欠伸 (18レス)
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1: 2024/04/09(火)21:11 ID:JaP/IqMVO携(1/3) AAS
頑張ってるね、と言われることが苦手だった。

幸か不幸か、ある程度のことは器用にできるタイプだった。というよりも、努力した分結果が出るタイプだったというのが正しいのかもしれない。

勉強も部活も人間関係も、必要だと思った分はそこそこに取り組んだし、人並み以上に結果は出てくれた。その結果だけ見ているからかもしれないけれど、周りの人から「君は頑張り屋だから」と言われると、なんだか過剰評価をされている気がしてならない。

志望校に対して今の成績じゃ届かないから勉強をしただけだし、勝ちたいという気持ちがあったから練習をしただけだし、好きな子が自分に興味がないと思ったから積極的にアプローチをしただけ。それだけだ。

ただ、そんな具体的な目標を立てられたのは高校生くらいまでで、大学生に入ると自立して何かを目指すということも少なくなっていた。
省1
2: 2024/04/09(火)21:13 ID:JaP/IqMVO携(2/3) AAS
ただ、そんな具体的な目標を立てられたのは高校生くらいまでで、大学生に入ると自立して何かを目指すということも少なくなっていた。

少なくとも自分は起業するような大層な目標もなく、そうなればそこそこの企業に勤めてそこそこの生活ができればいいと、具体的な目標がないからこそ自分が何をどの程度取り組めばいいのかが不透明になってしまった。

何となく勉強をして、不安になっていろんな資格を取ってみたり。当時付き合っていた彼女に置いていかれてしまいそうな気がして不安になったり。

何かをしなければ自分の価値がなくなってしまうという焦りだけがあった。

だからこそ、小説を書いて誰かに夢を与えたいなんていう、子どもの頃から描いていた目標は忘れてしまっていた。というよりも、気が付いた時にはそれを追いかけることはなくなっていた。
3: 2024/04/09(火)21:15 ID:JaP/IqMVO携(3/3) AAS
そこそこに何でも出来ていたからこそ、もう少し現実的な……少なくとも、他の同世代たちも共通して抱いている「大企業に勤める」という目標の方が努力の方向性も分かりやすかったから。

正にモラトリアムな大学生活を過ごした俺は、高校生活の遺産と、大学生活で何となく積み上げてきたものを武器にそこそこ大手の食品メーカーに就職することはできた。

特に思い入れがあったわけでもないけれど、好きなサッカーチームのスポンサーではあった。面接ではそのことについて話した記憶しかないし、それでも採用されたのはよっぽど大学の肩書が強かったのか、或いは試験官がサッカー好きだったかのどちらかだろう。

どうであれ、それなりに恵まれた環境に身を置くことができた。

それで満足しているはずだった。
省4
4: 2024/04/10(水)14:02 ID:l1kaHo4x0(1) AAS
期待
5: 2024/04/11(木)03:28 ID:/PSsidwwO携(1/3) AAS
「俺さぁ、異動なんだよね」

入社1年目が終わるかという3月半ばのことだ。ランチに誘われて着いていったところで、OJTの宮アさんにそう告げられた。

「まあ異動って言っても、営二だからすぐ隣にいるんだけどね。でももう少し、黒沢くんには色々教えてあげたかったんだけどさ」

「ああ、営ニ。よかった、転居を伴う感じの異動だったら寂しいなって」

俺たちの所属する営業三課は主にコンビニ関係を担当としていて、宮アさんの移動先である営業二課は外食関係が中心だ。営業担当のままではあることだし、まだ近くにいてくれることには安心した。
省3
6: 2024/04/11(木)03:29 ID:/PSsidwwO携(2/3) AAS
「自分、そんなこと言うキャラじゃないの知ってますよね?」

 苦笑しながら返す。宮アさんにこんな軽口をたたけるようになるのにも結構な時間を要した。

「冗談だって。でも、本当に来月から頑張ってね。俺が出るのもあるけど、結構次の人事きつくなりそうだからさ」

「はい、ありがとうございます」

「ま、近くにいるから困ったことがあったらいつでも声かけてよ。とりあえずどこかで俺の送別会も兼ねて二人で飲みに行こう」
省1
7: 2024/04/11(木)03:30 ID:/PSsidwwO携(3/3) AAS
その週の金曜日、宮アさんと二人で飲みに出かけた。

彼も俺も飲むこと自体は割と好きな方だし、仕事柄食のトレンドは知っておく必要もあったと言い訳しては二人で外出することはままあった。

送別会という意識を特別持っていたわけではないが、お世話になったお礼も兼ねて一軒目は俺がご馳走することにした。

「そんな気を使わなくていいのに」

「いや、いつも俺がご馳走になってるんで……」
省6
8: 2024/04/11(木)18:54 ID:0CY2uYgLO携(1/3) AAS
普段ならあまり気乗りしない提案ではあったが、今回は宮アさんの送別会だ。明日は休みだし、付き合っても良いかと思ってしまった。

「どっちでもいいですよ。俺、店全然知らないですけど」

「適当に探してみよ」

そんなわけで二人で夜の街を歩き回る。お互いにどの店がいいとか悪いとかなんて知らないけれど、キャッチについていくのは何となく嫌で店を決めかねてしまう。

もう10分以上は徘徊してしまった。
省9
9: 2024/04/11(木)18:56 ID:0CY2uYgLO携(2/3) AAS
「こんばんは! お兄さんたち、お帰りされませんか?」

二人組のうち、姫カットの子が俺達に気がついて声をかけてきた。もう一人のハーフツインの小柄な子が持ってるホワイトボードには「大正浪漫コンカフェ 飲み放題有」と可愛らしい丸文字で書かれている。

「入れます? あんまり分かってないんですけど、えーっと」

「あ、コンカフェ、初めてですか?」

「「コンカフェって?」」
省8
10: 2024/04/11(木)18:56 ID:0CY2uYgLO携(3/3) AAS
後々思えば、ここが分岐点だった。

宮アさんから仕事を引き継ぐことも、彼女たちと出会ったことも、この物語には欠かせない要素で、でも運命なんて大層な言葉で表すものでもなかった。

ありふれたボーイ・ミーツ・ガール。サラリーマンが客引きに声をかけたことから始まる、今日もどこかで見られるようなありふれたストーリー。

それを駄作に感じられないのは主役が俺だったからだ。
11: 2024/04/12(金)07:22 ID:SaPx2Mfzo(1) AAS
いいじゃん
12: 2024/04/12(金)20:35 ID:DhlLIHjYO携(1/3) AAS
二人に案内されて近くのビルの階段を上り、ドアを開けると大正浪漫という言葉が正しいのか分からないが確かに和テイストな雰囲気の室内になっていた。

窓は障子で閉められており、店内はぼんぼりで薄暗く照らされている。それなのにカウンターしかない店内には少し違和感があったが、あくまで「大正浪漫風」のコンセプトだと思うとこんなものなのだろう。

店内には他に客はおらず、それまで店番をしていたらしい二人組と彼女たちが入れ替わっていた。

「改めて、鞠と申します」

姫カットの女の子がカウンター越しにぺこりと小さく頭を下げた。襟元に留めている名札をちょんと摘んで続けた。
13: 2024/04/12(金)22:16 ID:DhlLIHjYO携(2/3) AAS
「趣味は漫画と音楽です。メジャーすぎずマイナーすぎない邦ロックが好みなので、よろしくどうぞ」

そこで言葉を止めたと思えば、続いてハーフツインの彼女が小さく手を上げた。

「千雪でーす! 私はゲームが好きで……」

「おっ、ゲーム? どんなのやってるの?」

同じくゲーム好きの宮アさんが反応して、二人で盛り上がり始めた。こういう店に来ると宮アさんと女の子が盛り上がり、俺はそれを眺めながらちびちび酒を飲むのが常だった。
省2
14: 2024/04/12(金)22:18 ID:DhlLIHjYO携(3/3) AAS
「黒沢です」

下手くそな営業スマイルを作ってみた。幸か不幸か酒に強いせいで、さっきまで宮アさんと飲んでたアルコールはもう抜けつつあるのか、単純に人見知りな部分が出てしまっている。

「黒沢さんね……下の名前は?」

「隼人」

「隼人さん……くん? まだ若いですよね?」
省5
15: 2024/04/28(日)08:11 ID:e34RdDinO携(1/3) AAS
「じゃあー、隼人くん。お飲み物はどうされます?」

飲み放題に含まれるメニューはこれで、とメニュー表を渡された。バーのように凝ったメニューは無くとも、定番のカクテルはいくつか頼めるようだ。

「ジントニック、お願いします」

「かしこまりました、少々お待ちください」

宮アさんの注文も千雪さんが確認して鞠さんに伝え、そのまま彼女はドリンクを作りに向かっていった。
省13
16: 2024/04/28(日)08:12 ID:e34RdDinO携(2/3) AAS
「先輩後輩で二人で飲みに来るって、仲良いんですね?」

「うちの部署、人数少ないんで」

「すごーい、少数精鋭? みたいな?」

「いやいや、やってることがあんまり意味ないから人を減らされてるだけで」

自虐気味に宮アさんは笑った。
省6
17: 2024/04/28(日)08:13 ID:e34RdDinO携(3/3) AAS
みんなが声を上げて笑った。悪い人たちではなくとも、会う合わないで言えば俺には合わないタイプの人が多いんだから仕方ない。

少し場が落ち着くと、再び宮アさんは千雪さんとゲームの話を再開した。二人ともかなりのヘビーユーザーらしい。

自然と鞠さんと俺の二人が残された。

「隼人くんはさ、何か趣味とか無いの? それこそあっちのお兄さんみたいにゲームとか」

「あ、でも俺、お姉さんと同じで音楽と漫画好きですよ。結構雑食で」
省11
18: 2024/05/01(水)12:48 ID:5qdv19xwo(1) AAS
仕事のディテールがやたら細かい
さては、実体験だな
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