[過去ログ] 【PSPでも】高木順一朗part3【ティンときた!】 (1001レス)
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519: SS再掲/千早・1 2009/06/07(日)21:34 ID:LTbFyX3m0(1/15) AAS
「ここか……」
 八月のある日。私は、とある市民会館を訪れていた。
 そこで開かれる素人のど自慢大会を見るためだ。
 といっても、勿論、ただ見物に来たわけではない。有望そうな人材を見つけ、スカウトすること。
それが目的だった。新人発掘のために自社でオーディションも行っているのだが、如何せん我が社は
知名度が低く、なかなか人が集まらない。広告に使える予算も多くはない。そこで、社長である私が
スカウトを兼務していたりするわけだ。涙ぐましい経営努力とは思わんかね?

 ……あ、いや、話が逸れてしまったな。オホン。
 話を戻そうか。

 私はホールの客席に座り、参加者の歌を聴くことに専念した。
省21
520: SS再掲/千早・2 2009/06/07(日)21:35 ID:LTbFyX3m0(2/15) AAS
 市民会館の外で人を待つ。
 程なくして目当ての人物が姿を現した。
 大会優勝者とは思えない浮かない顔をしたその少女は、意外なことに保護者同伴ではなかった。
 何か理由があるなとは思ったが、余計な想像を一旦脇に退け、私は少女に声をかけることにした。
「如月千早くんだね……」
「はい、そうですが……。あなたは?」
 あからさまに警戒した表情を見せる彼女に、私は名刺を差し出した。
「申し遅れたが、私はこういうものだ。芸能プロダクションを営んでいる」
「ななひゃくろくじゅうごプロダクション……の、高木社長?」
「いや、そこの数字のところは『なむこ』と読んでくれたまえ」
省28
521: SS再掲/雪歩・1 2009/06/07(日)21:35 ID:LTbFyX3m0(3/15) AAS
「意外と応募があったな」
「よかったですね、社長」
「まったくだよ。予算をかけた甲斐があったというものだ」
 私は会議室で、山のような封筒を目の前にしていた。
 我が765プロダクションのアイドル候補生募集に対し、これだけのリアクションがあったことに
ひとまず安堵する。それなりの予算を掛けて広告を打って、何の反応も無かったら、寂しいどころの
話ではないからな。
 事務員の音無くんに手伝ってもらいながら、応募書類を仕分けていく。
「ふむ……」
 やはりめぼしいものは少ない、か。
省40
522: SS再掲/雪歩・2 2009/06/07(日)21:36 ID:LTbFyX3m0(4/15) AAS
「まず、アイドル候補生に応募した動機を聞かせてもらえないかな」
「えっと、その、実は友達が勝手に応募しちゃって。まさか書類選考を通過すると思ってなくて、
びっくりしたんですけど」
 ふむ。音無くんの読み通りだったな。
「友達が勝手に応募したということは、萩原くん自身はアイドルになるつもりはなかったのかな」
「そう、でした」
「書類による一次選考は通過したとはいえ、今日の面接を断ることもできた。けれど、君はここへ
やってきた。その理由を訊いてもいいかな」
「はい……。確かに、アイドルになろうと思ってはいませんでした。だけど、今日ここへ来たのは、
自分を変えたいと思ったからなんです」
省37
523: SS再掲/春香・1 2009/06/07(日)21:37 ID:LTbFyX3m0(5/15) AAS
 765プロダクションの社長の高木だ。皆、元気にしているかな?
 先日締め切りを迎えたアイドル候補生の募集だが、幸いなことに予想を越える多数の応募があった。
書類選考の末に、採用候補者を十数名にまで絞り込み、一人一人と面接を行う日々が続いている。
 実際に会ってみると、書類選考時とは全く違った印象を受けることも少なくない。
 もちろん、そうしたイメージギャップが吉と出ることもあるが、凶と出ることもある。凶と出た場合
には、アイドル候補生として採用することはできない。残念ではあるが、致し方ないことでもある。
 限られた予算の中で候補生を採用し、アイドルデビューさせてゆかねばならない以上、少しでも素質の
ある者を選ばなければいけない。落選通知を送るのは、決して憎いからではないのだよ。
 おっと、また話が逸れてしまったようだな。いかんいかん……。
「社長、誰とお話ししているのですか?」
省42
524: SS再掲/春香・2 2009/06/07(日)21:39 ID:LTbFyX3m0(6/15) AAS
「なぜ、そう思うようになったのかね?」
「えっと、小さい頃の話なんですけど、家の近所の公園に歌の上手なお姉さんがよく来ていて、私、
そのお姉さんに歌を教えてもらったり、一緒に歌を歌ったりしていたんです。それが、とても楽しくて。
あと、人に歌を聴いてもらうことを最初に意識したのも、その時なんですよね」
「というと?」
「みんなで歌を歌っていたら、近所の人たちが拍手してくれたりとかして。自分の歌で人が喜んで
くれるって、とても嬉しいことですよね。それが忘れられなくて、だからアイドルになりたいって
思ったのかな……。きっと、そうなんだと思います」
「なるほど……」
 思い出を語る時の生き生きとした表情を見ていると、何だかこっちまで楽しい気分になってくるから
省38
525: SS再掲/真・1 2009/06/07(日)21:40 ID:LTbFyX3m0(7/15) AAS
 土曜の午後。私はアイドル候補生の天海君と萩原君を連れて、とあるCDショップを訪れていた。
 大型ショッピングモール内にあるこの店舗には、地元FM局のオープンスタジオが設けられており、
毎週土曜と日曜には番組収録の様子を見学することができる。
 今日は、某有名アイドルが番組にゲストとして呼ばれ、ブースの中でパーソナリティとトークをしていた。
 レッスンも大事ではあるが、こうして現役アイドルの姿を見ることで仕事のイメージを掴むことも
有意義かと思い、アイドル候補生の二人を連れてきたわけである。
 三十分程度の番組収録の後で、天海君と萩原君に感想を尋ねてみた。
「歌が上手なだけじゃダメなんですね。頑張らないといけないこと、沢山あるんだなぁ」
 そう天海君が言うと、
「私、あんな風にちゃんとお喋りできるかなぁ……」
省47
526: SS再掲/真・2 2009/06/07(日)21:41 ID:LTbFyX3m0(8/15) AAS
「菊地君といったね」
「はい」
「明日、アイドル候補生オーディションの面接を受ける予定は無いかね?」
「ええっ?! どうして、おじさんがそんなこと知ってるんですか? ……まさか、ストーカーとか?」
「いやいや。申し遅れたが、私はこういうものだ」
 そう言って、菊地君に名刺を差し出す。
「765プロダクションの高木社長……って、ボクが受けるオーディションの?!」
「その通り。いや、どこかで見た顔だと思ったら、我が社のオーディションに応募してくれていた子
だったとは。世間というのは狭いもんだねぇ」
 私の言葉に驚いたのは、菊地君よりも、むしろ天海君と萩原君の方だったようだ。
省46
527: SS再掲/律子・1 2009/06/07(日)21:42 ID:LTbFyX3m0(9/15) AAS
我が765プロは未だ弱小のプロダクション。
しかし、我が社で働いてるものにはそんなことは関係なく、
当然社長である私も多忙を極める身である。
…が、今日の私は珍しく暇だった。
普段は本当に忙しいのだが、今日はそんな日々の合間にぽっかりと穴が開いてしまったような日だ。
何をするでもなく、思わず事務所の備え付けのテレビを見てしまうくらいに。
「いやいや、芸能事務所社長たるものテレビを見て流行情報や芸能界の動向を知るのも立派な仕事だな、うむ」
「『うむ』じゃありませんよ社長。ちゃんと仕事をしてください」
ふと後ろから声をかけられたので振り返ってみると、
見慣れた眼鏡とおさげの少女が湯呑を2つ乗せたお盆を持って立っていた
省24
536: SS再掲/伊織・1 2009/06/07(日)22:19 ID:LTbFyX3m0(10/15) AAS
 ここは765プロダクション社長室、つまりは私の部屋だ。
目の前には私の作業場、つまりデスクがある。その上にはティーカップ。
いつもなら音無君が特製のコーヒーをご馳走してくれるところだが、
今日はあいにく、律子君共々事務に追われている。
仕方なく、給湯室からパックを引っ張り出してきて、私自ら紅茶を淹れた。
自画自賛だが、味も香りも決して悪くは無いと思う。
 ギィ、と椅子が小さく悲鳴を上げる。私の椅子ではない。いや、私の椅子か。
正確には、前者は「私が普段使っている」それであって、後者は「私が今、座っている」ものだ。
それともう一つ。先程、デスクについて述べたが、現在の私の位置はちょうど対面。
しかもギリギリ手の届かない範囲なので、受け皿は左手で持っている。
省44
537: SS再掲/伊織・2 2009/06/07(日)22:19 ID:LTbFyX3m0(11/15) AAS
「しかし、だ。既に何人か候補は上がっているのだよ。プロデューサーを雇い次第、
すぐにでも活動を始める手筈は出来ている。」
「え……?」
 私は彼女の方へ向き直ると、両手を小さな肩に軽く乗せた。
「だから私の方は大丈夫だ。余計な心配をかけて済まなかったね。」
「……そ、そう!なんだ、もう……よ、よかったわ。ア、アイドルなんて、変な格好して、
下手くそな歌、歌って、ダ、ダサダサなダンス踊って……そ、それがテレビで日本中に放送されるなんて、
そんな恥ずかしい事、私が……やる訳……やる訳ないじゃないっ!!」
「おいおい、随分な物言いだな。それにいきなり全国区とはいかんよ。アイドルは一日にしてならず、
まずは地道に営業をこなして……」
省44
538: SS再掲/美希・1 2009/06/07(日)22:20 ID:LTbFyX3m0(12/15) AAS
 765プロダクションの社長の高木だ。皆、息災かね?
 紆余曲折はあったものの、我が社の新プロジェクトは順調な滑り出しを見せていて、アイドル候補生の
諸君も次々とデビューを果たしつつある。
 これは、新たにスカウトしたプロデューサーたちの実力によるところが大であることは言うまでもない。
 が、彼らを見出した私の目に狂いは無かったということでもあるかな。うむ。
 しかし、会社の経営が軌道に乗ってくると、私にも少しずつ暇が増えてきた。無論、決裁せねばならない
事柄は少なくない。だが、日常的な事務処理は音無君と律子君に任せていれば問題ないし、アイドルの
プロデュースについては各担当プロデューサーに一任しているので、私は流行情報について注意を促す
くらいしかやることがない。
 そういうわけだから、せめて世情には敏感でなければならんと思い、空いた時間はなるべく街に出る
省33
539: SS再掲/美希・2 2009/06/07(日)22:21 ID:LTbFyX3m0(13/15) AAS
 公園の入口に一人の少女が立って、私を――正確に言えば、私の手元をじっと凝視していた。
 もしや……と思いつつ、私は素知らぬ振りを装って手にしたおにぎりを食べ、それから横目でそっと
少女の様子を窺う。
 すると、傍目にもそれとわかる落胆した表情で彼女が溜息をつくのが見えた。
 さすがに、そんな態度を取られて平然としていられるほど、私は冷淡な人間ではない。
 かといって、いきなりおにぎりを勧めるのも違うだろう。
 まずは無難に声を掛けてみることにする。
「どうかしたのかね?」
 まともな返事など期待してなかったが、少女は少し目を瞬いた後で単刀直入にこう言った。
「おじさん、おにぎりちょうだいなの」
省36
540: SS再掲/美希・3 2009/06/07(日)22:22 ID:LTbFyX3m0(14/15) AAS
「で、どちらのおにぎりにするかね?」
「焼きたらこ」
 迷い無く値段の高い方を選んで、彼女は私の隣に腰を落ち着けた。
 慣れた手つきでビニルの包装を解いて、実に美味そうにおにぎりを食べる。
 その横顔は、確かに年相応の幼さを感じさせるものだった。
 あっという間に、焼きたらこおにぎりを平らげてから、彼女は私を見上げて言った。
「おじさんも、もしかして芸能界の人なの?」
「はは……、鋭いね。実は、その通りだ。765プロダクションという芸能事務所の社長をやっている」
「なむこぷろだくしょん?」
「会社の名前はあまり知られてないかもしれないがね。如月千早というアイドルを知っているかね?」
省35
541
(1): 2009/06/07(日)22:24 ID:LTbFyX3m0(15/15) AAS
ロダにまとめて上げるべきだったと思いつつとりあえず出会いのSSは全部転載。
鬱陶しい人もいるかと思うんで、そういう人は「SS再掲」でNGして下さい…
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