[過去ログ] 【涼宮ハルヒの憂鬱】鶴屋さん萌え スレッド 17にょろ (982レス)
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298: 2010/12/13(月)15:22 ID:iI8lU37J0(1/6) AAS
じゃあお言葉に甘えて
降りしきる雨の中、俺は途方に暮れていた。天気予報のやつめ、こういう時だけ予想を的中させるのだから、まったく性質が悪い。いつもの俺の婉曲に満ちた言い回しも思いつかないほど、俺の気分は暗くなっていた。
岡部によって補習を食らい、団活に参加できないせいかハルヒは激しく機嫌を損ね、さっさと帰ってしまった。アホの谷口や国木田も帰っている。何故こういう日に限って補習をパスするのだアイツは。俺に恨みでもあるのか。
さて、どうやって帰ろうか。走って帰るのも気が滅入る。誰か傘を忘れてないか、などと考えてみるも不毛だ。あったとしても、先に誰かが持って帰っているだろう。
「さて、どうしたもんかな……」
思わず呟いた時、俺の背後からやたらと元気な声がかかった。
「そこに見えるは、キョン君でないかいっ?」
振り返ると、豪雨も快晴に変えそうな勢いの笑顔で、我らがSOS団名誉顧問、鶴屋さんがそこにいた。
「あ、どうも、鶴屋さん」
「どうしたんだい?そんなとこ佇んで若いのが」
省20
299: 2010/12/13(月)15:23 ID:iI8lU37J0(2/6) AAS
「そら、来たよ。乗りなっ」
俺の目の前に到着したのはリムジンだかベンツだか、とりあえず任侠ドラマでしか見ないようなあの細長いフォルムで黒塗りの奴だ。俺みたいな一般人は、この車に一度乗せられたら生きて帰れないような気さえする。
汚さないように細心の注意を払いながら後部座席に乗り込む。シートの柔らかさに驚いて腰を浮かせ、頭を打つかと心配しても天井は思っていたよりさらに高い。つくづく恐ろしい話だ。一生に何度乗る機会があるだろうか。
お抱え運転手らしき人は俺と鶴屋さんが乗り込むのを確認すると、ほとんど慣性の法則を感じさせない穏やかな速度で、車を発進させた。
「すみませんね、鶴屋さん」
「いいよいいよっ。今日はみくるも先に帰っちゃって一人ぼっちだったからさ。ウチでゆっくりしていくといいにょろよ!」
全くこの人には敵わない。名誉顧問にしておくには惜しすぎる器だ。ハルヒの明るさと長門の頼りがい、朝比奈さんの気遣い、全てを兼ね揃えた人だと思う。その上良家のお嬢様だということを鼻にかける様子も無い。
「さあ、着いたよ。上がって上がって」
俺が後部座席の扉に手をかけるまでもなく扉は開き、おまけに入り口までの僅かな距離を、玄関先で待ち構えていたとおぼしき人が傘をさしてくれる。恐縮しっぱなしの俺としては居心地悪いことこの上ない。
相変わらず広い家だな。最初に思うのはやはりそれだった。この家の見取り図はきっと模造紙一面分くらいの大きさなのだろう、とどうでもいいことを思ってみる。
省9
300: 2010/12/13(月)15:24 ID:iI8lU37J0(3/6) AAS
「キョン君は、どうしてあの時間にあそこにいたのかなっ?」
「あ、補習食らっちゃいまして。それで……」
また豪快に笑う。笑顔なのは結構だが、あまり笑われると俺の立場が無い。
「よくないにょろよキョン君。ハルにゃんにでも教えてもらえばいいのに」
「アイツの教え方は口より先に手が出るんですよ」
「ふぅん……長門っちも頭いいんじゃないかい?」
「長門は人に物を教える人間じゃない気がしますね、なんとなく」
長門はきっと俺の脳味噌に情報を転送、などという離れ業をすることも可能なのだろう。甚だ魅力的ではある。
「こいず――」
「アイツに教わるくらいなら自分でします」
省32
301: 2010/12/13(月)15:27 ID:iI8lU37J0(4/6) AAS
「じゃ……あたしのことはどう思うかな?」
悪戯っぽい光を大きな眸に宿らせて、しかしどこか真剣な眼差しに、俺は無意識のうちに背筋を伸ばした。
「鶴屋、さん……」
「あたしだってね、鶴屋家の一人娘だっていう自覚はあるし。おやっさんが築いたこの家を護りたいって思ってる。でもね?……せめて好きな人ができた時くらいは、自分の好きなようにしたいんさ」
ふわり、と鶴屋さんは立ち上がった。普段の目がぐるぐるするような素早く快活な動きではなく、優雅な動作だった。俺の隣に音も無く座る。
柑橘系の甘い匂いが俺の鼻腔を刺激する。香水を使っているわけではなというのを、朝比奈さんから聞いたことがあるので、この香りは鶴屋さん自身のものだろう。
「キョン君……あたしじゃ、だめかな?」
鶴屋さんが俺の手を取る。普段あまりに活発な彼女を見ているせいか不自然さを覚えるほど、その手は細く、小さかった。
自信に満ちた目が、一人の女性のそれに変わる。あまりに魅力的なその光に、俺は目が離せなくなってしまった。
そうだ、この人の笑顔に、俺は何度も勇気付けられたじゃないか。長門のように超絶的な力を持っているわけでもない。朝比奈さんのように未来から、俺を助けてくれるわけでもない。
省2
302: 2010/12/13(月)15:28 ID:iI8lU37J0(5/6) AAS
そんなことは、あっちゃいけない。
「……俺なんかで、いいんですか?」
「キョン君さえいいなら、あたしはめがっさオーケーっさ」
「もしかしたら、財産目当てかもしれませんよ?」
「なら、好きなだけ使えばいいっさ」
ほんのり微笑んで言う鶴屋さんに、場違いかもしれないが俺は思わず笑った。
「笑うところじゃないにょろ」
「すみません。ですが……」
口を尖らせる鶴屋さんを、俺は渾身の勇気を振り絞って抱き寄せた。とんでもなくいい匂いだ。香水なしでこの香りは脅威と言わざるを得ない。
「側にいますよ、鶴屋さん。俺の資質が足りないなら、全力を挙げて勉強しますから。その代わり、笑っててください。それが俺からの条件です。鶴屋さんが笑顔でいてくれるんなら、俺、何だってしますから」
省16
303(1): 2010/12/13(月)15:31 ID:iI8lU37J0(6/6) AAS
おしまい
鶴屋さん難しいな
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