[過去ログ] 【ゾンビ】ホームセンター攻防扁【ゾンビ】 その2 (790レス)
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417: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 02/10/23 12:06 AAS
>>416
お前、素人か?
ころころトリップ変えんなよ。 眼が腐るだろ。

ああ。
読者代表=マテリアル=自演擁護 だったか。
418: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:19 AAS
帝都が燃えていた。
吉田少年は逃げ惑う人々の中、祖母が働いている繊維工場へと急いだ。
正午前に起こった大地震の影響でたくさんの建物が倒壊し、各地で大規模な火災が発生している。
あたりには見るも無残な死体が無数に転がっていた。むせ返るような肉の焦げるニオイと煙、
肌が焼けるような熱気に追われ、人々は逃げ場もなく逃げ回っている。

祖母は無事だろうか、吉田少年は込み上がってくる不安と必死に戦った。
母は吉田少年が3歳の時に病死しており、社会主義者であった父が憲兵隊に殺害されてからは
祖母が吉田少年を育ててくれていた。唯一の肉親。そんな祖母を失う事など考えられない。

見慣れた電柱、見慣れた看板、見慣れた店、見慣れた家が燃えている。吉田少年はいつしか
自分の家の近所までたどり着いていた。繊維工場まではあと少しだった。見慣れた風景が
省2
419: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:19 AAS
「ばあちゃーーーん!!」
衝動的に叫んでいた。やがて逃げ惑う繊維工場の人々の中に祖母の友人の青森夫人を見つける。
青森夫人も吉田少年に気付き、走り寄ってきた。
「ケンちゃん!大丈夫!?」
「おばさん!ばあちゃん、ばあちゃんは!?」
青森夫人は一瞬動きを止めると、口の中で何かモゴモゴと言った。
「ばあちゃんは!?」
青森夫人はかがむと、吉田少年の肩に手をかけた。
「ケンちゃん・・・、いいかい」
「ばあちゃんは!?」
省7
420: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:20 AAS
吉田少年は燃え上がる工場に向ったが、熱気の為に近づくことができない。
絶望と恐怖と怒りが内在された声で吉田少年は叫んだ。しばらくの間、燃えゆく工場の
前で泣き続けたが、やがて工場が轟音をたてて崩れ落ちると吉田少年は泣くことを止めた。

吉田少年は青森夫人を探したが、彼女はもうどこかへ逃げてしまった様だった。
「自分は本当に一人ぼっちだ」
祖母を失ってしまった現実が後頭部の辺りからひしひしと感じられてきた。
自然と足は友人の宗一の家に向っていた。その日の午前中、吉田少年は宗一と虫取りを
していたのだった。町はずれの森にいた為、直接的な難を逃れることができた。
信じられない揺れが起きた後、二人はそれぞれの家を目指して散り散りに帰って来たのだ。

吉田少年は11歳、宗一は6歳。年の違う二人だが、吉田少年の亡き父と宗一の叔父が大親友だった
省3
421: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:21 AAS
街では早くも略奪行為がおこなわれ始めていた。吉田少年の瞳にあさましい人間達の姿が映った。
他人の家から物を盗み出す者、女性を犯す者、殴りあう者、外国人を集団でリンチしている人々もいた。
燃え盛る帝都・東京は炎に包まれながらその闇を深めていった。吉田少年は恐怖に慄き、陰惨な光景から
逃れるようにひたすら大杉家を目指した。

火の手を避け、遠回りをした結果、吉田少年は道に迷ってしまった。街の様子が変わってしまっている為、
方角さえわからない。夜が間近に迫っていた。吉田少年は途方にくれ、その場に座り込んだ。
潰れた民家の庭先。この区画は火がまわらなかったらしい。遠くの空は赤く燃え、低い「轟」という音が
絶え間なくしているが、そこは静かだった。住人はどこかへ避難したのだろうか。人の姿が見当たらなかった。

どれくらいの時間そこに座っていたのか、吉田少年はふと目が覚めた。うたた寝をしていたらしい。
もう昼か、と思ったが違った。空が炎で照らされているのだった。ふと祖母の死を思い出す。
省5
422: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:21 AAS
その場を離れようとすると、後ろから呼び止められた。
「待て!!」
振り向くと、軍服姿の人間が複数いた。
「君は一体ここで何をしているのか」
見ると全員「憲兵」の腕章をつけている。吉田少年の父を殺した憲兵隊だった。
吉田少年は返事をしなかった。
「この一帯には避難勧告が出ている。すぐに避難場所に合流しなさい。」
吉田少年はその下っ端らしい憲兵の言葉を無視し、後ろに控えている偉そうな男を睨みつけた。
「おい!!君!聞いてるのか」
下っ端憲兵がヒステリックな口調で言った。
省10
423: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:22 AAS
移動する際、吉田少年は憲兵達の会話を聞いていた。
「この帝都の混乱に乗じて、朝鮮人、社会主義者達が井戸に毒物を混入させる等の不埒な行為を
おこなっている」
「本日の地震は、欧米諸国による新兵器利用の攻撃である」
等々、その他多くの流言飛語が巷であふれ始めており、民間人の動揺を誘っているということだった。
中でも一番興味深かったのが、「死体が歩き回っている」というものだった。

「甘粕大尉殿」
下っ端憲兵が偉そうな男を呼んだ。
「前方に怪しげな集団が」
そう言って前を指差した。
省8
424: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:22 AAS
近づいていき、あと少しというところでメガネは立ち止まった。そしてゆっくりと後退し始めた。
「何をやっとるんだ、あいつは・・・」
下っ端がつぶやいた。
「お前も行ってこい」
「はっ!」
甘粕大尉に言われ、下っ端も走っていった。
途中、メガネに何か言ったあと集団に近づき、その後メガネと同様に後退を始めた。やがて二人は
全速力で戻ってきた。
「どうした?」
甘粕大尉が尋ねると、息を切らしながらメガネが叫んだ。
省12
425: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:23 AAS
やがて足を引きずる音と共に、10人ほどのフラフラ歩きの連中が近づいてきた。
その時点で一同はメガネと下っ端の言わんとしたことがわかった。
歩いてくる連中は頭が欠けて脳が飛び出したり、身体の一部がなかったり、明らかに「生きている」人間
ではなかったのだ。吉田少年の脳裏に先ほど聞いた話がよみがえった。「死体が歩き回ってる」。
甘粕大尉を見ると額に手をあてて何か考えている様子である。そしてしばらくの後、彼は命令を下した。
「構え銃」
8人の憲兵達は一斉にライフル銃を構えた。命令を待ちかねていた様子である。
「頭を狙え・・・・。よし、撃て」
銃声がこだました。吉田少年は耳をふさぎながら歩く死体が崩れ落ちる様を見た。
残った数体がこちらへ向ってくる。憲兵達は続いて発砲した。「どう」という音と共にそれらは倒れた。
省17
426: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:23 AAS
○町もまた、あちらこちらが焦土と化していた。目指す施設はもうすぐ。吉田少年は憲兵達と歩きながら、
宗一や大杉がいないか周囲に目を配った。しかし人はいなかった。
「人どころか、死体もないってのはどういう事ですかねえ・・・」
憲兵の一人が不思議そうに言った。
「野村、位置確認をしろ」
甘粕大尉が立ち止まってねずみ憲兵に指示を出した。
「はい」
ねずみ憲兵は地図を出して眺め始めた。
憲兵達と一緒に立ち止まりながら吉田少年は周囲の様子を見ていたが、一行の後方の建物の陰に動くものを
見つけた。
省8
427: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:24 AAS
「甘粕大尉殿」
のっぽ憲兵が指示を求めた。
「呼びかけてみろ」
「はい。おいっ、生きてるか!」
何と間の抜けた呼びかけであろうか。男女からの返事はなかった。
「飯山、足を狙って撃て」
「はい」
ターンという渇いた音が響いた。はずれたらしい。誰も倒れない。しかし、逃げ出しもしない。
「よし、撃て」
全員が発砲した。3体は崩れ落ちた。
省9
428: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:26 AAS
ねずみ憲兵はもうすぐといったが、吉田少年はかなりの距離を走った気がした。しばらくして前方に
四角いシルエットが見え始めた。大きな建物だ。
「大尉殿、あれです前方の・・・」
ねずみ憲兵が息切れしながらその建物を指さした。
「あ!」
憲兵の一人が叫ぶのと同時に全員が立ち止まった。建物の手前にたくさんの人影があったのだった。
「た・・・」
のっぽ憲兵が口を開こうとした次の瞬間、眩い光が一行を包んだ。軍用のスポットライトである。
続いて拡声器が呼びかけてきた。
「何者だ」
省4
429: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:27 AAS
建物の敷地内はたくさんの兵士であふれていた。黒塗りの外壁が不気味な建物である。中に入ると無機質な
廊下が続いていた。一行はその奥のホールのような場所へ導かれて行った。
「甘粕大尉殿、こちらへ。吉薗様がお待ちです」
一行を残し、甘粕大尉は別室に通された。部屋には見慣れた顔が待ち受けていた。
「やあ、甘粕さん」
そこにいたのは陸軍特務・吉薗周蔵であった。
「どうも」
甘粕大尉は頭を下げると、羽織っていたマントを脱いだ。
「どうぞ、かけてください」
二人は応接チェアーに腰かけた。吉薗はすぐに話を切り出した。
省13
430: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:28 AAS
「その人物とは?」
甘粕大尉は首をかしげると額に手をやった。
「大杉栄です」
「・・・大杉ですか」
「ええ、ご存知のように大杉は表向き社会運動家となっていますが、その実、政府役人の草です」
甘粕大尉は頷きながら座ったまま身を乗り出した。
「フランスでも色々と嗅ぎまわっていたらしいですな」
「ええ、上原元帥もかねてより何かしら始末をされるおつもりでしたが、決定的な事態となりまして」
「ほう」
窓の外から軍靴が規則正しく踏み鳴らされる音が聞こえてくる。士官が兵に集合をかけている。
省21
431: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:29 AAS
吉田少年は一人大杉家を目指していた。軍施設を去る際、甘粕大尉は護衛にのっぽ憲兵をつけると
言ったが、吉田少年は断った。あの間抜けな憲兵と一緒にいる方が危険な目に合いやすいと思ったし、
何より父の仇の世話にはなりたくなかった。吉田少年は行き先も告げず、逃げるように軍施設を後にした
のだった。

半倒壊した建物が密集する通りを抜け、悪路をひたすら歩いた。もうじき大杉家が見える筈である。
途中、歩く死体を何体か見かけたが、忍び足で進み何とか気付かれずにすんだ。
「一体、あいつらは何なんだろう。大地震で地獄の門でも開いたのだろうか」
吉田少年は色々と想像してみたが、結局わからなかった。わかる筈もない。

やがて見慣れた杉の木が見えた。焼けてしまっていたが、確かに大杉家の近所の杉の木だ。
あの角を曲がれば大杉家がある。吉田少年は最後の力を振り絞って走り出した。角を曲がる時、
省14
432: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:30 AAS
「無事で良かった。ケンちゃん」
「うん、でもばあちゃんが・・・」
大杉に会えた安堵で泣き出しそうになるのをこらえながら、吉田少年は祖母の死を伝えた。
「・・・そうか、残念だった。ここへは?どうやって来たんだ」
「一人で。でも途中まで憲兵の奴らと一緒だったんだ」
「憲兵と」
吉田少年は頷いた。しかし暗闇のため大杉にその様子は見えない。
「うん、甘粕っていう憲兵大尉の隊だったよ」
「甘粕!」
思わず大声をあげた大杉は急に立ち上がると、カーテンの隙間から窓の外を見た。
省14
433: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:31 AAS
その時、奥の部屋からものすごい音がした。戸が破られたらしい。吉田少年は音のした方を見たが、
すぐに大杉に問いかけた。
「そうだ、宗一くんは!?野枝さんは!?」
「・・・・・・」
大杉は無言のまま、部屋の隅にあった暖炉の火かき棒を手に取った。足を擦りながら何かが廊下を歩いて
来る。吉田少年は応接椅子の背後に隠れた。獣のような荒い息づかいが近づいてくる。
やがて応接室の前で足音が止まった。吉田少年は応接椅子の陰からそっと様子を見た。開け放たれたドア。
そこに宗一が立っている。
「宗一くん」
吉田少年は立ち上がり、駆け寄ろうとした。
省8
434: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:31 AAS
「どしゃっ」という宗一が倒れる鈍い音と共に、憲兵隊が応接室に入って来た。その中に甘粕大尉がいる。
「大杉先生」
甘粕大尉は会釈すると、火かき棒を手に呆然としている大杉に向って言った。
「ご同行願えますか」
大杉は火かき棒を放ると、ため息をついた。吉田少年はその様子を黙って見ていたが、やがて怒鳴り
甘粕大尉に飛びかかった。
「人殺し!!」
のっぽ憲兵が横から出てきて吉田少年を蹴飛ばした。吉田少年は転がり、壁に激突した。
「やめんか!暴力は!わかった、同行する」
大杉がのっぽ憲兵を突き飛ばしながら叫んだ。
省11
435: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 12:33 AAS
翌朝、吉田少年は腹部の激痛と共に目覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込んできている。
応接室を出たところに宗一の死体が転がっていた。死んでしまった。涙がこみあげてきた。
奥の部屋へ行くと、そこには大杉の妻・伊藤野枝の死体があった。大杉がやったのだろうか。
後頭部が割れ、うつ伏せの状態で死んでいる。

吉田少年は外に出た。どこからか蝉の声が聞こえてくる。夏の終わり。残り少ない命をはかなんで
鳴いている。吉田少年はフラフラとあてもなく歩き始めた。

後になって、吉田少年は大杉が憲兵隊によって拷問の末、殺害されたという話を聞く。
甘粕大尉が軍法会議の結果、懲役十年の実刑判決を受けたという話も。
どういった経緯でそうなったか、真実は闇の中である。

この震災で、憲兵隊や自警団によって殺害された社会主義者、朝鮮人の数は約6000人とも言われているが、
省2
436: 青田 ◆t291XhvMgA 02/10/23 13:11 AAS
あとがき

次回もシチュエーションを変えて書きたいと思います。
どうもありがとうございました。
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