骨董屋シリーズだよ (139レス)
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1: 2019/08/17(土)06:16 ID:Pg36qsM1(1/103) AAS
創作の骨董屋を主人公にした話を書いていきます
2: 2019/08/17(土)06:19 ID:Pg36qsM1(2/103) AAS
食いたい鋺の話

じゃあ話をさせてもらいますよ。わたしね、昔は骨董屋をやってて、
店を持ってたんです。今はいろいろあってやめちゃいましたけどね。
ほら、骨董って曰く因縁がかぶさってる物が多いでしょ。
だから、なかなか商売を長く続けるのが難しいんです。
いろいろと障りが出てきて。え? 長年やってる人を知ってるって。
まあねえ、そういう人はまっとうな商売をしてるんですよ。
危険な物にいっさい手を出さないっていう。
お前は違ったのかって? ああ、はい。私が骨董に関わったのは、
戦後の混乱期なんです。あのころはもう、何でもありで。
省2
3: 2019/08/17(土)06:21 ID:Pg36qsM1(3/103) AAS
ほら、田舎の旧家なんかがたち行かなくなって、先祖代々のお宝を売りに出す。
それを私らが二束三文で買いつける。ええ、ほんらいの値打ちの百分の一も
いかない値段でね。それで、さっき、まっとうな商売って言いましたが、
じゃあ、まっとうでない商売ってのはどういうもんかというと、
2つあるんです。ひとつは、明らかに障りのある品物を扱うこと。
ええ、ええ、それを持ってれば不幸になるってやつです。
これはね、いろいろあるんです。いかにも人の血を吸っていそうな脇差とかも
あれば、見た目はなんでもないような茶器とかもあります。
障りのあるものを、どうやって見分けるかって? 
それはね、勘というしかないですね。骨董屋って、昔は、
省1
4: 2019/08/17(土)06:21 ID:Pg36qsM1(4/103) AAS
だから、子どものころから古物に囲まれて育って、そこで、
これはいいもの、これはよくないものっていう勘が自然に養われる。
よくない物の2つ目は、盗品や盗掘品です。
お寺の仏像が盗まれたとか、今でもときおり話を聞くでしょ。
あと、これはさすがに今はないけど、古墳を勝手に掘っかえして出てきたもの。
でね、この2つは重なってることが多いんです。
ああ、なかなか話が前に進みませんね。ある夜です。
店番をしてて、そろそろ閉めようかってときに、若い男が2人、
風呂敷に包んだ古物を売りに来ました。どっちも人相がよくないやつらで、
ひと目でまっとうな人間じゃないってわかりました。
省1
5: 2019/08/17(土)06:22 ID:Pg36qsM1(5/103) AAS
まず、銅の鏡。それから鉄刀ですね。どっちも錆だらけでしたが、
鏡のほうは売り物になりそうでした。あと、6〜7世紀の土器も何個かあったんですが、
これは売り物にはならない。それとね、銅の鋺(かなまり)です。
この品揃えで、古墳の盗掘品ってわからなけりゃモグリですよ。
よっぽど買い取りを断ろうかとも思ったんですが、
そいつらに暴れられても嫌ですからね。ごく安い値を言ってみたんです。
そしたら、そいつら顔を見合わせてましたが、「それでいいから、置いてく」
って言ったんです。金を受け取ると逃げるようにいなくなりました。
でね、問題はその銅の鋺だったんです。今ね、銅の鋺っていったら、
仏具しかないですよね。けど、古墳時代だと、貴人が食器に使ってた場合が多いんです。
省1
6: 2019/08/17(土)06:22 ID:Pg36qsM1(6/103) AAS
持ってみるとずっしりと重く、錆がほとんどありませんでした。
色は黒ずんでましたが、少し磨いたらねっとりとした黄色い光を放って。
でもね、そのとき「ああ、これはよくない」って私の勘がささやいたんです。
でも、買い取った以上、売り物です。店の目立つところに飾って、
早めに売ってしまえばいいと思いました。でね、陳列棚じゃなく、
小ぶりのガラスケースに入れて店頭に置いたんです。
いや、売れませんでしたね。お客さんはみな関心を持つんです。
いわれを聞いたり、値段を尋ねたり。でも、値は安くしてあるのに買わない。
この世界は、客のほうも半玄人みたいな人ばかりだから、やっぱりわかるんでしょうねえ。
でね、鋺を置いて3日目でした。朝に売り物を見て回ってたときに、
省1
7: 2019/08/17(土)06:23 ID:Pg36qsM1(7/103) AAS
「ん、何だ?」と思ってケースに顔を近づけてみると、コガネ虫の頭。
胴体はかじりとられたようになくなった頭だけです。
もちろん鋺を取り出して表に捨てました。・・・このときはまだねえ、
そんなに不思議には思わなかったんです。ガラスケースと言っても、
すき間はありましたからね。何かの具合で入り込んだんだろう。
それくらいにしか考えなかったんですが・・・それから3日後くらいですね。
夜中に、店のほうでガタガタ音がしたんです。でも、戸締まりはしっかりしてましたし、
ネズミだろうって思いました。昔は蝿も蚊もネズミも、どこの家にもたくさんいましてねえ。
今の人はわからないでしょうが、ネズミ捕りでつかまえたネズミを、
ドブに沈めて殺したりしてましたからねえ。でも、骨董屋ですし、
省1
8: 2019/08/17(土)06:23 ID:Pg36qsM1(8/103) AAS
翌朝、店に出ると、あの鋺のガラスケースの全面が赤黒く染まってまして。
血じゃないかと思いました。調べるとガラスの内側に飛び散ってて、
鋺の中には、大きなネズミの頭があったんです。
これはさすがに、おかしいと思うでしょ。すき間があるとしても、
ネズミが入ることはありえない。まして頭だけになるなんてね。
で、店の中を探しても胴体はなかったんです。そのときにふと、「鋺が食った」という
考えが頭に浮かびました。まあ、そんなことがあるはずはないんですが。
ガラスの血は拭きとって、ありえない飾り方ですが、
鋺をひっくり返して、底が見えるように置いたんです。それから、相変わらず鋺に
買い手はつきませんでしたが、おかしなことはなくなったんです。
省1
9: 2019/08/17(土)06:23 ID:Pg36qsM1(9/103) AAS
「さっき、店に立派な装束を着た、昔のお公家さんみたいな人が入ってったが、
 あれ何だい?」って聞いたんです。「いやいや、そんな人は来てませんよ」
そう答えるしかなかったです。その夜です。夢を見ました。
お客の話に出てた貴人なのかもしれませんが、それが暗い中に座っていて、
「食いたい、食いたい、もっと食いたい」ってつぶやくんです。
顔は面長で、時代劇に出てくるように眉を剃ってましたが、その額のとこから
ぼこっとネズミが頭を出したんです。ネズミは「チイチイ」と鳴き、
それに貴人の「食いたい」の声が重なって・・・そこで目が覚めました。
心臓が動悸を打ってましたが、怖いというより気がかりな夢で、
電灯をつけて店に行ったら、あの鋺がケースからなくなってたんです。
省1
10: 2019/08/17(土)06:24 ID:Pg36qsM1(10/103) AAS
でも、鋺がないのを見て、なんだかほっとしたのを覚えてます。
大間違いでしたけども。でね、当時、うちには8歳の息子がいたんです。
「腹減った」って言うのが口癖の。まあ、どこの子どももそうでしたけどね。
戦時中、終戦直後よりはいくらか食糧事情はよくなってましたが、
食べるもののない時代で、金があったとしても、食品そのものがないんです。
その子が、めずらしく夕食を残しまして、「腹が痛え」って言うんです。
さわってみると、蛙みたいに胃のあたりがふくれてました。
「何か食ったのか?」 「なんも」それで、いつまでも治らないようなら医者に
連れてくしかないと思ったんですが、しばらくして「寝る」って言いまして。
「腹は?」 「よくなった」で、その夜のことです。
省1
11: 2019/08/17(土)06:24 ID:Pg36qsM1(11/103) AAS
「あ、売り物が落ちたか」そう思って見に行くと、表のガラスが割れて
戸が開いてたんです。「!?」すぐ外に出ました。当時は商店街でも街灯は少なくて、
暗い中にしゃがみ込んでいる影がったんです。影は「うまし、うまし」って
言いながら、側溝に顔を近づけてて。子ども・・・息子?
「お前か? 何してる」襟首をつかんでこちらを向かせると、
顔のまわりが黒くなってたんです。手からカランと何かが落ちました。
息子は「食いたい、もっと食いたい」そう言ってて、明るいところに連れてきて見ると、
顔についてるのは泥、鋺の中にも泥。側溝の中をすくって口に流し込んでたんです。
すぐ医者に連れてきましたが、疫痢になって3ヶ月入院しましたよ。
鋺は、その日のうち市場に出しました。・・・ただねえ、あれから数十年たった今も、
省1
12: 2019/08/17(土)06:25 ID:Pg36qsM1(12/103) AAS
さむどの屏風の話

こんばんは。この間、物を食らう銅の鋺の話をしたものです。
他に骨董品にまつわる怖い話はないのか、ということでしたので、
もう一つだけお話したいと思います。屏風ですね。
「さむどの屏風」と呼ばれるものがありまして。
なんでその名で呼ばれるのかは、私にはわかりません。
それと、今どこにあるかもわからないんです。というのは、この屏風、
所有者が代わるたびに、描かれている絵も変わりますんでね。
いや、屏風絵を描きなおしてるってことではないんです。
不思議なことに、自然に絵柄が変化する。どういうことかって?
省2
13: 2019/08/17(土)06:25 ID:Pg36qsM1(13/103) AAS
ええ、日本全体が活気にあふれてたころでね。
まあ、骨董屋はそういう景気のよしあしにはあまり左右されない商売ですが、
わたしのところも少し店構えを大きくしたんです。
で、店に置く品を増やそうと思って、仕入れた中にあったのがその屏風です。
何気なく市場に出てたんです。4曲物でした。ああ、4曲ってのは、
屏風の面のことを言うんです。全体を4つに折りたたむことができるから4曲。
それと、屏風を構成する1枚1枚のことは扇と言います。
いやあ、最初はたいしたものじゃないと思ったんですよ。
時代は江戸中期頃ですかねえ。表装はよかったんです。
骨もしっかりしてたし、いい紙を使ってました。
省1
14: 2019/08/17(土)06:26 ID:Pg36qsM1(14/103) AAS
異様に安くてね。ただこれは、絵が悪いせいだろうと考えてたんです。
屏風絵は、墨絵で田舎の山野を描いたものでした。
山の間にさびしい道が続いてまして。秋なんでしょうねえ。
ススキらしきものが道の両側に生えてましたから。
ええ、薄墨がさらに薄くなって絵柄が消えかけ、判然としなかったんです。
まあでも、さっき話したように表具はいいから、
これ買っていって、新たに仕立て直すお客さんがいるんじゃないかと考えまして。
でね、店の奥のほうに広げて立てかけてたんですが、
特におかしなことはなかったです。で、ある日ですね。
店に2人連れのお客さんが来ました。どちらも50年配で、
省1
15: 2019/08/17(土)06:26 ID:Pg36qsM1(15/103) AAS
そのうちの一人が「兄さん、あの屏風じゃないか」って店の奥を指さしまして。
そしたら、年上に見えるほうが、「亭主、あの屏風は売り物かね」って聞いて。
「ええ、そうですよ」 「値はいかほど?」
ここで少し考えたんですが、20万って言ってみました。
これね、仕入れ値の10倍なんです。ただ、骨董の値段なんて、
あってないようなもんですから。いくら高くてもほしい人はほしい。
まあ、まからんかって言われたら交渉に応じるつもりでしたけど。
ところが、2人は一瞬顔を見合わせてから、「買わせてもらう」って
即決したんです。これにはちょっと驚きました。わたしの鑑定眼が曇ってて、
価値のある品に安い値をつけたんじゃないかと。
省1
16: 2019/08/17(土)06:26 ID:Pg36qsM1(16/103) AAS
兄弟は現金でその屏風を買い、その日のうちにトラックが来て運んで
いったんです。うーん、儲けたのか、それとも儲けそこねたのか、
わたしにはよくわかりませんでした。それから・・・
1ヶ月ほどして、そのときの兄弟の兄のほうが店に来まして。
印象に残ってたんで覚えてたんです。で、開口一番、
「ここで買った屏風、引き取ってもらえないかね」って。
「ははあ、買い戻せってことですか?」 「いや、金はいらんから」
「どういうことです?」 「それが、家が手ぜまで置けなくなった」
「・・・・」こんなやりとりがあって、屏風が戻ってきました。
変な話ですよねえ。まあ、古物を買っていったお客さんが、
省1
17: 2019/08/17(土)06:27 ID:Pg36qsM1(17/103) AAS
ただ、金はいらないって言われたのが気になりましてねえ。
だって、骨董屋はいくらもいるんだし、そっちに売ればなにがしかの値段には
なるでしょう。でね、返ってきた屏風ですが、見ると絵が変わってたんです。
よく似た絵柄ではありました。藁葺の田舎家がいくつか建ってる中を道が続いてて、
遠くのほうに歩いてる人の姿がかすかに見える。でも、男か女かもわからない。
紙は同じものが使われてるように思えました。ああ、絵をはりかえたのか、
だからただで引き取ってくれってことなのか。でも、わたしには、
前の絵も新しいのも、どっちも同じツマラナイものに思えましたけども。
それから、半年くらいたったんです。屏風のほうは、ずっと売れないし、
関心を示すお客さんもいなかったから、蔵にしまってました。
省1
18: 2019/08/17(土)06:27 ID:Pg36qsM1(18/103) AAS
そしたら、「おや、○○骨董屋さんじゃありませんか」こう声をかけられて、
そっちを見たら、見覚えのある顔で。でも、誰だかはわからなかったんです。
「ほら、お店で屏風を買った」それで、あのときの弟さんのほうだと気づきました。
「その節はどうも」 弟さんはちょっと躊躇した様子でしたが、
「これから時間ありますか、どうです、そこらでコーヒーでも」 「いいですよ」
こんな感じで、近くにあった喫茶店に入ったんです。
ここから話すのは、そこで弟さんとしたものです。
「あの屏風、お兄さんが返しに来られたんですけど、絵をお変えになった?」
「ああ、いや、なんというか、自然にああなったんです」 「どういうことです?」
「じつはですね、そのあたりのことを聞いていただきたくて、お誘いしたんです」
省1
19: 2019/08/17(土)06:28 ID:Pg36qsM1(19/103) AAS
「いえ、不勉強で」 「ここから話すのは、身内の恥になることですが、
 どなたかに聞いていただかないと心が休まらなくて」 「どうぞお話しください」
「わたしらの親父なんですが、70歳を過ぎて呆けが始まりまして」
「はい」 「ただ体のほうはなんともなく、
 体格もいいですから、暴れはじめると手がつけられなくて」
「はい」 「親父は若い頃、ある組に入っていて、背中には彫り物もあるんです」
「はい」 「だから暴れだすと、年老いたおふくろはもちろん、
 われわれ兄弟でもどうにもならなかったんです」 「施設などもありますよね」
「それが、なんとか一度入ったんですが、暴力のために追い出されてしまいまして」
「ははあ」 「それで、あの屏風がお宅の店にあることを人づてに聞いたんです」
省1
20: 2019/08/17(土)06:28 ID:Pg36qsM1(20/103) AAS
 自分の親がどうにもならなくなったときに使うんです」 「・・・」
「あの夜も、酒を飲んで荒れてた親父をなだめすかして、兄といっしょに
 どうにか寝かしつけたんです」 「はい」 「で、その枕元に屏風を立て回しました」
「?」 「朝になったら、親父がいなくなってたんです」 「??」
「もちろん警察に連絡しまして、呆けがかかってたことも話しました」
「警察が捜索したってことですよね」 「ええ。でも1ヶ月たっても見つかっていません」
「そういう話は耳にしますよ。徘徊って言うんですか、
 呆けた年寄りがふらっといなくなって、そのままっていうのを。
 おおかたは川とかに落ちたりしてるのかもしれませんが」
「それで、屏風の絵が変わってたんです」 「意味がわかりません」
省1
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