[過去ログ] 【Wizardry】ウィザードリィのエロパロ16【総合】 [無断転載禁止]©bbspink.com (320レス)
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296: 流刑の姫君 2021/05/05(水)00:10 ID:jBP8fKtB(1/17) AAS
あのかたは本当に女王なのだろうか。時どき、グリューエラントはその思いにとらわれる。
そのひと、リルガミンの女王アイラスは即位から歳を経て、今も、いかにも女王らしくない女王だ。
アイラスは慈悲深く優しい。聡明で、人々の声に耳を傾け、公正な治世との世の評判だ。
聡明で公正なら、女王の聡明さと公正さに不満を抱く人々も多い。利害関係のある世の中では。
争いを好まぬアイラスの性格には、もともと女王として決断に欠くところがあって、
貴族たちはたえず引っきりなしに彼女を利用し、派閥ごとにアイラスを操ろうと考えている。
城塞都市の住民たちは住民たちで、無責任に女王を褒めそやし、誹謗したりしている。
巷では、女王の足の爪の垢や、毛髪の一本でも薬になるという話だ。実際にそう信じられている。
庶民の目にアイラス女王は柔和で優しく、親しみやすい。美女は美女として、偉大や荘重らしくない。
だからアイラスは苦労している。悩ましい眉を寄せて。
省3
297: 2 2021/05/05(水)00:12 ID:jBP8fKtB(2/17) AAS
亡き王女の像は庭園に佇み、緑の木陰の落ちる池の端、その水面に向かい立っている。
像は二十歳の若さで亡くなった不幸な王女の、生前の姿を白亜の彫刻に写している。
浅い水辺の、ちょうど岬に立つような王女の横顔は、凛然として整い、
長い御髪は束ねることもなく、今しも風になびくままに留まる。
ゆったりと落ちる袖から軽く両掌を広げ、風に向かい今にも語り出しそうな姿は、
ありし日の愛らしい姫君というより、若くして哲学者の風貌を思わせる。
きまじめで、ひたむきな学究とも見えるその面差しは、現女王アイラスに生き写しである。
亡き王女の名は、彫像のどこにも刻まれていなかった。
それがソークス姫という名であることは、知らなければ誰も知ることがない。
その像はソークス姫がみまかった時、現女王アイラスが思い出に残したもので、
省20
298: 3 2021/05/05(水)00:16 ID:jBP8fKtB(3/17) AAS
孤独を楽しんでいるつもりなのだが、その彼のうしろに、芝草を踏んで立つ気配があった。
庭園の水辺に腰をおろし、木陰の静けさにひたっていると、グリューエラントは彼女が背に立つのが分かった。
その気配なら、むろんグリューエラントには眠っていてもわかる。
彼女は好きなときに好きな場所に現れることができる。
身分証の指輪があれば、このような王家の離宮にも勝手に入っても咎められないが、
グリューエラントの背後に現われることは、彼女のほかにはなかなかできないことだ。
〈瞬き移動〉の魔法で現われたとしか思えない。エルフ娘には、実際にそういう力もあった。
座っている彼の背中を、エルフの少女はつくねんと立って、しばらく、じっと見ていたが、
いつまで待ってもグリューエラントが振り返ろうとしないので、自分からしゃべりだした。ねえ、
「あの盗賊のこと覚えてる。あんたもよく知ってる、ほら、あいつのことよ」
省12
299: 4 2021/05/05(水)00:18 ID:jBP8fKtB(4/17) AAS
今日死んだというその男と……もう一人の友人、グリューエラントにとっては友人であったが、
その友人については覚えている。彼は僧侶だった。
聖職者の本務は魔物退治《エクソシズム》ではないのだと、その男は常々口にしていた。
彼の言うところによると、そうだ。
僧門に入っても出世するのは簡単ではない。ここリルガミンにおいて信仰とか宗教は名ばかりにすぎず、
金と、縁故と、女の思惑と、権謀術数が支配していることは寺院とて世俗の社会と変わりない。
金も縁故もない、おれなど神学生はこのさき一生うだつのあがらないのは見えている。
そこでは良心は恥ずべきもの、一般社会同様に、敬虔さや献身などはまっさきに笑いものとされる。
「寺院にあっては、僧侶たるべき属性は中立とされる。つまり、王や貴族、世俗の権力から独立というのだな。
寺院の独立・中立を掲げて、その代わりに彼らの信奉しているのはカドルトの神ではなく、
省14
300: 5 2021/05/05(水)00:21 ID:jBP8fKtB(5/17) AAS
グリューエラントはリルガミンの女王の臣下の身分でなく、家爵も領地もない曖昧な地位にあった。
当今、誰一人認めぬものはない高名な剣士でありながら、彼自身は城塞都市の騎士団の一員でさえなかった。
彼は「女王の友人」という奇妙な称号を持ち、時には女王から個人的に相談を受けることもあった。
宮廷に近く、政事にはまるで係わりのない彼を選んで、女王アイラスはたびたび、親密な悩みを打ち明けた。
親密に相談されるグリューエラントに言わせれば、
アイラス、あなたが美しくさえなければ……。そればかりが女王に対する思いだった。
「率直にいうと、女王陛下。あなたが美しいからいけないのだ」
「わたしが。なにが。どうして」
若い女王は困惑し、やや首を傾げるようにした。その何気ないしぐさにも魅力があった。
チャーミングというか、どこかしら彼の気を誘うふしがある。
省37
301: 6 2021/05/05(水)00:25 ID:jBP8fKtB(6/17) AAS
「どうしておまえは市城を去らぬのだ、フェー」
フェーと呼ばれて、イールヴァは胡乱な目つきを向けた。
「森に帰ればいいではないか。せっかくの金貨の使い途もないのだろう」
「あんたの知ったこと、狼の尻尾よ。あたしにだって最近の都合というものがあります」
「なさそうに見える。エルフは気楽そうだ」
庭園を渡っていく初夏の風は池にさざなみを立て、水面に落ちる梢の影を白くかき立てる。
そのとき、向こうの岸に建つ離宮は、つかの間、ざわざわと形を乱し、消えてなくなり、
しばらくの後にゆっくりと再び水面に立ち現われてくる。
それだ……その瞬間が良いのだ。
グリューエラントは、それは幻想の雲の中に出たり入ったりする天上の伽藍のようだと思いながら、
省13
302: 7 2021/05/05(水)00:28 ID:jBP8fKtB(7/17) AAS
家柄や門閥に関係なく女王に遠慮なく直言できる「友人」なる称号をもち、
剣を取っては、武芸は当代並びないものを持ちながら、その剣とて、平和な時世には役に立たず
たまに練兵場に顔を出しても、グリューエラントのすることといえば、尻で道場の床を磨くくらいのもの――
若くて高名は為したものの、実質は日々、空を見上げては欠伸して暮らしている、
直参退屈戦士というものがいればグリューエラント卿のことという。
女王も女王だ、あの方は綺麗な顔をして人を迷わす。ふわふわした友情をもてあそびながら。
もちろん、グリューエラントは女王に対しては女王の幸せだけを願っている。言うまでもなく、彼自身のよりも。
しずかで人気のない、この庭園にグリューエラントが来るのは、自分ひとりの物思いに引きこもるためだ。
エルフもそれは知っているが、居ても決して邪険にはされないので、寄り添うように近くにいて、
何をするでもなく、草をいじっている。
省24
303: 8 2021/05/05(水)00:33 ID:jBP8fKtB(8/17) AAS
水は大して深くもなく、ざばざばと膝まで水に浸かってから、グリューエラントはふと、彼の指にあるものを見た。
かつての功業の報酬であり、現在の身分の証でもある、指輪の宝石はけっこう大きなもので、
宮廷に上がる用でもなければ、剣術の訓練にはしばしば邪魔で外す。
水に落としたり、失くしたりするとは思わないが、裸になって、それだけ身につけているのは変な思いがした。
指輪を抜いて岸に上がるところで、彼は、彼を見つめる視線を感じた。
水際にたつ、彫像のソークス姫は池のほうに向いているので、普段、水に入ってみなければ正面から顔は見ない。
意外なことに、この場所に何度もたびたび訪れていても、
グリューエラントは彫像のソークスと正面から目を合わせたことがなかった。
こう見ればすばらしい美人だと思う。それは彼の日頃知っている女王アイラスと同じ顔なのだけれど、
現在の女王よりは二つ三つ、若いので、姉なのに、今はアイラスの妹かと見紛う。なんて愛らしい、と。
省20
304: 9 2021/05/05(水)00:37 ID:jBP8fKtB(9/17) AAS
イールヴァは疑念たっぷりに彼のほうを見た。信じないのは無理もない。
彼にもわけがわからない。何食わぬように風を見つめるソークス姫の像が無性に憎らしく、腹がたった。
グリューエラントは途方にくれてしまった。
「困った。あれが無いと王宮に入れない」
「そういう問題じゃないでしょ。あんた、ソークス……様の指に、指輪なんてはめて、一体なんのつもり」
「どんなつもりもない。不慮のことだ。まさかこんな奇怪な」
そういえば、そういう昔話があるな、とグリューエラントは思い当たった。
無考えに、女神像に指輪を与えたせいで、女神に愛を誓ってしまったという騎士の話だ。
何世紀もまえの古い神殿に、昔の神々の像が立ち並んで残る。そこで暇つぶしをする若い騎士達のひとりが、
球戯の合間に、女神像の指に指輪をはめてやった。ちょうど今のグリューエラントのように。
省11
305: 10 2021/05/05(水)00:40 ID:jBP8fKtB(10/17) AAS
エルフを落ち着かせるために、グリューエラントは今思いついた、騎士と女神像の昔話をした。
「その、おとぎ話では、終わりはどうなるの」
「普通、男は死ぬのではないか。徳の高い高僧がいて、悪霊を追い払ってくれる話もあるが、その場合には高僧が死ぬ」
僧侶ならすでに死んでいた。当時の仲間の六人中、四人が死んでいるのは偶然だろうか。
運命《フェイト》にしてはまだ二人生きており、偶然《チャンス》にしては確率より高いと言わざるをえない。
イールヴァは疑わしげに、
「それ、本当なの?」
と言った。彼にしても、なんとも言えなかった。思いつきを話しただけで、自分でも現実のことと思えない。
グリューエラントはひとまず落ち着いて、客観的にものごとを考えてみた。
まず、ソークスは神話の神々と交感できるほどの稀代の魔術師だった方なのだから、
省24
306: 11 2021/05/05(水)00:45 ID:jBP8fKtB(11/17) AAS
階段を上がるとそこは質素な書斎になっていた。彼等の前に女王とそっくりの女性が現われた。
この異次元空間において人の姿を見ることさえ奇怪。ましてこのような――ぎょっとしてすくむ彼等をみても、
彼女の方ではそのような反応は予想のうちというように、軽く諒解と、侮蔑の視線を投げてから、
前置きなく次のように言った。
’そなた達がどう思おうが、この世界はいったん破壊する必要があります。
’わたくしの邪魔をせぬように。
それだけ言うとあとは無関心に、衣の裾を曳いて彼女は奥に消えた。当然ながら彼等は後を追うが、
そのまえに怪物が立ちはだかった!
戦闘を経て追跡した彼等は、迷宮の未知の領域に踏み込んでいった。彼等は追い続けていった。
いつしか、洞穴の石壁はごつごつした木の根に覆われ、その根は互いに絡み合い、無数の網の目を作っていた。
省35
307: 12 2021/05/05(水)00:49 ID:jBP8fKtB(12/17) AAS
その台詞がおそらく、彼女が最後に発した意味のある言葉だった。
見た目はたおやかな麗人といえ、ソークス姫はリルガミンの賢人達に直に学んだ魔法の修行者であり、
博覧強記は師を越えて当代随一といわれた碩学でもある。
魂を離脱して霊の旅のあいだに、冥界に秘匿された知恵の蜜酒を口にしたため、
古代の魔法語《ルーネ》を流暢にしゃべることができ、それを現代の日常語と、宮廷雅語をまじえて話しているせいで、
感情の昂ぶった彼女の言葉を理解できるものは彼等の中に全然いなかった。
彼女はその後も狂女のように金切り声でまくし立てていたが、剣を持って近づく者たちはもはや聞く耳もたなかった。
彼女はだから、異形の住民たちに命じて彼等を殺すように頼んだ。すると、住民たちは快く彼等の殺害を受けあった。
そこで凄惨な殺し合いが行なわれ、虐殺が始まった。
彼等はたった六人を数える敵でしかなかったが、六人に対して無数を誇るはずの住民たちは、
省24
308: 13 2021/05/05(水)00:54 ID:jBP8fKtB(13/17) AAS
彼等は、すでに弱りきった彼女を遠巻きにし、呪文封じと恐怖の結界に閉じ込めたが、
それでも強力な剣の反抗を警戒し、不用意に間合いに近づき、最後の止めをなかなか与えなかった。
重ねがさね呪詛によって弱められた彼女の気力は、しまいに戦意を保つことさえ難しくなった。
たびたび膝は折れ、剣を支えに、瞳に意思を燃やして、絶望と諦めが心に侵入するのを必死に防ごうとした。
そこに、遠間から槍が突き入れられた。
刺し通した槍の柄を握り、彼女は一声、古代語を呟いて絶命した。意味は解らなかった。
死ぬまでに烈しく抵抗したため、ソークス姫は致命傷以外に無傷では死ななかった。
大事に育てられてきた乙女の肢体に幾つも太刀傷を負わされ、ローブはずたずたの血染めになっていた。
それを見れば芸術家は嘆くだろう、天工の繊細な腕は骨折し砕けてしまっており、
誰にも見せたことはなかったはずの、はだけて無垢の胸乳の合間には、刃物が刺さって台無しにしてしまった。
省31
309: 14 2021/05/05(水)00:58 ID:jBP8fKtB(14/17) AAS
イールヴァよ何をする!
グリューエラントは片目を押えて膝を突く。不覚であった。
形見の剣を手にしたとき、魔法使いのエルフ娘の目が、ぐるんと回り、色を変え、赤々と燃え始めたのを
不覚にも見落としていたのだった。
イールヴァは血に濡れた剣先をうっとりと眺め、負傷したグリューエラントにもうっとりと眺め入った。
「傷をつけてあげたわ。あんたはあたしのものよ。本当、人間って見ていないとすぐ死んでしまうから」
あたしのグリュー、エ、ラン。微笑して口許に呟いている。
その呟き声こそ彼女のものとは思われない。悪意にみちて、
――片目になったな、片輪が似合うこと。おまえだからそうしてやったのよ。
おまえにそうなって欲しかったのよ。
省19
310: 15 2021/05/05(水)01:01 ID:jBP8fKtB(15/17) AAS
ドワーフの二人がいきなり打ちかかった。少女のしなやかな手に持たれた、華奢な細工の剣は、
戦士の打ち振る直身の両刃をがっきと受け、軋むほど刃を食い合わせた。金属音が異次元空間に鳴り響いた。
鉄塊のようなドワーフの筋力を、エルフの細腕が軽々と止める。信じられぬ膂力だった。つぎの瞬間、
返す刃は二人のドワーフの首を並べて切り飛ばした。
グリューエラントには信じられない光景だった。イールヴァよ何をする!
冷然と耳のないように、エルフはグリューエラントに斬りかかった。そのまえに盗賊と司祭を斬った。
動揺しつつも、グリューエラントは剣と剣を合わせ、その一瞬にイールヴァを殺す覚悟をきめた。
殺らなければ殺られる、しかない。魔剣に意識を奪われたエルフ娘を救うことは諦めた。
だが次には、組み打ちを試み、抵抗するエルフを盾と鎧の下に押し伏し、手首を捉え、剣をもぎ取ろうとした。
グリューエラントの思うより先に、一連の動作は機械的で、彼女には剣を使わせなかった。
省26
311: 16 2021/05/05(水)01:04 ID:jBP8fKtB(16/17) AAS
『やはり分かってはもらえない。分かっては』
『なにを彼女は犠牲にしてそれほどの魔力と才を得たのか。妹にあって、姉が失ったもの』
それを名残りに、彼は夢の記憶から覚めた。
目を開き、気づいたときはテントの下だ。
見回すと隣の寝袋にエルフ娘が休んでいる。妖精が眠っている。
彼の夢から覚めるのを待っていたように、周囲で一斉に虫たちが鳴き出した。
夜、周囲を包む虫の声は寄せ返す海の波のようだ。そのただ中に彼と、眠っているイールヴァと、
大海の小舟のようなテントに二人。二人きりの旅だった。
都を遠ざかれば、森と湖水の間を行く旅だった。荒野の夜はわびしいものだ。
女王の友人たる身分を証す、証の指輪は手にないのだから、
省21
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