[過去ログ] 【腐女子カプ厨】巨雑6498【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net (316レス)
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295: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:08 d AAS
「……入ってもいいか」
「あ、は、はい……!」
 現れたのは身長が低めの、スーツを着た男だった。初めて見る顔だと思ったが、すぐに先ほどエルヴィンが言っていた人物だということに気がついた。
 彼は静かにドアを閉めるとゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「起きていたんだな……。怪我の具合はどうだ? 異常はないと聞いたが……」
 窮屈そうなネクタイを少しだけ緩める。その大人の仕草に何故か胸がドキリとしたが、その手に巻かれた包帯が目に入ったからかもしれない。
「大丈夫です、何ともありません。……あの、貴方が助けてくれたんですよね? オレ、エレン・イェーガーって言います。本当にありがとうございました。貴方のおかげでこれくらいで済んだんだと思います」
「……いや、俺の方こそ、悪かった」
「? どうして貴方が謝るんですか?」
 綺麗に頭を下げた彼は本当に己が悪いと思っているらしかった。どちらかと言えばエレンが巻き込んだ身で、むしろこちらが謝るべきだというのに。
省12
296: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:08 d AAS
 抱きしめる、抱きしめられた。
 ぶわぁ、と顔が一気に熱くなる。羞恥を誤魔化すために言ったはずだったのに、墓穴を掘ってしまった。リヴァイは体を張って助けてくれただけだというのに、抱きしめられたという事実に何故か盛大に照れた。
「そ、そんなわけないですよね! すみません、助けてくれたのに……」
 お互い怪我をしたというのに不謹慎なことを言ってしまったと自分の未熟さに落ち込んだ。絶対子どもだと思われた。
「……いや、そうでもねぇかもな。確かにお前を助けるために必死だったから力加減がわからなかった」
「え、えー……?」
 そこを肯定してしまうのか、とエレンは戸惑った。だが、その口元に少しだけ笑みが浮かんでいたので、なんとなく嬉しくなる。
「アッカーマンさん、今度ちゃんとしたお礼をさせてください。それで、あの、良かったら連絡先を教えてもらえませんか?」
「お礼なんていい。……本当に俺が悪かったんだ、全部」
 リヴァイは頑なだった。どうしてそんなにも自分が悪いと思っているのかがわからない。信号が変わってすぐに周囲を見もしないで渡ったのは自分なのだから、完全にエレンの不注意なのに。
省13
297: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:08 d AAS
 最後に小さく呟いた言葉にリヴァイはわかりやすく眉を顰めた。何か失礼なことを言ってしまっただろうかと慌てるエレンにリヴァイは鋭い視線を向けてくる。
「エルヴィンから何か聞いたのか?」
「え、えっと……貴方とは友人で、顔は怖いけど優しい人だって……」
「他には?」
「ちょ、超人的な体の持ち主だって……それくらいです」
 本当にそれだけか?と、すごい剣幕で尋ねられ、ガクガクと首を縦に振った。じゃあいい、とリヴァイが息をつくまで、エレンは息ができていなかったように思う。
 良く分からない人だ。
 その後、帰ると言ったリヴァイは背を向けた後でもう一度「本当に悪かった、エレン」と言って病室を後にした。
 名を呼ばれたことに、不思議と胸が弾んだ。

  +++
省12
298: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:09 d AAS
 服の袖を控えめに掴むミカサは俯きながらぶんぶんと首を横に振った。
 ミカサは昔からエレンに対して過保護なところがあった。一人暮らしを始めると言った時も「私も一緒に行く」と言ってきかなかった。
 母が心配だから母についていてやってくれと頼めば渋々ながらも了承してくれて、今は講義を終えた後、バイトとして毎日店を手伝ってくれている。
「無理はしないで、エレン。……やっぱりエレンには私がついていないと駄目」
「なんでそうなるんだよ」
 呆れたように言えば、ミカサは苦虫を噛み潰したような顔をして黙った。

 自室に荷物を運び終えた後、エレンはベッドに座って長い溜息を一つついた。自由に動かせない体が鬱陶しい。効き手が無事だったのは不幸中の幸いといったところだろうか。
 エレンは鞄の中から名刺を取り出す。リヴァイのものだ。
 そこに書かれている会社は誰もが知っているような大手の会社で、加えて課長と言う文字にエレンは思わず「おお……」と呟く。すごい人に助けられてしまったようだ、と。
 お礼がしたいと言いはしたが、そんな暇もないのかもしれない。昨日だって仕事の合間に来てくれたのだろうから、引きとめてしまって悪かったな、とエレンは反省した。
省9
299: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:09 d AAS
 すぐに返信が来るとは思っていない。きっと仕事中であろうし、こう言っては失礼かもしれないが、こういうことにまめな人には見えなかった。
「き、期待はしないでおこう」
 エレンはスマートフォンを上着のポケットではなく、鞄の中へとしまった。
 期待しないようにしよう。それはもう、どうしようもなく期待しているのと同意だったけれど。

 病院へ寄った足で大学へと向かう。午後の一コマくらいには間に合いそうだ。
「エレン!」
「アルミン、ミカサ」
 幼馴染二人が駆け寄ってくる。怪我が治るまでの間、二人には本当にお世話になった。
「良かった。包帯はとってもらえた?」
「ああ。もう完治したって」
省11
300: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:10 d AAS
「おい、二人して何だよ。オレが何か忘れてるって言うのかよ。そんな記憶喪失になったわけでもあるまいし……」
「概論のレポート。十二時ぴったりまでだよ」
「は?」
 アルミンはエレンの腕を掴んで、時計を見せるように持ち上げる。今は十一時……と、脳が読みとった瞬間に全身から血の気が引いた。
「もう手遅れ」
 憐みを含んだミカサの声に生きた心地がしない。あの講義の単位は必須だ。教授は厳しくて、レポートを毎回課すうえに一度でも提出できなかったものがあると単位をもらえないのだと先輩から聞いたことがある。
「ばっ……! 早く言え!」
 エレンは完治した足で駆けだした。目的地は学生に開放しているコンピュータールームだ。頭の中で、レポートの課題は何だっけ、データは持ち歩いていたっけ、と慌ただしく考えた。
 その後ろ姿を見てアルミンは少し困ったような顔で笑った。
「本当に忘れてるなんてね」
省10
301: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:10 d AAS
 面倒だがコンビニに行くかと立ち上がる。どうせなら実家で夕飯も食べてきてしまえばよかったのだろうけれど、今日は父の帰りが早かった。だからエレンは鞄も下ろさずに荷物をまとめて出て来たのだ。
 鞄から財布を取り出して、ついでにスマートフォンも上着のポケットに突っ込む。そういえば鞄に入れていたんだった。何で入れてたんだっけ?と考えたけれど、まあいいやとすぐに脳を滑っていった。
 コンビニはアパートから歩いて五分のところにある。その先をもう五分も歩けば駅だ。エレンはこの立地を気に入っていた。
 夜道の暗さにコンビニの光は強すぎる。目の奥に少し痛みを感じて目を細めながら店内へと入ると、やる気のないバイトの声が聞こえた。
「いらっしゃいませ……んだよ、てめぇかよ」
「おい、客だぞ。歓迎しろ」
 居酒屋じゃねぇんぞ、と言ったのはジャン・キルシュタイン。大学は別だが、同い年らしい。コンビニでしか顔を合わせないのに相性が悪い。
 適当に弁当と飲み物を選んでレジへ持っていく。この時間はジャンだけのようで、嫌でも彼にやってもらわねばならなかった。
「……久しぶりだな 」
「そうか?」
省12
302: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:10 d AAS
「おい、釣り!」
「ちょ、ちょっと待って」
 ジャンが苛立ちを隠さずに金を差し出してくる。ちょっと待ってくれ。今はそんなことをしている暇はない。
『仕事が終わった。ローゼ駅西口で待ってる』
 さらに一番初めにきていたメールを開く。受信したのはエレンがメールを送ってそんなに時間は経っておらず。おそらく必死でレポートを作成している時だ。
『今晩でいいか? 仕事が終わったら連絡する』
「おい! エレン!?」
「それお前にやる!」
「はあ!?」
 ジャンの声にも構わずコンビニを飛び出した。足が治っていてよかったと、心底思った。
省11
303: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:11 d AAS
 ハッとしてエレンは勢いよく振り返る。駅を出てすぐのカフェは一つしかなかった。その外向きに並ぶ窓側の席に、リヴァイがいた。
 彼を見つけた瞬間の気持ちは何と言えばいいのだろう。ホッとして、嬉しくなって。胸がぐっと締め付けられるような感覚に泣いてしまいたいとすら思った。
 すぐにでも駆けつけて謝るべきだと思うのに、体が動かなくてただリヴァイを見て途方に暮れた。
 しかし、リヴァイが立ち上がり店を出ようとするのがわかると、エレンは慌てて彼の元へと走った。
「あ、あの! すみませんでした……!」
「良かった。……何か、あったのかと思った」
 頭を下げたエレンにリヴァイは咎めるような言葉は言わなかった。それどころか心配してくれていたようで、なかなか頭を上げられないエレンの髪をさらりと撫でて、もういい、と優しい声で言ってくれた。
「本当に、ごめんなさい……。ずっとスマホを見ていなくて、気付きませんでした……それで、えっと……」
 何を言っても言い訳になってしまう、とエレンは後に続く言葉が思いつかなかった。
「それで、そのまま来たのか」
省15
304: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:11 d AAS
「いらっしゃいませ」
「奥、空いてるか?」
 リヴァイの問いかけに頷きだけが返って来た。そのやり取りが何だか大人で、エレンは何故か少し緊張した。
 連れてこられたのはお洒落なバーだった。奥の席は個室のようになっていて、周りからはわざわざ覗かないと見えない。VIPだ……と二度目の緊張をして、エレンはリヴァイに促されるまま座った。
「好きなものを頼めばいい」
「で、でも……」
「俺も腹が減ってるから付き合ってくれ」
 エレンは決められずに困った顔でメニューを眺めた。そう言われても遠慮してしまう。お礼をするのはエレンの方なのに、ご馳走してもらうなんて。すると、そのメニューを取り上げられてしまった。
「お前は嫌いなものはない、か? ここの飯はどれも美味いから適当に頼む。俺一人じゃ全部は食いきれねぇから手伝え」
「はい……」
省17
305: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:12 d AAS
 しばらくしてリヴァイが戻ってくると、落ち着いたはずの心臓がまた小さく騒ぎ始める。どうしよう、何を話したらいいのだろう。お礼をしなければいけないけれど、何から切り出したらいいんだ。
「怪我はもういいのか?」
「えっ、はい! もう全然! 違和感もありませんし、エルヴィン先生にも完治してるって言ってもらえました」
「……そうか。よかったな」
 リヴァイはそう言って少し笑ってくれた。
「アッカーマンさん、本当にあの時はありがとうございました。オレだったらいくら近くにいたって他人を咄嗟に助けるなんてできなかっただろうし、見ているしかできなかったと思います。
だからこれだけの怪我で済んだのは本当にあなたのおかげです。感謝してもしきれません」
 エレンは頭を下げる。やっとちゃんとした礼を言えたと安心した。
「……そんなに何度も礼を言わなくてもいい。お前が無事ならそれでいい」
「ありがとうございます……」
省10
306: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:12 d AAS
「アッカーマンさん! あの、また会えませんか? もっとあなたと話がしてみたいんです」
 リヴァイが立ち止まり、振り返る。
「……おっさんと話したって楽しくねぇだろう」
「そんなことないです」
「俺は、若い奴のことはわからない」
「オレに合わせようとしてくれなくたっていいんです! 話すことがないっていうなら、その、映画でも、なんでも……」
 それなら、話さなくても一緒にいられるでしょう、と。
「……どうしてそんなに」
 どうして。どうしてオレはこんなにもこの人と一緒にいたいと思うのだろう。
 ああ、そうか。
省11
307: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:13 d AAS
 朝起きた時にエレンを襲ったのは寂寥感だった。部屋には自分以外に誰もいない。静かで、冷蔵庫と常につけっぱなしにしている換気扇の音だけが微かに聞こえてくる。自分の中から何かがすっぽりと抜け落ちてしまったかのように虚しかった。
「……大学めんどくせぇ」
 エレンはぼそりと呟いた。
 今は人に会いたくないし、幼馴染みの二人にさえ顔を合わせたくなかった。顔を見ただけで何かあったのかと問い詰められそうだ。
 けれど、講義を休むわけにはいかない。
 エレンは一年の時は同じ大学の医学部に入学した。医学部に入ったのはもちろん父親の後を継ぐためだ。幼い頃から勉強はさせられてきたし、負けず嫌いなエレンは褒められるためではなく父を見返すために勉強をした。おかげで勉強はできる。
 経営学部に転学したのは二年の後期だった。周りからは医学部生が何故、とか挫折したんじゃないのか、とか散々言われたけれど、エレンには明確な目標があった。
 医者になるのは嫌じゃない。父の言いなりになっているのが嫌なだけで。成績だってトップだった。
 それでも経営を勉強したいと思ったのは……ああ、どうしてだっけ。思い出せない。ちゃんと理由があって、親も説得したのに。けれどエレンは今の勉強が好きだった。言われて医学部にいたあの頃よりも生きているという感じがするし、何よりおもしろい。
 まぁ、よってエレンは一年から経営学部にいた学生よりも、今とらなければならない単位が少し多いので、講義を休むわけにはいかないのだ。
省5
308: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:13 d AAS
「……何もねぇよ。眠いだけ」
「嘘。眠いって顔はしてない」
「まぁまぁ、ミカサ。でも確かに元気がないよね。何かあったの?僕達で良ければ話を聞くよ。話した方がすっきりすることもあるから」
 エレンを挟んで両隣から顔を覗かれる。この位置では逃げることもできない。アルミンは優しいことを言っているように聞こえるけれど、話すまで逃がす気はないのでミカサよりも性質が悪い。
「……別に。昨日人と会ってて……帰ってくるのが遅かったから疲れたんだよ」
 間違いではない。人と会っていたのは本当のことだし、帰ってくるのも遅かった。というか、ぼーっとしていていつ帰って来たのか、そのはっきりとした時間はわからない。でも、そのままベッドに横になって、気付いたら朝だった。
「へぇ。誰と会ってたの?」
「そこまで言う必要があるのかよ……」
「言えないような人なら問題ある」
 両サイドから視線を向けられる。
省13
309: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:14 d AAS
 いつエレンが気持ちを告げようが、一緒にいる時間は延ばせてもリヴァイが好きになってくれることはないのだろう。
 リヴァイには一生をかけたい人がいるのだとはっきり言われているのだから。その瞳は、その場しのぎで言っているようには見えなかった。
「それで? その人にちゃんとお礼は言えたの?」
「まぁ……」
 アルミンの問いに曖昧に頷く。お礼は言えたのだから当初の目的は達成したはずなのに、それはエレンに少しの達成感ももたらしはしなかった。エレンが欲しかった成果には程遠い。
 俯いて溜息を吐く。その様子を黙って見ていた幼馴染の視線にエレンは気付かなかった。

  +++

 失恋の傷は浅くとも治りは遅かった。もう二週間以上過ぎたというのに、頭からはリヴァイのことが離れない。
 リヴァイと会ったのはエレンの記憶の中ではたった二度だ。その時間の中で話せたことは多くはないし、彼の人となりを知るには十分ではなかった。
 だからこそ、リヴァイが結婚しているのかも、恋人がいるのかもわからなかった。ましてや忘れられない人がいるなんて。
省8
310: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:14 d AAS
 辺りはすでに暗い。本屋のバイトをしているエレンは店長の厚意でしばらく治療に専念していたが、また働かせてもらっている。
 今日も閉店の二十二時まで働いて、あとは帰るだけだったのだが、曲がらなければならない道を真っ直ぐ来てしまったようで、街灯の少ない通りにまで来てしまった。
 小さく舌打ちをして、踵を返そうとする。
「……、どうせ眠れないし」
 少し考えて、エレンはそう呟くと再び歩き出した。
 どこにいたって考えることは同じ。だったら散歩がてら少し歩いてから帰ろう。
 正直ここがどのあたりなのかわからない。スマートフォンで調べてみればわかるのかもしれないが、エレンはそれをしなかった。
 すでにcloseの札がかけられている小さな雑貨屋を右手に真っ直ぐ進む。そして二つ目の道を右に曲がって、真っ直ぐ。
 次の道を左に曲がる。エレンの足に迷いはなかった。知らない道だけれど、不思議と不安もなかった。迷っているという感覚もない。ごく自然に、導かれるように歩く。
 少し大きな通りに出て、歩いている人もちらほら見かけるようになると、ここが駅前の通りなのだと気がついた。小さな駅の明かりが見えて少しホッとする。
省8
311: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:14 d AAS
「えっ、あ、たまたまです! バイト終わって、散歩してたらここまで来ちゃったから、もう帰ろうと思って……! その、本当に、偶然で」
 エレンは慌てて答える。不快に思われてしまっただろうか。振った相手とこんなふうに会ってしまうなんて、あまりいい気分ではないと思う。エレンは会えて嬉しいけれど、リヴァイはそうじゃない。
「……あの、それじゃあ失礼します」
 顔は見れなかった。エレンは俯いたまま頭を下げて、駅の階段を上ろうとする。と、「おい」という声と共に腕を掴まれた。
「もう電車はねぇ」
「えっ……ほ、本当に?」
 こくりと頷いて返される。
 エレンはやってしまった、と額を押さえた。思い出したように頭が痛みだして、エレンは重い溜息をたっぷりと吐いた。
「どうするんだ?」
「どうするって……。あー、始発待つよりは歩いた方が早く家に着きそうなんで、歩いて帰ります」
省12
312: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:15 d AAS
 早口で捲し立てられて、エレンは思わず後ずさる。いきなりの説教に驚くしかないが、リヴァイの言葉で心配してくれた幼馴染二人の顔を思い出して、エレンは目を逸らした。
「……今日は泊めてやる。来い」
「は? え、ちょっと……!」
 ぐい、と腕を引かれると、全く予期していなかった足はたたらを踏んだ。
 泊まる?リヴァイの部屋に?無理、そんなの無理だ。エレンは首を振った。
「い、いいです! 泊めてもらうなんて!」
「じゃあどうする」
「それは……やっぱり、歩いて……っ」
「却下だ。泊まれない理由が? 俺が納得する理由を言えば離してやる」
 どうしてこんなに頑ななのだ。リヴァイはエレンを振ったのに。今までだってリヴァイのことばかり考えていた。それなのに、少しでも一緒にいられるとなれば、忘れるなんて到底無理だ。
省15
313: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:15 d AAS
「……オレ、お邪魔しちゃって、よかったんですか?」
「まだ言ってんのか。俺がいいって言ってんだろうが」
「でも、アッカーマンさん、誰かと一緒に、住んでいるんですよね……?」
 こんなの、一人暮らしの男の部屋ではありえないと思う。どれもがペアで、二人用。ああでも、相手の人と気は合いそうだなと思った。ソファの色も、クッションの柄も、エレンの好みだ。
「……もう一緒に住んでない。そのままにしているだけだ」
「そう、ですか」
 でもきっと、リヴァイの言う忘れられない人が選んだものだと思うから、彼は一生そのままにしとくのだろう。
 リヴァイはこれ以上そのことについて触れる気はないようで、スーツを脱ぐと別の部屋に入っていった。
 リビングに立ちつくす。自分だけがこの部屋に馴染んでいない違和感。他人の部屋なのだから当たり前なのに、自分は異物なのだという感覚が気持ち悪い。
 やっぱり帰ろうか。今ならば、リヴァイに気付かれずに帰ることができる。エレンは床に張り付きかけた足を引きずって部屋に背を向けた。
省12
314: (スププ Sdb8-AUQK) 2016/12/15(木)04:16 d AAS
「あの……上がりました……」
「……どうした?」
 顔が赤い、と言われてますます顔が色づく。
 だいぶ心も落ちつけて、洗剤のいい匂いがするタオルで羞恥に耐えながらも体を拭い、リヴァイが用意してくれた新品の下着に足を通すのも一苦労で、一瞬冷静になったのは寝巻に用意された服が自分のサイズとぴったりだとわかった時だった。
 それでもリヴァイの部屋に風呂上がりの自分がいるという異常さにエレンの羞恥が勝った。
「何でもないです……お風呂ありがとうございました。あと、服も」
「ああ。俺も入ってくる。寝室はあの部屋だ。寝たきゃ勝手にベッドを使っていい」
「え!? い、いやベッドまで使えません! オレここで大丈夫です」
 自分の部屋でもあまり眠れやしないのに、リヴァイの部屋でなんて緊張して眠れるとは思えない。
「どうせ眠れないので……」
省10
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