[過去ログ] 勇者「王様が魔王との戦争の準備をしている?」 (970レス)
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555: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:25 ID:vmtqTpQG0(1/28) AAS
―――――――――――

 振動で少女は目を覚ました。

 カーテンの隙間から朝日が漏れ、差し込んできている。名前のわからない鳥の声も聞こえてきた。
 どうやら昨晩は泣き疲れてそのまま眠ってしまったようだ。顔を見ればきっとひどい顔になっているのだろうと少女は思う。

 部屋の隅には見るからに上等そうな化粧台が置いてある。少女はそもそも化粧などしたことがない。それに、泣き腫らした顔を見るのも嫌なので、見なかったことにしてベッドから立ち上がった。

 いい部屋で、いい空気である。ここが敵地ではないのならば最高だっただろうに。
省5
556: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:28 ID:vmtqTpQG0(2/28) AAS
 あたり一面の森が広がっている。深い深い森だ。葉の色も、緑というよりは黒に近い。
 視線を下せば河川が見えた。それを追っていくと、はるか遠くに見える山々と、その中間地点あたりに城壁が見える。

 隣国にはあのようなものを建造する文化はないし、かといって少女の国にもああやって都市を防衛するところは少ない。共和国連邦か、宗教公国か、どこかだろう。
 そこまで考えて少女は随分と遠くに連れ去られたものだと感じた。同時に、自分が諦念を覚えているということもまた。

 窓からは一体何が起きているのかを把握することはできなかった。窓の向きが違うのだ。
 部屋から出られないか――そう思ってドアノブを回すが、やはり回らない。

少女「当然か……」

 厳密な意味での人質ではないにしろ、少女が囚われの身であることに変わりはない。そう簡単に出してもらえるはずもなかった。
省5
557: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:31 ID:vmtqTpQG0(3/28) AAS
??「どうした」

 突然の声に振り向けば、漆黒の甲冑が立っていた。首から上のないその姿は、塔の主、デュラハンである。

 少女は警戒こそすれど、彼が見境なしに襲ってくるわけではないと理解していた。一定の距離を取りながら尋ねる。

少女「何か、起こってるの?」

デュラハン「あぁ、そこで戦があるらしい」
省7
558: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:31 ID:vmtqTpQG0(4/28) AAS
 理解できなかった。
 確かに危険な雰囲気はあった。どちらの国も旱魃による凶作で、食料が足りなくなっている。鉱山や水資源の小競り合いも、最近は多い。

 それに輪をかけた魔族の活動の活発化。地力を確保するためには合法、非合法問わない成長戦略がとられていたとも聞く。

 だからこそ少女たちは魔王を倒すために出たのだし、勇者たちもそうである。

 が、王城の中にいてなお、少女はそんな話を聞いたことがなかったし、予感もなかった。密かに準備を進めているという噂はあったものの、いったい何が火をつけたのか、判然としない。

 無論少女は知らない。アルプが王城にてしでかしたあの一件が、王の口実として掬われてしまったのだと。
省3
559: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:32 ID:vmtqTpQG0(5/28) AAS
デュラハン「……と、言いたいところだけど、もうくたくたでね。いや、楽しかった。だけどやっぱり、疲れるもんは疲れるもんだ」

 この異形の者が何を言っているのか少女には皆目見当がつかない。ただ、デュラハンが至極機嫌がよいのだな、ということは伝わった。

 少女はかねてから疑問に思っていたことがあった。それは、魔族と魔物の違いについてである。
 人間の中では魔族は魔物の上級としての扱いをされている。それはつまり、智慧の有無を指している。具体的には意思の疎通、ある程度の将来を見通した行動などが含まれる。また、純粋な戦闘力も。

 その差は一体どこで生まれてくるのか。少なくともデュラハンをはじめとする四天王が、瘴気に侵された野生動物と根を同じくするものだとは思えなかったのだ。

 デュラハンには喜怒哀楽がある。意思の疎通もできる。ジョークを介し、好む。自らの嗜好を理解したうえで存在している。そんな存在がいったいどこから生まれるのか。
 人間のような生殖をするとは、どうしても彼女には思えなかった。血脈の存続を目的とした機能がそもそも備わっているようには見えない。
省3
560: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:33 ID:vmtqTpQG0(6/28) AAS
 少なくとも少女のその認識は、彼女にデュラハンとの会話を成立させる程度には警戒心を解かせていた。

デュラハン「人間臭い、人間臭い、か」

 デュラハンは得心が言ったような笑みを浮かべている。

デュラハン「ま、それはしょうがないだろうね。俺たちは魔族だから」

少女「魔族だから、どうなの」
省4
561: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:33 ID:vmtqTpQG0(7/28) AAS
デュラハン「それにしても」

 デュラハンは器用に鎧の指を鳴らした。いつの間にそこにいたのか、子供程度の大きさの妖精が、部屋の隅でかしこまっている。

デュラハン「俺は疲れた。ひと眠りするよ。ウェパルに負けたのは悔しいけど――楽しかったなぁ」

少女「せっ、戦争って、どういうこと」

 部屋を出ようとするデュラハン相手に少女は慌てて尋ねた。ここ数日で激変してしまった世界。彼女だけがそこから取り残されている。
省5
562: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:34 ID:vmtqTpQG0(8/28) AAS
 今まではそんなことを少女は思わなかった。彼女の世界は故郷の村で、家族と防人を務めていれば十分満足だったからだ。そこでは、彼女は確かに世界を守れていた。
 しかし世界の外には更なる大きい世界が広がっている。そこへと足を踏み出したのは彼女の意思だ。その選択を彼女は後悔したことはなかったし、これからも後悔することはないと感じていた。
 それでも現実は彼女を苛む。彼女は何も守れていない。そして、守れないことを正当化できるだけの論理も、無恥も、持っていない。

 そんなことは無視してしまえばいいのだと心無い人間は言うだろう。そして彼女は言うのだ。無視できるものならしたい、と。
 そうだ、あいつが悪いのだ、と彼女は思った。全てあいつが悪いのだ。全てあいつが悪くて、あいつのせいで、あいつがいなければこんな弱さを感じることもなかったのだ。
 弱さを認めて、見つめて生きるなんて、そんなことはできない。

 それだけが存在意義だったのだから。

 何に縋り付けばいいというのだろう。誰がこんな自分の手を取ってくれるのというのだ? 中途半端にしか人を救えない、こんな半端者の手を。

 思わず伸ばしてしまった手を思わず引っ込める。敵に対して手を伸ばすだなんてありえないことだ。考えられないことだ。
563: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:34 ID:vmtqTpQG0(9/28) AAS
 デュラハンは少女の瞳を見つめていた。それに気が付いて、少女は慌てて視線を逸らす。

デュラハン「……戦争のことは、俺にはわからないんだ。あの二人以上に強い存在がいるとも思えないし、興味はないね」

少女「だったら、早く戦って。あなたが満足するまで戦うから。だから、早くアタシを外に出して。戦争なんて放っておけない」

デュラハン「……」

 デュラハンは無言のままに踵を返す。
省8
564: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:35 ID:vmtqTpQG0(10/28) AAS
少女「うぅううう……」

 喉の奥から嗚咽が漏れる。少女は歯を食いしばるが、体の奥底からこみあげてくるものは到底堪えきれるものではない。

 もしも、もしも自分が祖母のように強かったのなら、きっと何も悩む必要はなかったのだろう。誰かを守れないことに苦悩するなんてことは無縁の生活がおくれたのだろう。
 しかし、現実として、自分は弱い。弱すぎる。
 満足に誰かを守ることもできない、ちっぽけな人間だ。

 少女は、けれど、知らなかった。彼女の祖母、老婆の苦悩を。
 弱き者には弱き者の、そして強き者にだって、強き者なりの苦悩がある。彼女はそこにまで思い至らないが、それによって彼女が愚かだと断定するのは早計だろう。

少女「……!」
省4
565: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:36 ID:vmtqTpQG0(11/28) AAS
 あいつのように。
 勇者のように。
566: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:36 ID:vmtqTpQG0(12/28) AAS
 思わず少女は自嘲が浮かんでいるのに気が付いた。嗚咽は止まらない。涙も止まらない。それでも口元は歪んで口角が上がる。
 あまりにも愚かしかった。愚かしくて、おかしかった。これではまるで道化師ではないか。出口のない網の中でもがき続けるさまを誰かがどこかで笑って見ているのだ。

少女「なに見てるのよ、アンタ」

 部屋の隅でたったまま微動だにしない妖精を見て、少女は不愉快そうに顔を歪めた。

妖精「マスターよりあなたの周りの世話を仰せつかっておりますので」

少女「アタシは客人ってわけ? さっきのアンタの主人の態度、見た?」
省7
567: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:37 ID:vmtqTpQG0(13/28) AAS
 ミョルニルを振りぬいた少女は、「は」と小さく顔を歪めた。
 答えを持たない相手と会話をしても無駄だと判断したのだった。

 手の中にずしりと重いミョルニルだけは、決して彼女を裏切らない。彼女はその重みだけを信じていた。自分すら信頼できない中、確かなものはそれだけだった。

 こんな自分に何ができるのだろう。
 人を殺すことしかできない人間に。

 絨毯の上に横になった。体を起こす気力すらもない。
 何をしても全て無駄なのだという確信があった。戦争は起こった。自分は塔に囚われている。今更できることなどない。そして、戦争にたとえ出陣したとしても、人を殺すことしかきっとできないに違いない。
 救うことすら中途半端未満にしかできない、愚か者なのだ。

 掬い上げようとした命は指の隙間から溶けて流れ出していく。手のひらに残るのは、救いきれなかった命の残滓ばかり。目に映るのも、また。
省5
568: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:37 ID:vmtqTpQG0(14/28) AAS
 だって、だって、だって!

 だって!

少女「なんで――!」

 少女の言葉の先を掻っ攫っていったのは、耳を劈く爆裂音。そしてその音は確かに階下から聞こえてきていた。

少女(砲弾?)
省8
569: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:38 ID:vmtqTpQG0(15/28) AAS
 扉越しにそんな会話が聞こえてきたものだから、少女はまさしくその通りだと思った。必死の塔に攻めてくるなんて、命知らずというか、そうでなければ最高に不幸なやつだ。

 爆裂音。

 どうやら順調に侵入者は突き進んでいるようである。なるほど、流石に単なる雑魚ではないようだ。でなければここまですらたどり着けなかっただろう。
 扉の向こうは次第に騒然としてくる。どうやら侵入者はたった一人で、それだのにざくざくと向かってくるのだから当然だろう。

少女「ま、アタシには関係ないことか」

 もうどうにでもなってしまえばいいのだ。世界も、この身も。
省2
570: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:38 ID:vmtqTpQG0(16/28) AAS
 あまりの大きな破壊に、少女は思わず両腕で身を守る。土塊や木材、砂埃が部屋中を満たす。
 こんな状況でもミョルニルを握り締めているのが悲しいサガだ。

??「やーっと見つけたぞ、この野郎、迷惑掛けやがって」

 聞きなれた声。大嫌いな声。気に食わない声。

少女「なんで……」

 なんで、アンタがいるのよ。
省4
571: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:40 ID:vmtqTpQG0(17/28) AAS
 左腕の肘から先がない。

 左肩が大きく噛み砕かれている。

 右脇腹に大きな穿孔があって、向こうの景色が見える。

 剣を握る右手も、親指と人差し指、そして薬指だけがあって、中指と小指はあらぬ方向にひん曲がっていた。

 脚こそは両方健在だが、酷く焼け爛れている。鮮やかな皮下組織の桃色が痛々しい。
省2
572: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:40 ID:vmtqTpQG0(18/28) AAS
勇者「ここに来るまでに3Lvくらいアップしたわ」

少女「そっ、そういうことじゃないでしょぉおおおおっ!?」

 彼の背後に迫る敵影。思わず体が反応した。
 少女は跳ね、魔物を数匹まとめて砕き飛ばす。

少女「アンタなんなの、バカじゃないの、なんで一人で、こんなっ、アタシ、アタシなんか、アタシなんて!」

勇者「ばあさんと狩人は、よくわからん。はぐれた」
省9
573: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:41 ID:vmtqTpQG0(19/28) AAS
勇者「帰るぞ」

 勇者は剣を鞘に納めて少女に手を伸ばした。

 手。

 少女は思わず体を強張らせ、息を呑んだ。
 壁には穴が開いている。廊下が見えていて、このままもしかすると、逃げることはできるのかもしれない。

 デュラハンは出てこない。休んでいるのか、それとも、勇者にも少女にもすでに興味は尽きたのか。
省9
574: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2012/11/10(土)02:42 ID:vmtqTpQG0(20/28) AAS
――なんで怒ってくれないのか。ふざけるな、馬鹿にするなと叫んでくれれば、こっちだって本望なのに。
 どうしてそんな、可哀そうな目でこちらを見てくるのだ。

勇者「お前だってそうじゃないのか?」

 はっとした。心の奥底を見透かされたようで、苛立ちが喉を突き破る。

少女「わかったような口を利くな! アンタに何ができる!」

勇者「俺を信じろ」
省6
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