ウタウタウ (10レス)
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5: 2021/08/23(月)01:26 ID:Uc90J3hWO携(5/7) AAS
こうやってたまに相手をしてもらうだけでも良いと。僕が多くを求めなければ、僕がこの苦しみから逃げなければ良いと。

「でも、東京に行ったらヨウちゃんの歌が聞けなくなるのは残念だな」

「もっと良い歌手がいっぱいいるよ」

「私はヨウちゃんの歌が好きだから」

上手いとか下手とかじゃなくてさ、と付け足された。それだけで、全てを認められた気がしてしまった。今までに歌ってきたどの歌も、その一言を聞きたいが為だった。
省6
6: 2021/08/23(月)01:27 ID:Uc90J3hWO携(6/7) AAS
「ユリちゃんのこと、好きなんだ」

 泣きながら笑いながら、言葉にすると、何でこの一言を何年も言えずにいたのだろうかと思うほど簡単に音にできた。

「だから歌ってきて、よかったなって」

それ以上は言えないくらい感情が爆発して、どうにか声をあげずに泣くよう嗚咽した。感情が昂っていて、何か言われるとどうしようもなくなりそうだった。

ユリちゃんは、あの頃お姉さんぶりたい時によくしていたように、僕の頭に手を置いて撫でた。あの頃は僕より背も高かったけど、今では少し手を上げなければ届かない。それでもその手は懐かしい暖かさで、少し気持ちが落ち着いた。
省6
7: 2021/08/23(月)01:27 ID:Uc90J3hWO携(7/7) AAS
結婚式の余興で歌ってほしい、というのは彼女からのリクエストだった。

残酷なことをさせるなとも思ったし、そう言われたことで救われたところもあった。

あの日の告白とも言えぬ僕の自白には何もなく、それまで通りの関係性だった。変わったことがあるとすれば、僕はより一層彼女のことと歌うことの呪いに深まったくらいだ。

結婚すると聞いてショックを受けなかったのは、もしかしたらこれで少しは踏ん切りがつくと思ったからかもしれない。

ユリちゃんのために、届いてほしくて褒められてくて認められたくて歌わなければならないという強迫観念が薄まるんじゃなかろうかと。
省5
8: 2021/08/31(火)01:31 ID:HhS3J7f+O携(1) AAS
サブスクでチャートの上位に入るようなラブソングを聞くたびに、自分がここにいることを改めて自覚する。

世間一般で私と同じくらいの女の子がしている恋愛なんて、私にはできないから。歌詞の感情を理解できないままに聞き流すことしか私にはできなかった。

娼婦、という言葉の意味も理解する前から私はここに住んでいた。両親がお金に困って私を売ったのは、まだ両手で年を数えられる頃だった。

オーナーと呼ばれる彼が私を迎えに来た日から、私はここで生きてきた。お金に不自由することもなければ、苦しい思いをすることもない。

悪くない生活のはずだ。少なくとも、娘を売るような両親に育てられるよりは。
省1
9: 2021/08/31(火)17:47 ID:zwE4/74sO携(1) AAS
この世にあるラブソングは全て仮想の物語で、私に実体験として訪れることは無いと思っていた。

だからこそ、最近流れてくるこの歌がやたらと気になって仕方が無かった。歌っている内容はとても甘いラブソングで、ヒットチャートにある他のグループとも大差が無い。それなのに、歌い方なのか声なのか、それとももっと本質的なところなのか、果たしてその理由が何かは分からないけれど、私にはとても苦しそうに歌っているように思えた。

この歌のような甘い出来事は英語で言うところの仮定法のような。叶わないと知りつつも、そう願っていると伝わるような。そんな歌い方だった。

シュガーキャンディーというらしいタイトルにしっくり来るような歌詞なのに、とてもビターな響きの歌で、それが何となく生温い絶望を私に与えた。

こういうありきたりらしいラブストーリーに憧れが全くないわけではなかった。けれど、私にはそういう生き方ができないと思って割り切って、だから世にある少女漫画やラブソングを仮想の素敵な物語として受け容れることができた。
省1
10: 2021/09/03(金)00:27 ID:dX1WBd8vO携(1) AAS
彼はどんな気持ちでこの歌を作ったのだろう。誰を想い、どんな希望と絶望で歌っているのだろうか。悲しい気持ちになってしまうのに、気がついたときは私はこの歌の虜になっていた。

誰かに春を売った後、私は決まってこの歌を流すようになった。まだ見ぬ誰かに、こんな気持ちを抱くのだろうかと。誰かを好きになることは、果たしてあるのだろうかと。

そんな希望を持つことが、私にとっては絶望でもあった。

まだ幼い頃からこの娼館に住むようになって、オーナーにあてがわれた男の相手をしたのはもう数えきれないほどだ。子どもの方が良い、という趣味の人もいれば、子どもに手を出す気にはなれないとおしゃべりだけして帰る人もいた。

まだその行為の意味もあまり理解していないときから、私はそうやって生きてきた。それを理解したときは何度か吐いて、やがて生温い絶望と諦めが私を包んだ。
省5
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