SSスレ(萌え)8 (188レス)
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147: 陸士長 2013/04/05(金)15:00 ID:oSBGX77E0(3/3) AAS
投下完了。別の場所の名前で打っちゃった(・ω<) テヘペロ
148: 2013/04/12(金)22:30 ID:kFOVoUwU0(1) AAS
物語は唐突に氏、そろそろ・・・
149: パトラッシュ(旧41です) 2013/04/21(日)21:14 ID:t.N5V0vk0(1/4) AAS
「帝国の龍神様」サイドストーリー2(政治編)

 大日本帝国の中枢たる帝都の霞が関一帯は、うなりをあげて全力で回転していた。つい数箇月前までは陸海軍省のみ元気よく他の官庁はついていくだけの状態であったが、いまや神祇院を抱える内務省を筆頭に異世界貿易で得た金貨が積み上がる大蔵省、ダークエルフたちを使った国土再開発計画を推進する商工省、戦争が回避されたことで出番再びと張り切る外務省などが若手官僚を先頭に活況を呈している。米内光政元首相につながる懐疑派もいるにはいたが完全な少数派で、大多数は「やりたいことをやれるうちにやってしまえ」とイケイケドンドンで走りながら政策を考え、実行している有様だった。
 特に東京竜会議の開催に加えて英米首脳の来日という歴史始まって以来の事態が確定した外務省は、後に「陸軍省より戦争状態だ」と回想されるほどの多忙さにあった。ほとんどの官員が連日泊り込みで各国との連絡や大使館との協議、代表団の宿泊地設定まで途切れることのない仕事に取り組み、過労で倒れる者も続出していた。それでも外務官僚は、事務局長役を担う吉田茂竜担当大使の「いまや戦争から外交の時代だ」という激励を受けて頑張っていた――もっとも同じ時期、在外公館は竜州行きを求める現地人男性の勢いが一向に衰えず、仕事もできない状況が続いていた。インドとブラジルでは日本の外交官が拉致され、犯人側から「竜州行きを認めるなら解放する」という脅迫状が届く事件が発生し、現地警察が大慌てしていたが。

 ある夜、ようやく仕事に一段落ついて葉巻を吸っていた吉田は、首相官邸に行っている重光葵外相から至急の呼び出しを受けて駆けつけた。

「吉田さん、中国の汪兆銘政権および蒋介石の国民政府、それにイタリアからも東京竜会議に正式参加したいとの要請がありました。また、オーストラリアとニュージーランドも、マリアナに引き続いて今回も出席する権利があると言ってきたのだが、撫子様はどう思われるか意見を聞かせてください」
 官邸執務室で小磯国昭首相と重光に問われて、吉田は腕を組んだ。政治レベルの問題を実務担当者の自分に聞くとは異例だが、何しろ相手は竜である。現在、海軍を除けば日本政府内で最も竜と親しいとされている自分から判断材料が欲しいわけか。
「マリアナの会合に英米のほかオーストラリアとニュージーランドが参加を求めた際も、撫子様は拒みませんでした。今回、人間側の参加国が増えても同じでしょう。最終的に竜側が決めたことに人間が異議を唱えようとも無駄ですから」
「しかし、それでは帝国の国益も脅かされるのではないかね?」
 小磯が大きな目玉をぐるぐるさせながら尋ねる。ずっと朝鮮総督を務めて外地にあり、首相就任まで撫子や竜州について詳細を知らなかったので、まだピンとこないようだ。
「撫子様は海軍の真田博之少佐と事実上の夫婦関係にありますので、その点は心配ありません。また、帝国は撫子様の要請により、その眷属多数を竜州で奴隷状態から解放しており、彼女らは揃って帝国に忠誠を誓っています。従って各国の参加問題については、帝国の外交面で判断して問題はないかと。私見を申し上げるのならオーストラリアとニュージーランドはマリアナの前例もあるので正式参加を認める一方、イタリアと汪兆銘政権はオブザーバー扱いとし、国民政府の参加は認めないというあたりですか」
150: パトラッシュ(旧41です) 2013/04/21(日)21:16 ID:t.N5V0vk0(2/4) AAS
困惑したような視線を交わす小磯と重光に、吉田は新たな厄介ごとが起こったのを察した。やがて外交官としては吉田の後輩に当たる重光は、言いにくそうに言葉を探した。
「吉田さん、私もその意見に賛成なのだが、簡単にいかない事情が出てきたのです。実は汪兆銘だけでなく蒋介石までもが、来日してもかまわないと言ってきまして」
「それはまた……確かに蒋訪日が実現すれば、今後の中国情勢は日本の意向が大きく反映できてしまう。あっさり断るには惜しい話です。いきなり切り札を出してくるとは、国民政府も相当追い詰められていますね」
「撫子様が日本の味方をして三峡を塞ぐほどの力を示したため、新たな中国の竜を目指す蒋介石にすれば立場がありませんから。しかもベルリンからの情報によれば、ムッソリーニがヒトラーに泣きついてイタリアが正式参加できるよう外交工作しているとのことで、三国同盟絡みもあって断るのは難しい。どう線引きしても、不満が残るのは確実ですよ」
「なるほど、シチリアの竜を抱えるイタリアとしては、ここは何としても他国に先駆けて誼を結びたいところでしょう。というか、ドイツがフランスに続きイタリア参加も容認するのは、自国の影響下にある国が竜と友好関係を結べればとの思惑があるようです。そうなれば、自分たちにも竜州への道が開かれるのではと期待して」
「吉田さん、それはつまり……?」
「英米独仏も、また中国やその他の国々も、最も恐れているのは撫子様以外の地球にやってきた竜すべてが日本に味方する事態です。そうなればどの国も日本に膝を屈せざるを得なくなるし、今後も日本が竜州を独占する形で開発を進めればあらゆる利権から締め出される。しかし、満州と違って竜州への道は最初から日本が独占している。各国としては何とか竜に接触し、自分たちの味方となるか少なくとも中立を保つよう説得できないか、また竜州開拓に自国も参加するために撫子様以外の竜を使えないかと考えている。戦時中にもかかわらず最高首脳が訪日する理由は、まさにそれなのです」

 総理執務室は、痛いほどの沈黙に包まれた。存在それ自体が強大な兵器である竜は、これまでの軍事バランスを完全に崩したのみならず、広大な未開拓のフロンティアである竜州の存在は各国の領土占領欲を強烈に刺激した。もし欧州大戦が始まっていなかったら、全世界が日本に向けて戦争を仕掛けてくる事態もあり得たのだ。
(そうなっても撫子様や「歌妃」アニスの力で日本が勝つだろうが、数千万単位の死者が出ていたかもしれない。いくら戦争でも、そんな事態は避けたいしな)
151: パトラッシュ(旧41です) 2013/04/21(日)21:17 ID:t.N5V0vk0(3/4) AAS
 考え込んでいた重光は、やがて小磯を振り返った。
「総理、吉田大使の予測が正しいなら、各国は総力をあげて竜と接触し竜州での利権を得ようとするでしょう。英米独仏だけでも利害調整がややこしいのに、中小国まで面倒は見切れません。ここは会議を紛糾させないためにも、参加国を絞るべきだと思います」
「同感だな。各国に厳しい条件をつけて、参加を断念するよう仕向ければ……」
「そうですね。国民政府には汪兆銘政権と満州国の承認を、オーストラリアには白豪主義政策の撤回を要求すればいい。豪州が不参加ならニュージーランドも取りやめます。イタリアとフランスは参加を認めても傍聴者的な扱いにとどめておき、また、英米独仏の代表団にも厳重な行動制限をつけて――」

「お待ちください」吉田は重光を遮った。「それは非常にまずいと思います。公然たる内政干渉で日本だけが各国の恨みを買うことになり、今後の外交に影響が出るでしょう。会議が多少もめても、要は竜が日本側の希望を最大限に取り入れた決定を下せばよいのです。そうすれば最初に申し上げた通り、どの国も異議を唱えられませんから」
「つまり吉田さんは、参加希望国すべてを受け入れるべきだと?」
「その代わり日本も、満州国代表を参加させればいい。そうなれば英米首脳と蒋介石は竜と接触する機会を得るためにも、日本の傀儡政権と非難してきた満州国と同じ会議のテーブルにつかざるを得なくなる。これは事実上、三国による満州国承認となり、リットン調査団報告は無効化されてしまいます」
 小磯と重光も、ようやく吉田の言いたいことを理解した。リットン報告をきっかけに国際連盟を脱退した日本が、再び国際世界に復帰する最高の舞台として東京竜会議を使えと。
「英米が進んで満州国を事実上承認するとなれば、ハルノートも撤回されたに等しくなる。日米戦争の前提条件が消滅するというわけになります」
「な、なるほど……」
省7
152: パトラッシュ(旧41です) 2013/04/21(日)21:18 ID:t.N5V0vk0(4/4) AAS
「無論、英米独仏以外の各国にはすぐに参加を認める必要はありません。散々じらして、相手の忍耐の限界を超えない程度まで日本に有利な条件を引き出してからにすべきです。そのあたりの交渉は外相にお任せすればよいかと。私は撫子様側と協議して、日本側の考えを認めてもらいます。その線でいかがでしょうか、総理」
「わかった……あと吉田君、撫子様以外の竜を味方につけ、竜州への新たな道を開くのが各国の狙いだと言っておったが、阻止する方法はあるのかね?」
「ご懸念はもっともですが、撫子様とマリアナのセドナ殿以外の竜がどんな要求を出してくるか見当もつかないので、日本が他国に先んじて残る竜と接触できるよう撫子様に頼もうと思っています。特にアメリカに敵対しているハワイの竜は相当きつい性格のようで、本気で怒らせたら単独でアジア大陸ほどの面積を単独で焼き尽くすほどの力を持つとか」
「アジアを焼き尽くす力だと――」
小磯が蒼白になってあえぎ、重光も唇を震わせた。グルー米大使らと同様の反応だが、意味するところは逆だ。米英の大使は本国や植民地が焼かれてしまう可能性に恐怖しての震えであったが、首相らは今さらながら撫子が自分たちの味方であることのありがたさを思い知らされたようであった。

「しかし今回、すでにハワイの竜と軍事衝突している米国の大統領が竜会議で同席するのだろう。ルーズベルト大統領は祖国を焼く覚悟で竜と対決するかな?」
「この会議で最も苦しい決断を迫られるのはルーズベルトでしょう。ハワイの竜の機嫌をとるような真似をすれば全国民の激烈な非難を浴びるが、逆なら国家が消滅しかねない。最悪の場合、その決断から逃れるため非常手段を取る可能性もなしとは申せません」
「非常手段とは……」
「帝都に集まった竜を皆殺しにするのです。どんな卑怯なやり方を使ってでも」
「何だと? だ、だが最高度の警戒態勢を敷く予定の帝都で、そんな真似ができるのか。下手をすれば自らの命も失いかねないのに」
省7
153: 2013/04/24(水)11:43 ID:KsurmZCg0(1) AAS
これはまた、実にありそうな展開が。
政治家も役人も軍警察関係者もみながみな倒れてしまいそうですね(汗
154: 竜神様の中の人 2013/05/18(土)08:42 ID:xVyd9URs0(7/10) AAS
バイオの方投稿。

泥沼式に増援を送り込むの図。
155: 竜神様の中の人 2013/05/18(土)08:43 ID:xVyd9URs0(8/10) AAS
「九七式飛行艇が落ちたって?」

「はい。
 ナブレスに駐留している部隊より緊急伝です。
 どうも、事故ではなく撃墜された可能性があり、海軍の方も確認しています」

 来るべきものが来たといやでも思うと同時に、まさかの思いもあった。
 とはいえ、この異世界の魔法技術が飛行機を落とせるのはこちらに来た勇者が実証して見せたではないか。
 竜州軍石原参謀長はしばらく目をつぶって意を決すると、副官である瀬島少佐に声をかけた。

「上海でたしか似た様な事やっていただろ。
 あれで増援を送ろう。
 瀬島。お前が指揮をとれ。
省22
156: 竜神様の中の人 2013/05/18(土)08:44 ID:xVyd9URs0(9/10) AAS
 瀬島少佐が用意していた資料と写真を差し出す。
 それを大川内が確認するのを見て石原は言葉を重ねる。

「秘蔵で向こうでの貨物輸送にも使えないんで、こっちに送ってもらうつもりだった。
 海岸線近くの拠点作りに使うつもりだったが、こういう時に役に立つ。
 本土から呼んで、竜州で編成した独立大隊を積んで向こうに着くのはおよそ一週間後。
 後は、一週間の間持ちこたえる事ができるかという所か。
 九七式大艇の輸送は継続できるのか?」

「一週間?
 ここからイッソスまで四日かかるはず。
 それを考えたらナブレスに着くのは下手したら十日はかかるはず」
省34
157: 竜神様の中の人 2013/05/18(土)09:04 ID:xVyd9URs0(10/10) AAS
投下終了。

ゾンビに襲われるねたをテーマにしたのに、近代軍強すぎがこの醜態。
やっぱり、クローズド・サークルにしないと駄目だね。
という訳でレス返し。

>>軽巡大井
大淀の間違いorz
ちなみに、とある赤城さんが慢心してドックから出てこなかったりするゲームをゃっているのですが、出てこないのです。こいつorz。
無課金だとリアル日本海軍オンラインが楽しめてお勧め。
なお課金だと米帝プレイ。

>>タ○コマの原型
省15
158: F世界逝き [F世界逝き] F世界逝き AAS
F世界逝き
159: F世界逝き [F世界逝き] F世界逝き AAS
F世界逝き
160: 2013/05/20(月)18:28 ID:cbJwYWIE0(1) AAS
基本的に日本が不利な世界観ですが、果たして救援は間に合うのでしょうか。
と色々考えさせられながら続きを待ちます。
161: F世界逝き [F世界逝き] F世界逝き AAS
F世界逝き
162: パトラッシュ 2013/06/08(土)21:09 ID:WsRTftk.0(1/8) AAS
 「東京の暗黒決戦」の震源となる策謀のひとつは東京で吉田らの密談が行われる少し前、中華民国臨時首都が置かれた四川省重慶市郊外の古ぼけた民家から始まっていた。みすぼらしい外見にはおよそ不釣合いに巨大な太極旗が掲揚され、白木の板に『大韓民国臨時政府』と大書された看板が館の主を示している。この日、国民政府陸軍旗の小旗をつけた米国製高級車が滑り込んできたことが舞台の開幕となったのだ。

「帝国の龍神様」サイドストーリー3(陰謀編:某作品とのクロスオーバー)

「そ、それは本当なのか? 彼がチョッパリ(日本人の蔑称)の味方に転向したなど……」
「間違いありません、主席。京城に送り込んだ間諜からの情報です」
 重慶市郊外にある古い中国家屋。壁に大きな太極旗が飾られた一室で「閣議」を開いていた大韓民国臨時政府主席の金九は、趙素昴外務部長の報告に絶句した。同席の「閣僚」たちも、信じがたいニュースに声もなく顔を見合わせる――『反日運動の闘士として有名な任侠団体「鐘路派」の若き頭目である金斗漢が、天皇への忠誠と日本の朝鮮総督府への無条件協力を公に表明した』と。
「しかし、金斗漢の光復(独立)にかける熱情は本物だった。日本軍の武器庫を爆破したり、日本の暴力団と抗争して叩き潰すなどの活躍は、知らぬ者はいないぞ」
「ソウルの総督府で記者会見した金斗漢は『独立運動に協力してきた自分は間違っていた。天皇陛下の慈愛溢れる統治こそ朝鮮に必要なのだ』と述べて、親日派の中央日報の記者すら唖然とさせたそうです。表向きの理由はそれで通しておりますが……」
「拷問か買収でやられたのか? そんなもので売国奴になり下がるとは思えないが」
「申し上げにくいのですが、京城の裏社会では金斗漢は竜州行きを約束されて光復の志を捨てたとの噂がもっぱらだと――」
 金九の顎が、がくりと落ちた。他の臨時政府閣僚も呆然としている。
省4
163: パトラッシュ 2013/06/08(土)21:11 ID:WsRTftk.0(2/8) AAS
「それに在米の李承晩元主席から、米国外交筋を通じて連絡がありました」
「李承晩が? 今さら何用だと言うのかね」
 金九の表情が一気に険しくなる。かつて臨時政府主席だった李承晩は、路線を巡り臨時政府内部での政治闘争に敗れてからアメリカへ移り、政界へのロビー活動に専念している。一貫して反李承晩派に属してきた金九にすれば、日本人の次に許しがたい政敵であった。
「実は在米同胞にも日本が手を伸ばしているらしいのです。日本に味方すれば竜州へ行かせてやるぞと。李元主席の側近がひとり、誘いに転んで情報を流していたとか。まことに恥ずべき話だが、そちらでも裏切り者が出ぬよう気をつけてほしいとのことでした」
 会議室の空気が一気に冷え込んだ。いくら政敵とその同調者でも、金斗漢に続き同じ民族の同胞が日本の策略に引っかかって独立運動を裏切るとは、情けなく悔しい話だ。しかも、転向した理由が拷問や買収ならともかく、好きなだけ女を抱ける世界に行きたいからだとは恥ずかしくて声も上げられない。
「日本を非難するために公表するわけにもいきませんな。韓国人はその程度の民族だと日本側に返されたら、恥の上塗りになるだけだ……」
「ええい、世界の中心であるはずのわが韓民族の誇りはどこに行ってしまったのだ! 光復よりも女を取るとは」
「ふん、そんなことを言って、実は自分も竜州とやらに行きたいのではないかね」
「何だと貴様、その侮辱は許せんぞ――」
「やめたまえ! われわれが喧嘩して分裂するなど、日本を喜ばせるだけだ!」
省11
164: パトラッシュ 2013/06/08(土)21:12 ID:WsRTftk.0(3/8) AAS
 主席執務室に戻った金九は、周遠峰が同道してきた男に目を剥いた。いや、ペトロというクリスチャンネームを持つキリスト教徒としては見慣れた姿だが、国民政府の軍人とカトリック神父という組み合わせはあまりに奇妙すぎた。
「初めましてぇ金九主席ぃ、アレクサンド・アンデルセンと申しますぅ」
 がっしりとした長身と刈り上げられた金髪。流暢な広東なまりの中国語を話す口許には優しげな笑みを浮かべているが、分厚い眼鏡の奥底で少しも笑っていない眼差しが鋭い光を放つ。野太い声に無精髭を生やした姿は、屈強な古参兵が間違って法衣を着ているようだ。差し出された手を握った金九は、神父の握力の強さに顔をしかめた。
「それで周中校、聖職者とご一緒の用向きとは何なのです?」
「主席、こちらのアンデルセン神父はバチカンの外交官で、カトリックの教宗(教皇の中国語表現)猊下よりの提案を携えてこられました。その提案を蒋介石総統はわが国民政府のみならず、大韓民国臨時政府にも極めて有益なものと判断されたので、主席にお話しするよう総統の命を受けてきました」
「バチカン、ですと――」
 カトリックの総本山に対して、これまで臨時政府側から接触したことはないし、逆に関係者と話すらしていない。困惑する金九を、アンデルセンは正面から見据えた。
「ご存知のように間もなくぅ、地球に来た五匹のドォラゴンどもがぁ東京に集まってぇ会議を開きますぅ。ナデシコとかいう日本のドォラゴンが主導してぇ、ドォラゴンと人間との平和共存を模索するためとされていますがぁ――まぁだ公表されていませんがぁバチカンが得た情報によるとぉ、実はこの会議に英米両国首脳が参加するというのですぅ」
「な!……」金九は自分の顔が蒼ざめるのをはっきりと感じた。「英米の首脳というと、チャーチル首相とルーズベルト大統領が訪日すると言うのですか?」
「ええ。しかもぉ英国と戦争中のドイツとフランスもぉ、ヒトラー総統やペタン元帥が訪日できないためぇ、両国の駐日大使を副首相に任命して政府高官が参加する形をとろうとしておりますぅ。いわばドォラゴンたちの会議はぁ、同時に日米英独仏五カ国の首脳会議にもなるわけですぅ。これがぁどういう意味かぁ、閣下にはおわかぁりでしょうぅ」
省4
165: パトラッシュ 2013/06/08(土)21:13 ID:WsRTftk.0(4/8) AAS
 失神したくなるのを気力でこらえながら、金九は必死に考えをめぐらした。
「そ、それで、この件にバチカンがどう関係してくるのでしょうか?」
「わぁがバチカンとしてはぁ、ドォラゴンの存在など認めるわけにはいきません。奴らは人を惑わす魔法や魔術を使うだけでなくぅ、シチリアのドォラゴンなどは眷属たる吸血女ドラキュリーナを情報収集のため全欧州にばらまいておりますぅ。おかげでぇ欧州各地ではぁ、恐慌に陥った無知な者どもが無実の女たちが大勢殺している有様ですぅ。このようなぁ主の教えを辱める真似をして恥じぬドォラゴンは、断じて許せません。そのため教宗猊下はぁ、ドォラゴンどもに対する十字軍の発動を決断されたのですぅ」
「じ、十字軍ですと……」
 さすがの金九も、十字軍などという前時代的なセリフを平然と口にするアンデルセン神父の正気を疑った。しかし、隣の周遠峰はまじめな表情を崩さず、神父の言葉に頷いている。そういえば周は、蒋介石側近中でも特に熱心なクリスチャンであったが。
「今回の十字軍はぁ、カトリック単独ではありません。プロテスタントや正教のみならず、ユダヤ教からイスラームなどに対してもぉ協力を呼びかけておりますぅ。世界中の宗教が一致団結して、ドォラゴンどもを倒すため戦おうとぉ。十字軍と申しましたがぁ、正確には世界宗教連合軍の結成を目指しておるのですぅ」
「対ドラゴンの宗教連合軍……し、しかし、そのようなものが本当に実現するので? 私も一クリスチャンとして、カトリックとプロテスタントの抗争は幾度も目撃してきました。まして他の宗教が、対ドラゴンのためとはいえカトリックに協力するとはとても」
「難しいのは承知しておりますぅ。昔のように教宗猊下の命令一下、忠実な信徒が馳せ参じる時代ではありませんしぃ、日本の軍事力も侮れませんからぁ。だぁが各宗教はどこも異端者や敵国から教団を守り、神のために命を投げ出す者を揃えておりますぅ。今回はぁそうした力を結集してぇ、ドォラゴンどもを退治する軍団を組織するつもりなのですうぅ」
 各宗教の私兵軍団による対竜殲滅作戦――あまりにも壮大な構想に、金九はめまいを覚えた。ただひとつ光復という目標のみに邁進してきた自分などには、間違っても思いつけない話だ。もし実現すれば世界全体を巻き込む大戦争が発生し、日本も否応なく巻き込まれる。日米戦争で目指していた、自分たち大韓民国臨時政府も光復のため戦う機会を改めて獲得できよう。だが、キリスト教との結びつきが強い中国国民政府はともかく、宗教とは無縁の自分たち臨時政府のような極小で無力な存在が、世界宗教連合軍の中でどのような役割を果たせるというのか。
「バチカンの主張はわかりました。しかし、問題は英米独仏というキリスト教世界で最も影響力があり、かつ神の教えより自国の政治的利益を最優先する諸国が、宗教連合軍の結成や目的を認めるかです。チャーチル英首相は、ドイツとヒトラー政権を倒すためなら悪魔とでも手を組むと公言しました。その悪魔とはスターリンのことかと思っていましたが、彼が死んだ今となってはドイツ打倒のため竜と結ぼうと考えるのではありませんか?」
省1
166: パトラッシュ 2013/06/08(土)21:14 ID:WsRTftk.0(5/8) AAS
「英国国教会はぁ、今回の教宗様の呼びかけに応じないでしょう。あの連中はぁ成り立ちの経緯もあってぇ、長年にわたりカトリックと敵対してきましたからぁ。国教会の組織はあくまで英国王室に忠誠を尽くしぃ、訪日するチャーチルを守る立場をとるでしょうぅ。つまぁり、彼らはわれわれの敵になることが確定しておるのですぅ」
「すると英国以外のプロテスタントなどは、バチカンの提案に賛同していると?」
「まぁだ打診の段階ですがぁ、前向きな感触は得ておりますぅ。アメリカで独自に発展したプロテスタント諸派はぁ、われわれ以上に主イエス・キリストを否定するドォラゴンに反発しておりますのでぇ、日本がドォラゴンの力を得たことは断じて許せぬと真っ先に賛成してきましたぁ。ルーズベルトも彼らの反感を買っては選挙に勝てませんしぃ、ハワイ以来のドォラゴンに対するアメリカ国民の憎悪は変わっておりませんのでぇ、まず黙認するでしょう。バチカンと最も激しく敵対してきたルター派やカルヴァン派もぅ、ドォラゴンという共通の敵の出現に危機感を感じているのは同様ですぅ」
「で、ではそれ以外の宗教はどうなのです?」
「イスラームもアッラーがドォラゴンによってないがしろにされるのではと怯えているので、協力する方向ですぅ。正教会はギリシャの有力聖職者が賛同の意向を示しておりますがぁ、中心地であるロシアや東欧諸国の大部分がドイツの占領下にあり、ヒトラーがドォラゴンとの協力を進める方針のためぇ、反ドォラゴンの姿勢を明確に打ち出せていません。しかしぃ、ドイツ政府内部にもカトリックへの協力者は大勢いるのでぇ、間違いなく味方になってくれると予想されておりますぅ。ただユダヤ教徒はドイツの苛烈な弾圧を受けている最中のためぇ、余裕はないようですがぁ」
 世界宗教連合軍の実現に向けて、バチカンは着々と手を打っているらしい。あらゆる場所に信徒のいる巨大宗教の力に、金九は圧倒される思いだった。かつてスターリンはカトリック教会を嘲笑し、「バチカンは何個師団持っているのだ?」と言い放ったという。自分も何となくスターリンの意見に同感していたが、ここにきて教皇の意志は大軍に等しい力があると思い知らされた。竜州行きの切符に引きずられて独立の機運が急速にしぼみ、味方だったはずのアメリカが頼りにならぬ現状、バチカンの構想に参加する話は魅力的だが、臨時政府を率いる立場としては簡単には乗れなかった。
「竜とその眷属に戦いを挑む、ですか。しかし、竜の力には恐るべきものがあります。恥ずかしながらわが同胞も、多くが竜の力に屈して日本に従う道を選びました。米国もハワイの竜に手も足も出せぬではありませんか。とても世界宗教連合軍に勝算があるとは……」
「金九主席ぃ、化け物どもを殺して何が悪いのですかぁ!」
 腹の底から響く大喝に、金九はのけぞった。椅子の肘掛けで身を支えたが、あやうく意識が飛びそうなほどの強烈な威圧感に冷や汗を流す。独立運動や政治闘争であまたの修羅場をくぐってきたが、アンデルセン神父は格が違いすぎた。彼は外交官などではない。その手で数え切れないほど直接殺していると、金九は恐怖とともに確信した。
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