[過去ログ] 勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」 (970レス)
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639: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:15 ID:Cav8RLV20(1/14) AAS
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勇者「……殴るだけでよかったのか」
少女「何、殺せっての?」
勇者「そうじゃなくて。軍に引き渡したっていいんだし」
少女「勘弁してよ。こんなクズのために使う労力も時間も、アタシたちにはないわ。そうでしょ?」
省9
640: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:16 ID:Cav8RLV20(2/14) AAS
狩人「山を越えたところに駐留してる部隊があって、そこと合流するつもりだったみたい」
勇者「ってことは……来た道を戻る形か」
老婆「どのみち魔力もそれほど残っておらん。あまり長距離はいけんよ。ちょうどいい」
老婆が杖で地面に真円を描くと、それが発光を始める。それを見た三人が円の内部に入って、光はやがて光の柱となる。勇者は儀仗兵長を背負う形で。
光が消えたとき、五人の姿はない。
省1
641: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:16 ID:Cav8RLV20(3/14) AAS
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勇者たちがやってきたのは麓の町の病院であった。ここは占領下にありながらも、大した制限を受けずに生活を営める稀有な町だ。
周囲を見渡せば、勇者たちと同じ兵服を着た人間が何人も見つかる。しかし彼ら彼女らの様子は緊張した戦争のそれとは違っていた。
ここはいわゆる療養所なのだ。前線で傷ついた兵士たちを癒すための。
勇者「おい、頼む」
医者「あんたらまた……って、どうしたんだ!?」
狩人「道すがら、交戦の後に全滅している部隊が、敵と味方であった。その生き残り」
省8
642: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:17 ID:Cav8RLV20(4/14) AAS
思わず勇者は視線を逸らし、頬を掻いた。どうにも無性に恥ずかしくなったからだ。
勇者たちはこの一か月、たった四人で戦場を駆け回っていた。
東では砦の攻略に手を貸し。
西では略奪を行う自軍の不届き者を捉え。
南では境界線を割ってきた敵を食い止め。
北では魔物に襲われた村を救った。
本来ならば老婆は王城にいなければいけないらしいのだが、帰還連絡を彼女は常に無視し続けてきた。現場で活躍しているためお咎めなしの状態である。
勇者や狩人、少女も本来ならば軍属であって、現状は軍規違反も甚だしい。それでも何ら処罰がないのは、前述したことと、老婆という後ろ盾があるからだろう。
しかし、最早彼らには軍などどうでもよかった。狩人も、少女も、老婆も、戦争の行く末を見据えてはいなかった。
省4
643: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:17 ID:Cav8RLV20(5/14) AAS
だからこそ勇者たちはなるべく人を殺さないようにしていた。強く在ること。揺らがない自身を持つこと。誰かを助けるために人を殺すことに抵抗はなかったが、だからこそ殺そうとは思わなかった。
殺すしかなくなってから殺せばいいのだ。
いや、殺せばいいのだという表現は、命の軽視である。殺すしかなくなったときに初めて、それを実行できる。
ひと月たった今も世界を平和にする方法は見つからない。九尾の企みもわからぬまま、四天王もめっきり現れなくなった。ただ戦争が続いているだけである。
勇者たちが山岳地帯にいたのは、敵軍に不穏な動きがあることを突き止めたからだった。単なる駐屯所ならまだしも、そこに聖騎士が出入りしているのであれば大事である。王城から受けた依頼を、勇者たちは断らなかった。
それは結果的に良い方向へと向かった。彼らがあのタイミングであそこにいなければ、恐らく儀仗兵長は死んでいただろうから。
勇者たちは医者に礼を言い、病院を後にした。夜も更けている。山岳地帯に建設されかけていた魔道砲場は完膚なきまでに叩き潰したため、今夜は枕を高くして眠ることができるはずだった。
省4
644: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:18 ID:Cav8RLV20(6/14) AAS
勇者「ということは、誰かが床で寝ることになるな。俺が寝るよ」
狩人「だめ。勇者はベッドで寝て。私が」
少女「ちょっと待ってよ。ここは頑丈なアタシに任せてって」
勇者「うーん、そう言われてもな」
少女「じゃ、一緒のベッドで寝る?」
省8
645: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:19 ID:Cav8RLV20(7/14) AAS
勇者「ちょーっと、ストップ! ストップ! お前ら何の話をしてるんだ」
宿屋の主人の好奇の目に耐え切れず、勇者は叫んだ。
勇者「俺はばあさんと寝る! お前らが一緒の部屋! 以上!」
老婆「わしと寝るだなんて……勇者もなかなか積極的じゃのう」
勇者「うるせぇ。なんかしてきてみろ、ぶっ飛ばすぞ」
省13
646: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:19 ID:Cav8RLV20(8/14) AAS
狩人「召集があるまでは、待機? それとも、また、どこかへ行く?」
勇者「一応、待機。近くで何かが起きればそっちへ行くけど、話を聞く限り次の戦場のここは近いから、あんまり離れたくはないな」
老婆「何かあれば指示を出してくれよ。お前の言うことなら何でも聞こう」
狩人「私も」
少女「アタシだって、聞いてやらなくもないし」
省13
647: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:20 ID:Cav8RLV20(9/14) AAS
老婆「逃げてもよかったのかえ?」
勇者「いいんだよ。ここ最近のあいつらは、なんかおかしいからな」
老婆「朴念仁」
勇者「は?」
老婆「――と、言われても仕方がないのじゃよ」
省10
648: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:20 ID:Cav8RLV20(10/14) AAS
老婆は真っ直ぐにお辞儀をした。
思わず面喰ってしまい、勇者は一歩後ろに後ずさる。こんな殊勝な老婆を見るのは初めてだった。いや、別に彼女に常識がないというわけではないが。
勇者「大したことはしてねぇよ。それに、俺にはあいつが必要だ。だから助けた。仲間だしな」
くさいセリフをしゃべっている自覚があった。しかし言ってしまった以上は止まらない。ええい、ままよ、と一気に言葉を紡ぐ。
勇者「俺一人だけの力じゃどうにもならないってことを、俺はわかってるつもりだ」
勇者「それにしても急にどうした。礼なんて前にも聞いたぞ」
省6
649: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:21 ID:Cav8RLV20(11/14) AAS
勇者「……」
老婆「この戦争は、止まらん。王は各国の停戦勧告を受け入れるつもりがないらしい。敵国もじゃ。わしのあずかり知らんところで、危険な魔道具も開発されていると聞く」
老婆「『核』という大規模な殺戮兵器じゃ。わしの樹木魔法を量産化したような、ひどい……ひどい、ものじゃ」
老婆「本当なら今すぐ王城へでも乗り込んで、王の頭をひっぱたいてやるべきなのじゃろう。あぁ、そうすべきなのじゃろう」
老婆「しかし、勇者。恥ずかしい話じゃが、わしにはそれができん。国のために何百何千と、敵と味方の区別なく、人を森の養分としてきたわしには、そんなことはできん」
省7
650: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:21 ID:Cav8RLV20(12/14) AAS
勇者「俺は」
老婆「!」
老婆は自然と体が震えた。勇者の言葉を、返事を聞くのは勇気のいることだった。
恐らく自分には勇気がないのだと老婆は感じる。彼が彼女に対して大きく秀でているその一点が、彼に期待してしまう要因なのだ。
勇気のある者。
ゆえに、勇者。
勇者「……約束はできない」
省8
651: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:22 ID:Cav8RLV20(13/14) AAS
老婆「……」
勇者「……」
二人、肩を並べて歩く。
どちらも無言だったが、やがて老婆がぽつりと言った。
老婆「ありがとうな」
勇者「それほどでも」
省1
652: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/28(水)10:23 ID:Cav8RLV20(14/14) AAS
今回の更新はここまでとなります。
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