アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.14 (1000レス)
アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.14 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/
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582: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 警察署長 「11月以降の西ベルリンは1945年のような雰囲気に包まれていました。崩れた建物があちこちにあって、その前をジープに乗ってライフルを担いだ駐留軍兵士が巡回していました。 市民たちは街角に立つ兵士たちを見て萎縮していました。しかし、今回の事態は警察だけで手に負えるような問題ではないことも事実でした。11月の悲劇を食い止めたのは彼ら自身であることは明白だったからです。 駐留軍がティーアガルテンの森を切り倒し、機関銃や対空砲を据え付け、コンクリートの壁で覆って軍事基地としていく様を我々警察官は遠巻きに見ることしか出来ませんでした。 酒場では、市民たちがそれを指して『鉄のカーテン』だと皮肉っては笑い話にしていました。」 西ドイツのフロム将軍はこう語る。 「12月の緊急首脳会議でも、6月の定例首脳会議でも、公式の発表に『共同戦線』という単語を明記することはありませんでした。 ドイツが統一されるまで、いわゆる『西ベルリン問題』はNATOの問題ではありませんでしたし、またドイツの問題でもありませんでした。 あの問題について議論できたのはそこに軍隊を置いていた米英仏の三ヶ国だけで、ドイツ政府がそれに直接関わることができたのは、ドイツが統一されベルリンが正式にドイツの管理下に置かれてからでした。 もっとも、NATOによる解決が採択された時点でドイツ連邦軍を含めた各国の軍隊は『NATO軍の一員として』ブランデンブルク門の問題解決に加わることになりましたが、 他のNATO加盟国はソ連を刺激しかねないような行動に積極的に参加することをよしとしませんでした。」 フランス外務省のクールベ事務官はこう述べる。 「ミッテラン大統領は性急なドイツ統一には反対していましたが、統一が現実的なものになるにつれて統一されたドイツに対して何かしらの影響力を保持することを考えるようになりました。 その中でまず考えたのがブランデンブルク門とベルリンに駐屯するフランス軍の存在でした。 彼はこれを用いることで門の管理を行うという形である程度の影響力を得られると判断し、それをいかに大きくするかを考えていました。 またフランスはブランデンブルク門がヨーロッパ再興の切り札になると考えていました。そのためこの問題を処理に海の向こうの超大国を介在させることは避けなければならないと考えていました。 アメリカが主導権を握ればフランスにとって門を維持する理由が失われる可能性があったからです。しかしながら、それらを実現するのは元々から困難でした。 アメリカが主張していたように、西欧諸国の軍隊はアメリカの支援無しに大規模な軍事行動を展開することは困難であったことはもちろんですし、 わが国の提案を支持してくれるだろうと我々が予想していたイギリスとイタリアがアメリカに付いたという誤算もありましたが、 そもそもとして当時のヨーロッパは経済面での統合が進んでいた一方で、外交や安全保障の面では明確な進展が無かったことが最大の理由でした。 当時のヨーロッパでは超大国と対等に交渉することなど最初から不可能だったのです。」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/582
583: 名無し三等陸士@F世界 [sage] ジェイコブ補佐官 「大統領はNATOに解決させることによって自分が主導権を握ると同時にソ連の介入を最小限に抑えられると考えていました。しかし私はソ連の介入する余地は十分にあると思っていました。 東ドイツには多くのソ連軍が駐留しており、そこに西側諸国の軍隊が多数駐留すれば情勢が不安定になると考えていました。 またソ連がベルリンへ向かう道をいつでも押さえられる立場にあることはドイツ統一後も変わりませんでした。しかしだからといってソ連に対し速やかに軍隊を撤収させることを求めるのは非現実的でした。 東ドイツを含め、東欧に展開するソ連軍の数は膨大なものであり、それを短期間で撤収させるのはたとえ我々が全面的に援助したとしても不可能で、 ましてや今から大規模な戦争を始めるであろう我々にはソ連に対する大規模な援助は難しいと考えていたからです。 そのため私は大統領にベルリンへの軍隊の移動と展開はソ連の情勢を踏まえたうえで慎重に行うべきだ、と助言しました。」 ルビノフ副外相 「国内体制の立て直しに集中するあまり、ソビエトの対外的な影響力について軽視しすぎているのではないかという批判が存在していましたが、それは守旧派の意見であり政治局では主流ではありませんでした。 当時のソビエトには他所の喧嘩に口出しするだけの余裕はありませんでしたし、ゴルバチョフ書記長もそれについて全く考えていませんでした。 しかし、ブランデンブルク門を含めた東ドイツ問題の彼の態度は政治局の改革派の面々にも疑念を抱かせるものでした。 疑念を抱いた彼らはゴルバチョフが東欧諸国をアメリカに売ろうとしていると考え、守旧派の意見に共感を覚えるようになっていきました。」 ジェイコブ補佐官 「CIAはゴルバチョフが東欧に介入する意思がないことを報告しており、それを元に軍部は東ドイツでの自由な行動を要求していました。 しかし国務省はそれが現地における偶発的な事態を招くことになると懸念し一定の歯止めを利かせるように進言しました。こういったホワイトハウス内でのいざこざはよくあることです。 最終的に大統領はソ連との交渉の結果を見て決定すると判断し、私に交渉するように命じました。 細かい内容は機密ですが、クレムリンで行われた交渉の結果、ソ連はベルリン内での軍隊の自由な活動を認めることとベルリン周辺のソ連軍を最優先で撤収させること、 それらの代わりに我々はそれ以外の東ドイツ地域では軍隊を駐留させないこと、地上からのベルリンへの移動ルートは東西分断前に西側が使っていたルートに制限し軍隊の移動をソ連側に事前に通告すること、 指定されたソ連軍部隊の撤収にかかる費用の半分をアメリカが負担することを約束しました。これらから分かるとおり、偶発的な事態を可能な限り避けるという点をソ連の指導者は非常に重視していました。」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/583
584: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 投下終了。 そびえと の おすみつき を てにいれたぞ !! 今気付いたけど警察署長の台詞がダブってる・・・ http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/584
585: 名無し三等陸士@F世界 [] ゲリラ的に投下 『記者のみなさん、合衆国大統領です。』 『質問をお受けいたします。』 『大統領、ベルリンで起こった惨劇は異世界との戦争を意味するのでしょうか?』 『我々はあらゆる可能性を探っておりますが、ベルリンで起こっていることは全く未知の現象であり、それに関する情報が致命的なまでに不足している現在、我々は最悪の事態を想定して行動しております。 これはヨーロッパの防衛に関わる重要な事態を引き起こしかねないため、NATO各国はそれに対応するために限定的な動員をかけております。』 『それに対してソビエトが反応する可能性についてどう思われますか?』 『すでにクレムリンとは話をつけておりベルリン問題に対応している点についてはソ連の確認を取ったうえで行っております。 強調しますが、動員は必要最低限のものであり、これにより核戦争に発展することは無く、また市民生活に影響を与えることは無いことを保障いたします。 多少道路が混雑するかもしれませんがね。』 (異世界との戦争についてどう思われますか? マインツでの街頭調査) 『彼らは我々を攻撃したんだ、それに対して報復するのは当然だ。』 『軍事的解決は必ずしもいい事じゃない。他の手段も考えるべきだ。ワシントンは将軍たちの言いなりになっているんじゃないか?』 『ブッシュは生活に影響はないといったが、現に軍が買い占めてるせいで今年はワクチンの値段が明らかに高いんだ。 このままじゃ今年の冬はインフルエンザが流行るかもしれない。あと妻は卵が値上がりしたとぼやいていたぞ。』 フロム将軍 「アメリカとイギリスの特殊部隊が先んじて情報を収集した結果、2月ごろには門の向こうでも人間の生存やその造形物が機能することに問題がないことが確認されました。 それを受けてNATOでは門の向こうにおける軍事行動の計画を本格的に進めることを決定し、それに応じた部隊の動員と編成を始めました。 これにおいて一番重要とされたのは何よりも感染症対策でした。ガスマスクを常備させ訓練を徹底することはもちろんのこと、部隊における医療関係者の比率を通常より多くし、 手に入るワクチンを可能な限り接種させるとともに、消毒用の消石灰を大量に用意の上、焼却処理のための火炎放射器も各国で調達しました。 我々連邦軍は東ドイツ軍の工兵隊がソ連製の火炎放射器を装備していたためそれを編成に組み込み、一部は小規模な同盟国軍にも貸与しました。 フランスは自軍の武器庫の在庫から必要数を用意しました。自軍の装備にないイギリスとアメリカは外国から調達しました。 大半はカナダやオーストラリアのものだったようですが、アメリカ兵の一部は日本語が記されたものを使う部隊もありました。」 ジェイコブ補佐官 「全く未知の世界に進出するのですからその活動においては病原体の抑え込み、特に持ち帰らないことは最重要事項になります。 消石灰や焼却処理用の装備や燃料は民間市場や同盟国などから購入する形で簡単に用意できましたが、人間の免疫はそうはいきません。 そのため軍隊の準備において一番手間と時間がかかったのは大量のワクチンの用意とその投与でした。 特にワクチンの接種は基本的に一回に1つずつしかできませんし、しかも次の投与まで2週間前後の間を空けなければなりません。 そのため大統領を含めNATO主要国の間では異世界に派兵するのは1991年になってからだと考えていました。 それまでは、偵察も兼ねて少数の特殊部隊を投入する程度でしたが、門を越える際は極めて厳重な検疫が施されました。」 フロム将軍 「NATO軍の動きとして、1990年の3月にはすでにどういった部隊を送るかについて計画はまとまっていましたし、 5月からドイツ南部で共同演習を繰り返して様々な段取りのすり合わせも行われていました。 軍隊として見るならば、ドイツ統一が行われた時点で、すでに我々は命令さえあれば異世界に進出して最低限の活動が出来る段階にあったといえます。 進出することへの問題があるとすれば予定された予防接種が遅々として進まなかったことぐらいだと皆は言っていました。」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/585
586: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 投下終了。 ようやくNATOが本格的に動き出しました。 これ読んでる人は相当少ないだろうなあと今日この頃。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/586
587: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 投下乙でした 派遣部隊の編成と合同演習に情報収集のための特殊部隊の投入、そして防疫体制の構築… 華々しい戦闘シーンも良いものですが、戦いの準備が着々と整えられていく様子もまた良いものですね 次の投下も楽しみに待ってます http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/587
588: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 投下乙 描かれることは少ないですが、やはり未知の場所へ行くのには防疫は欠かせませんよね こっそりDDTを持ち込もう まとめwikiとかに転載されれば見てくれる人も増えるのかな 板まで来ないでまとめwikiのコメント欄にコメントするだけ人も多いみたいだし http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/588
589: 名無し三等陸士@F世界 [sage] 投下乙です。 これを読んでる少ない人wの一人ですが、こう着々と準備を整えるのはいいものですな~。 ただ、本家ゲートでも触れられていない問題がありまして、 やはり都市部に「門」が開くと兵站等の構築に問題が生じてしまう点があるんですよね・・・ その都市の物流や経済にも悪影響もたらしますし、「門」を移動できないものかと考えてしまうものです。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/589
590: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] こんばんは。お久しぶりであります。 >>581氏 SS投下お疲れさまです! 遂に・・・遂にNATOが動き出しましたか。 異世界側は、次々と現れるNATO軍に対して何を思うのか・・・ それでは、長い間お待たせしてしまいました。 SSを投下いたします。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/590
591: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 第274話 暁から来たる刺客 1485年(1945年)12月9日 午前4時 シギアル沖北東312マイル地点 北洋の海は、本格化した冬によって氷点下近くにまで達していた。 海上をなびく風は弱く無く、波は風に煽られてやや高くなっている。 時折ふぶく突風は、極低温にまで達した冷たい海水を宙高く吹き散らしていく。 そこを、唐突に現れた巨大な物体が腹に応える音を立てながら、鋭い切っ先で冷たい海水を難無くかき分けていく。 物体はその巨体を上下させながら、早いスピードで海上を驀進していく。 真っ平らな甲板に、中央部に纏まった艦上構造物を持つ物体…… もとい、第3艦隊旗艦である正規空母エンタープライズは、周囲の正規空母、護衛艦艇群を率いながら、北洋の海を一路、 西に向かって進み続けていた。 夜闇に包まれた、殺風景な外界から離れたエンタープライズ艦内の一室。 同艦の奥深くにある調理室では、艦橋や艦の張り出し通路で防寒服を着ながら当直任務を行う水兵とは打って変わった光景が 繰り広げられていた。 「チーフ!間もなく最初の奴がアガリます!」 「OK!すぐに第2陣を突っ込めよ!!」 ブリック・サムナー1等兵曹は、部下に指示を飛ばしながら、眼前にある鍋をレードル(お玉)で掻き回していた。 調理室内には熱気が籠っており、サムナーを始めとする炊事兵達は汗みずくとなりながら、朝食作りに没頭している。 エンタープライズの乗員数は、空母航空団のパイロット等も含めて計2800名以上に上るため、朝食を作るだけでもかなりの重労働である。 しかし、そこは場数を踏んでいる事もあり、サムナー兵曹ら炊事兵達は、慣れた手つきで調理を続けている。 調理室内には、一種の刺激臭のような匂いが立ち込め始めていたが、彼らは別に気にする事もない。 サムナー兵曹は無言で掻き回していたレードルを上げ、小皿に少量を付け、それを口に入れた。 「ふむ……いい出来だ」 サムナーは味に満足しながら、再び鍋を掻き回していく。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/591
592: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 調理室内はしばしの間静かだったが、別の炊事兵が油の入った大鍋に、何かを続々と入れていく。 直後に、油がはぜる音が鳴って、室内が再び喧騒に包まれた。 「チーフ!ライスが炊けました!」 サムナーは別の部下からそう伝えられると、彼はその部下に顔を向けてから新たな指示を飛ばし始める。 「ようし、後はいつも通りの要領で頼む。本命も丁度出来上がった。後は……」 そこへ、スピーカーから総員起床の号令が流れ始めた。 艦内アナウンスを聞いたサムナーはニヤリと笑ってから、続きを口にする。 「ヴィクトリーを、腹を空かした皆さん方に召し上がって貰おう。本物のヴィクトリー(勝利)を得て貰うためにもな」 午前4時30分 エンタープライズ艦内士官食堂 エンタープライズでは、午前4時20分に総員起こしの号令がかかり、当直員以外の、眠りに付いていた将兵全員がベッドから飛び起きた。 午前4時30分には幾分早い朝食の支度が艦内の食堂で整えられつつあり、ある士官食堂内でもその準備は着々と進んでいた。 第3艦隊司令長官ウィリアム・ハルゼー大将は、エンタープライズの艦橋で、第3艦隊司令部幕僚達と朝の挨拶を交わした後、 軽い冗談を吐きつつ、朝食を摂るために士官食堂に足を運んだ。 先頭を進んでいた第3艦隊作戦参謀、ラルフ・ウィルソン大佐がドアをノックしてから開く。 室内で準備していた主計兵達は、彼らが入室すると一斉に直立不動の態勢を取った。 「おはよう諸君」 「おはようございます!」 ウィルソン大佐の挨拶に、主計兵達を代表して1等兵曹の階級章を付けた下士官が返答する。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/592
593: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「諸君、続けていいぞ」 ウィルソン大佐がそう言うと、1等兵曹はやや頷き、部下の主計兵達に目配せしてから作業を続けさせた。 司令部の幕僚達がテーブルの側に用意された席に付くと、主計兵達は置かれた皿に朝食を盛りつけ始めた。 「ほう。今日はヴィクトリーカレーか」 ハルゼーは、目の前に置かれた朝食を見るなり、上機嫌な声で主計兵に話しかけた。 「はっ。自分達が気合を入れて作ったカレーであります」 その若い白人主計兵は自信満々といった表情を浮かべながら、ハルゼーにそう答えた。 「ふむ……サムナー兵曹もすっかり成長した物だな」 名前を呼ばれた1等兵曹……サムナー1等兵曹は、ハルゼーに体を向けた。 「長官。お褒めの言葉、ありがとうございます」 「君の発案したカレーライスは、今や合衆国海軍にとって必要不可欠な物となりつつある。今や、このヴィクトリーカレーは、 このエンタープライズのみならず、第3艦隊の艦艇全ての食堂で、将兵達の腹を満たしつつあるだろう」 この時、ちょうど司令部幕僚全員への配膳が終わった。 ハルゼーは、スプーンにライスとカレーを乗せ、それを口元まで近付けてから止めた。 「諸君。このヴィクトリーカレーのように、我々は勝ち取ろうではないか。来たる、今日の勝利(ヴィクトリー)をな!」 彼は快活な声でそう言い放った後、スプーンを口に入れた。 カレー独特のツンとした味わいが広がる。それは咀嚼するごとにより深みを増し、白いライスがその辛さと見事に調和する。 空調が効いているとはいえ、冬の冷気に幾分冷やされていた室内が、ほんのりと暖かくなったようにも感じられた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/593
594: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「うむ、やはり美味い!」 「ええ。これぞまさにカレーライス。頭の中の眠気も打ち消してくれますな」 参謀長のロバート・カーニー中将も口元に笑みを浮かべながらハルゼーに言う。 「このフライされた豚肉も美味いぞ」 ハルゼーはスプーンで切ったカツを頬張りながらカーニーに返す。 揚げた豚肉……日系人からはカツと呼ばれる揚げ物もカレールーとライスに絶妙にマッチしており、口の中で感じる程良い柔らかさと サクサクとした食感は、誰が食べても満足できる美味さであった。 「朝から食べるヴィクトリーカレーか……いやぁ、この艦に乗れて本当に良かったと思いますね」 やや場違いな声音で言う若い青年の声に、ハルゼーも深く頷く。 「うむ。俺もそう思うぞ。ラウスも幸せ物だな!」 第3艦隊魔道参謀としてバルランド軍より派遣されたラウス・クレーゲル少佐は、ハルゼーに言われるなり、まんざらでもなさそうに頭を掻いた。 「しかし。よく実行できましたな……出撃前のカツカレー」 航空参謀のホレスト・モルン大佐は、冷静な声音でハルゼーに言う。 「それほど。各艦の料理長も勝利を掴んでほしいと思っているのだよ。じゃなけりゃ、大は戦艦、空母から、小は駆逐艦まで…… 103人の料理長が集まって計画する事は無かった筈さ」 「個人的には、カレーの知識も多く有している元英海軍艦の料理長達までもが、サムナー兵曹と接触している事に驚いております。 彼らはなかなかプライドが高い筈ですが……」 「サムナー兵曹の料理のセンスはかなりの物らしい。彼らも、サムナー兵曹の腕前に興味があったのだろう」 モルン大佐に対して、ハルゼーはそう答えながら、再び食を進める。 「……予定通り行けば、あと1時間後には第1次攻撃隊の発艦が始まりますな」 「ああ……遂に始まるぞ」 ハルゼーは言葉を区切り、残ったカツカレーを完食すると、幕僚達を見回しながらゆっくりと喋り始めた。 「第3艦隊にとって。そして、シホット共にとって、最も長い1日が」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/594
595: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 午前4時50分 空母エンタープライズ艦内 搭乗員待機室 エンタープライズ戦闘機隊の中隊長を務めるリンゲ・レイノルズ大尉は、部下の戦闘機パイロットと共にブリーフィングルームに入室し、 席に座ってから5分ほど経った時、室内に飛行長が入室して来るのを確認した。 「おい、飛行長だ」 彼は、それまで雑談を交わしていた部下にそう言うと同時に、最前列で待っていたエンタープライズ攻撃機隊(VA-6)指揮官 ユージン・リンゼイ中佐が口を開く。 「起立!」 室内に居た搭乗員全員が立ち上がる。 飛行長のダニエル・スミス中佐が地図の掲げられた壁の前で足を止め、流れる動きで体の向きをパイロット達に向ける。 「諸君、楽にしていい」 「着席」 スミス中佐は両手で座る様に促し、リンゼイ中佐の指示でパイロット達は席に座った。 「諸君。朝一のヴィクトリーカレーは余程美味かったようだな。皆の顔色がこれまでにない程、良いように見えるぞ。 ならば、いいメシを食った後は、いい仕事をしてもらうとしよう」 軽いジョークが室内に響き渡ると、パイロット達は一様に小さく笑い声を上げた。 スミスもそれにつられて微笑むが、すぐに真顔になる。 「……レーフェイル大陸沿岸で行われた猛訓練の成果を、遂に発揮する時が来た」 スミスは指示棒を持つと、背後に掲げられている地図の一点を、先端で突いた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/595
596: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「本日早朝を持って、我がエンタープライズ航空群は、他の母艦航空隊と共同で、シホールアンル帝国首都ウェルバンル、並びに、 同地の東20マイルにあるシギアル軍港に攻撃を行う。第1次攻撃隊は、今より20分後の午前5時10分に発艦を開始する」 スミスは指示棒の先端を敵地から、味方機動部隊の位置までなぞらせた。 「味方艦隊から敵地までは300マイルだ。道中、シギアルから50マイル圏内に居る敵の洋上監視艇に攻撃隊は発見されるが、 首都に侵入しているミスリアルの魔道士が通信妨害魔法を使って首都近辺、並びにシギアル港周辺の魔法通信を一定時間遮断するため、 奇襲はまず成功するだろう」 スミスは顔を地図からパイロット達に向ける。 「つまり、第1次攻撃隊は、首都やシギアル周辺に点在する敵ワイバーン群の迎撃を気にせずに攻撃できるという訳だ」 彼は一呼吸置き、再び地図に顔を向け直す。 「現在、シギアル港には、旧式戦艦を初めとする多数の敵艦船が停泊していると思われる。また、敵航空部隊は、シギアル港周辺だけでも 300以上、首都近辺には100以上が確認されており、通常の強襲なら、まずこの400近い敵ワイバーン集団の迎撃を受けた事に なったであろう。だが、先も言った通り、敵の魔法通信は、首都に潜んでいる味方が遮断してくれるから、敵の迎撃を受ける心配はほぼ無い。 むしろ、敵騎が地上に居る所を、戦闘機隊、爆撃隊の銃爆撃で一挙に殲滅する事が出来るだろう」 スミスは指示棒を下げ、パイロット達に姿勢を向ける。 「以上の説明からして、第1次攻撃隊の主目標は敵ワイバーン基地並びに、地上で待機している敵航空戦力の覆滅。並びに、軍港に停泊している 在泊艦船の撃破となる。攻撃方法は、訓練と全く同じである。いつも通り、しっかりとやってくれ。私からの説明は以上だが……何か質問は?」 スミスの問いに、リンゲは真っ先に手を上げた。 「レイノルズ大尉。何かね?」 「はっ、1つだけ確認いたします」 席を立ったレイノルズは、懸念していた事を問い質す。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/596
597: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「もし、首都の味方が敵の魔法通信妨害に失敗した場合、第1次攻撃隊は最初から、緊急発進した敵ワイバーン隊とぶつかる事になります。 そうなりますと、戦闘機隊はまだしも、護衛する攻撃機隊が危険に晒される恐れがあります。そのような事態に至った場合、艦隊司令部は どのような対応をお考えでありますか?」 「それを今から説明する所だ」 スミスは淀みない口調で説明を始めた。 「今回、我が艦隊は3つのカテゴリーに沿って行動する事になる。まず、カテゴリーAは第1次攻撃隊の奇襲に成功した時だ。この場合、 第3艦隊は航空隊の反復攻撃をもって、シギアル、ウェルバンルの重要拠点並びに、在泊艦船を撃滅する。次に、カテゴリーBだが、 これは首都の魔法通信遮断作戦が失敗した場合、第1次攻撃隊は進撃途上中なら攻撃隊を分離し、第2次攻撃隊の戦闘機隊と合同して ファイターズ・スイープを挑み、以降は強襲を行う。そして、敵戦力の覆滅が可能ならば攻撃を続行し、損害が大きければ攻撃を中止し、 戦艦を主力とする水上砲戦部隊を編成し、突入させてシギアル港の破壊を試みる予定だ」 「戦艦部隊を突入させるのか……」 誰かが唖然とした口調で呟くのが聞こえた。 「最後のカテゴリーCだが……これは敵側に、こちらの意図を完全に察知され、港の敵艦隊が既に脱出し、迎撃態勢を整えられている事を 想定している。この場合、攻撃は一時中止し、攻撃隊の編成を見直して爆撃を行うか、または中止して反転するかを司令部が判断する。 言うなれば、このカテゴリーCが最悪の事態を想定したものになる」 「最後はハルゼー長官の判断次第……という事ですな?」 「そうなるな」 リンゲの問いに、スミスは深く頷いた。 「まぁ、ウェルバンルに潜入している味方は相当に優秀だと聞いている。上手くやってくれるだろう」 スミスは安心させるかのような口ぶりでパイロット達にそう言い放った。 「他に質問はあるかね?」 スミスはパイロット達を見回しながらそう尋ねるが、リンゲの他に質問をする者は居なかった。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/597
598: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「よろしい。では」 スミスは幸運を祈ると言おうとしたが、唐突にブザー音が鳴り響いた。 「お……何だ?」 リンゲは首をかしげながら、室内に設置されているスピーカーに目を向けた。 「……おはよう諸君」 スピーカーから声が流れてきた。その声の主は……第3艦隊司令長官、ウィリアム・ハルゼー大将のものだ。 「今日……遂に敵の本拠地を攻撃する時がやってきた。諸君らは、今日のために厳しい訓練によく耐えてきた。諸君らの頑張りは とても素晴らしい物があり、その練度は、間違い無く……世界最強に相応しい物であると私は信じている。そこで、私は…… 諸君らに簡潔ながらも、命令を伝えようと思う。命令は3つ」 スピーカーから流れてきた声が、ぱたりと止まった。 すぐに言葉が流れると思われたが……5秒ほど間を置いてもハルゼーは言葉を放たない。 10秒程経過しても同じだ。 (……長官は何が言いたいんだ?) 誰もがそう思い始めたとき、ハルゼーは唐突に命令を発した。 「1、攻撃せよ!2、更に攻撃せよ!そして3……目標に休む暇を与えず、激しく攻撃せよ!」 ハルゼーの怒声めいた命令が発せられるや、誰もが目を瞬きさせる。 「もう1度言う……攻撃せよ!攻撃せよ!ただひたすらに攻撃せよ!!」 ハルゼーの強い声音が、全艦隊に響き渡った。 しばしの間、室内はシーンと静まり返っていた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/598
599: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] 「以上だ。それでは……この作戦に従事する全将兵の幸運を祈る!」 直後、ハルゼーの放送が終わった。 その瞬間、室内では爆発的な歓声が沸き起こった。 「OK!首都に居座るシホット共にきつい目覚まし時計をプレゼントしてやろうぜ!」 「ああ!それもとびっきり強力な奴をな!!」 誰もが顔を上気させ、現地での活躍を誓い合った。 「士気も上がったところで、ブリーフィングを終了する。諸君、必ず……帰還せよ。これは命令だ!分かったな!」 スミスの言葉に、歓声を上げていたパイロット達は体をスミスに向け、姿勢を直立させてから一様に敬礼を送った。 スミスは軽く敬礼を返してから室内から退出する。 その直後、搭乗員出撃準備のブザーが鳴り始め、パイロット達は次々と室内に飛び出し、飛行甲板へと駆け出して行った。 エンタープライズの艦橋では、マイクを置いたハルゼーが自慢気な表情でラウスに問いかけていた。 「どうだ。なかなかの名演説だったろう?」 「はは……これぞハルゼー提督だと思いましたね」 ラウスは苦笑を浮かべながら答える。周りにいた参謀達も一様に微笑していた。 「ところで……首都にいるお仲間から何か連絡が入ったようだな」 ハルゼーは全艦隊へメッセージを送っている最中に、隣にいたラウスが一瞬、片手で頭を抑えながら離れていったのを見ていた。 「ええ。首都の工作班からは準備完了との報告が入りました」 「ふむ……では、出撃準備を終えるだけだな」 ハルゼーは頷くと、ゆっくりとした足取りで艦橋の張り出し通路に向かった。 通路に出ると、そこからは飛行甲板が一望できた。 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/599
600: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] まだ夜も明けきらぬ中、整備員が所々で照らされるライトの明かりを頼りに、出撃前の最終チェックを行っている。 そこに、発艦準備に取り掛かる攻撃隊パイロットが自らの愛機に駆け寄っていく様が見て取れる。 様々な色の服を着た整備員達は、甲板のあちこちで入念な準備を進めていく。 操縦席で最後の調整に当たっていた整備員は、パイロットが近付くなり機体の状況を一通り説明しつつ、最後の点検を順次終えていく。 コクピットに座っていた機付き整備員も、パイロットに愛機を引き渡すため、手慣れた動きでコクピットから出て、パイロットが入れ 替わりにコクピットに入っていく。 エンタープライズの飛行甲板には、弾薬を搭載し、暖機運転を終えたF8Fベアキャット24機、AD-1スカイレイダー24機が翼を 折り畳んだ状態で駐機している。 エンタープライズの第1次攻撃隊はこの48機で構成される事になっている。 エンタープライズの左隣800メートルを航行する空母ヨークタウンも、F8F、AD-1計48機、それに加えて、誘導役のS1Aハイライダー1機が 攻撃隊の出撃に先駆けて発艦する予定だ。 この他にも、空母ワスプからはF8F16機、AD-1A16機、軽空母フェイトからはF8F8機、AD-1A10機が発艦する。 TG38.1だけで、実に147機もの艦載機が、一路、敵首都攻撃に向けて発艦するのである。 これはTG38.1だけの数字であり、TG38.2、TG38.3の攻撃隊も加えれば、その数はかなりの物になる。 そして、第1次攻撃隊の発艦が終えてから1時間以内には、TG38.2の艦載機も含んだ第2次攻撃隊が発艦する予定であり、 これらも含めると、総勢700機以上もの大攻撃隊が敵の牙城ともいうべきウェルバンル……そして、シギアル軍港に襲い掛かることになるのだ。 「さすがに、真っ暗闇だな。ここからの見栄えも宜しくないもんだ」 「日没まで時間がありますからねぇ。あと、風が強くて寒いっすわ」 ハルゼーは手すりに手を置きながら、隣のラウスに語りかける。 対するラウスも、いつもののんびり口調で彼に答えた。 「防寒服越しでも冷たい風が伝わるな。それに加えて……波もやたらに高い。発艦作業を行うには少し厳しい環境だな」 ハルゼーは快活そうな声音で言いつつも、心中では海上の荒れ具合が気になっていた。 第3艦隊の各艦は、現在、北太平洋の荒れた波の中を時速24ノットで航行を続けている。 発艦時になると、各艦は時速28ノットから30ノットまで速度を上げるため、自然と艦の動揺も大きくなってくる。 今の波の状態なら、なんとか発艦は可能であるが、これ以上に大きくなると艦載機は発艦できないかもしれない。 「気象班の予報では、午前5時頃には天候は回復し、海上の波も穏やかになるようだが……果たして、そうなるかな」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/600
601: ヨークタウン ◆.EC28/54Ag [sage] ハルゼーが眉を顰めながらそう呟いた時、ひと際大きな波がエンタープライズの艦首に踏み潰され、ドーンというやや大きな動揺と共に 飛行甲板最前部が海水で洗われた。 これと同様の光景は、第3艦隊のあちこちで見られており、エンタープライズの右舷側斜めを航行する戦艦アイオワなどは、艦首付近が海水に 覆われて派手に水しぶきを上げる程であった。 ハルゼーは無言のまま、その場で発艦の機会が巡るのを待ち続けた。 午前5時10分になると、幾らか艦の動揺が収まってきたように思えた。 「お……これは、予報通りになるか?」 「ほんの少しですが、揺れが小さくなってますね」 「ラウスもそう感じるか」 ハルゼーはニヤリと笑いながら、心中では予報官の正確な天候予測に賛辞を送っていた。 午前5時20分には艦の揺れも更に収まり、今では全速航行しても発艦可能なレベルになっていた。 この時、飛行甲板で駐機していた第1次攻撃隊参加機が一斉にエンジンを始動し始めた。 第1次攻撃隊の参加機には、消火器を持った甲板要員が1人ずつ待機していたが、特に異常がないことを確認すると、即座に離れ始める。 総計48機もの艦載機が発するエンジン音は凄まじい。 その轟音はまるで、獲物を前にした巨獣があげる雄叫びのようにも聞こえた。 「長官、TG38.1司令部より通信。発艦準備完了!続いて、TG38.2、TG38.3司令部よりも発艦準備完了の報告が 届いております」 航空参謀のモルン大佐が報告を伝えてきた。 「……よろしい」 ハルゼーは深く頷くと、張りのある声音で待望の命令を発した。 「命令を伝える。攻撃隊、発艦開始せよ!」 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/4152/1380813462/601
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