[過去ログ] 勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」 (970レス)
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307: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:47 ID:nCIrDtoE0(1/14) AAS
* * *
次の日、狩野の机に菊が置かれていた。
狩野は一瞬目を見開くが、まるで何もなかったかのように椅子を引く。
せめて花と花瓶くらい除ければいいのに。そのようなこれ見よがしな態度が攻撃を激化させることをわかっていないのだろうか?
しかし狩野の行動は明らかに不自然だ。俺が今考えたように、本来ならばおとなしくなるべきなのだ、やられている側は。
性格なのだろうか。やられて黙っていられないほどの。
夢野「全く、転校生もよくわかんないねぇ」
女川「……」
省7
308: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:47 ID:nCIrDtoE0(2/14) AAS
夢野「怖いよねぇ女って」
女である夢野が言うのはおかしかったが、俺はそれを指摘する元気もない。日がな一日こうなのだ。それでいて病院にかかろうとは全く思えない。
思えないというのは、単にやる気の問題であり、かつやる気の問題でしかなかった。やる気が根こそぎ奪われているのだ。誰が何の目的で俺のやる気などを奪っているのかはわからない。世界中の恵まれない子供にでもばらまくつもりだろうか?
夢野「ま、転校生も付き合いが悪かったしね。ね、ね、聞いてよ。あの娘、クラスのリーダー格の○○さんに、『存在が臭いからどっか行って』って言ったんだってさ!」
勇「あぁ……あぁ、そう……」
夢野「もう、もっと頑張ってよ! 張り合いがないなぁ!」
省7
309: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:48 ID:nCIrDtoE0(3/14) AAS
* * *
また次の日、トイレから戻ってきた狩野は、なぜかびしょ濡れだった。まさかトイレの中で夕立にでも降られたのだろうか? だとしたら運の悪いことである。
朝にやっている教育番組のように、狩野に対するソーユーコトは、手を変え品を変えバリエーションが豊富だ。ゲームでチーププレイを拒む心理に通じるものがある。変なことに熱意を燃やす人間もいるものだ。
最近、頭は痛くなくなってきた。代わりと言ってはなんだが、視界の端がうっすらと桃色に染まり始めている気がする。
俺は女川の席を見た。彼女は本日欠席である。体調が悪そうだったから、家で安静にでもしているのだろう。
夢野「ねーねー、勇ちゃん。転校生がまたやられてるよ。あんなに頑張って意味あるのかな。どうせうまくいきっこないんだしね」
何がうまくいきっこないんだろう。夢野は何を知っているんだろう。
省7
310: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:49 ID:nCIrDtoE0(4/14) AAS
夢野「あ、もしかしたらマゾなのかもね。それならよかったな」
そうなのか?
夢野「うん。ちょーっと登場人物のパターン弄って、みんな転校生をいじめるようにしといたんだ」
夢野「折角みんなに喧嘩売ってるみたいだったからさ」
そんなこともできるのか。
省7
311: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:50 ID:nCIrDtoE0(5/14) AAS
脳髄へと伸ばされた誰かの手を振り払い、教室を後にする。無節操に解剖されるのは好きではない。だのに、誰かが違法行為をおかしているのだ。ぞわりぞわり這い登ってくる悪寒の主はその誰かに決まっている。
部室へ行って、夢野と駄弁る必要がある。そしてそのあと本屋に寄って、女川の見舞いに行こう。そうしたら明日は学校で、それさえ乗り切ってしまえば土日の連休。
そこで頭をゆっくりリフレッシュすればいい。夢だの現実だのに振り回される必要はない。
もうすぐ終わるのだ。
なにが? ――学校が。平日が。
だけれど本当にそうだろうか? もっと大事な何かが終わりを迎えるのではないだろうか?
心がぎしぎしと軋んで悲鳴を上げる。経年劣化した輪ゴムが千切れるように、心もまた、劣化は早い。
体中を掻き毟りたくなる感覚をなんとか押さえつけ、俺は部室を目指す。
省1
312: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:51 ID:nCIrDtoE0(6/14) AAS
* * *
さらに次の日、狩野の机の中身が丸ごと避妊具に置き換えられていた。ご丁寧に中身が入った状態で。
誰が何のためにやっているのか。そんなことは最早どうでもいい。戦争はすでに包囲戦へと突入している。諦めて退くか、兵糧が尽きて陥落するか、どちらか一つしか結末は存在しない。
生きるということは戦争である。学校ならば、それに拍車をかける。
吐き気がする。頭痛がする。倦怠感。眩暈。幻聴に幻覚。病んでいるのは周囲なのか、それとも俺の精神なのか。
現実は加速し、とどまるところを知らない。ブレーキはすでにどこかへ吹っ飛んで行ってしまったのだろう。手を伸ばしたとしても、それより早く遠ざかってしまっては、行為をするだけ無駄というものだ。
そしてまた、夢もとどまらなかった。あの日を境に現れた仮想現実は、俺の安眠を妨害こそしないまでも、着実に現実を蝕み始めている。
目を覚ませば、明日にも俺は俺であって俺でない俺になっているのかもしれない。その考えは何度振り払ってもこびりついて黒ずんでいく。
313: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:54 ID:nCIrDtoE0(7/14) AAS
ぐぉおおおん。ぐぉおおおん。ぐぉおおおん。
鐘の音で気が付けば、すでに放課後であった。昼食はどうしたのか、板書は書き留めたのか――その辺りの記憶がまるでない。霞がかかった中で、正確な事実を引き出せない。引き出すほどの事実が本当にあったのだろうか。
苛立ちは焦燥感を引き寄せ、精神を不安定にさせる。
何かをしなければいけない強迫観念だけがあった。けれど、何を強迫されているのかがまるでわからないのだ。目的の欠如は方向感覚を乱して大いに俺を惑わせる。
自然と手に力が入ってしまっていた。爪は加工された机の天板の上を滑っていくだけで、何にも引っかかることはない。力すら籠めさせてくれないのは、俺に対しての罰のつもりだろうか。だとすればなんと効果的な。
勇「部室……いかなきゃ」
省2
314: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:56 ID:nCIrDtoE0(8/14) AAS
脇目も振らず一目散に、誰よりも早く教室を出る。後ろからクラスメイトが声をかけてくるが知ったことか。掃除当番などサボタージュの対象だ。今はただ、今はただ俺は、この心を休めたいのだ。
二階に一旦降り、渡り廊下を伝って特別教室棟へ移動し、さらにそこから階段を上って三階へ。
突き当りを右に曲がった一番奥、物置のような小さな冒険部の部室。
そこに酸素を求めるかのように、俺は扉を開ける。
夢野「やっほー」
勇「あぁ、夢野か。上春先輩は」
夢野「今日は用事でお休みだって言ってたよ」
省13
315: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:56 ID:nCIrDtoE0(9/14) AAS
こいつは何を言っているのだろうか。浮かんだ疑問は、しかし一瞬で霧散する。誰かが思考の流れを絞っているのだ。脳髄の根っこを掴んだ手が、きっとどこかに転がっているはず。
夢野「勇ちゃん、私のこと、好き?」
血のように真っ赤な夢野の唇の向こうに覗く、鋭い犬歯。桃色の吐息は酷い酩酊をもたらす。
最早何もかもが面倒くさかった。
ゆっくりと頷く。全てを彼女に任せておけば問題はないのだ。だって夢野は夢野なのだ。だから大丈夫。問題ない。
ワイシャツのボタンが外されていく。次いで、夢野自身のそれも。
豊満な胸が零れ落ちた。それに手を伸ばすと、夢野はにこりと笑って、触りやすいように突き出してくれる。
夢の中にいるようだった。こんな心地のよいことがあるだろうか。茫洋とした霧の中でへらへらと浮かんでいるアリの群れが俺だ。
外からは吹奏楽団の飛行機が屋根の上で大蛇と缶詰のツーシームに決まっていて格好いい。四件目のラーメン屋を混ぜ込んだヨーグルトと粘土の川は、今日がまた今日で来年の今日に決まった。
蛋白質は電波に重なる魚の樹液に違いない。なぜならその中心に夢野が立っているから。
省3
316: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)08:59 ID:nCIrDtoE0(10/14) AAS
柔らかく反復するトリツチェルマジネ電離層が俺の背中を押してくれていた。足元も蚕の微笑みが渦巻くように前転をしていて、放っていても自然と足が前に進む。実に快適な環境だった。
思わず夢野の唇を貪る。
頭の中でリトルボーイが五人ワルツを踊っている。おーい、俺も混ぜておくれよ。お料理教室のテーマに沿って踊りましょう。
快楽物質で世界中の多幸感が俺にハッピーエンド。スポイトで一滴一滴垂らされたラブ&ピースは俺の幸福上限値に表面張力を働かせる形で盛り上がる。
気持ちいい。
気持ちいい。
このまま溶けてなくなったとして、俺は何一つ不満がないだろう。
省8
317: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)09:01 ID:nCIrDtoE0(11/14) AAS
四人の女子が彼女を取り囲んで、ひたすらに足蹴にし続けている。狩野は蹲って耐えているようだが、それにどんな意味があるだろうか。
もっと楽に生きればいいのに。だって世界はこんなにも濃密な乳白色の空なのだ。
辛いことなど何もない、悦楽だけがそこにある、桃源郷色のユートピア。
いや、ユートピア色の桃源郷なのかもしれない。どっちだろう。
俺のへらへらした笑みが零れ、狩野に落下する。
音符の見えない世界において、どうしてだろう、俺はその事実を視覚的に捉えた。
そうして、彼女は俺を見る。
鋭い、余りにも鋭い、まるで矢のような視線が俺を打ち抜く。
血を吐いた。
省1
318: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)09:02 ID:nCIrDtoE0(12/14) AAS
「わたしがピンチになったら、絶対助けに来てね」
誰かがそう言った。
誰がそう言った?
言われたのは、いつだ?
助けるって誰を?
ん?
夢野「勇、ちゃん?」
省9
319: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)09:08 ID:nCIrDtoE0(13/14) AAS
切れそうになった電球が点滅している。おかしい。部屋の電気はつけていないはずだ。ならばこの明滅はどこで起きているというのだ。
あぁ、そうか。
俺の脳内だ。
妙に冷静な感覚があった。思考だけが急速に回転し、肉体の動きはほぼ停止しているといっても過言ではないだろう。
頭の中は冴え冴えとしている。と同時に、割れそうなほどの頭痛もまた。
本来同時に起こりえないであろう事象が同時に起きているのに、俺は極めてそれを傍観者気取りで見ている。そんなことに振り回される前にすべきことがあるのではないか。
すべきことがあるのだ。
理屈とか、理由とか、わからないけれど。
過程とか、考えたところでわからないけれど。
誰かと約束をしたのだ。
省4
320: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/08/15(水)09:10 ID:nCIrDtoE0(14/14) AAS
俺は、
夢野の、
服を、掴ん、で!
窓――窓、窓だ、窓から、落ちたら、死ぬかもしれないけれど!
死ぬかもしれないけれど、
省14
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