白雪千夜「私の魔法使い」 (111レス)
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103: 27/27 ◆KSxAlUhV7DPw 2020/02/04(火)21:33 ID:ldlfMP+C0(103/110) AAS
 そうして千夜までもいなくなってから、何度も連絡を取れないか持たせてある携帯電話へメールも電話も試してみたが、千夜からの応答はまだ無い。

 回収してある千夜が会場に残していったものはちひろに管理してもらい、いつ千夜が事務所に戻ってきてもいいよう、会場を後にしてから今に至るまでプロデューサーは事務所の部屋で待機している。

 さっき夜が明けたばかりのはずが、既に西日が差し込んできていた。

 懐から時を刻むべく動き出した懐中時計をもう何度目になるのか手に取り、どうしてちとせはいなくなってしまったのか振り返ろうとした時。ふと、ちとせから渡されたものを思い出す。

「……そういえば、もう1つ……」

 ちとせから渡されたものは3つあった。手元に残ったちとせの家の鍵だけはプロデューサーに持たせるためにちとせから託されている。

 ちとせが何かを見据えて、これを持っていてほしいと渡してくれたのなら、使いどころは今しかない。

 家に帰っているのならひとまずは安心だ。だが、その昔ちとせが目の当たりにしたという、千夜が闇に沈んでいってしまうのを誰の手も届かないところで迎えてしまっていたら。

 とにかく千夜を独りにさせてはいけない。連絡もつかないのだ、他に手掛かりもなければそれに賭けるしかない。

「待ってろよ……千夜」

 ちとせの家までの道のりは完璧に覚えている。早く向かってやらなければと、気持ちがはやる。だがここで何かあってはいけない、平常心で運転出来る自信は無かったのでタクシーを拾って急いでもらうことにした。

 1分、1秒でも早く着くことを願いながらようやく2人の住むマンションの前まで来ると、財布に入っていたお札を丸ごと運転手に握らせてエントランスに急ぎ、インターホンで呼び出してみる。
 が、応じる気配は一向になかった。

 それならと、ちとせから渡された鍵でオートロックを解除し中へ進んだ。ホテルのロビーのような空間からエレベーターへ一直線に向かい、彼女たちの住んでいる階層のボタンを押す。

 目的の階に着くまで待っている間、昨日も訪れたばかりのはずがやけに別世界のように感じられた。千夜は家にいるのだろうか。ちとせは……家にいないのだろうか。

 はやる気持ちを抑え、迷わずちとせの家がある部屋の前までたどり着く。念のためノックをしてみるが、やはり反応は返ってこない。

 ここに千夜がいなければ、お手上げだ。千夜から連絡をしてこない限り、どこにいるのか追い掛けることもままならない。どうかここにいてくれるよう、プロデューサーは祈るように渡された鍵を使わせてもらう。

 真っ先に玄関にある靴を見やると、普段履いていたちとせの分も千夜の分も置いてなかった。衣装のまま帰ってきているとしても、それすらもない。ここにはいないのだろうか。

「千夜、俺だ! いないのか!?」

 いきなり押し入ってきたのがプロデューサーであるとわかるように、声をあげながら中へ入る。見慣れたリビングはカーテンが閉め切られ何の音もなく、人の気配も――

「……千夜?」

 いや、いる。足元まで衣装姿のままの千夜が、手紙を手にしたままフローリングに力なくへたり込んでいた。

 ゆっくりと近付くと、ようやく誰かが家に入ってきたことに気付いたのか、千夜は俯いていた顔をはっと上げた。
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