イタリア百合提督(その2)「タラントに二輪の百合の花」 (965レス)
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821: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2022/01/28(金)02:04 ID:VGjoX0eq0(1) AAS
アッテンドーロ「さ、早く済ませないといけないんでしょ?」

提督「ええ」

…坂の多い港町ナポリの裏通りをすいすいと歩いて行くアッテンドーロとそれに従って付いていく提督、そして提督の横に付いているライモン……路地の道端には壊れた木箱や野菜くずが放り出してあり、お世辞にも柄がいいとは言えない…

アッテンドーロ「ほら、ここよ」

提督「……どうやら間違いないみたいね」

…案内された先には薄汚れた黄色の壁をした一軒の小さな店があり、年季の入った小さな木の吊り看板には「ピッツェリーア」の文字が彫り込まれている…

アッテンドーロ「チャオ、三人よ」

提督「ごめんください……」

オヤジ「へい、らっしゃい! 注文は!」

…アッテンドーロの後に付き店内へと入った提督とライモン……店の中は全体的に古く薄汚い感じではあるが、テーブルだけは長い年月にわたってずっと拭かれているのか、表面に艶が出てすっかり飴色になっている……威勢のいい店主は丸顔であごに無精ひげをはやし、汚れきったエプロンに台拭きを挟みこんでいる…

アッテンドーロ「それぞれにピッツァ・マルゲリータよ」

オヤジ「あいよ! 飲み物は?」

アッテンドーロ「ロッソ(赤)をもらうわ」

オヤジ「ほいさ……士官さん、そっちは?」

提督「それじゃあ同じものを」

オヤジ「そっちのお嬢ちゃんは?」

ライモン「わたしも同じでいいです」

オヤジ「よしきた! ほらおっかあ、聞いただろ!」

おかみさん「ガタガタ言わなくたって聞こえてるよ、あたしにだって耳があるんだからね!」

オヤジ「そうかい! おれはてっきりこの間「オレキエッテ」と一緒に料理しちまったと思ってたぜ!」

(※オレキエッテ…「耳」を意味する丸っこいパスタ。タラント近郊では「小石」を意味する「チァンカレーレ」とも)

…勢いのいい店主とおかみさんのやり取りに、数人の客はげらげら笑っている……そのうちの三人は顔なじみらしい爺さんたちで、後は白粉をベタベタと塗った娼婦の「お姉さま」方……彼女たちもきっと数十年前は王室ヨットのようにスマートで綺麗だったのだろうが、すっかり沿岸回りの老朽貨物船のような体型になっていて、サビの上にペイントを塗りたくっているあたりもよく似ている…

おかみさん「はい、お待たせ!」編んだ柳のカゴにすっぽりと収まっている丸っこい瓶から、グラスにごぼごぼとワインを注いだ……

オヤジ「おう、とっととしねえか! せっかくのピッツァが冷めっちまうだろうが!」

おかみさん「分かってるよぅ! それにもし冷めたらヴェスーヴィオ(ヴェスヴィアス)にでも突っ込めばいいじゃないか!」

…下町のナポリ人らしく元気にまくし立てながら、さっとピッツァ・マルゲリータの皿を提督たちの前に並べたおかみさん……縁のある丸くて薄い生地にさっとサルサ・ポモドーロ(トマトソース)を塗り、モッツァレラ・チーズとバジリコを散らしてある…

提督「グラツィエ」

おかみさん「はいよ! 冷めないうちに食べな!」

提督「ええ……あむっ」

…パリッとして少し焦げのある香ばしい「耳」の部分と、さっくりとした生地の部分……そこに酸味のあるポモドーロと、ふつふつたぎっているモッツァレラの脂っ気、そしてそれをすっきりと打ち消すバジリコの爽やかな風味……一人に一枚を供するナポリピッツァで、差し渡したっぷり二十四センチはありそうな一枚が来て、提督は少し持て余してしまうかと思ったが、口当たりが軽いので美味しく食べられる…

………



アッテンドーロ「……ね、美味しかったでしょ?」

提督「はぁ、確かに美味しかったわね……あんなに美味しいピッツァ・マルゲリータを食べたのは初めてかもしれないわ」

アッテンドーロ「でしょう?」

提督「ええ、これで心おきなく出張に出かけられるわ♪」

アッテンドーロ「良かったわね……それじゃあ私と姉さんはこれで♪」

提督「楽しんでいらっしゃいね」

ライモン「提督も楽しんで来て下さいね」

提督「ありがとう、ライモン」
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