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【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net (285レス)
【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/
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260: 多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage] 2017/02/14(火) 00:00:27.07 ID:87guBi3q (賢い……) 完全に閉じ込められた形だった。 外に出ようとすれば粘液が飛んでくる。仮に上手く粘液を躱して外に出られたとしても、 先程のように上から大量の粘液を降らされたらどうしようもない。 また、この足場では十分な速度を出すことはできないだろうし、 ハッカイに接近し攻撃に転じるのすら一か八かの賭けになる。 祈が近づいて攻撃するしかできないこと、そして粘液に触れれば死に直結するダメージを負うことを、 十二分に分かった上での行動だった。 そもそも、祈は決定打に欠けている。 なんとかハッカイの手足を千切り飛ばすことはできても、 この細足であのゾウのような巨体を倒せるかどうかは疑問が残った。 手っ取り早く倒すとすれば、あの形態からして思考の核となっているであろう頭を狙った方が早いのであろうが、 それも難しいと思われた。 何故なら祈の足では、あの巨大な頭を潰すには長さが足りないのだ。 蹴りを見舞っても表面を抉るだけになると予想された。 だがより深い場所、例えば脳があると思われる場所にまで攻撃を届かせようとすれば、 祈は体ごと突っ込まねばならない。 それは即ち強酸性の粘液が詰まった袋に身を投げるに等しい行為であり、 いくら体を防護する布を纏っていようと自殺行為である。 だとすれば、コトリバコの赤ん坊を悪戯に苦しませるのは本意ではないが、 ちまちま攻撃して肉体を削り、『ケ枯れ』を起こさせるしかないのだろう。そう祈は結論付ける。 なんにせよ、まずはどうにかこの状況を脱し、接近しなければならない。 ――だが、どうやって。 そんな事をつらつら考えていると、 じゅうっ、じゅうっ。と、どこかから音が聞こえてくることに祈は気付いた。 店舗の外からだった。 ハッカイのコトリバコがいる方向から聞こえてくるそれは、 何かが溶かされている音だと思わせた。 『ま”ああああ”! ぎ”ゃっ、やっ! あ”ぁ”っ!!!』 悲鳴じみたハッカイの咆哮が響いた後、またその音が再開される。 ぶしゅう、じゅうっ。その音が近付いていることで祈は察する。 これはハッカイが、祈がいる方向へと粘液を吐き続ける音だ、と。 そうすれば、祈が例え離れた店の中から出てこなくても、ハッカイ自身が移動できなくても、祈を追い詰めることができる。 逃げ場を失った祈に粘液を吐きつけても良いだろうし、飛び出してきた所をまた雨のような粘液で仕留めるも良しである。 赤ん坊のくせに賢すぎやしないか、などと祈が感嘆するのも束の間、やがて祈がいる店舗の壁までもが溶解し始めた。 祈が店の奥へと退避するべきか、それとも一か八か飛び出すかと迷っていると、 溶けた壁に人の頭ほどの穴が開いて、そこからハッカイの姿が覗いた。 そこから見えたハッカイの姿は、祈から動くという行為を奪った。 ――ハッカイの左腕が落ちていた。 腐ったように黒く変色したそれは、ハッカイの体の横に転がっている。 当然、左腕までも失ったハッカイは体を支えることも叶わず地に伏しているのだが、 それでも首だけは祈へと恨めし気に向け続けていた。 その顔は、血の涙に塗れている。 『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!』 もう嫌だと、泣き叫んでいるように見えるにも関わらず、 『い”っ、ぎぎぎ”あ”あ”!』 次の瞬間には怒りの形相になり、粘液を吐き出してくる、ハッカイ。 なんとか絞り出されたようなそれは、先程の粘液が壁に穿った人の頭程の穴をどうにか潜って、 祈の足元にまで飛び散った。粘液には緑と黒みの強い赤が混じりあっている。 粘液に混じる赤は、ハッカイの血だ。 『い”あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”あ”あ”!!! ま”っ! あぶっ、ぷあぁああああ”! げぇっ、げぇえ!』 ハッカイの絶叫。その口が弱々しく開かれて、血をごぶりと吐き出した。 祈はこの赤ん坊が、コトリバコの力によって無理矢理に動かされてるのだと理解する。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/260
261: 多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage] 2017/02/14(火) 00:46:38.36 ID:87guBi3q コトリバコの呪詛の源は、 その狭い細工の中に押し込められた子ども達の魂の嘆き、憎しみや恨み。 即ち『負の感情』である。 恐らくコトリバコには、その呪詛を効果的に発揮させるために、 内側に閉じ込めた子供たちの魂に働きかける呪いのような何かが施されているのだろう。 その何かが、強制的に子ども達から憎悪等の負の感情を引き出しているのだ。 そう考えれば、両の足がなくなり、満身創痍の状態なっても執拗にノエルを追い続けたことや、 移動する力すら失い、左腕がもげた状態でも祈への攻撃を続けたこと。その異常な攻撃性に説明がつく。 ハッカイともなれば、それこそ無尽蔵の呪詛を吐き出せるだけの力があっただろうから そのような呪いが働いていてもなんとかなったに違いない。 だがノエルの刃は霊的な継ぎ目を完全に断ち切り、既にハッカイを仕留め終えていた。 そのような状態では、残された命を無理矢理に、粘液として絞り出しているようなものだ。 だが止めることができないのだろう。そのような状態になっても。 馬に鞭を打つように、コトリバコが無理矢理にあの赤ん坊へ命じているから。 恨め、憎めと。目の前の敵を倒せと。 痛い筈なのに。苦しい筈なのに。もう嫌だと泣き叫んでも、コトリバコの呪詛が 攻撃を止めることをを許さない。その苦しみは想像を絶する。 またも粘液を吐こうとしているのだろう。ハッカイは再び首を持ち上げ、口を祈へと向けた。 その目から流れる血の涙に、響く嗚咽に。 「終わりに、しよう……」 祈は、血が熱くなるのを感じた。 もう、見ていられなかった。 この状態ならば、恐らく放っておいても『ケ枯れ』を起こしてただの小箱に戻るだろうが、 それを待とうだなどとは微塵も思えない。 一刻も早く、あの子をその苦しみから解き放ってやらなければならなかった。 それも、これ以上苦しまぬよう、一撃で。 そう思った時、祈の頭に、どうすれば彼の巨体の頭を潰せるかという問いに対する答えがようやく閃いた。 祈は辺りを見回し、程なくしてそれを見つける。 祈が見つけたのは、重い金属製のバットだった。 『ぶあああっ! あ”ぁあぁ”!』 ハッカイが再び粘液を吐きつける。祈はそれを避けることもなく、そのまま浴びた。 赤の混じった粘液が祈の被る布を汚し、灼いていく。だが祈はそれを脱ぎ捨てる間すら惜しんで、金属製のバットを構える。 体を捩り、目いっぱいに振り被る。 「うううううううう、らあああああああっ!!!」 そして渾身の力でもって、ハッカイへと投擲した。 ――ターボババアと言う妖怪の孫である祈は、その走る速度に強力な制限を受ける。 どれほど早く走ろうとしても、フォームを変えたとしても、その速度が時速140kmを超えることはできない。 それが都市伝説として語られるターボババアの速度の限界だからだ。 しかし、それ以外の物に関しては規定がない。 人が時速40kmで走れるのなら、祈は140kmを走る。 単純に考えて人の3倍以上の筋力を備える祈が全力を込め、遠心力をも利用して投げた金属製のバットは、 軽々と時速140kmなど超え――、雷の如く凄まじい勢いで飛び征く。 そのまま、手足を失い動くこともできないハッカイの頭部、その眉間へと突き刺さり、 そのぐずぐずの皮膚を突き破り、柔らかな頭蓋を砕いて、 中身を恐ろしい力で掻き回しながら頭の反対側へと貫通、中身を吹き出させる。 ハッカイを貫いて尚勢い余るバットは、閉まっている店舗のシャッターへと突き刺さってようやくその動きを止めた。 『あ……ぎぃ、ぁ、お、…………』 ややあって、頭の半分ほどを失ったハッカイの首が、力なく倒れた。 そして『ケ枯れ』を起こし、付喪神としての姿を保てなくなったハッカイの体は緑色の膿のようになり、消失する。 残されたのは小さな小箱だけとなった。 呪詛としての力も失ったのか、ハッカイが作りだした粘液もまた消えている。 祈が今更になって被っていたカーテンを脱いでみると、幸い粘液は体にまで達していなかったものの、 パーカーや髪の先を、焦がしたり溶かしたりしているようであった。 なんにせよ、ハッカイは倒した。 「……今はおやすみ、コトリバコ」 後で橘音に、この小箱に閉じ込められた子ども達をどう供養すればいいのか聞かねばならない。 そんなことを考えながら、祈は呟く。少し離れた場所から、破魔の結界の光が広がるのが見えていた。 【祈、ノエルを安全圏へ逃がしてフリーにした後、やや離れた位置で手負いのハッカイを撃破】 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/261
262: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 21:52:47.06 ID:U+Xmh4YZ >「……へ?」 祈の視線が突き刺さるのを感じつつ、ノエルは走る。 やーめーてー、そんな目で見ないで!? そもそも僕は(言動が)格好いいキャラじゃないんだからな!? 等と思いつつ向かう先には道路標識を振りかざした黒雄が控えている。 右手だけで標識を持っているのは「死にかけの奴にとどめを刺すぐらい右手だけで十分だぜ!」ということか、とノエルは解釈した。 >「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」 「へっへーん、当然!」 隅で解説要員と化していたムジナに思わずガッツポーズを返してからおっと、自分こいつと仲悪いんだった!と思う。 黒雄なら自分が仕留め損ねたハッカイを問答無用で粉砕してくれる――ここまで想定のうちだ。 だがしかし。 >「な、ぐがっ―――!?」 予期せぬ交通事故発生。黒雄は軽自動車にはねられて飛んでいった。 運転していたのは……じゃなくて投げつけたのは、凍結から早くも復活したニホウ、サンポウ。 >「もう動き出したんか!」 「誰だレンジでチンしたのは!? 君達免許とれる歳じゃないでしょー!」 それは享年か死後含むかによって変わってくるが、残念そもそも車を運転するには免許がいるが投げるのに免許は要らない! 更には黒雄が吹っ飛ばされた先でシッポウに殴り掛かられようとしていた。 左右をほぼ等しく使えて二刀流を操るノエルは、気付かなくてもいいことに気付いてしまった。 いくらなんでも左が動いてなくない――!?と。 一体いつから?と記憶を手繰る。 もしかして最初から?と思い至るも、先入観が邪魔をして核心に辿り着くことはない。 ただなんともいえない胸騒ぎだけが残るのだ。 >「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!! テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」 そんな無茶な!大体さっきも「ここは俺に任せて行け!」的な死亡フラグ立てようとしてたよね!?と思うノエル。 しかし人の心配をしている余裕は割とマジでない。背後には依然として恐慌状態に陥ったハッカイ。 通常の生き物がHP1で普通に動き回る事は常識的に考えて有り得ないが、 妖壊は逆に最後の悪あがきで凶暴になって普通以上に攻撃力等が凶悪になる仕様の者もいる。 このハッカイに関してはまさしくそのパターンのようだった。 「ええーっ、どうすんのコレ!?」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/262
263: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 21:54:59.78 ID:U+Xmh4YZ 気が遠くなりそうになりながら、ノエルは自問自答する。 そもそもなんでこんな事になったのかというと、柄でもなく真面目に戦いすぎたのがいけない。 特にエターナルフォースブリザード(通称)は終幕を飾る一撃必殺を想定した大規模術式であり あんなものを一時の足止めのために使っては後が続かないに決まっている。 大体隙あらば安全地帯でサボタージュしたり背景でおやつ食べ始めたりとやる気なさげに戦うのが自分の芸風ではなかったか。 敵味方双方から「ふざけてんのか!?」とツッコミが入ったことも一度や二度ではないが 「あいつ余裕ぶっこいてるし実は滅茶苦茶強いんじゃね!?」と相手に無駄にプレッシャーをかける思わぬ利点があるぞ! ともあれ、普段そんな感じなので今のこの状況を見てもアイツまたふざけてるよ!としか思われないであろう。 それでいい、むしろそうでないと困る。嘘でも、虚像でも、余裕ぶっこいた底知れない奴でいなければ。 一瞬後ろを振り返ってみれば、すでにハッカイは自壊を始めており、右腕がもげている。 つまり相手が崩壊するまで逃げ切れば勝ちだ! 滅茶苦茶格好悪い戦法だがそれが何だというのだ、逃げるは恥だが役に立つ――! しかしそこに祈が風のように現れ、何故か蹴るようなポーズを取る。 もしやノエルの日頃からのあまりの変態さやダメダメさに嫌気が差したというのか!? 本日の出撃前にもまた無自覚変態爆撃をやらかしたからね、仕方ないね! そうでなくても、毎回変化を解いたり戻ったりする様子を微妙に理解不能のナマモノを見るような目で見てくるし。 しかし一般的な意味での変態な言動はともかく、あの本来の意味での変態は妖怪としては割と普通のはずだ。 むしろ人間型を保ったままでカラーリングが変わって少し謎の氷粒煌めきエフェクトがかかるだけなんてまだ大人しい方だ。 設定上存在する他のメンバーには完全人外の姿になって炎や電撃放っちゃう妖怪もいるぞ!(>1参照) まあ完全人外までいったらそれはそれで割り切れるのかもしれないが、 なまじ人間型をしているだけに、人間と同じ感覚を期待してしまうのかもしれない。 「ちょっと待ったあ! これには深い訳が……! ほら、男だらけの妖怪集団になっちゃったからやる気が……」 そう言っている間に、ふわりと体が宙に浮いて精肉店のテントの上に乗っていた。 祈に蹴り上げられたのだ。その蹴り方はとても優しく。 >「御幸はそこからテキトーに援護とか、姿が見えないゴホウでも探したりしてて!」 >「こっちだ、コトリバコ!」 「ありがとう、頼んだ……! 危ないから、攻撃しなくていいから逃げて!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/263
264: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 21:57:33.91 ID:U+Xmh4YZ 祈ならハッカイが崩壊するまで逃げ切るのは楽勝のはず。そう思ってそのまま送り出した。 祈にはこの言い方では正しく意図が伝わらなかった訳だが、どちらにせよ祈はそれを良しとしなかったことだろう。 ノエルを安全地帯に退避させるという祈の行動はドンピシャリの正解で、それだけにドキリとした。 見抜かれた――!?と。祈ちゃん、君はどこまで見抜いている……!? 祈は橘音とは違う意味で、真実を見抜いてしまう面がある。 頭脳明晰で知識と経験を兼ね備えた橘音が気付かない類の真実だ。それは先入観に囚われない子どもだからこそか。 自分が本当はみんなが思っている程強くなんかなくて、脆くて弱くてふわっふわなのが全てお見通しなのか――? ノエルが普段やる気無さげにしか戦わないのには単純明快な理由があり、今のように妖力切れを起こさないためだ。 それだとすぐに役立たずになるが、ノエルは自然界からパワーを取り込む謎システムを搭載しており 消費と同ペースで回復させることによって無尽蔵を装う事ができるのだ。 サボったりおやつを食べたりしているのは平たく言うと実はMP回復のためであり どうして今日は柄でもなく飛ばし過ぎたかというと、八尺様との戦いで思い出さなくていい記憶が呼び覚まされてしまったからであろう。 あれからというもの、仲間が――友達が死ぬのが滅茶苦茶怖い―― 三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼き日に刻まれた魂の傷は百どころか永遠に癒えることはない。 等と考えつつも、服の内側から某チューブ型容器入り氷菓(チョココーヒー味)を取り出して吸い始めたので 端からみると全く真面目な事を考えているように見えない。 (体温によってアイスを溶かさずに持ち歩くことが出来るのだ!) まず目に入ってきたのが、ムジナがイッポウ&ロッポウと戦いを繰り広げる様子であった。 そういえば、ムジナは形状変化なんてトンデモ能力使いの割には意外と肉体の概念とかかっちりしているようだ。 のっぺらぼうってソーセージ出したり消したりも余裕のガチお化けのイメージだけど、 式神になった時に感覚が人間に寄ったのかもしれない、等と思う。 >「総評するとこいつが年季の差ってやつやな。以上、品岡おじさんによるはじめての妖怪戦闘、講義終了や。 ――勉強代は負けといたるわ」 「大変勉強になりました!」 ここにアイス食いながらがっつり講義タダ見している生徒がいた。 学ぶことが子どもの特権であるとするならば、毎日が新鮮な驚きと発見の連続であるノエルは子どもに分類されるらしい。 ――うん、人生楽しそうで何より! >「ま、待てや!話し合お!話せば分かる!一旦ゲロ吐くのやめやーーーっ!!」 超かっこよくイッポウを撃破したムジナだったが、拘束から脱したロッポウに追いかけられ始める。 「――スリップ」 アイスを食べ終わったノエルは講義代とばかりに、ロッポウの手足に滑って転ばせる術を発動。 見事にかかってすっころんだ。かなり妖力が回復してきたようだ。 セコい嫌がらせのような術だが、走行中の車にかけたら大惨事必至だ。 現代では雪山で遭難こそ流行らなくなったが、積雪→路面凍結のコンボはかなりエグい。 一方、橘音は無謀にも上から二番目に高位のコトリバコであるチッポウを一人で相手にしていた。 張り手一発で盛大に地面にひびが入る。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/264
265: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 22:01:16.37 ID:U+Xmh4YZ >「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」 黒雄はコトリバコ三体を一人で相手にしているが、それでもどちらかを選ぶなら支援に行くべきは橘音の方だろう。 彼は敵の攻撃をいなすことは出来ても直接攻撃する手段は無いのだから。 そう決断し、テントの上から飛び降りる。ゴホウの居場所は結局分からずじまいだ。 チッポウが何か小さなものを橘音に投げるが、あれぐらいなら軽くいなせ――なかった。 >「……な……!?しまった!」 >「う……うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」 チッポウが投げたのは、なんとゴホウの本体。 混戦の中で小さな寄木細工に戻られたら居場所が分からなくなるのは当然だ。 問題は……ゴホウに組み付かれた橘音が断末魔の絶叫をあげていることである。 ただ組付かれているだけで取り立てて攻撃されているようには見えないのだが、まさかあの妖怪ですら女は死ぬという呪詛か――!? 「な……!?」 ノエルは血の気が引くといっても元から血の気が無いし、顔面蒼白と言っても常に蒼白だし どう表現したらいいか分からないがとにかく死にそうな顔をして硬直していた。 >「ぎゃああああ〜っ!死ぃ〜ぬぅ〜っ!呪いで死んでしまうぅ〜っ!」 >「……な〜んちゃって」 「こっちが死ぬかと思った! こっちは変態補正で死んでも次週までに復活余裕だけどな! どーだ羨ましいだろ!」 全身の力が抜けてへたり込みそうになりながら、抗議なのかよく分からない抗議をする。 とはいえ、この類のことは別に今に始まったことではない。 橘音は秘密主義のため、仲間にすら作戦の全貌を教えないことがままある。 敵を騙すにはまず味方から――とはよく言ったもので アホな味方が率先して騙されることによって敵も流石に真実だろうと思い込み、偽計がより盤石のものとなるのだ。 >「一体いつから――ボクが女の子だと錯覚していたんです?」 >「はいはいっ、邪魔邪魔!ボクはママじゃありませんからね、どいたどいた!」 >「イッツ!ショータ――――イムッ!!」 橘音が足を踏み鳴らすと同時に、禹歩の結界が辺りに広がっていく。 「橘音くんがセルフでソーセージしてようが(動詞)元からソーセージ(形容動詞)だろうが 工事済みの元ソーセージ(名詞)だろうがそんなことは割とどうでもいい! ここはこう言うべきだろう、禹↓歩↑!いい漢!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/265
266: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 22:03:57.22 ID:U+Xmh4YZ 相変わらずイントネーションを間違えた禹歩の発音で、橘音のいい漢っぷりを称賛するノエル。 ちなみに子ども(精神年齢)は新しく覚えた言葉をとりあえず使ってみたがる性質があるので、うっかり変な言葉を教えると大変なことになるのだ。 みんなも気を付けよう! ノエルが腕を一閃すると、劣勢を察し慌てて合体し直そうとするミニゴホウに、雪玉がぶつかったかと思うと崩壊して足元を埋め、瞬時に凍り付いて手足を地面に縫い付ける。 「せっかく大勢になったんだから急いでリュニオン(再結合)しちゃ勿体ない! 忙しい橘音くんの代わりに遊んであげるよ! 雪合戦だ! 一人でも僕にタッチできたら君達の勝ちな!」 例によって攻勢ターンに入った瞬間にあからさまに分かりやすく元気になったノエルがゴホウ達を挑発する。 もしゴホウ達が日本語を喋れたら、「いや、”勝ちな!”ってドヤ顔で言ってるけどアンタ男だろ!」「見た目だけはやたら綺麗だけど男……だよな!?」 「でも雪"女”だから呪いワンチャンいけるんじゃね!?」「あれ? なんか焦点を後ろに合わせると変な映像が見える気が……」 「しかし我らのプライドにかけてあんな変態を女枠に入れてはいけない……!」 等と審議が繰り広げられているところ……かどうかは定かではないが。 「ふっはははは! 遅い! そんなんじゃハイハイレースで優勝狙えないぞ!」 再結合を阻まれ困惑しているらしいゴホウ達に、ノエルは両手を同時に使って次々と雪玉を当てていく。 相手は破魔の結界で動きが鈍くなっているので当てるのは楽勝であった。 足元が氷雪に埋もれて身動きできなくなったゴホウ達を前に作り出すは ご丁寧に8tと凹凸で描かれた無駄に巨大な氷のハンマー。(実際には8tも無いよ!) 「お次はモグラ叩きだー! ワニワニパニックでも可ッ! とーう!」 ハンマーを振りかざし無駄に大きいモーションで跳ぶ。 動けない奴ら相手にモグラ叩きも何もあったものではない。これは酷い! 「えっ! ヤバ……!」 そこにチッポウの横薙ぎの張り手が飛んできた。 チッポウは橘音が引き受けていたはずだが、流石に小さいお友達を容赦なくいじめる悪い奴を放置できなくなったらしい。 イジメ、ダメ、ゼッタイ! 「たあッ!!」 とりあえず振りかざした8tハンマーを上段振り下ろしから強引に横一閃に変更して迎撃し、 その反動で敢えて派手に吹っ飛ばされることで衝撃を和らげる。 少し離れた場所で地面を二、三回転がって立ち上がり、追撃に備えて身構えるが……来ない。 溶解液は飛ばしてくるものの、ゴホウ達を足止めしたあたりから動こうとしない。 その様子を見たノエルは、とある仮説に行きついた。 まさか、ゴホウを守ろうとしているのか――!? 連携はしている気配はあったが、仲間を守ろうとする意識まであるというのか。 そう思ってしまった瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/266
267: 御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc [sage] 2017/02/15(水) 22:08:33.16 ID:U+Xmh4YZ 「ほらほら、こっちだ、来てみろよ!」 その痛みを悟られぬよう表向きは変わらぬ調子で挑発しつつ。 雪玉をぶつけて牽制しながら、大きく位置を動こうとしないチッポウの周囲を円状に駆ける。 敵の攻撃に当たらないように相手の周囲をぐるぐる回りつつ自分は遠距離攻撃を加える アクションRPGのボス戦でありがちな立ち回りだ。 そして一周回ったところで相手の方に向き直り、地面に手を付いた。 「――アイスプリズン!」 チッポウがいる地点の四方を囲うように、氷の壁がせり上がる。 ゴホウ達を凍りつかせた地点もその範囲内に入っている。 とはいえ、このままではいずれ溶解液で脱出されてしまうのだが―― 「ギャアァアァァァァアアアアアァァアァァアアァアアア!!!」 囚われたチッポウの怒りの絶叫が響き渡る。 「あーあ、雪山でそんなに大きい声出したら駄目だって。終わりだぁあああああああ!」 自分はこの子たちの仲間を想う気持ちを利用した――仲間を失う事に一番怯えているのは自分自身だというのに。 人間に似た部分の心の激痛を誤魔化そうとするかのように、敢えて無邪気で邪悪ともいうべき笑みを浮かべ、腕を掲げる。 しかしここで言う邪悪は飽くまでも人間の尺度から見た時のこと、自然災害は常に人間の都合など知ったこっちゃないのだ。 氷の壁が質量保存の法則を無視したレベルの大量の雪と化し、壁の内側に雪崩れ込んでいく! そう、雪崩れ込むという言葉のそもそもの語源、巻き込まれた者全ての息の根を止める、 雪山で遭難が流行らなくなった現代に至っても度々甚大な被害を出す氷雪系最恐の凶悪無比な自然災害――雪崩である。 雪女のホームグラウンドは言うまでも無く雪山。 もちろんここは雪山ではないのだが、先程円形に走ったことで、その内側に自らの領域――結界を作り上げたのだ。 「勝負――アリ!」 勝利を確信したノエルは、橘音に向かっていつもに増してとびっきりのドヤ顔を向けるのだった。 ちなみにどうやって寄木細工掘り出すんだ!?とか後先全く考えていないぞ! http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/267
268: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/16(木) 23:22:34.00 ID:zIU5WpN+ 最初に人を殺したのは、苦痛から逃れる為であった。 呪具として改造された魂は、製作者の意図に従い動かねば、耐えがたい苦痛が与えられるからだ。 次に人を殺したのは、苦痛を味わいたくないが故であった。 呪具に刻まれた呪いの通りに人を殺せば、自分は痛くないからだ。 更に人を殺したのは、母の温もりを求めたが故であった。 標的(オカアサン)の胎内(ナカ)に戻れば、幸せに生まれ直す事が出来ると思ったからだ。 尚も人を殺したのは、自分が知らない幸せを持つ人間を憎むが故であった。 誰かが自分と同じ様に苦しんで死ねば、少しだけ気持ちが晴れる気がしたからだ。 そうして、次も、次も、次も。 殺して殺して 殺して殺し。 呪って呪って 呪って呪い。 やがて異形の霊体(カラダ)を手に入れて 九十九の神と呼ばれる存在に成り果てて 電子の海を揺蕩う、人の噂に力を与えられ 製作者の意図をも超え、とうとう人智を超えた霊災と化した頃 人を殺すのは、人を殺す為となっていた。 自身の力に抗えずに無様に死んでいく人間を見る事に、愉悦を感じる様になったからだ。 百を越える年月を経た、コトリバコ。 『ニホウ』『サンポウ』『シッポウ』 彼等は、時を経て哀れな被害者から本物の怪物と成り果てた。 人を殺す為に殺す、救えぬ怪物と化したのだ。 そして今、その三体の怪物の殺意は一人の男に向けられている。 尾弐黒雄 喪服を着こんだ悪鬼。 腕力と頑強さを武器に、有象無象、魑魅魍魎共を捻じ伏せる悪意と暴力の権化。 その尾弐への奇襲を成功させたコトリバコは、今や尾弐の体を玩具でも扱うかの様に粗雑に――――破砕していた。 呪詛の強酸を浴びせかけ、巨大な腕で頭を掴み、アスファルトへと叩き付け。 脚を掴み振り回し、離れた位置に在る商店のコンクリの壁へと放り投げ。 それを餌を放られた犬の様に追いかけると、その拳で、或いは掴んだ瓦礫で、殴りつけ、踏みつける。 尾弐を破壊する三体のコトリバコ達は、本当に楽しそうに。まるで子供の様に無邪気な笑みを浮かべている。 これだけ壊れにくい玩具を手にしたのは、初めてだったのであろう。 自身の手で命を奪う行為への興奮に、本物の赤子の様な笑い声を挙げる彼等。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/268
269: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/16(木) 23:23:07.48 ID:zIU5WpN+ そのまま絶え間なく暴力は続いていったが……やがて、土煙で尾弐の姿が見えなくなった頃。 コトリバコ達は唐突にその手を休めた。 疲労?慈悲?……否。 彼等は自身が振るった暴力の結果を確認する為に、コトリバコ達はその拳を止めたのである。 彼等が脳裏に浮かべる土煙の向こう光景は、まるで挽肉の様にグズグズになり、力なく絶命している尾弐の姿。 あれだけの呪詛の酸を、暴力を、蹂躙を受けたのだ。丈夫な玩具と言えども壊れない筈が無い。 釣りあがる口元を隠す事も無く揃って、三つ子の子供の様に楽しげに嗤うコトリバコ。 そうして、土煙は晴れる。 向けられる視線。そこには……瓦礫に上半身が半ば埋もれ、力なく首を垂れる尾弐の姿があった。 瓦礫からはみ出た左腕は切り刻まれたかの様に血まみれで、一部の傷は肉の先。白い骨を露見させている。 更にその上半身からは、溶解液の効果であろう。今尚煙が上がっている。 その様子を見た3匹のコトリバコは、思ったよりも損壊が少ない事に若干不満げな様子を見せたが、 それでも再起不能と思うに十分な傷を与えた事への喜びの方が大きかったのであろう。 動かない尾弐の元へ、最後の仕上げ……いざ止めを刺さんと近づいていく。 そうして。とうとう尾弐の前まで辿り着いた『シッポウ』のコトリバコが、 その頭を喰らわんと大きく口を開き――――その直後。 風船が割れる様な音が響き、『シッポウ』の巨大な頭が、消し飛んだ。 突然の事態に思考が付いていかず、動きを止めたのは『ニホウ』『サンポウ』のコトリバコ。 呆然としながらも、原因を探るべくその異形の目を動かし見て見れば、そこには 「……あー、悪ぃな。オジサン、力加減間違えちまったわ」 瓦礫に埋まっていた上体を易々と立ち上げ、数刻前に那須野にデコピンを見舞った時と同じ様に、右腕を前に突き出している尾弐の姿。 いや……同じというには語弊があろう。 何故ならば、尾弐の突き出した右腕。その拳は、鉛の様に黒く禍々しく変化しているのだから。 そう。 加減の無い数多の暴力に晒され、呪詛により生み出された酸を浴びせられて、それでも尚。 尾弐黒尾は、健在であったのだ。 健在であり、尚且つコトリバコを確実に屠る機会を窺がっていたのである。 ……コトリバコ達は、気付くべきだった。 最も損壊している尾弐の左腕、その傷が全て、彼らが持っていない『刃物による切傷』である事に。 嬉々として暴力を叩きつけている最中、尾弐が一度も苦悶の声を洩らしていなかった事に。 「さて、いい感じに大将達から見えねぇ程遠くに運んでくれたみてぇだし お前らも俺相手に十分自分勝手を楽しんでくれたみてぇだからな……もう、いいだろ」 そうして、瓦礫の山を発泡スチロールか何かの様に易々とかき分け抜け出した尾弐は、そのまま立ち上がり一つ歩を進める。 すると……それに呼応するかの様に、何か得体の知れない感覚に押されたコトリバコ達は、一歩後退した。 更に尾弐がもう一歩進めば、今度は二歩分後退する。三歩、四歩と進める内に、コトリバコが退く歩数は増え。 やがて『ニホウ』と『サンポウ』は、彼らがかつて感じた事のない悍ましい感覚に従い、尾弐へ完全に背を向けると、 急き立てられるかのように逃走を開始した。 それは、奪われた物として発生し、奪うモノとして存在してきた彼らからは縁遠い『恐怖』という感情によって齎された行動であった。 一目散に逃走するコトリバコ……だが、その逃走は直ぐに終わりを向ける事となる。 『禹歩』 那須野が先頃展開したその破魔の結界が、壁となり彼らの前に立ちはだかったのだ。 周囲一帯を覆う破魔の結界であるが……コトリバコ達を含む尾弐の周囲十m程には、 まるで浄化しきれない穢れでもあるかの様に、展開出来ておらず、 それが故に、コトリバコ達は周囲を結界に囲まれると言う、ある種の牢獄に囚われたかの様な状態となったのである http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/269
270: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/16(木) 23:23:44.34 ID:zIU5WpN+ 「逃げてくれんなよ、怪物共。俺のこの姿は連中に……特に、那須野の奴には見せる訳にはいかねぇんだからな」 退く事の出来なくなったコトリバコは、迫る尾弐に対し暫くの間混乱した様子を見せ……結局、彼等は己の力に縋る事となった。 状況を打開する為に、他者を理不尽に蹂躙する事の出来ていた己の力を信じ、反撃を試みたのである。 先ず行われたのは、『ニホウ』による溶解液の噴射。それは、あらゆるモノを溶かす呪詛の毒である。 「毒で俺を殺りたきゃ――――神さんから貰った酒に盛って飲ませるなりしやがれ」 だが、それは今の尾弐に対しては僅かに皮膚を焼く程度の効果しか齎す事は出来ず……まるで用を成さなかった。 当然である。呪詛は上位の呪詛で塗りつぶせる。ならば、呪詛で出来た溶解性の毒液が、『今の』尾弐に通用する筈が無いのだ。 そのまま尾弐が右手で溶解液を噴き出し続けるニホウの頭を叩くと……まるで巨大な鉄槌でも振り下ろされたかの様に ニホウの頭は潰れ、地面にめり込んでしまった。 続いて行われたのは、『サンポウ』による巨体を利用した押し潰し。 数百キロはあろうかというその重量は、並みの人間であれば床の染みに出来る程のものである。が 「じゃれ付くんじゃねぇ。いつまで赤ん坊のつもりでいやがんだ。怪物が」 尾弐の右腕一本により、その巨体は受け止められてしまった。 いや、それだけではない。尾弐が力を込めると、サンポウの巨体は中空に放り投げられ、 そのままその胴体を尾弐の拳により貫かれてしまったのである。 そして最後に、尾弐の背後から襲い掛かってきたのは頭部の再生をようやく果たした『シッポウ』のコトリバコ。 シッポウは、最初に奇襲を成功させたのと同じように尾弐の左側面へ向けてその巨大な拳を振るう。が 「不意打ちで首を落とせなかった時点で、お前さん達に勝ち目はねぇよ。諦めろ」 尾弐は、振るわれたその拳を右手で受け止めると、そのままシッポウの指を二本掴み――――骨ごと力任せに引き抜いてしまった。 ・・・ かくして尾弐の眼前に広がるのは、阿鼻叫喚。粘液に塗れ、苦痛にのた打ち回る3匹のコトリバコ達の光景。 先程までの愉悦の色は遥か遠く、恐怖と苦痛から逃れようともがき暴れる異形の赤子の姿は、いっそ哀れですらある。 ……だが、尾弐はそんなコトリバコ達を見ても眉ひとつ動かす事はなかった。 尾弐は、ただ淡々と。底の見えない闇の様な色の瞳で見据えながら口を開く。 「どんな理由があろうと、自分の意思で自分の望む通りに他人を殺した奴に救いなんてモンがあると思うな。 人を呪わば穴二つ……人を殺す事を楽しんじまったテメェらは、もう哀れな犠牲者じゃねぇ。 同情される事すら許されねぇ、立派な『コトリバコ』って名前の怪物なんだよ」 そうして尾弐は、必死に逃げようともがくコトリバコ……『シッポウ』のすぐ側まで近づくと、拳を振り上げ。 「だから――――テメェらみてぇな怪物の相手は、同じ怪物で十分だ」 その胴体へと右手を突き刺し……体内から小さな木箱を、無理矢理に取り出した。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/270
271: 尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE [sage] 2017/02/16(木) 23:23:59.58 ID:zIU5WpN+ 尾弐が取り出したその木箱は、他のコトリバコ達のものとは違い、核となる嬰児の魂と呪詛が融合してしまったかの様に変形してしまっている。 まるで心臓の様に脈打ち、色はどす黒く変色しているコトリバコ。 己の体から取り出された其れを、『シッポウ』のコトリバコは必死になって取り戻そうと腕を伸ばすが……その手が届く前に 尾弐の右手は、小箱を握りつぶした。 箱が潰れるのと同時に苦痛の叫び声を上げながらドロドロに溶解し消滅する、コトリバコの異形の赤子としての姿。 だが尾弐は、その悲鳴すらも気にする事は無く、『ニホウ』『サンポウ』と、順々に小箱を破砕していく。 コトリバコの体液に塗れながら、無表情に淡々とその作業をこなしていく尾弐の様子は、 ある意味ではコトリバコよりも余程怪物じみていた。 そうして、3つのコトリバコを破壊した尾弐は……そのまま、ドサリと瓦礫へと座り込んだ。 「あー、痛ぇ……年甲斐も無く気張り過ぎたかねぇ」 いかな頑強な尾弐とはいえ、あれだけの攻撃を受ければ流石に完全に無傷とはいかない。 最も大きな傷は破魔の刃を作る為に自分で切り刻んだ左腕だが、それ以外にも小さな傷が、尾弐の全身の皮膚に刻まれている。 着込んでいた喪服も一部を残してすっかり融解してしまった為、ブリーチャーズの面々と合流する前にそこらの店で現地調達する必要があるだろう。 「まあ、それでも……こんだけの『呪詛』の塊を喰らえば、ちったぁ目的に近づけた、かね」 そう呟いた尾弐は、自身の右手……先程まで黒く変色していたその拳に一度視線を落とし、黙りこんでいたが、 ……暫くして、他のブリーチャーズの面々が戦闘を行っているであろう区域へと視線を向ける。 「ムジナの奴に任せた以上、万が一にも死人が出る様な事はねぇだろうが……一応、急いで戻るとするか」 そう言って、立ち上がる尾弐。 道中の無人と化した服飾店でレザージャケットを勝手に借り受けた彼は、大分距離が開いてしまった仲間たちの元へと向かう。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/271
272: 創る名無しに見る名無し [] 2017/02/20(月) 21:57:23.36 ID:iQSeyJh3 35:54 ↓ 10:40 https://www.youtube.com/watch?v=WTdY7h129Mk https://www.youtube.com/watch?v=8R0luOy8ce8 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/272
273: 創る名無しに見る名無し [sage] 2017/02/20(月) 23:07:35.27 ID:id/JqesG >>272 失せろや糞マルチ ハゲ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/273
274: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/21(火) 15:18:41.57 ID:nF0h8BIm ずだだだだ、と不格好なガニ股走りでロッポウから逃げる品岡。 無論敵から目を背けて無防備を晒しているわけではない。ちゃんと背中に目を生やしている。 追って飛んでくる粘液を目視し、ジグザグに動いて躱しながら疾走する。 「あかん息切れてきた……!煙草やめよっかなもう……!」 タールに塗れた肺が酸素を求めて律動し、水際の金魚のようにパクパクと喘ぐ。 肉体疲労とは無縁の妖怪と言えど、今日は朝から色々妖術を使いすぎた。 元々そこまで妖力の残高に自信のあるほうでない品岡は露骨に足運びの精彩を欠く。 ロッポウの足音がすぐ背後まで迫ってくる……! >「――スリップ」 横合いから鈴の鳴るような声がしたが早いか路面が突如凍りつき、疾走していたロッポウが足を取られた。 重量感のある転倒の音が響き、走りながら吐いていたゲロが明後日の方向に飛んで街灯を溶かす。 「でかした優男!」 出現したアイスバーンの主は、何故か精肉屋の庇の上でチューブ容器を名残惜しそうにちゅうちゅう吸っているノエル。 涙の出るような好アシストだった。 思わぬ加勢に調子を取り戻した品岡は振り向きざまに、抜け目なく再装填を終わらせていたトカレフを撃つ。 二発、三発。相変わらずの糞エイムで無駄玉が遠くを穿つが、一発がロッポウの右半身に命中した。 「よっしゃ、弾ぜろやクソガキ!」 間断なく妖力を遮断し弾頭の形状変化を解除、廃車のフレームに復元する。 体内で異物を膨張させられたロッポウはイッポウと同じ末路を――辿らなかった。 廃車はロッポウのすぐ後方に現れた。 「なんやと……!」 着弾観測から弾頭の復元、その一瞬の間隙を縫って、ロッポウは被弾箇所を自らえぐり取ったのだ。 虚空に放られたロッポウの肉片が、出現した廃車によって押し潰される。 深く抉られた傷口からは緑の体液が溢れ、それが地面を焦がす頃には傷が塞がってしまった。 ケ枯れには、至らない。 「そら学べ言うたのはワシやけど……適応早すぎるんとちゃうか」 イッポウがケ枯れさせられた原因を即座に理解し、その対策まで完璧にやってのける。 最悪の霊災、最凶呪具の付喪神。わかりきっていたことではあるが、やはり怪異としての格が違う。 ヒトを殺す為の呪いは、より効率よく殺す為に――殺し続ける為に、進化を続けている。 ――!…………――!!! ロッポウは吠える。 その轟きにイッポウのような品岡を揶揄する響きはなく、純粋な己を鼓舞する叫び。 味方を破壊され、孤立し、自分を滅ぼせる相手とおそらく初めて対峙したコトリバコに、最早愉悦の色はない。 ただ人間を嬲り殺すだけだった呪詛の化身が、己が敵を滅する戦士と化し始めていた。 「しんどいなぁ、付き合いきれんわ。ちゅうても見逃してくれるわけやないよな。 ええで、とことん付き合うたるわ。……大人やからな」 ボコ、ボコ、ボコ……と地面に穿たれた複数の穴から廃車のフレームが生える。 それらの圧縮に使っていた妖力を止め、わずかではあるが回復はできた。 氷の棘付きスレッジハンマーを片手で構え、重心を落とす。 「……行くでコトリバコ、ジブンの好きなじゃれ合いや」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/274
275: 品岡ムジナ ◆VO3bAk5naQ [sage] 2017/02/21(火) 15:19:20.17 ID:nF0h8BIm 刹那、品岡の姿がロッポウの視界から消えた。 十歩ほど離れたアスファルトが擦れる音、一瞬だけ現れた品岡が更にブレて消える。 品岡の姿を捉えたロッポウが粘液を吐く頃には最早的はそこにない。 形状変化で足の骨を強力なバネに変え、鞠のように跳ね回っているのだ。 「っつおらぁ!」 バネの加速そのままに、横合いからハンマーがロッポウの顔面を捉えた。 氷の棘が赤子の表皮を一瞬で凍結させ、次いで打撃がそれを砕く。 そうして二度、三度と少しづつではあるが、確実にコトリバコの体積を削いでいく。 「修復する隙なんぞやるかいな」 祈ほどの強烈な速力はないが、ロッポウの反応速度を超えられればそれで十分。 復元弾頭のように一撃では仕留められなくとも、このまま一方的な攻勢に持ち込み続ければ、いずれはケ枯れさせられる! ロッポウが息を吸い込んだ。粘液を吐く予備動作だ。 しかしその射出口たる巨大なあぎとは明後日の方を向いている。 コトリバコの恐るべき学習能力が、品岡の機動力をバネによる直線的なものと見抜いた。 彼の一瞬後の位置を予測してそこ目掛けて粘液を吐きかける。 果たして、放物線を描く粘液の先に品岡が現れた。 「浅いわ」 地面のアスファルトがめくれあがり、粘液に対する壁となった。 溶けゆく壁の向こうからハンマーが飛び、コトリバコの下顎を砕いた。 痛みに悲鳴じみた叫びを上げながらもロッポウの両眼は品岡を睨めつける。 ボコンボコンと身体を蠕動させながら赤子の唇が蕾のようにすぼまった。 (何するつもりや……距離開けたほうがええな) ただならぬ動きに警戒する品岡は二歩、三歩とバネ足でバックステップ。 踏んだ地面が隆起し、都合三枚の壁が品岡とロッポウの間に形成された。 ロッポウの身体がかつてないほどに、体積にして倍ほども膨れ上がる。 キィ……と甲高い音で鳴いて唇から粘液が噴き出した。 「それしかできんのかい、芸が無いのぉ――」 鼻で笑った品岡の右腕に激痛が奔った。 さながら水鉄砲の要領で射出口を狭め速度と圧力を増した粘液が三枚の壁を一瞬で貫通し、その先の品岡を撃ち抜いていた。 「あ……?ああああああああっ!?」 圧縮粘液に穿たれた右腕が毒々しく変色し、煙を立てながら腐食の範囲を広げていく。 品岡はたまらず情けない悲鳴を上げながら左手で右の腕を掴み、形状変化で引き千切って捨てた。 握ったスレッジハンマーごと地面に放られた右腕が、溶解してアスファルトの染みと化した。 「前言撤回や。頭使っとるやないか……」 自切した右腕が戻らない。コトリバコの呪いの一部が残っているのだ。 形状変化で強引に腕を作ることも考えたが、残り少ない妖力を無駄には出来なかった。 品岡は潔く腕を諦めて再び走る。彼のいた場所にロッポウが轟音を立てて着地した。 「おのれが……!」 残った左腕で拳銃を撃つ。利き腕を失い回避しながらの射撃では当然当たらない。 ロッポウが距離を詰める。牽制に鉛玉をばら撒きながら少しでも距離を取る。 趨勢は完全に逆転し、品岡は防戦一方だった。 片腕でできる攻撃などたかが知れているし、何よりノエルの妖術のかかったハンマーを落としたのが痛い。 現状コトリバコに対して有効な打撃の放てる唯一の武器だった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/275
276: 創る名無しに見る名無し [sage] 2017/02/21(火) 15:20:00.76 ID:nF0h8BIm 【次スレに続く】 【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487419069/ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/276
277: 創る名無しに見る名無し [sage] 2017/02/24(金) 05:35:10.97 ID:J7kwTUW9 期待してるよ! http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/277
278: 創る名無しに見る名無し [sage] 2017/06/08(木) 08:51:31.14 ID:yUN74uNw この板はめいいっぱいまで書き込まないとスレが倉庫に落ちないのである http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/278
279: 第壱話ダイジェスト [sage] 2017/06/08(木) 21:48:04.06 ID:UXL9Bb/x 都内の某雑居ビルに事務所を構える高校生探偵の那須野橘音、 その正体は三尾の狐であり、妖壊漂白チーム東京ブリーチャーズのリーダーだ。 橘音のもとに、今日も上司の玉藻前から指令が下る。今回の討伐以来は八尺様。 橘音が所属メンバーに電話をかけまくった結果、 橘音の探偵事務所の助手でもあるターボババアの孫の太甫祈と 橘音と同じ雑居ビルでかき氷喫茶店をしている雪女(イケメン)の御幸乃恵瑠が作戦に参加することとなった。 祈が男子小学生に変装し、橘音が結界を張った公園に誘い込むべく囮となる。 祈は見事な機転で八尺様を公園に誘い込むことに成功し、戦闘が始まる。 最初は互角に戦っていたものの次第に追い詰められていくノエルと祈。 絶体絶命のピンチに陥った時、葬儀屋を営む鬼の尾弐黒雄が駆けつけ、事なきを得る。 しかし状況は依然として予断を許さない。 そんな中、打開策を考える間持ち堪えるように皆に要請する橘音。 八尺様から激しい怨嗟を向けられ気を失うノエルだったが、気絶から目覚めたノエルは橘音に告げる。 八尺様は『橋役様』だと。 かつて幼い頃に妖壊と化したこと、その時に生贄として少年――『橋役様』を捧げられたことを思い出したのだ。 それは、古の時代に行われていた人身御供の風習が生み出した哀しき妖怪。 『橋役様』とは自然災害を鎮めるために、神に捧げるために生贄とされた少年のことであり この八尺様は、橋役様として生贄にされた我が子を求め彷徨う母親の霊の集合体だった。 その言葉を受けた橘音は、橋役様とされた少年の霊達、妖怪名「ミサキ」を召喚。 何組もの母親と子が再開を果たし成仏していく。 その後に残ったのは、かつて複数の少年を殺した背の高い猟奇殺人者の女の悪霊。 哀しき母親の霊達を取り込み利用していた諸悪の元凶だった。 しかしそれらの力を失いただの悪霊となった八尺様などブリーチャーズの敵ではない。 弱弱しい姿になった八尺様が尾弐によってあまりにも容赦なく消し飛ばされた光景を目の当たりにした祈は これでよかったのかとノエルに問いかける。 ノエルはいつか生まれ変われると説き、優しく祈を抱きしめたのだった。 一方の橘音は、八尺様が消えた場所から怪しげな紙片を拾い上げる。 それは今回の八尺様の事件が何者かの差し金によるものということを示していた。 そんな彼らを高層ホテルの一室から見つめる4つの人影―― 彼らは東京ドミネーターズ。彼らこそ、八尺様ばかりではなくここ最近の妖壊事件の黒幕であった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480066401/279
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