私たちを倒さなければいけないと思える精神が、すでに人のものではない。そして目的は自分たちのためではないというのだから驚きだ。

 誰かのために、ましてや国のために全身全霊を捧げられる人間が、どれほどいるというのか。
 そんなのいるはずがないと思う。思った。思っていた。事実、私はずっとそうだった。ずっと私の娯楽のために全身全霊を捧げていて、それ以外は知ったこっちゃなかったのだ。

 しかし、どうだろう。勇者は、少女は、何よりあの腹立たしい狩人の娘は、そして目の前にいる二人の女は、まるで自分のことなど意に介さない。人間とは果たしてそんな生き物だったか。私の人物評が、間違っていたのか。

 楽しい。

 心の奥からふつふつと込み上げてくるただ一つの感情がそれだった。
 真っ黒な色。翳っているのではなくて、もともと漆黒なのだ。光を反射することしかない、どす黒さ。
省2
954: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:18 ID:wBktaGLT0(16/26) AAS
 四肢はまだ固定されている。かなり頑丈な封印だ。濃縮された固定の陣地。やはり、あの二人はどっちもかなりの手練れらしい。
 だけど。

アルプ「私の衝動を止められるなんて、馬鹿言っちゃだめだってば!」

 私でさえ止められないというのに。
 寧ろこの程度で止めてくれるならどれだけ幸せだったか!

 ぶちぶちと関節が音を立てて引き千切れていく。痛い痛い痛い痛い! 肺から息が全部毀れていく!
 だけど、これで抜けた!

 既に眼前では軍勢が始動していた。とてつもない圧力を持った個々が、集団として九尾に襲いかかろうとしていたのだ。
 戦闘には中年男性。先ほど老婆が持っていた彎刀を握り締め、苦い顔をしながらも、真っ直ぐに視線は九尾。
省5
955: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:18 ID:wBktaGLT0(17/26) AAS
 火炎が手のひらに集まっていく。

「全軍、よぉおおおおおおおおおい!」

 後方に控えていた儀仗兵たちが障壁を築いた。数百人がまとめて作った、まさに戦術級の特大障壁。九尾でもこれを破壊するのは難しい、か?

アルプ「だけど!」

 あぁ――楽しい!
 デュラハンみたいに戦闘狂いなつもりはないんだけどなぁ!
省7
956: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2013/03/13(水)11:19 ID:wBktaGLT0(18/26) AAS
 高射砲撃が九尾を狙う。同時に打ち上げられた数人の魔法戦士が足元に起動力場を生み出しながら、それを蹴って九尾へと迫った。
 二人の首が一瞬にして落ちる。それでもあちらに戦意の喪失は見えない。寧ろ発奮を促したかのようだった。

アルプ(そうかい、そこまで私らは、敵ってことかい)

 そうじゃなくちゃ「面白」くない。

ルニ「お噂はかねがね」

 優男風の青瓢箪が言った。瓢箪が喋るほどに世界は進んでいたらしい。
省6
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